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2019.4.16
ミスター・グランパスが辣腕を発揮!eスポーツとリアルの連動を狙うマネジメント術
株式会社 eスポーツジャパン 代表取締役 岡山哲也【前編】
近年、世界的に注目度を増している電子機器を用いて行う新スポーツ競技「eスポーツ」。ことし9月下旬に開催予定の第74回 国民体育大会(茨城国体)の文化プログラムとして実施が決まるなど、国内でも関心が高まってきている。そうした中、名古屋グランパスで華々しい活躍を残した元Jリーガーの岡山哲也氏が2018年9月にeスポーツチームを発足、監督に就任したことが大きな話題となった。かつてJリーグを盛り上げた岡山氏が感じたeスポーツの世界とその可能性に迫る。
引退後に気付いた、指導者としての目線の違い
「僕自身は子どものころにファミコンやスーファミで軽く遊んだくらいで、“ゲームに関心があったか?”と言われれば、実はそこまででもなかったんです」
eスポーツジャパンの代表を務める岡山哲也氏は、自身がeスポーツに携わる前の話をこう振り返った。
岡山氏といえば、Jリーグ創設時より活躍した名MF。地元・愛知県の中京高等学校(現・中京大学附属中京高等学校)を卒業後に名古屋グランパスに入団すると、機動力の高さを武器に頭角を現し、若きチームの精神的支柱として存在感を発揮した。サポーターたちは彼のことを“ミスター・グランパス”と呼ぶなど、ファンからも愛された存在だ。
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1992─2004年までの13年間、名古屋グランパスに所属した
(C)N.G.E.
そんなスター選手だったからこそ、eスポーツ界への転身は少々意外にも思えるが、その背景には現役を退いた後に培ってきた指導者としてのキャリアが関係しているという。
2008年12月に35歳で現役を引退した後、岡山氏が最初に就いたポストは名古屋グランパスの育成普及部。そこで幼稚園の年中クラスから中学生を指導したが、岡山氏はそのときの目線の違いをカメラに例えてこう教えてくれた。
「現役のころは撮影場所まで自分で動いて行って、そこでシャッターを切る感じでしたが、今はどちらかというとドローンで撮影しているみたいな感じですね。選手のときは自分が一歩前に出ていくと、後ろはもう見えなくなります。反対に一歩下がると見える範囲は広がりますよね。だから、指導者としては視野の確保に努めるようになったのが大きな違いかなと思います」
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指導者としてのキャリアをスタートした当時を振り返る岡山氏
下は3~5歳の未就学児、上は中学3年生までという幅広い世代への指導を一手に引き受けていた岡山氏。当然、指導方針は世代によって変えていたというが「サッカーは楽しいもの」と教えることは全てにおいて共通していたという。
「例えば、お母さんから離れ(たく)ない子にグラウンドに来るように優しく呼びかけて、小学生相手なら褒めるポイントを見つけてそこを伸ばすようにしました。プレーする喜びやサッカーの楽しさを感じてもらうことが何よりも大事ですからね」
心の強さは日常生活にもつながる
子どもたちにサッカーを楽しませることから始まった岡山氏の指導者としてのキャリアだが、その2年後に転機が訪れる。自身の出身校である中京大学附属中京高等学校(以下、中京大中京高)へ出向し、サッカー部の監督として指揮を執ることになったのだ。
「部活動になると今までのクラブとは違うので、楽しいだけでなく厳しい面も当然出てきます。でも、そうした厳しさの中に本当の楽しさがあることに気付かせたい。だからこそ指導も技術的なことばかりというよりも、精神的なアドバイスの方が多かったかもしれません」
競技者のレベルが上がれば上がるほど、楽しいだけでなく辛く厳しい局面も生じる。しかし、岡山氏の場合は肉体的な厳しさではなく、あくまで日常生活にも通じる指導。
例えば、毎日の身だしなみやあいさつができるかなどを重視した。プレーは成熟してきていても人間的にはまだまだ未熟な部分が多い高校生だからこそ、こうした指導が中心になっていくという。そして精神力の高さは、おのずとプレーにもつながっていくと岡山氏は力説する。
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母校の中京大中京高で監督を務める岡山氏。「サッカーはフィジカルよりもメンタルが大切」というのが持論だ
「僕は“持っている技術を発揮するためには、心が必要だ”という持論を持っています。普段はできているのに、絶対に負けられないここ一番の試合だとどうしてもその力が発揮できないとか、プレッシャーに押しつぶされてしまってはあまりにもったいない。技術はやれば伸びるし、身に付いたものはそう簡単に落ちませんが、選手が心を強く持つには毎日の指導が何より大切だと思っています」
毎日の指導で鍛えられたプレーを本番でも成功させるためには何よりも精神面での強さが必要。これは現在、岡山氏が取り組んでいるeスポーツにも通じる面があるといえそうだ。
くすぶっていた選手たちにチャンスを与えたい!
現役時代からサッカー一筋だった岡山氏だが、eスポーツに関心を持ち始めたのはつい最近とのこと。当初は「それがスポーツになるの?」という認識だったそうだ。
「スポーツとはいってもゲームであって運動するものとは違うだろう、と最初は思っていました。ですので、今回のeスポーツチーム発足がサッカーゲームの『ウイニングイレブン』に特化しているということは大きいですね。サッカーのくくりに当てはめれば、eスポーツにおいても自分に何かできるかもしれないと思いました。それで積極的にやってみようと考えました」
岡山氏がeスポーツに目を向けた最大の理由は、“中京大中京高サッカー部の選手たち”が脳裏にあったことだという。全国屈指の強豪校として知られる同校サッカー部員は3学年を合わせて100人ほどの規模を誇る。その中から試合に出られるレギュラー11人に加え、ベンチに入れるメンバーはわずか30人。そこからあぶれてしまった選手たちはピッチの外から応援するしかなくなる。
“eスポーツがそうした選手たちの受け皿になるのでは”と考えたのがそのきっかけだったという。
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eスポーツの今後は大いなる可能性を秘めていると語る岡山氏
「メンバーから外れてしまった子たちの中にも、中学時代から期待されていた選手が多くいます。そうした子たちが出場機会に恵まれずにくすぶっていってしまうよりも、何か新しいもので輝けるようにしてあげたい。校長先生に直談判をして、3月に中京大中京高でもeスポーツの部活動を発足させたのですが、そこにサッカー部の生徒が兼部という形で6名、入部することになりました」
国体のサッカーは少年の部がU-16(16歳以下)となっているため、高校生の出場できるチャンスはごく限られたものになってしまうが、eスポーツは少年の部が高校3年生まで出場できるため、チャンスが3回(1年に1度)ある。これもeスポーツに挑む選手たちにとっては魅力に映るという。そして学生たちにとってeスポーツ部での活躍は未来を切り開く進路にもなるとのこと。
「例えば、昨年のアジア競技大会のeスポーツで金メダルを取った相原翼くん(ネットで学ぶ通信制「N高」<本校・沖縄県うるま市>の当時3年生)は推薦で筑波大学へ進むことになりましたよね。サッカーの世界で極めていけばJリーグに繋がっていくように、eスポーツでも進路が開けることを実証してくれました。そうしたチャンスを選手たちに与えられるのは大きいと考えています」
サッカー部でくすぶりそうになっていた選手にとってはセカンドチャンスともなるeスポーツ。今回入部した6人のサッカー部員たちは、今後のeスポーツの指針にもなり得る可能性を持つだけに特に注目しているという。
<2019年4月17日(水)配信の【後編】に続く>
岡山氏自身の経験をどうeスポーツに落とし込んでいくのか、またeスポーツの今後のあるべき姿を追求していく
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text:福嶌 弘 photo:安藤康之
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