2022.11.10
通常工期を大幅短縮! トンネル掘削技術の粋を集めた地中送電線シールド工事
千葉ニュータウンの電力インフラ増強を目的とした「千葉ニュータウン洞道(トンネル)」を新設
千葉県船橋市にある新京葉変電所と、新設される千葉印西(いんざい)変電所を結ぶ長さ約10.1kmのトンネル「千葉ニュータウン洞道」。電力需要が激増しつつある千葉ニュータウンエリアの電力インフラ増強を目的として、地中送電線を通す一大プロジェクトだ。今回、異例と言えるほど工期を短縮できた秘密、さらにはカーボンニュートラルに向けた取り組みなどを取材した。
地中深くで進行するトンネル工事
今回の「千葉印西エリア洞道新設工事」は、宅地や工業団地の大規模開発により激増している千葉ニュータウンの電力需要に応えるため、電力設備の増強を目的として行われるものだ。
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千葉ニュータウンエリアでは宅地・産業開発が急速に進んでおり、それに伴って電力需要も激増
画像提供:東京電力パワーグリッド
新京葉変電所から千葉ニュータウン変電所までの区間6.33kmを「その1工事」、千葉ニュータウン変電所から新設される千葉印西変電所までの区間3.79kmを「その2工事」として新たにトンネルを造り、内部に地中送電ケーブルを敷設する。
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計画エリアは印西市・白井市・船橋市の3市にまたがる。トンネルのルートについても道路や公園の下を通すことで地上工事による通行止めなどを最小限に抑え、地域住民の暮らしへの影響が少なくなるよう配慮された
画像提供:東京電力パワーグリッド
長さ約10.1kmにも及ぶ大規模なトンネル工事は、事業者である東京電力パワーグリッド株式会社(以下、東電PG)としても実に四半世紀ぶりのことだという。
しかも今回は早急に電力供給力を増やす必要性から、2022年6月までにトンネル掘削工事を終え、後に控えるケーブル敷設工事に間に合わせなければならないと明確に期限が決まっていた。
計画が立ち上がったのは2019年4月。
大成建設株式会社・佐藤工業株式会社・大豊建設株式会社の建設会社3社が立ち上げた「千葉印西エリア洞道新設工事共同企業体」は、その期限に間に合わせる現実的な施工方法を提案。翌年4月に着工。
今年6月12日、着工からわずか約2年半で10kmを超えるトンネルが貫通した。
工期を通常の半分に短縮できた理由
約2年半に及ぶ工事内容は、標準的であれば倍ほどの工期がかかっても不思議ではないという。
その驚くべきスピードを実現できた理由はどこにあるのか──。
「通常は、トンネルの内径に合わせたシールドマシンを一区間当たり1機使用するのが一般的です。今回の場合は『その1工事』と『その2工事』でトンネルの内径が異なるため、それぞれ1機ずつ、合計2機とするのが通例でしょう。しかし今回の工事では、短工期を実現するために4機のシールドマシンを導入しました。物量作戦とも言える、その工夫がまず一つ。あとはシールドマシンの構造を泥水・泥土複合式としたことも重要なポイントです」(東電PG 工務部 送変電建設センター 千葉印西管路新設グループの出雲力斗氏)
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取材に協力いただいた東電PG 工務部 送変電建設センター 千葉印西管路新設グループの小林宗一郎氏(左)、出雲力斗氏(中央)、舘石理之氏(右)
現在主流となっている密閉型シールドマシンは、掘削する先端の切羽といわれる地山に圧力を加え掘削土の安定を図る。安定させる仕組みの違いによって、「泥水式」と「泥土圧」に分けられる。
詳しい構造の説明は省略するが、「泥水式」は文字通り泥水を循環させて切羽に圧力を加えるもので、高速施工に適した構造だ。
今回の工事でも工期短縮のため「泥水式」シールドマシンを採用する予定だったが、地質調査の段階で細かい砂の地層が多いことが判明。砂質土は水分を吸収してしまうため、「泥水式」シールドマシンを使うには適した特性の泥水を想定以上に多く作らなければならない。
このままでは高速施工には適さないため、必要に応じて「泥土圧」に切り替えられる複合式シールドマシンを東電PGとして初めて採用した。「泥土圧」は切羽の安定に掘削土を使用する構造で、柔らかい砂質土にも適している。シールドマシン上部の地盤が緩んでいないか、施工中に調査するための「地山探査装置」も新たに取り付けられた。
「地盤が緩んでいないか確認するためには、シールドマシンと掘削面の空隙を測定する必要があります。そのために今回、物理的に測定する装置をすべてのシールドマシンに装着しました。加えて3・4号機には超音波で空隙を測定する装置も付けました。こちらは当社が開発中の新たな装置であり、発注元にご理解いただいた上で試験的に採用したものですが、期待以上の成果を示してくれたと思います」(大成建設の現場代理人 作業所長 橋本 聡氏)
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取材に協力いただいた東電印西シールド作業所の橋本氏(左)、宮口氏(右)
多くの工夫が盛り込まれたシールドマシン。
1号機を例に挙げると、最大月進は663m。これもまた驚異的な数字だ。
ちなみに千葉印西エリア洞道新設工事共同企業体 東電印西シールド作業所(大成建設)の主任技術者 工事課長代理である宮口往久氏の解説によると「シールドマシンはほぼ全てがオーダーメードであり、都度、その工事に適した仕様のマシンが設計される」と言う。
一部の部品などを再利用することはあっても、トンネルの外径・内径やセグメントの形状、掘削する土質が毎回異なるため、マシンを丸ごと他の工事に転用できる事例はほとんどないそうだ。
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泥水・泥土複合式という画期的な構造が採用されたシールドマシン。トンネル内径の違いにより、「その1工事」用に1・2号機、「その2工事」用に3・4号機と異なる設計のマシンが導入された(写真は4号機 )
画像提供:東京電力パワーグリッド
また、トンネル壁面を構成するコンクリート製の板「セグメント」の構造を最適化することも高速施工を実現するための工夫の一つとして挙げられた。
内径4000~4800mmのトンネルを掘る場合、従来の方式では1200mm幅のセグメントが標準とされている。それを今回、1300~1350mmに拡幅。セグメント一個当たりの幅を長くすることで、施工回数を減らすことに成功した。
一個当たりの長さが100~150mm長くなるだけのことだが、10.1kmのトンネル工事全体を通して試算すると、セグメントを組む工数をおよそ740回も減らすことができる。
これはとてつもなく大きな効果だ。
さらに内径4000mmの区間(その1工事)では、セグメントの分割数を標準的な6分割ではなく5分割にした。
もちろん強度や耐久性、運搬時のエネルギーなども全て計算し尽くした上での効率化である。
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分割されているセグメントをクレーンでシールドマシンまで運ぶ様子。セグメントは内部に鉄筋を入れ、強度を確保している
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分割されたセグメントを、シールドマシンに備え付けられた「エレクター」という装置を使い、一枚ずつ掘削した穴の内側に組み立て、一つの大きな円筒になるよう壁面に固定している様子。各セグメントは継手の形状を工夫することで、組立時間の短縮が図られている
「セグメント1個分の幅(距離)を掘り進めるために要する時間は、掘削に約30分、複数のセグメントを組み立てるのに約30分、合計でおよそ1時間になります」(出雲氏)
こうした細かな工夫を幾つも積み重ねたことにより、高速施工、短工期は実現されたのだ。
カーボンニュートラルに向けた新たな取り組み
高速施工、工期短縮は「千葉印西エリア洞道新設工事」の大きな命題だが、その上で積極的な脱炭素化に取り組んでいることも特筆すべき点だ。
今回のトンネル施工に当たっては、インバートブロック(トンネル内部の底面を支える部材)や歩床ブロック、立抗や換気口の壁面、トンネルと変電所をつなぐボックスカルバート(箱型のコンクリート構造物)などに、プレキャスト・コンクリートが多用された。
プレキャストとはあらかじめ工場などで成型されたコンクリートのことで、現場に運搬し、そこで組み上げられるもの。現場で型枠にコンクリートを流し込む一般的な「現場打ち」工法に対して、プレキャスト・コンクリートはCO2排出量を7%低減できると言われている。
※日本建設業連合会「日建連における『脱炭素化』の取り組みについて」
元々の強度が高いプレキャストでは部材を薄く設計することができ、資材製造にかかるエネルギーを大幅に削減できるからだ。
さらに、今回インバートブロックと歩床ブロックに大成建設製の「T-eConcrete(R)」セメント・ゼロ型が採用された。「T-eConcrete(R)」は、通常のセメントの替わりに産業副産物を混合して製造する環境配慮型コンクリートであり、従来のコンクリートに比べて材料製造時のCO2排出量を8割程度も削減。今回の工事全体を通して約230トンものCO2を削減することができたという。
※大成建設の環境配慮型コンクリートに関する記事:CO2をコンクリートに封じ込める! 大成建設が目指す「カーボンニュートラル」実現への道筋
その他、バックホー(パワーショベルの一つ)にも従来の軽油よりCO2排出量の少ないGTL(Gas to Liquids)燃料を使用する機種を選ぶなど、環境への配慮が徹底されている。
東電PGの担当者自ら「シールド工法(シールドマシンを使ってトンネルを掘削する工法)の歴史に残るような事業」と語る今回の千葉印西エリア洞道工事。
大学在学中から地中土木に興味を持ち、東電PG入社後、初めての現場となった小林氏は「電力を安定供給するのが私たちの使命であり、それを支えているのが今回のようなトンネル工事です。大成建設をはじめとする建設会社各社や道路管理者、行政機関など、互いが協力しあって初めて円滑に進めることができるのだと実感しました」と語る。
ここで開発された新たな技術や培われた知見は、今後のシールド工事全般にも大いに生かされていくに違いない。
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text:田端邦彦 photo:安藤康之