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2020.3.19
日本企業が連携して技術革新へ! 持ち運べるバッテリーの誕生が未来のエネルギー事情を変える
本田技研工業株式会社 ライフクリエーション事業本部 新事業推進部 主任技師 中島芳浩【後編】
前編では、ホンダが開発した着脱式バッテリー「モバイルパワーパック」がモビリティの電動化を推し進める可能性があることを伺った。後編では、エネルギー視点から「持ち運べるバッテリー」の利点を考える。引き続き、本田技研工業ライフクリエーション事業本部・主任技師の中島芳浩氏に話を伺う。
再生可能エネルギーの潜在能力を引き出す取り組み
ホンダは2019年初頭から、橋梁・鉄骨などの製造・建設を行っている株式会社駒井ハルテック(東京都台東区)と共同で、余剰電力を活用したエネルギー供給システムの実証実験をフィリピンで行ってきた。
これは、エネルギー供給の多くをディーゼル発電が担っている当該地域に、駒井ハルテックの風力発電機20基と充電ステーションを新たに配置。発電した電力をモバイルパワーパックで供給し、電動バイク「PCX ELECTRIC」100台を運用する実験だ。
※【前編】の記事はこちら
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フィリピン・ロンブロン島の実証実験で運用されている電動バイク「PCX ELECTRIC」。日本でも既に市販されているため、なじみのある方もいるかもしれない
「電気というエネルギーを考えたとき、“ためること”と“運ぶこと”の難しさがウィークポイントに挙げられます。それならば、電気をより小さい単位に分けてためて運ぶことができれば、再生可能エネルギーへのシフトがうまくいくのではないか?と発想しました」
ご存じのように、電力は大規模に貯蔵しておくことができない。常にそのときの電力需要に応じた発電を行わなければならず、これが再生可能エネルギーの限界を定めてしまっている。
太陽光発電や風力発電などの自然由来エネルギーは天候や時間による出力変動が大きいため、安定的に電力を供給、かつ必要なときだけ瞬間的に増やすといったコントロールが難しい。
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「エネルギー分野での施策は、地域ごとの事情に適正化させたサービスの提供が大事」と説く中島氏
しかし、風力発電などで発電効率の良いときにより多くのエネルギーを発電しておき、可搬バッテリーに貯蔵。そこからいつでも自由に使えるようになれば、再生可能エネルギーをより効率的に使えるはずだ。
また、天候の変化などによって急激な出力増加が発生した場合、通常は送電先がないため発電量を抑えてしまうが、もしためておけるのであれば、そうした出力変動分の電力まで回収可能になる。
「私たちが実証実験を行っているフィリピン・ロンブロン島は、夜間の電力需要が極端に少なくなる地域でした。夜に発電しておいた余剰電力を昼間に使うことができれば、無駄なく低コストで電力を供給できます」と中島氏は語る。
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駒井ハルテック製の風力発電機。電力の多くをディーゼル発電に頼るフィリピン・ロンブロン島に、20基の風力発電機を新たに建設した
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一般的な電力網では余剰となってしまう電力も、可搬式バッテリーに貯蔵すれば無駄なく活用できる
蓄えた電気は移動だけでなく日常生活にも!
モビリティを駆動できるだけの電力を蓄えられるということは、同じバッテリーを家電などの電源として利用できるということでもある。
ホンダは二輪・四輪製品の他にも、発電機や蓄電機、農機具、歩行アシスト装置などさまざまな製品をラインアップしているが、それらの動力源をモバイルパワーパックに置き換えることはさほど難しくないだろう。
「現状では生かせていない電力を使うわけですから、運用コストは限りなく低いはず。利用者の電気代も抑えられるでしょう」
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屋外や非常時での使用を想定したモバイルパワーパック用の充放電器。こちらは市販品でなくCES2018に出展されたコンセプトモデル
車を作るだけでなく、ステーションでエネルギーを供給するだけでもなく、“エネルギーを作るところから人々の移動に関わろう”という自動車メーカーの新たな取り組み。
「モビリティだけがゼロエミッションを目指しても、カーボンフリー社会は実現しません。ウェル・トゥ・ホイール(車の走行時だけでなく、製造行程やエネルギー源など、ライフサイクル全体で排出されるCO2の総量で環境性能を評価する考え方)でCO2ゼロを目指そうという考えで、エネルギーの領域にまで踏み込んでいます」と中島氏は言う。
もちろん、事業領域がここまで大きく広がると、一企業が単独でプロジェクトを推進するのは難しい。ホンダもこれまでは自社開発にこだわる企業風土で有名だったが、今後は自動車以外のさまざまな会社とも手を組んでいく方針だという。
「会社ごとに企業文化も考え方も、全く異なります。フィリピンでのプロジェクトを通して、駒井ハルテックさんのような会社と共同事業を行うことができたのは、とても貴重な経験でした。自動車産業以外の業界との連携について、私たちは今まさに勉強させてもらっているところです」
現在、既存事業の変革や新領域への進出に向けて、外部とのオープインノベーション、協業にも積極的に取り組んでいるホンダ。
社会を変えるためには自らの体質も変えていかなければならない、ということだろう。
地域の事情に寄り添ったエネルギー政策
この実証実験は、現段階ではあくまで都市から遠く離れた島、という限定された地域での取り組みだ。
エネルギー問題は地域ごとに抱えている問題が全く異なるため、今回のようなマイクログリッド、エネルギー地産地消の事例を、隅々までグリッドが行き届いた日本のような国でそのまま生かせるとは考えていない。
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「ウェル・トゥ・ホイールでCO2ゼロを目指す取り組みは、世界トップのシェアを持つ二輪メーカーとしての使命」と語る
「エネルギーは、先進国と新興国、途上国といった経済水準の違いや、山間部、平地、島など環境の違いによって抱えている問題がまったく異なります。そうした背景を無視して、モビリティの電動化だけを推し進めるのは的外れです。その地域が今、どのような状況にあるのか? 十分にリサーチした上で、モビリティとエネルギー基盤を結び付ける手法を考えなければ、本当に必要なサービスを生み出すことはできないでしょう」
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東京モーターショー2017では、各家庭の電力とエネルギー基盤を総合的にマネジメントし、電気自動車のバッテリーに蓄えた電力などを仮想発電所として活用するコンセプトモデルも展示された
世界トップのシェアを誇るホンダの二輪は、世界中の国々で愛されている。
2030年ビジョンの中でホンダは、「生活の可能性が拡がる喜びを多様な社会・個人に対応させること」とうたった。モビリティと暮らしの変化を日本などの先進国だけでなく、世界中のあらゆる地域に届けることを会社の使命としているのだ。
今回のトピックは、技術的な優位性が特段に強調されてはいないので、“電動バイクのバッテリーを車外に取り出して充放電できるようにしたというだけ”と捉えられるかもしれない。
しかし、この小さな箱には、世界の移動やエネルギー事情を変えるかもしれないと感じさせるポテンシャルが確かに秘められていた。
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text:田端邦彦 photo:安藤康之
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