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海水の温度差で電気を作る?海洋温度差発電のポテンシャルとは

エネルキーワード 第11回「海洋温度差発電(OTEC)」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第11回は「海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion: OTEC)」。再生可能エネルギー(再エネ)による発電の一つとして、現在、日本・米国・フランス・インド等で研究開発が進められているOTECのポテンシャルを探ってもらいました。

TOP写真:ハワイ州立自然エネルギー研究所の海洋温度差発電システムの熱交換器

出典:東邦大学 HP

海洋温度差発電のメカニズム

海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion: OTEC)。なんとも壮大なネーミングに胸が躍りますね。
 
OTECとは、太陽からの熱エネルギーが温めた表層海水と、海洋を循環する冷たい深層海水との温度差を利用してタービン発電機を回し、発電するシステムです。
 
低い温度域を利用するため、タービンを回す作動流体として、沸点の低い媒体(アンモニアや代替フロン)が用いられます(図1)。

(図1)海洋温度差発電のしくみ

出典:OTEC Okinawa

1881年にフランスの物理学者が提唱したのが始まりとされており、意外と歴史は古いですが、ようやく日の目を見始めました。
 
再生可能エネルギー(再エネ)による発電が世界的に広がる中、その一つとして海洋温度差発電が注目されるようになりました。現在、日本・米国・フランス・インド等の国で研究開発が進められています。

日本の実証実験

ただ、どのプロジェクトも実用化には至っていません。水力や風力、バイオマス、太陽光・太陽熱、地熱といった他の再エネに比べて、まだまだ研究開発が不足しています。

日本では沖縄県が久米島で平成25(2013)年から“低炭素島しょ社会”の実現に向けて、海洋エネルギーの研究開発を促進しています(写真1)。

(写真1)沖縄県「海洋深層水の利用高度化に向けた発電利用実証事業」

出典:OTEC Okinawa 公式HP

沖縄はクリーンエネルギーの地産地消を目指しています。そこで始まったのが「海洋深層水の利用高度化に向けた発電利用実証事業」です。
 
この事業は、IHIプラント建設株式会社・株式会社ゼネシス・横河ソリューションサービス株式会社の3社共同企業体に委託されて実施されています。久米島の最大出力50kWの実証プラントは2013年から世界に先駆けて稼働しました。それも含め以下のような研究を行っています。
 
・ 天候・海水温の変化に伴う発電量の計測
・ 安定した出力を得るための技術の実証試験
・ 海洋深層水及び表層水のより高度な複合的利用についての検討
・ 沖縄における洋上型海洋温度差発電設備の設置可能性の検討  

などです。

海外事例とメリット・デメリット

海外では、米ハワイ州で海洋温度差発電の研究が進んでいます(TOP写真)。

実はこの施設があるハワイ島(別名:ビッグアイランド)には化石燃料が一切ないのです。古来マグマが噴出してできた島々がハワイ諸島ですが、このハワイ島も海岸線から急激に海が深くなっています。つまり海底の冷たい水をくみ上げるのに適した地形なのです。
 
さらにマーシャル諸島においても海洋温度差発電が始まるとのことで、海洋温度差発電の研究開発は着々と進んでいるようです。
 
ところで、海洋温度差発電は、表層海水も深層海水も水温が急激に変わらないため、一定の出力で発電が可能なのが特徴です。また、発電量の予測も簡単です。つまり、他の再エネとは違って、原子力や火力発電などが担う、いわゆる“ベース電源”に向いているといえます。

また、くみ上げた深層海水は、発電に利用した後も水質は変わらず水温も10~12℃程度と低温であるため、これを再利用することができます。これも海洋温度差発電のメリットです。
 
例えば、先述した久米島内では水産、農業、化粧品、食品など、さまざまな産業への展開が進み、現在海洋深層水を利用する企業が19社あります。

また、同様の例として佐賀大学が「フラッシュ蒸発海水淡水化」という装置の開発を進めており(写真2)、これは海洋温度差発電と淡水化のハイブリッドシステム、つまりくみ上げた深層海水を真水に変換するという取り組みです。

(写真2)佐賀大学の海洋エネルギー研究センター 久米島サテライト

出典:OTEC Okinawa 公式HP

しかし、もちろんデメリットもあります。当然ですが海の近くにしか造れないことです。その上、発電をするには海水面と深海の温度差が15度以上必要な点があります。

下図の黄色は温度差が18~20℃、オレンジは20~22℃、赤は22~24℃、濃い赤は24℃以上の領域を示しており、色で示された地域以外の実現は難しいのです。
 
日本ですと、九州以南や沖縄に限定されてしまいます(図2)。それ以外、実証実験が行われているのはハワイ島、マーシャル諸島、あとはインド、スリランカなどです。

(図2)海洋温度差発電の適地

出典:スマートジャパン「海洋温度差で10MWの発電所、年間1億3000万ドルの石油を削減」

ポテンシャル

次に、発電コストに目を向けてみましょう。

発電単価は、1MW級で40~60円/kWhですが、50MW級ですと8~13円/kWhとなります(図3)。規模が大きければ大きいほど単価が安くなるのがわかります。発電のための資源の海水が無限にあることもうれしいですね。

(図3)発電コスト比較

出典:Xenesys 公式HP

いずれにしろ、日本で海洋温度差発電に適しているのは、沖縄周辺の他、小笠原諸島や黒潮流域に限定されます。

そうした中、沖縄では海岸からの距離30km以内で発電ポテンシャルが2,797MWという試算もあります。現在の沖縄の発電設備容量はおよそ2,000MWなので、それを全てカバーすることが可能になるのです。沖縄全体の電力需要を海洋温度差発電で賄うことができたら、素晴らしいと思いませんか?
 
太平洋の他の島しょ国などにもこのシステムを輸出することができるかもしれません。再エネにもいろいろありますが、まだまだ私たちが知らないだけで、可能性があるものは今後も研究開発されそうです。

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