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2022.1.21
電動化で何が変わる? 2人のスペシャリストがモビリティとエネルギーの未来を語る
株式会社三菱総合研究所 営業本部 杉浦孝明および東京電力ホールディングス株式会社 EV推進室 企画グループ マネージャー 新庄晶太【前編】
カーボンニュートラル社会の実現に向けて国際的な動きが加速するとともに、国内では災害の激甚化も喫緊の課題として対応が求められる中で、今後のモビリティはどうあるべきか?を考える対談企画。EV(電気自動車)の普及に向けた現状の課題とその解決に必要なアクション、EV化がもたらすエネルギーの変化などをテーマに、株式会社三菱総合研究所 営業本部の杉浦孝明氏と、東京電力ホールディングス株式会社 EV推進室 企画グループ マネージャーの新庄晶太氏が語り合う。
エネルギー供給事業者がEV普及促進に取り組む理由
2021年10~11月、英国グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では産業革命前からの気温上昇幅を1.5℃に抑えることが成果文書に明記されるなど、国際的な脱炭素化に向けた動きはますます加速している。
日本でも2020年に発表された2050年カーボンニュートラル宣言以降、CO2削減施策がより注目されるようになった。
運輸部門の脱炭素化にモビリティのEV化が有効であることは間違いないが、そこに向けた課題とは何なのか──。
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TEPCOのEV推進室でEVの普及促進を目指すプロジェクトに取り組む新庄晶太氏
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EVはもちろん、自動車のIT化、ライフスタイルなどモビリティ全般に幅広い知識を持つ杉浦孝明氏
新庄:東京電力ホールディングス(以下、TEPCO)の新庄です。今回はEVの普及に向けてどんなアクションが必要なのか、どんな変化が期待されるのかについて、杉浦さんに意見を伺いながら幅広いテーマで話し合っていけたらと思います。
杉浦:初めまして杉浦です。今回の対談は「モビリティのEV化がもたらすエネルギーや社会の変化」がテーマということですよね。モビリティは私がこれまで専門的に取り組んできた分野ですが、エネルギーの将来についてはぜひ新庄さんから詳しい話を伺いたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
新庄:よろしくお願いします。
杉浦:いきなり本題で恐縮ですが、世界各国の自動車メーカーは今、電動化に向けて大きく動きだしていますね。日本でもトヨタがレクサスのEV比率を100%にする目標を掲げ、バッテリーEVが日産だけでなくホンダやマツダからも発売されるなど、EV化の動きが少しずつ活発化してきました。ただ、こうしたEVが市場で急速に普及するような市場環境にはまだ至っていない気がしています。TEPCOではEVの普及に向けて、どのようなスタンスを取っているのですか?
新庄:2021年7月に、東京電力グループは「安心で快適なくらしのため エネルギーの未来を切り拓く」という新しい経営理念を策定しました。その実現に向けたビジョンでは、カーボンニュートラルと防災の2つがキーワードになっています。まさにEVがキーデバイスになるということで、当グループとしてEV事業を重点事業に位置付けています。
杉浦:カーボンニュートラルと防災、確かにEV化は両方に共通するテーマですね。エネルギーの会社がモビリティの分野にも積極的に関わっていくスタンスには、時代の変化を感じます。EVの普及推進に向けて、何か具体的に取り組んでいるアクションはありますか?
新庄:はい。いくつかのプロジェクトが同時進行しているのですが、まずは足元からということで2019年に「EV100」※という国際イニシアチブに参加しまして、当グループの業務車両約3800台を2025年度までに50%、2030年度までに100%電動化するという目標を設定しました。自分たちがEVを導入する過程で、さまざまな課題が見えてくると思うので、まずはそこで知見を蓄え、お客さまへの提案につなげていこうという思いで取り組んでいます。
※EV100=輸送手段の電化(Electro-mobility)を目的に掲げて、2017年9月に発足した国際企業イニシアチブ。EV推進企業が結集し、投資・政策を促進することを目指しており、社用車のEV化、充電器の設置などEV化を推進していることが参加の前提となる
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社員投票により決定したラッピングデザインが施された東京電力グループの業務車両EV
杉浦:2030年というと、あと8年ですね。業務車両には乗用車タイプの車両だけでなく、高所作業などを行うトラックなども含まれているのですか?
新庄:いえ、高所作業車や電源車などの特殊車両はいったん、対象外にしています。これはそのカテゴリーの車種にまだEVが存在しないためですが、将来的にそうした分野のEVが増えてくれば順次、対象となる車両を増やしていく予定です。
まずはEVが普及できる土台づくりから
杉浦:バリエーションの少なさはEV化を推進するにあたってクリアしなければいけない大きな課題の一つですよね。そもそも業務用車両のように該当する車両がないと選びようがありませんし、乗用車についてもラインアップが増えてきたものの、まだまだ選択肢が少ない。バッテリーEVが一部のカテゴリーに偏っている現状が変わらないと、広く普及させるのは難しいように思います。
新庄:特に軽自動車のEVが欲しい、というニーズが高いです。2020年にTEPCOとNTT、日立製作所、リコーの4社で「電動車活用推進コンソーシアム」という事業体を立ち上げました。EVを導入したい企業と自動車メーカーに会員になっていただいて、「こういう仕様の業務車両がいい」といったユーザーニーズを集約して、自動車メーカーへ提言しています。車格、航続距離、荷室スペースなど、車両のユースケース、運行オペレーションに合った仕様を共通化することで、EVを導入しやすい環境を作ることが狙いの一つです。
杉浦:ユーザーと自動車メーカーがタッグを組み、EVを使いやすい、EVを作りやすい環境を整備しよう、というのは新しい試みですね。街中を走る業務用車両が電動化されれば、一般ユーザーにとってもEVが身近に感じられるようになるかもしれません。
新庄:ありがとうございます。コンソーシアムでは車両仕様の提言だけでなく、社有車として導入するにあたっての課題の共有、充電環境整備に向けた課題の解決なども行っていきたいと考えています。
EVの普及はニーズの多様化が鍵
杉浦: EVの話になると必ず「航続距離が内燃機関車並みに長くならないと、あるいはより短時間で充電できるようにならないと普及しない」という問題に突き当たります。でも私はちょっと別のアプローチもあるのではと思っています。一般の人が普段買い物をしたり、家族を送迎したりする生活圏内はおよそ5km圏内。1日乗ってもせいぜい10km、20km程度が日常的な使い方です。その範囲内なら現状の技術でも十分対応可能で、蓄電池のイノベーションを待つ必要がありません。航続距離を伸ばすためにバッテリーを大型化するとコストがかかり、それだけ車両価格が高くなります。航続距離はそこそこでいいから、低価格で買える街乗りEVというニーズも今後はあり得るのではないでしょうか。
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「活用シーンさえ限定すれば、EVは現状技術のままでも通用する」と語る杉浦氏
新庄:その通りかもしれません。ただ、そうしたシーンを含めて、ユーザーとしては街中に充電できるスポットがたくさんあった方が安心ですよね。現在、東京電力グループの(株)e-Mobility Power(イーモビリティパワー)が運営するEV向けの公共用急速充電器が全国に約7000基(口)あり、2025年までに充電口数を倍にしようと計画しています。私たちが導入する業務車両EVも、担当エリアが広くて航続距離が長い場合など、自社構内の充電だけでは足りず経路充電が必須のケースがあり、公共充電器を積極的に活用しています。他方で、特定の法人EVユーザーのみが利用する共同利用型充電サービスの実証実験※も進めています。商用車や業務車をEV化する場合、自事業所内に充電器を敷設しようとすると、充電設備工事の費用負担が大きくなったり、賃貸・機械式駐車場のため敷設ができないケースがあります。しかし、公共充電サービスのみで運用すると、必ず使いたいタイミングにもかかわらず、他の利用者が使用している等で充電ができず、業務に支障をきたすことも想定されます。そこで、特定の法人間で共同利用し、事前に予約した時刻に確実に充電できる共同利用モデルなどの選択肢を広げていくことも重要だと捉えています。こうした取り組みを通じて、「業務に支障が出ないよう、EVを運用するにはどうしたら良いか」といった知見を積み上げ、お客さまへのサービスに活用していくというストーリーを考えています。
杉浦:シェアという考え方ですね。いいアイデアだと思います。多様なニーズに応えていくことで、EVの普及にまた一歩近づくことになるのかもしれませんね。一方で既存の車と同じ使われ方を想定した場合、たまの帰省や旅行など遠出するシーンのことも考えなくてはなりませんね。高速道路のサービスエリアにも、もっと多くの急速充電スタンドが欲しいところです。交通需要にはバースト性と呼ばれるものがあり、長期休暇中などにはサービスエリアが大変混み合います。EVが普及してきたときに、充電待ち渋滞が起きてしまうのではないかという心配があります。
新庄:そこは当グループでも当然、危機感を持っていまして、当社、e-Mobility Power、ニチコン株式会社と共同で、1基の充電器に複数の充電口を取り付け、複数台のEVを同時に充電できる急速充電器を新たに開発しました。2021年12月には、首都高速道路の大黒PAで6台同時充電が可能な充電器の運用が開始され、今後、サービスエリアなどへのさらなる設置が期待されているところです。
※実証実験=2020年11月~2021年2月、山梨県南アルプス市において、充電面の課題解決を目的に、1基の急速充電器を計21社・団体で共同利用する実証実験を実施。電力需給動向を反映した時間帯別の充電料金設定による効果的な充電方法などを検証した(経済産業省2020年度「商用車を活用した物流MaaS の実現に向けた研究開発・実証事業」)。また、今年度は、2021年11月~2022年1月、静岡県沼津市において、周辺地域の計13社・団体に対して試験的サービスを提供。充電器で使われる電力は、「グリーン電力証書」の取得により、再生可能エネルギー由来の環境価値を100%付加したカーボンフリーとなっているため、走行中のCO2排出量をゼロにすることができる(経済産業省2021年度「電動商用車を活用した物流MaaS の実現に向けた研究開発・実証事業」)。
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共同利用型充電サービスの実証実験のイメージ図(2021年11月~2022年1月、静岡県沼津市にて実施)
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「インフラ整備こそエネルギー供給事業者として積極的に推進すべき事業」と語る新庄氏
杉浦:充電待ち時間に関する話題として、個人的には大規模な充電スポットにショッピングモールやテーマパークを併設するなど、待ち時間自体を楽しめる、30分といわず丸一日楽しめる場所を作ってしまうようなプロジェクトをどこか企画してくれないかと期待したいところです。新しい時代に合わせて、私たち自身のライフスタイルも変えていく必要がありそうですね。
【後編】では、モビリティの電動化が社会全体にもたらす影響や防災面での活用について、引き続き2人に語っていただく。
<2022年1月24日(月)配信の【後編】に続く>
モビリティと電源、両輪での脱炭素化が鍵になる? EVが社会に浸透することによって変わるエネルギーの価値
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text:田端邦彦 photo:安藤康之
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