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湧水から電気を発電! 産総研・茨大が湧水温度差発電の実現可能性を実証

湧水に浸すだけで季節や昼夜を問わずいつでも発電が可能

国立研究開発法人 産業技術総合研究所と国立大学法人 茨城大学大学院の研究チームは6月10日、湧水と大気の温度差を利用した発電に成功し、湧水温度差発電は可能であることが実証されたと発表した。湧水の新たな資源価値を創出する最新研究の詳細を紹介する。

水と大気の温度差で発電

豊富な水資源を有する日本では、古くから水の恩恵を受けてきた──。

例えば地下から地表へ湧き出る湧水は、長きにわたり井戸や水路を活用して地域の暮らしを支えてきた。半面、かつての水辺環境は水道普及による地下水利用の減少とそれに伴う井戸や水路の衰退といった時代の変化によって失われつつあるのも現状だ。

しかし、近年になってネイチャーポジティブ(自然再興)などが提唱され始めたことで状況は変わりつつある。地域の自然資源の保全や持続的な利活用が注目されるようになり、湧水においても地域の貴重な資源としてこれまで以上の地域貢献が期待されている。

湧水の新たな利活用方法として検討されているのが、湧水と大気の温度差を利用した「湧水温度差発電」だ。

湧水には地表の気温変化の影響を受けにくく、1年間昼夜を通して温度は約15℃でほぼ一定するという性質があり、大気と湧水の間には常に自然な温度差が存在している。

この状況は太陽エネルギーで暖められた表層海水と海洋を循環する冷たい深層海水を用いて発電する海洋温度差発電と似ており、湧水においても同様に発電できる可能性を秘めている。

しかし、海洋ほどの温度差がないために湧水を用いた発電が本当に可能であるかは明らかにされていなかった。

※海洋温度差発電に関する記事:海水の温度差で電気を作る?海洋温度差発電のポテンシャルとは

湧水温度差発電の原理図。季節によって大気と湧水の異なる熱源から熱を取り込むことによって発電する仕組みだ

そうした中、国立研究開発法人 産業技術総合研究所、国立大学法人 茨城大学大学院から成る研究チームは、温度差を電力に変換する熱電発電を用い、湧水に浸すだけで安定して電力を供給する湧水温度差発電装置を考案。

長野県松本市で行われた実証実験では、この湧水温度差発電装置で発電した電力のみで湧水の温度を計測し、無線通信で自動的なデータ収集に成功したことで、湧水温度差発電が可能であることを実証した。

水流がなくても発電可能な新たな装置

研究チームが開発した湧水温度差発電装置は、片側を湧水に浸した円柱形の銅棒が熱電モジュールのある表面まで熱の流れを導くように設計。これにより、大気よりも湧水の温度が低い夏場には熱電モジュールの片面が冷却され、大気よりも湧水の温度が高い冬場には加熱される仕組みになっている。

開発した湧水温度差発電装置の概要図(a)。湧水温度差発電装置を上方から眺めた断面図と拡大図(b)。拡大図を見るとヒートシンクのフィンの向きが重力に対して平行に取り付けられており、ヒートシンクが大気の熱を対流によって効率的に授受できる構造であることが分かる

熱電モジュールの反対面は地表面付近の外気と効率的な熱交換を行うためのヒートシンクを貼り付ける構造を採用。また、湾曲できる柔軟な熱電モジュールを用いて円柱形の銅棒と密着させるなど銅棒と熱電モジュール間の熱伝導効率を上げる工夫も施されている。

開発された湧水温度差発電装置を使った実証実験の様子。夜間にも温度差が生じるため、実証実験では昼夜を問わず発電できることも確認されている(産業技術総合研究所提供の画像に加筆)

この湧水温度差発電装置のポイントの一つが、固体の熱と電気の相互変換作用である熱電発電を利用するため、水車のような可動部が不要となること。これにより、水の流れがない水路でも発電が可能だという。

研究チームは今後のビジョンを、「微小電力の活用方法に関する分析や、景観へ配慮した発電装置のデザインに関する基礎的研究も一体的に進めることで、地域資源としての湧水の価値を高めていきたい」としている。

湧水の新たな価値創出の可能性を示した今回の研究成果。

今後のさらなる研究開発に期待したい。

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