2020.5.28
農業の空が変わる!農薬散布ルートを自動生成するドローン、ヤマハ発動機が発売
専用アプリでルートを生成、自動で農薬を散布するドローンによる農業労働の軽減化
現在ICT(情報通信技術)やロボット技術、そしてAI(人工知能)といった先端技術はあらゆる分野に活用されつつあり、それは農業も例外ではない。ロボットトラクターや営農管理システム、自動運転コンバインなど農業への新技術の導入が注目される中、ヤマハ発動機が自動で農薬を散布する最新型農業用ドローンを発売した。
ドローンによる農薬自動散布のメリットとは
農林水産省は「農業新技術の現場実装推進プログラム」を2019年6月に発表した。
その中で先端技術の農業への導入について、
《肥料・農薬等の資材費の削減や農業生産の効率化、農産物の高付加価値化など、意欲ある農業者が自らの経営戦略を実現し、競争力を向上するための強力なツールになることが期待される》
としている。
やや強い言葉に聞こえるが、その理由はこの先、農業従事者の高齢化やリタイアの進行が避けられない課題となっているためだろう。先端技術を駆使して農業の省力化、効率化を図る「スマート農業」が当たり前となる時代は、目前まで近づいてきている。
そんな状況の中、各メーカーとも手をこまねいているわけではない。耕作地をあまり目にしない都市部に住んでいると気付きにくいが、熟練者と同様の運転を自動で行う最新型コンバインなど、先端技術の農業への導入は想像以上に進んでいる。
2020年3月にヤマハ発動機が発売した、最新型農業用ドローンの「YMR-08AP」もその一つだ。
>その他のスマート農業事情:「自動運転コンバインで見えた“スマート化する農業”の未来」(株式会社クボタ)
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ヤマハ発動機がこの3月に発売した農業用ドローン「YMR-08AP」。農業用に特別設計されている。メーカー希望小売価格は206万2,500円(税込) ※機体用のバッテリー、充電器、充電ケーブル、測量モジュール、液状散布装置、粒剤散布装置などは別売り
提供:ヤマハ発動機
もちろん、これまでにも農業用ドローンはいくつものメーカーから発売されており、既に珍しいものではなくなっている。
しかし、この「YMR-08AP」の画期的な点は、農薬散布専用アプリ「agFMS(Agriculture flight management system)」によって自動生成された農薬散布ルートを、忠実に飛行して自動で散布するところにある。
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農薬散布専用アプリagFMSの画面。耕作地の航空写真を取り込んだ後、測量モジュールで真四角の耕作地なら4点、変形している耕作地なら曲がっている箇所も含めて形状の計測を行うと、そのデータを基に画像の赤いラインのように、散布ルートが自動生成される
提供:ヤマハ発動機
農業従事者がやることは、散布地点付近までドローンを運ぶだけ。あとはドローンが自動的に農薬を散布してくれるのだ。「YMR-08AP」は一度の飛行で約11分、およそ1ha(ヘクタール)の農薬散布という制限があるが、たとえ途中で止まってしまっても問題はない。
農薬の補給などをし、散布が中断した地点に機体を戻して自動フライトモードに切り替えれば、また自動的に再開してくれる。従来機のように、散布のために神経を使って操縦する必要はない。負担は格段に軽減される。
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ドローンは自動で動くため、操縦しなくていい分、疲れにくい。農薬散布における省力化、効率化を実現できる
提供:ヤマハ発動機
また、ドローン操縦経験がある人はご存じだと思うが、ドローンを思いのまま操るには、修練が必要だ。そのため、先に発売されていたマニュアル機の「YMR-08」では、自動的に直進し、均一の幅を保って折り返す機能こそ搭載されていたものの、複雑な地形になるとその機能だけでは散布にややムラができることもあるため、手動で微調整が必要な場合もあった。
しかし、この「YMR-08AP」は農薬散布専用アプリagFMSによる飛行ルート作成機能があるため、複雑な地形の耕作地であっても、適切な散布ルートが構築される。散布のムラを、より減らすことができるのだ。
さらに、保存したルートを改良し、さらに農薬散布の精度を高めることもできる。まさに、「スマート農業」の実現へ確実に歩みを進める機能だと言える。
農薬を確実に農作物に届ける機能
「YMR-08AP」に搭載された機能は、それだけではない。
例えば、ローター。計6カ所に設置されているのだが、よく見ると機体の両脇、散布ノズル近くの2カ所だけ2枚のローターが取り付けられている。2枚それぞれが反転するように設計された「二重反転ローター」という仕組みだ。
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両脇のローターだけ、2枚重ねるように取り付けられている
提供:ヤマハ発動機
無人航空機で農薬を散布する場合、機体から地上に向けてのダウンウォッシュ(降下する気流)により、その散布性能を高めることができる。一般的なドローンは機体が軽いため、その分ダウンウォッシュも弱い。それを補強するための仕組みが、この「二重反転ローター」なのだ。これにより強いダウンウォッシュが生まれ、横風に流されることなく農薬を確実に作物の根元まで届けることができる。
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「二重反転ローター」により生まれるダウンウォッシュに農薬が乗ると、自然の風に流されずに力強く作物の根元まで届く
提供:ヤマハ発動機
また、ローターの回転方向を前後対称にすることでダウンウォッシュを安定させ、前進時でも後進時でも差異なく農薬を散布することを可能にしている。
この「二重反転ローター」はマニュアル機である「YMR-08」にも搭載されているのだが、「YMR-08AP」では効率的な農薬散布ルートを自動飛行できるため、その効果はさらに増すという。
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「YMR-08AP」のローターは、このように前後対称に回転する
提供:ヤマハ発動機
マニュアル機であっても、ドローンは農薬散布の効率化に大きな役割を果たしてきた。しかし、ユーザーから「自動運転化して、より高効率化したい」という、さらなる要望が出てきたことで、今回の開発につながったという。
これは、農業従事者の間でも、先端技術を導入していく機運が高まっていることが分かるエピソードだ。日本中の耕作地の上をドローンが飛び回る。そんな光景が当たり前となるのも、遠い未来の話ではない。
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text:仁井慎治(エイトワークス)