スポーツマネジメントの極意

過程も褒める!今どき若者を伸ばす指導方法とは?

中央大学 陸上競技部駅伝監督 藤原正和【後編】

かつて箱根駅伝の名門校として名をはせた中央大学。しかし長年、優勝から遠ざかり、近年ではシード圏内に入れない低迷の時を過ごしてきた。そこで古豪復活を目指して白羽の矢が立ったのが、実業団の現役選手を引退したばかりだった藤原氏。選手から学生スポーツの指導者へ──。そこでは競技における勝ち方だけでなく、人間を育てるプロセスが不可欠だった。

逆境の中に活路を見いだすエネルギー

中央大学 陸上競技部長距離ブロックは今、ある目標に向かって動いている。

それが2016年の藤原監督就任から数えて5年で箱根駅伝5位への返り咲き、そして10年での総合優勝だ。

その目標を達成するには、来年(2019年)の1月2日(水)・3日(木)に行われる第95回大会において、なんとしても総合10位以内に入り、シード権を取り戻すことが必須となる。

「シードを獲得しているチームとそうでないチームとでは、年間の練習スケジュールが全く変わってしまうのです。本来は、春から1500mや5000mなどのトラックレースでスピードを磨き、夏からボリュームを増やしていって、10月の出雲全日本大学選抜駅伝、熱田神宮から伊勢神宮へ伊勢路を走る11月の全日本大学駅伝、翌年の箱根駅伝と、徐々に走る距離を延ばしていくような年間スケジュールを組むのが理想です。

しかし、各大会の予選会があると、そうはいきません。予選会を通過できるよう、1年生も入部直後の春から長距離に向けた練習をしなければならず、一年で何度もピークを作る必要があります。

選手たちの体にどうしても無理が生じてしまうため、ピークを高く設定できないのです」

箱根駅伝の本大会にピークを持っていくためには、シード権の獲得が是が非でも必要と語る藤原監督

強いチームほど、理想的な年間計画で練習ができるから、より強くなる。また、勝つことによって周囲の評価も上がり、才能ある選手を確保できたり、大学からの予算も得やすくなる。

勝利だけがはい上がるきっかけとなる非情な世界。2012年の第88回大会以来、総合10位以内に入ることができていない中央大学にとってシード権獲得は決して簡単ではない。

ただ、苦しい状況の中にあっても活路を見いだし、エネルギーに変えていくのが藤原氏のスタイルでもある。

「予選会、本大会と何度もピークがあるのは、裏を返せばそれだけ実戦経験が積めるということ。実戦を最大の練習と捉えられるか否かだと思います」

実業団時代、幾度もの苦境を経験しながらも、その都度不死鳥のように立ち上がり、第一線へと返り咲いてきた藤原氏らしい言葉だ。

チーム全体の底上げが強くなるための鍵

大学生といえば肉体的にも精神的にもまだまだ発展途上の段階。長距離選手としてのレベルも、将来実業団を目指せるレベルから、走りの基本や長い距離への抵抗感をなくすことを身に付ける必要がある1年生までさまざまだ。

トップレベルはともかく、それ以外の選手たちについては、潜在的なエネルギーをどのようにして引き出しているのだろうか?

「箱根駅伝を目標にした場合、エントリーできるのは16名まで。12月10日の期限を過ぎると、エントリー選手に選ばれなかった学生たちには次の目標を与えなければなりません。それでないと目標を失ってしまいますからね。

そこで3年生以下については、『チャレンジグループ』と称して打倒本大会出場メンバーを目指したグループを編成し、チーム内で競争を生み出す取り組みを行っています。現在ではチャレンジグループ出身のメンバーが翌年部内で5番目、6番目に入る実力にまで育ってきています。この取り組みはうまく機能したな、と思っています」

4年間で著しい成長が期待できるのは、学生競技ならではの特色。個々のやる気さえ引き出せれば、伸びる可能性は大いにある。

トップ選手だけを際立たせるのではなく、上から下まで全体の底上げを図ることが強いチームを作るための鍵なのだ。

自分たちで考え、練習内容などを改善していくことがチームを強くする(写真は2018年の箱根駅伝で8区を走った神﨑裕選手)

「入部したばかりの学生には、長距離は個人競技なのになぜチーム意識が必要なのか、というところから説明しています。言葉だけでなく、ラグビーなど他競技のドキュメンタリー映像を見せたりして、“スポーツとは何なのか”“アスリートの生活はどうあるべきか”ということから学んでもらうんですね。

現代の若い子たちは“自分たちで考えてね”と言っただけでは考えてきません。かといって、こちらが答えを用意してしまうと指示待ちになってしまう。そこで材料を与えて、自分たちなりの答えを見つけてもらう。いわば種まきのようなものですね」

自分たちで考える土壌ができたときに、初めて練習の成果を100%引き出すことができる、と藤原氏は信じている。

目標設定、モチベーションの引き上げ方も個々の選手によってさまざまだ。

「今の学生たちはみんな何かしらSNSをやってるのですが、フォロワー数をすごく気にするんですよ。『青学を見てみなさい。優勝したらフォロワー数がこんなに増えるんだぞ!箱根で勝つというのはこういうことなんだ』なんてこともときには話します(笑)。

もちろん“大会で良い成績を残したい”という思いを個々に持っているのは前提として、ちょっと遊びの要素も取り入れていった方が、最終的には一生懸命頑張ってくれる気がしています。選手といってもまだ学生ですから」

成功の成果を具体的にイメージさせつつ、面白味を付与してモチベーションを高めるのが藤原流の指導法

ことしから始めたLINEによる日誌交換も、自分で考える習慣を身に付けてもらうために考えた取り組みの一つ。

「最初はスポーツ専用アプリで始めたものの、練習や体調、食べたものなどを事務的に報告するスタイルで選手たちの反応がいまいちでした。そこで、LINEを使うやり方に改めたらうまく機能しました。やっぱり彼らにとってはSNSの方が身近なツールなのでしょう。

現代の若者は結果を評価するだけではダメ。今日はこんなことを頑張った、という過程を評価しつつ、もっとこうしたら一層伸びるんじゃないか、と結果につながるようなアドバイスを添えるように心掛けています」

指導者になった当初はただ厳しく教えたこともあったが、それでは伝わらなかった。少しでも学生たちに伝わる言葉を探していった結果、行き着いたのが現在のスタイルだ。

プロセスを評価するという方法論は子育てと同じ。そのやり方が必ずしも正解とは限らないが、今のところは手応えを感じているという。

学生たちの成長が自身のエネルギー源にも

日誌で報告するのは、当日に練習した内容や翌日のスケジュールなど、競技に関連したことだけではない。人間として“徳を積む”ためのアイデアも項目の一つ。

例えば、“練習場のマットを整理します”や“寮生活を快適にするためにこんなことを気を付けます”といったことである。

「ちょっとした周りの変化に気付ける人間になってほしいのです。生活全般を見直すことで、自然に“自分で考えるプロセス”を身に付け、上級生になったときにチームマネジメントに生かしてもらうのが狙いです。

競技者として一流でありながら、裏方もこなせる。学生たちが自ら率先してそうなったときに中央大学 陸上競技部長距離ブロックの新しい形が見えてくるのではないか、と感じています」

選手以前に、一人の人間を育てる──。

大学スポーツの指導者とはそうあるべきなのだろう。

監督就任から約2年半、改革の成果は少しずつ着実に表れ始めている(写真は2018年の箱根駅伝で主将としてチームをけん引した舟津彰馬選手)

これまでは学生たちの意識を変えるべく、監督とコーチ陣が引っ張ってきたが、就任から約2年半がたち、ようやく選手たち自らで目標を設定し、能動的に練習を行う気運が芽生えてきたという。学生たちの成長を間近に見られることが、藤原氏にとって大きなエネルギーの源になっているそうだ。

「一つのチームを一から育てるのは時間がかかります。私としてはまだ畑を耕し、種をまいた段階だと思っていますが、3年目としての成果も出さなければなりません。次の箱根駅伝ではシード圏内の総合8位入賞を狙います」

1月の箱根駅伝では、古豪復活となる中央大学の快走に期待したい!

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