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2019.8.23
Japanバスケをさらなる高みに導く! 改革を推し進めるリーダーに求められる資質とは
日本バスケットボール協会(JBA)会長 三屋裕子【後編】
日本バスケットボール協会(以下、JBA)会長に就任しておよそ3年。常に選手ファーストの姿勢でガバナンス強化に取り組んできた三屋裕子氏。前編では、会長就任の経緯や日本バスケットボール界が立ち直るまでの道のりを聞いた。後編では、組織を率いる者としての心構え、マネジメント術について話を伺う。間近に迫ったFIBAバスケットボールW杯2019中国大会、来年の五輪東京大会、さらにその先に向けた改革のビジョンとは?
栄光にすがらないことで磨かれたコミュニケーション力
バレーボールからバスケットボールへ──。
組織改革を強力に遂行できるリーダーの資質が認められ、新たなフィールドで力を発揮する三屋氏。
※前編の記事はこちら
しかし、元々はリーダーシップをとるようなタイプではなかったと自身を振り返る。
「私は次女として生まれ、いつも姉の後ろを付いて回るようなおとなしい性格でした。選手時代もただひたすらボールを追いかけていただけで、人の上に立つようなことは特に考えていなかったんです」
学生時代からバレーボール全日本女子の代表選手として活躍し、卒業後はバレーボールの強豪、日立製作所に所属。しかし、念願であった五輪ロサンゼルス大会に出場し、銅メダルを獲得するとすぐに現役を退いた。引退後は心機一転、高校教員の道へと進むが、ここでの経験が彼女を変えた。
「教員になって、『たかがオリンピック選手でしょ?』と言われました。選手時代は本当にたくさんの方に応援いただきましたが、バレーボールに対して好意的な人しか周りにいなかったのも事実で、“実は狭い世界にいたんだな”ということを痛感させられました」
生徒との交流を通して、人との関わり方を一から考え直された。それまで一流の選手だけが集まる極めて特殊な世界にいただけに、ごく普通の人々が普段何を考えているのか、何ができて何ができないのかが分からなかったという。そこで生徒たちの気持ちを理解し寄り添うために、交換日記を始めた。
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現役選手引退直後、教員の道に進んだ三屋氏。その後も会社経営などさまざまな現場を経験した
「ある授業で、生徒たちに車座になってもらい、私がその真ん中で説明していたところ、後ろに座っていた子が“話がよく聞こえなかった”と日記に書いてくれました。細かなことかもしれませんが、コミュニケーションの在り方について考えさせられましたね。日記は強制でなく任意でしたが、最終的には400人もの生徒たちと交換日記をすることができたんです」
全日本選手という華やかな世界から、一教員へ。その経験で得た教訓は現在の協会会長という立場でも生かされ、コミュニケーション力の礎となっている。
目的地を決められるのは舵を取る船長だけ
協会入りする前には、高校教員のほかにも大学講師、大学院への進学、筑波スポーツ科学研究所の副所長を務めたほか、社長としてビジネスの世界でも手腕を振るってきた三屋氏。さまざまなジャンルで活躍してきた経験を持つからこそ、現代における理想的なリーダー像をどのように捉えているのか尋ねてみると、少し意外な答えが返ってきた。
「価値観が多様化した現代では、“俺に付いてこい!”という強力なリーダーシップがあらゆる場面において良しとされる時代ではなくなりました。かといって、他者におもねってしまうと尊敬されずに誰も付いてきてくれません。組織を率いるのが、とても難しい時代だと感じています」
そうした状況の中でもリーダーとして大切なことは、「エネルギーを注いで、向かうべき先を語り続けること」だと言う。
「ビジネスの世界に入ったとき、会社社長などたくさんの方から話を伺いました。皆さん、さまざまな方法論をおっしゃいましたが、共通していたのは“常に目的地を言い続けなさい、どこに向かうべきか決められるのはリーダーだけなのだから”ということでした。そしてもう一つ、どんな結論に至ったとしても最後に責任を取る覚悟を持つこと。それがリーダーの役割だと教えられました」
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組織改革のリーダーとして奮闘してきた三屋氏だが、バレーボール界とは当然勝手が違う。しかし、部外者の視点こそ大事だったと語る
行き先を明確に定めたら、そこへ向かう航路は皆の手に委ねていい。会社社長時代には管理職を集めて全社目標を決め、それを達成するためのアクションプランを練る合宿を敢行したこともあるのだとか。確かに自分たちで話し合って決めたことなら、皆が自分事として捉えられる。ただし、常に同じやり方がベストなわけではなく、現状を見極める目が大事であると続ける。
「舵取りの方法は、状況によって変えるべきだと私は思っています。バスケットボール界の話なら、FIBAから制裁を受けた直後の時点では一人が強力な統率力を発揮して、急進的に物事を進める必要がありました。そうでなければ組織自体が壊れかねませんから、まさに臨戦態勢です。現在はそうした危機的状況をなんとか乗り越えて、これから新しい組織の形を作っていこうという段階。皆の意見を取り入れながら、じっくり頑丈な城を築いていくことを心掛けています」
チームの中で自分の役割を意識することも必要だという。改革を力強く進める人物が傍らにいるなら、自分は取りこぼしをまとめる調整役として。もしも、調整することが得意な人が相方なら、自ら推進役を買って出る。
「組織の中でのパートナーと、主従関係になってしまってはダメなんです。補完関係でなくてはなりません」
そうしたバランス感覚は、ビジネスでの経験を通して身に付けたもの。リーダーシップの基本は本やセミナーなどの知識からも得られるが、感覚的なものはとにかく場数をこなさなければ身に付かない、と三屋会長は語る。
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W杯も五輪東京大会も実力で予選通過。世界トップレベルの強豪国とも十分に戦える実力を備える女子代表
写真提供:日本バスケットボール協会
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写真提供:日本バスケットボール協会
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写真提供:日本バスケットボール協会
その先にある未来を見据えた改革
バスケットボールの世界に入ってから約4年。三屋氏の精力的な改革は着実に実を結び、当面の目標はクリアしてきた。しかし、W杯も五輪東京大会も確定しているのは出場権を得たという事実だけであり、まだ結果を残せてはいない。
「私が選手時代には“五輪は出ることが目標じゃない”と肝に銘じてきました。結果はもちろんですが、今は“どういう戦い方をするか?”が最も大切だと代表選手たちにいつも言っています」
現在(2019年8月1日時点)、FIBAランキングでは男子が48位、女子が10位。W杯や五輪など世界の強豪国が集まる大会では厳しい戦いが予想されるが、ここ数年で着実にレベルアップしていることは間違いない。さらに2023年の男子W杯予選1次ラウンドが沖縄県沖縄市で開催されることが決定し、出場権を手中にしている。つまり、今から4年後を見据えた長期的なビジョンでチーム作りに取り組めるということだ。
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男子代表に向けたスローガンが書かれたポスターを前に、今ようやく手応えを感じているという
「おかげさまで日本バスケットボール界は今、大いに注目されています。私たちも新たな選手を発掘するため、常にアンテナを張り巡らせていますが、中には海外の学校でプレーしている日本人選手の方から協会にアプローチをいただくケースもあります。こうしたアピールからも次世代を担う逸材の発掘につながることを期待しながら、海外とのネットワークを積極的に活用して強化に臨んでいるところです。この追い風をうまくとらえるには、日本のバスケットボール界全体が一枚岩になるしかありません」
スローガンは“日本一丸”。三屋氏はその目的地に向けて、これからも改革を続けていく。
「たとえ小さな変化でもいいんです。組織は“これで十分”と満足した時点で劣化していきますから」
部外者だったからこそ、変えるべきポイントが見えた。その視点を保っている今のうちに、できることは全てやっておきたい、と語った三屋氏。
穏やかな表情から時折りのぞかせる、力強い眼差しが印象的だった。
■FIBAバスケットボールW杯2019中国大会 予選ラウンドグループE(上海)
9月1日(日)日本─トルコ
9月3日(火)日本─チェコ
9月5日(木)日本─アメリカ
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text:田端邦彦 photo:安藤康之
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