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ホンダが示す電動バイク普及への確かな道筋! バッテリーは“充電”から“交換”する時代へ

本田技研工業株式会社 ライフクリエーション事業本部 新事業推進部 主任技師 中島芳浩【前編】

二輪、四輪、パワープロダクツなど幅広く事業展開するホンダ。昨年の東京モーターショー2019では、ことし市販を予定しているEV「Honda e」などと共に、着脱式バッテリーを搭載する2台の商用電動バイクがプレゼンテーションの壇上に上がった。なぜ"着脱式"なのか──。その背景にはモビリティとエネルギー基盤を融合させて、世界中の人々の移動と暮らしを進化させんとする、大いなる未来へのビジョンがあった。

電動車の泣きどころとなる2つの大きな課題をクリア

東京モーターショー2019でホンダは、市販化をもくろむEV「Honda e」と、ことし2月にフルモデルチェンジを遂げた「新型フィット」を公開。車両は共に白いボディーカラーをまとっており、ホンダが目指す方向性がクリーン化であることを強く印象付けていた。

その2台に挟まれるように展示されていたのが、2台の商用電動バイク「BENLY e:(ベンリィ イー)」と「GYRO e:(ジャイロ イー)」。

着目すべきは、「ホンダ・モバイルパワーパック」と呼ばれる着脱式バッテリー2個を搭載していること。既存EV(電気自動車)のように車両にコネクターを差して充電できるだけでなく、あらかじめ充電済みのバッテリーと交換して再び走りだせるようになっているのだ。

パワープロダクツの開発とエネルギー関連事業を総合的に受け持つ、ライフクリエーション事業本部の主任技師である中島氏

ホンダは同様の着脱式バッテリーを採用した電動バイク「PCX ELECTRIC」のリース販売を2018年末から始めている。今回の2台はそのノウハウを生かして開発された商用モデルで、「BENLY e:」についてはことし4月から法人向けに販売を予定。既に日本郵便の配達用車両の一部として導入されることが決まっている。

「バッテリーを着脱式にすることで、現在の電動車が抱える複数の課題を同時にクリアできます」

こう語るのは、本田技研工業ライフクリエーション事業本部・主任技師の中島芳浩氏。もともと発電機や農機具などのパワープロダクツを扱ってきた部署に、エネルギービジネス開発事業を統合して昨年4月に新しく生まれた部署で、その目的は人々の”移動”と”暮らし”に新しい価値を提供することだという。

モバイルパワーパック2個を使って走る電動商用バイク「BENLY e:」。一充電あたりの走行距離は約87km(「BENLY e: Ⅰ」「BENLY e: Ⅰ プロ」30km/h定地走行テスト値)

ご存じの通り、モビリティの電動化は今や地球規模で取り組むべき課題。ホンダも2030年ビジョンの中でカーボンフリー社会の実現を掲げているが、二輪、四輪とも電動車の普及を促進させることこそ、カーボンフリー社会を実現するための最も現実的な手段といえる。

一方で、電動車は今なお多くの課題を抱えており、既存技術のままでは急速な普及にはつながりそうもない。ホンダが圧倒的なシェアを持つ東南アジアの二輪市場においても、消費者の電動化に対する要求はさほど高まっていないのが現実だ。消費者が求める走行性能や経済的合理性は、今のガソリンエンジンのバイクである程度充足されているのがその理由だろう。

「BENLY e:」では電圧48Vのバッテリーを直列につなぐ、96Vシステムを採用。交換の作業性にも配慮した設計になっている

それでも、「二輪のトップメーカーとしては、カーボンフリーな未来の社会を実現するために、電動化に取り組んでいく必要がある」と中島氏は言う。

「最も大きな課題は、充電時間と航続距離です。充電に何時間もかかり、その上短い距離しか走れないようでは誰も使ってくれないでしょう。特にバイクの場合は車体スペースが限られているため、航続距離を長く確保した大容量のバッテリーを搭載することはできません」

そこで、着脱式のバッテリーシステムにスポットライトが当たる。

車両とは別の場所でバッテリーを予め充電しておき、空になったバッテリーと交換すれば充電時間の問題は完全に解決できる。航続距離についても、出先にバッテリー交換(充電)ステーションさえあれば、ガソリンスタンドのような大規模な設備は必要ない。例えば、事務所内や店頭の一角といった狭いスペースでもステーションは設置可能だ。

コンパクトなスペースで充電可能なモバイルパワーパック。写真は2018年に開催されたCES(米国のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で出展されたもの

「充電している間もバイクを使うことができ、稼働率が上がるためコスト面でのメリットも期待できます。そうした特性は商用車において特に有利になるでしょう」(中島氏)

乾電池のような単位規格化を視野に

コストについては、将来性への期待もある。

ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハの国内大手4社は昨年4月、交換式バッテリーとバッテリーを交換するためのシステムなどの仕様を検討する「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を設立。乾電池のような規格統一に向けて動きだしている。

つまり、今回「BENLY e:」に採用されたモバイルパワーパックの仕様がそのまま規格になるわけではなく、現在は仕様を検討している段階だということ。

将来、異なるメーカーの電動バイクに同じ規格のバッテリーを使えるようになれば、利便性が大幅に向上するのは言うまでもない。さらに大量生産、複数メーカーの競争によるコストダウンにも期待が持てる。

「バッテリーを着脱式にするとコストダウンにもつながるなど、ユーザーにとってもメリットは大きい」と話す中島氏

「今回のモバイルパワーパックについては他社製品と性能を比較して優位に立つことよりも、商用バイクに求められる性能を満たすことを念頭に開発しました。動力源としてのバッテリーは今後、多くの人が同じ規格、同じ製品を使えるようにしていくことが大切。その実現に向けた第一歩です」

現在、バッテリーはリチウムイオン全盛だが、今後、イノベーションが進むと材料は変わる可能性がある。だが、二次電池の材質がニッカド、ニッケル水素、リチウムイオンと時代と共に変化しても単一、単二電池などの単位電池の規格は変わらなかったように、材質の変化は問題にならないそうだ。

「サイズや電圧、端子の形状といったハードウェアと、モビリティ側とやりとりする情報のソフトウェアさえうまく整備できれば、たとえバッテリー内部の材質が変わっても問題ありません。規格が整っていたら消費者が使いやすいのはもちろん、開発する側も設計しやすくなるでしょう。そこを目指しています」と中島氏は語る。

車両だけでなく充電交換サービスもセットで提供

着脱式バッテリーの存在は、電動車が抱える多くの問題を一挙に解決へと導いてくれるかもしれない。

しかし、それらは単に車両を作って販売すれば解決するわけではなく、交換ステーションなどインフラの整備を同時に行わなければ意味がない。

ホンダは既に、2017年から東南アジアなどで電動バイクと交換サービスをセットで地域に提供する実証実験を始めており、近い将来の事業化を視野に入れている。

「電機はガソリンよりも環境にいいし、バッテリー交換も簡単」とユーザーからの評価も高い

「充電済みバッテリーを自動販売機のようなもので供給すれば、買い物のついでに交換することも可能です。交換機が設置されている小売り店で買い物をすると利用料が安くなるクーポンがもらえる、といった生活領域と連携しても面白そうですね」

モノからコトへ──。製造業からサービス業への転換は、交通事業者の間でMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と共に最近よく耳にするワードだが、正直、今ひとつイメージが湧きにくい。

しかし、たとえ実証実験の段階ではあっても、こうして具体的な例を聞くと、今がまさに交通がサービスへと移り変わろうとする時代であることを実感する。新たなサービスは、私たちの生活と移動をきっと大きく変えることだろう。

だが、そうした消費者やメーカーにとってのメリットは、実は着脱式バッテリーが持つ可能性の一部でしかない。

ホンダが見ている世界は、実はもっとずっとスケールが大きいのだ。



<2020年3月19日(木)配信の【後編】に続く>
持ち運べるバッテリーがエネルギーの未来を変える

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