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2022.3.18
EMIRAビジコン最優秀賞! 循環型社会を生み出す「生ごみの水切り」ビジネスとは?
廃棄物発電の燃料となる「生ごみ」の水切り頻度をアプリで管理し、参加者に利益を還元する仕組み
今年で3回目の開催となった「EMIRAビジコン2022 エネルギー・インカレ」。昨年に続きオンラインでの最終審査となった今回、EMIRA最優秀賞を受賞したのは、生ごみを発電所の燃料として効率よく利用するため、家庭での水切り状況をスマートフォンアプリで管理するビジネスアイデアだった。どのようなアプリで、どのように収益を上げるのか。提案した早稲田大学・大学院のチーム「LivLoop(リブループ)」の学生たちに、詳しく聞いた。
>最終審査レポートはこちら:「EMIRAビジコン2022」最優秀賞が決まる。全国の学生145チームの頂点に立ったのは?
コロナ禍の「住まい方」から生まれた課題に着目
今回のビジコンでテーマとなったのは、「住まい方×エネルギー」。「住まい方」と「エネルギー」の関係は密接で、探しだせば星の数ほどの課題が見つかると言ってもいい。
恐らく多くの学生たちを悩ませたこのテーマに対し、EMIRA最優秀賞を受賞した早稲田大学・大学院の学生8名によるチーム「LivLoop」が選んだ課題は、コロナ禍に伴う在宅時間の増加によって増えた「家庭ごみ」だった。
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水をイメージしたプレゼンテーション資料。動画を交えた発表構成の巧みさなども審査員から高評価を受けた
「全員でアイデアを出し合う中、コロナ禍で家庭のごみが増えた話が挙がったんです。それで家庭ごみについて調べると、生ごみを燃やして電気を生む廃棄物発電の存在を知りました。ただ、生ごみに含まれる水分のせいで燃やすために多くのエネルギーが必要であり、その割には発電量が少ないこと。加えて、生ごみを乾燥させるプロセスがないことなどの課題があると気付いたんです」
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在宅時間の増加に伴い家庭ごみが増えたことから、アイデアを膨らませた
そう語るのは、最終審査でプレゼンテーションを担当した早稲田大学 人間科学部2年の市川一茶(いっさ)さんだ。
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市川さんは普段、心理学を学んでいるという
そこからメンバー8名で議論を深め、生まれたアイデアが「住まい方をエネルギーによってループさせて循環型社会の実現を目指すスマホアプリ『LivLoop』」だ。
今回のEMIRA最優秀賞を獲得したアイデア考案のロジックとビジネスモデルは、次のようなものになる。
廃棄物発電所側で生ごみを乾燥させるプロセスがない以上、家庭でごみを出す際にどれだけ水切りできるかがカギになる。地道に手で絞らなくても、水切りができる家電も市販されている。ただ、高価だったり維持費がかさんだりで、それほど普及しているとは言えない。
「各家庭に手絞りでの水切りを頑張ってもらえれば、廃棄物発電所も既存設備のまま発電効率を上げていくことができる。問題は、家庭にどう頑張ってもらうか。そこで、家庭の水切り状況をスマホアプリで管理し、発電所が得た収益の一部をアプリ利用者に還元できるようにすれば、参加してもらえると思ったんです」(市川さん)
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家庭と発電所の双方に新しい利益を生む「LivLoop」のビジネスモデル
全国の家庭の生ごみ総量を示すデータは見つけられなかったが、調査の結果、東京23区の年間生ごみ排出量が分かった。約34万tだった。
水分の蒸発に必要となる熱エネルギーから、現状の廃棄物発電にかかる余計な発電コストを算出。発電した電力を再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)で売電した場合に、生ごみの水分量の10%を絞れば、現状よりどれだけ発電コストが安くなるかを導き出した。
さらに東京23区のデータを基に、全国の生ごみ排出量も推計した。すると、全国約500万世帯が生ごみの水切りで10%の水分を抜くと、45億円のコストカットができることが分かった。
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東京23区の生ごみ排出量から全国規模の量や、水切りによる収益などを推計していった
「そのうち5%を私たちの利益に、30%を発電所の利益、残りの65%である30億円を利用者の各家庭に還元すると、家庭と発電所に新たな利益を提供できるとともに事業としても成り立ちます」(市川さん)
各家庭で生ごみの水切りを実際に行っているかどうかは、スマホアプリのカメラ機能を使えば、日々管理できる。このアプリなら、現代社会の技術で十分開発できるという結論に至った。
ゲーム性をプラスして使い続けられるアプリに
増えた生ごみを廃棄物発電につなげるという着眼点も評価ポイントだったが、それ以外にも審査員を感嘆させた点がある。
それは、スマホアプリ「LivLoop」が日常で使い続けられるように考え抜かれていたことだ。
利用者に還元される利益だが、実は利用者全員にではなく抽選で毎月250名に100万円を還元することにしている。注目したいのは、その抽選システム。
まず、全員が抽選に参加できるのではなく、月に一定数の水切り動画をアプリに記録することで初めて参加できるようになる。さらに、当選するのも完全なランダムではなく、長く続けるほど当選確率が上がるように設計されている。これは成果報酬型抽選と言える。
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抽選システムは審査員から高評価を得た
「本当は均等に還元したかったんですが、30億円で500万世帯だと一世帯につき年600円にしかならないんです。これでは続けるモチベーションになりませんよね」(市川さん)
そんな中、「均等に還元ではなく、傾斜を付けた方がいいんじゃないか」と意見したメンバーがいた。早稲田大学 国際教養学部4年の宮下武虎さんだ。
「スマホのゲームでも、ログインボーナスとかガチャとかだと、抽選で当たるものが変わりますよね。そうした仕組みを取り入れると面白いんじゃないかと思ったんです」(宮下さん)
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宮下さんは、起案当初から成果報酬型の抽選システムの良さを主張していた
このゲーム性はアプリを普及させる形だと、審査員から高い評価を受けることになった。
工夫はそれだけではない。動画を撮影する際には、スマホ画面に水切りのマニュアルを表示する。生ごみの手絞りに抵抗感を持つ人や初めて行う人がいることも想定し、ユーザー目線に立ったアイデアも盛り込んだ。
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撮影した動画はアプリが実績として登録し、管理してくれる
さらに、アプリ内にはSNS機能も実装する想定だ。そこにおすすめの水切りテクニックを利用者に投稿してもらい、最も「いいね」の数が多かった投稿にはアイデア賞を用意することにした。もちろん、抽選による利益還元とは別枠だ。
このように、社会が抱える課題の解決だけでなく、楽しみながら続けられる工夫もEMIRA最優秀賞に選ばれた大きな理由となった。
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アイデア賞がもらえるという遊びの要素も、議論を重ねた中で生まれた発想だ
「現状の技術で実現できることだけを盛り込んだつもりです。夢物語になってはいけないので」と、市川さん。それでも、やり残したと感じていることもあるようだ。
「本当は、絞った水の量を成果にしたかったんです。水を切る動画を撮影すれば、そこから割り出せると考えていたんですが、動画認識に詳しいメンバーに意見を聞くと、それは現状の技術では無理だ、と。泣く泣く諦めました」(市川さん)
この先に動画認識やセンサーの技術が向上すれば、それも実現できる可能性はある。「LivLoop」が示す未来は、この先にも広がっている。
多彩なメンバーによる意見交換が原動力に
今回のEMIRA最優秀賞を受賞したのは、前述の通り、早稲田大学・大学院の学生以下8名で構成されたチームだ。
理工学部や国際教養学部、教育学部やスポーツ科学部の学生と、多彩な顔触れが集まった。
「2021年11月から始まった『イノベーション概論β』を履修したメンバーで作ったチームなんです。主に起業を目指す学生が集まっていて、1回目の授業で『この中でチームを作り、ビジネスコンテストに応募すること』が課題として出されたんです」
チーム代表を務めた西川さんは、そう笑う。しかし、授業という場で集まったメンバーではあるが、決して寄せ集めではないという。
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創造理工学部4年でチーム代表を務めた西川貴章さん。春から土木関係の企業に就職が決まっている
「私もこの春から就職するので、学生のビジネスコンテストに応募するのはこれが最後。だから悔いのないように、これはというメンバーはスカウトもして、今回のチームができました。文系理系の学生が半分ずつという、いいメンバー構成になったと思っています」(西川さん)
こうして集まった多彩なメンバーが、役割を分担しながら積極的に意見交換することで、スマホアプリ「LivLoop」のアイデアは固まっていった。
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ロゴマークを作成した早稲田大学 大学院 先進理工学研究科 修士課程1年の草場公祐さん
この先、このビジネスアイデアを軸にして、実際に起業する可能性はあるのだろうか。
「いったん『LivLoop』はここで終了予定です。ただ、学生のうちに起業したいと思い、授業を受けたのがスタートです。その目標は追い続けたいと思っています」(市川さん)
最後に、代表の西川さんに「LivLoop」の名前に込めた思いを聞いた。
「ループは循環。つまり、循環型社会の実現を目指すという意味を込めています。その循環型社会を実現するのは人です。チームビジョンに『循環型社会を実現するのは10%の行動変容から』と掲げ、アイデアを考えました。たかが10%ですが、されど10%。人の行動が変われば、循環型社会の実現に近づいていけると思っています」(西川さん)
人が楽しみながら生ごみの水切りを行い、それによって廃棄物発電のコスト削減につなげていく「LivLoop」は、まさにチームビジョンを表すものだ。いつか、再結成したチーム、もしくはメンバーの一人一人が手掛けた循環型ビジネスを、EMIRAで取り上げられる日を楽しみに待ちたい。
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text:仁井慎治(エイトワークス) photo:内田龍(インタビュー) 資料:Livloop
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