未来創造ビジョン20XX

次世代の成長産業に! 自動運転コンバインで見えた“スマート化する農業”の未来

株式会社クボタ 機械事業本部 農機技術本部 収穫機技術部 S8チーム長 仲島鉄弥

グローバルに活動を行う日本を代表するさまざまなジャンルの企業に、思い描く理想の未来像や実現に向けた取り組みをインタビューする新連載。記念すべき第1回は、農機メーカー国内シェアトップに立つ株式会社クボタ。ロボットやAI、IoTなど現代の先進技術を農業に活用する農林水産省の「スマート農業加速化実証プロジェクト」がことしからスタートし、農業機械にも“自動運転化”が急速に進みつつある。そんな中、農業界をリードするクボタはどんな未来ビジョンを描いているのか。最新の自動運転モデル「アグリロボコンバインWRH1200A」を開発した同社収穫機技術部の仲島鉄弥チーム長に“農業の未来”について話を聞いた。

農機の自動化は思った以上に進んでいる!

農業人口の減少や高齢化が懸念される中、対策の切り札として期待される自動化。まだまだ未来の話かと思いきや、既に農機の自動運転化は想像した以上に先進的だった。

例えば、最新式コンバインによる稲の収穫はこうだ。

まずは圃場(ほじょう/農産物を育てる場所)の内縁部を3周ほど手動で収穫し、マップを作成。次に運転席にあるタッチパネル式モニタを操作し、収穫方法と排出ポイントを設定する。あとは運転アシスト開始スイッチを押し、主変速レバーを前に倒せば「運転アシストを開始します」の音声が流れ、自動運転がスタートする。

人間は運転席にただ座っているだけで、最後の一穂まで自動的に収穫してくれるという。

WRH1200は前年のフルモデルチェンジで、主変速機のバイワイヤ化(電気的な機構によって制御すること)などを実施した。画像のアグリロボコンバインWRH1200Aはそのモデルを自動運転化したものだ

「コンバインをただ動かすだけなら決して難しくありません。ですが、圃場の中を真っすぐ走らせ、刈り残しのないように収穫することは熟練の技なのです。道路と違って圃場は、硬い地面もあれば柔らかい地面もありますからね。また、収穫したもみがたまってくると、もみ貯留タンク側に傾いてきたりもします。それを補正しながら上手に走らせるのは、コンバインの運転に熟達した人にしかできませんでした。それを誰でも簡単に、熟練者と同等、あるいはそれ以上の精度と効率で操作できるようにしたのが、今回開発したアグリロボコンバインです」

そう語るのは、株式会社クボタ 機械事業本部 農機技術本部 収穫機技術部の仲島鉄弥チーム長。コンバイン開発のスペシャリストだ。

「自動運転化で、現在農業に従事されている方々の負担軽減になれば本望です」と語る仲島氏

コンバインとは、稲や麦などの農作物を収穫しながら脱穀もできる農機のこと。19~20世紀にかけて、農業の機械化が始まった当初はさまざまなタイプがあったが、現在普及しているのは不整地に適したクローラ(無限軌道)で走行し、運転者が搭乗するものが一般的。田植機やトラクタと並んで、現代の稲作や麦作には欠かせない農機となっている。

操作性や快適性はかつてと比べものにならないほど改善されているが、それでも収穫期には毎日何時間もかけて運転する必要があり、農業従事者の肉体的負担は相当のものとなる。そうした負担を減らし、作業の効率化を目的に開発されたのが「WRH1200A」だ。衛星からの情報と基地局からの補正信号を基に測位するRTK-GPSと、角度&加速度を検出するセンサーIMUを組み合わせたハイブリッド測位を装備し、極めて正確に自車位置を特定。誤差はわずか数cm以内というから、カーナビなどとは比べものにならないほど高精度だ。

自動で運転してくれるだけでなく、収穫しながら食味・収量を測定し、データ通信できるのもアグリロボコンバインの特徴だ

収穫ルートの効率化でエネルギーも節約

このアグリロボコンバイン、決められたルートを自動的にたどってくれるだけではない。圃場の形や収穫したモミの排出場所に合わせた最適な経路を自ら導き出すことができるのである。

「2013年にプロジェクトを立ち上げた当初は、“ただ設定したルートを自動で走ればいい”と思っていました。ところが開発を進めるうち、せっかく自動運転アシスト機能を付けるなら、こんなことも実現できるんじゃないか? というアイデアがエンジニアたちから続々と出てきたのです」

その結果、生まれたのが“匠刈り”というアグリロボならではの刈り取り方だ。圃場の形から無駄のない経路を導き出し、効率よく収穫。さらにもみをためるタンクが満杯になるタイミングを予測して排出場所まで移動、排出後に再びルートに自動で戻るという機能まで備えている。5反(約5000m2)圃場の場合、同じ自動運転で比較すると渦巻き状に巡る従来の刈り方に比べ、匠刈りの方が10%ほど短い時間で収穫が可能になる。収穫時間の短縮が燃料エネルギーの節約や作業従事者の負担軽減となるなど、多くのメリットをもたらすことは言うまでもない。

衛星からの情報と基地局からの補正信号を基に正確に測位し、無駄のないルートを自動的に計算する

「現状の製品では、作業者が運転席に搭乗しての自動運転までとなっています。これは安全性と現場からの声を鑑みての仕様です。将来的には、運転席に誰も搭乗しない完全無人で遠隔地から安全監視しながらの自動運転を実現していきたいですね」

実は一昨年に発売された、同じく自動運転のアグリロボトラクタでは、遠隔指示による無人運転を既に実現している。当然、コンバインの無人化も期待されているが、コンバインは主に見通しのよい農地を耕すトラクタと違って、稲穂が生えている圃場での作業。人や動物、障害物などが隠れていないかなど、安全性を見極める技術が最大のハードルとなるのだ。

クボタでは農機の自動化、無人化プロセスを
ステップ1:作業の主体が人間、機械は補助
ステップ2:作業の主体が機械、人間は安全監視(直接目視または機体に搭乗)
ステップ3:作業の主体が機械、人間は遠隔から安全監視
という3つのステップに分けているが、現段階ではステップ2に届いたところだという。

「人間は刈り取った部分を目印にして一定の間隔を保って直進する、といった感覚的な作業をいとも簡単にやってのけますが、機械で同じことを実現するには高度な技術が必要でした。GPSやセンサーなどの基盤技術が出そろって、ようやく実現できたのです。今回のアグリロボ開発では、人間に備わっている感覚のすごさを改めて実感しました」

自動運転はあくまでスマート化に向けた一分野

ここまでコンバインの話に終始してきたが、本題はここから。

ご存じのとおり、日本の農業は今、大きな危機を迎えている。就農(販売農家)は2015年時の調査で約209万人、30年前の数字に比べて6割減。農業従事者の平均年齢は67歳というから深刻だ。アグリロボコンバインをはじめとする農業機械の自動運転化は、そうした課題に対する一つの答えではある。

だが、クボタが取り組んでいるのはハードウェア開発にとどまらない。農業の仕組み全体を効率化するサポートシステムの普及こそ、国内トップメーカーのクボタが本来目指しているところなのである。

2014年に開発されたKSAS(クボタスマートアグリシステム)は、農業のスマート化を推し進めるクボタの新たな取り組みだ。収穫した農作物の収量や食味(水分、タンパク質)などの数値をデータ化し、肥料を与える量やタイミング、土づくり、作付け計画などを最適化することで、良質で安定的な農作物の収穫を実現しよう、というシステムである。簡単に言うと、これまで農業の勘や経験に頼ってきた圃場管理を全てデジタル化することで“見える化”し、科学的根拠に基づいた改善や計画をできるようにするということだ。

農機、圃場、営農事務所などと相互にデータ連携するKSASクラウドシステム。収穫量や食味などの分析に基づいた精密な圃場管理が可能になる

「私の知っている人の中には、一農家さまで2000枚もの圃場を管理している人がいます。就農人口の減少と共にそうした大規模農家は今後ますます増えていくと思われ、KSASのようなシステムがないととても農地を管理しきれません。いわばスマート化は必然ですね」

トラクタやコンバインなどの通信機能を備えた農機だけでなく、ドローンによる薬剤散布、WATARASという水門を管理するシステムとも連携。あらゆる農作業を一元管理できるところに特徴がある。

今後はさらに、圃場を細かなメッシュに区切り、農業に関するさまざまな情報をより高い精度で管理するレイヤーマップ化なども構想しているという。

ビジネスとして魅力を増す、農業の新たな姿

これらから見えてくるのは、農業の成長産業化だ。工業分野に比べると人間の経験や勘に頼ってきた部分が大きく、先端技術の導入が遅れていた分野だけに、普及すれば新しい成長の未来も描けるはずだ。

「農業はもうからない、というイメージを持っている人は少なくないと思いますが、決してそんなことはありません。現状でも効率化を追求していけば、しっかり利益が出せる産業です。大規模農家の方はもちろん、先祖から代々土地を受け継いできた小規模農家の方にもしっかりメリットがあるシステムに育てていきたいですね」

市場ニーズに応じて、売れる作物を売れる量、売れる時期に生産することで収益性を高める「フード・バリュー・チェーン農業」もクボタでは推進している

そして農業は今後“汚れない”仕事になっていく、と仲島氏は予想する。作業を機械に任せ、人間は効率的に管理することが主体になるというのだ。

これがもし実現すれば、現在農業を営んでいる人たちの負担が減るだけでなく、新たに農業へと進出しようとする人も増えていくはずだ。同時に私たちの家庭には、より良質な食材が、安定的に提供されることになる。ゆくゆくは世界の9人に1人が苦しんでいるという飢餓問題の改善にもつながっていくだろう。

あまりに壮大に思えるビジョンだが、この数年の間にも農機の自動運転化、スマート化は驚くべきスピードで進みつつある。農業従事者に常に寄り添ってきた経験とテクノロジーが融合することで、農業のさらなる発展と幸福な未来が訪れることを期待したい。

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