特集

海流発電への影響は?来る黒潮の大蛇行

海流発電のかなめとなる日本の“海の恵み”黒潮の実態

特集第1週では、黒潮を利用した海流発電の現状と見通しをお伝えした。しかし、変動が少ないと期待される海流発電には本当に不安はないのだろうか? 本稿では、海洋エネルギー資源の面から見た“日本の海”の特性について、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)アプリケーションラボ所長代理の宮澤泰正氏に話を聞いた。

恵まれた日本の「西岸強化」

「日本が海流発電のポテンシャルを秘めている最大の理由は、太平洋の西岸に位置しているということなんです」

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託事業として、日本の周囲を流れる海流がどの程度発電に利用できるのかを研究した実績を持つ宮澤氏は、日本に与えられた黒潮という“海の恵み”のメカニズムについて日本の位置が重要だと話す。

海洋研究開発機構アプリケーションラボ でラボ所長代理を務める宮澤泰正氏。海流のスペシャリストだ

「まず、黒潮が発生するメカニズムを簡単に説明しましょう。北米とユーラシア大陸・日本の間に広がる太平洋の北側には西から東に偏西風が、南側には東から西に貿易風が吹いており、この風が太平洋の海流を時計回りに循環させています。

この循環が、東側ではアメリカ西岸を南向きにゆっくりと流れるカリフォルニア海流を、西側では日本列島の太平洋側を北向きに強く流れる黒潮を作り出しているのですが、実は、黒潮はカリフォルニア海流よりも非常に流れが強い。その理由が、『西岸強化』なんです。

西岸強化とは、大洋の西岸の海流が東岸よりも著しく強くなる現象を指します。地球の自転によって生じる転向力(コリオリの力、慣性力の一種)が緯度により変化することから、太平洋の循環の中心が西側に偏ってしまうため、西岸を流れる海流が狭く強くなるのです。

日本が海流発電を行う上で優位な理由は、太平洋の西岸にあるが故に強い流れの黒潮を利用できるためと言えるでしょう」

太平洋の風による循環を表した図。南下流にあたる部分がカリフォルニア海流となる

画像提供:海洋研究開発機構 

本特集第1回で伝えた通り、海流発電においては、黒潮に面する日本が開発・研究状況でトップを走り、黒潮と共に世界の二大海流と呼ばれるメキシコ湾流に面しているアメリカが基礎研究を行っている状況という。

そして、ヨーロッパではイギリスを中心として波力と潮流、潮汐力を生かした発電が進んでいる。これは、各国の学術研究や生産技術のレベルの違いからこのような状況になったわけではなく、根本的には各国が置かれた地理的な海洋特性に着目した結果であるといえる。

「黒潮を利用できる日本と、メキシコ湾流を利用できるアメリカが海流発電について先行しているのは当然ですが、大洋の西岸には他にも強い海流があるため、今後はその利用価値も考えていくことになるでしょう。

一方で、ヨーロッパは西岸でないため発電に利用できるほどの強い海流に面していません。しかし、大洋の東岸は波浪のエネルギーが高いという特徴があるため、ヨーロッパではこの特性を生かした波力発電と地形的な影響からの潮汐発電を開発しているのです」

迫る黒潮大蛇行のリスク

日本に与えられた自然の恩恵ともいえる黒潮だが、しかし、それはあくまでポテンシャルにすぎず、宮澤氏は「全てのエネルギーを取り出せるという意味ではない」という。

「黒潮を利用した海流発電を行うためには、どのようにして電力系統(発電・変電・送電・配電を統合したシステム)に接続するかという技術的な問題と、それをクリアするためのコスト的な問題もあります。それに加えて、根本的な問題として、黒潮の“大蛇行”による変動のリスクもあるのです」

海流は基本的には一方向に流れるが、時にその流れが蛇行することもある。気象庁は今年8月30日、黒潮が紀伊半島沖で南へ蛇行しているため、船舶の燃費や漁業への影響に注意するように呼びかけた。蛇行は10月上旬にかけて続くと予測され、2004年7月から05年8月に起きた大蛇行以来の規模になる可能性があるという。

この予測を受けたニュースでは、「シラスやカツオが不漁になるかもしれない」と報じられたが、仮に黒潮を利用した海流発電が実用化されたならば、ニュースの目玉には違う文字が躍ることになるかもしれない。

海洋パワー密度の比較図。色が赤くなるにつれて発電に利用できるエネルギーが強くなる。右が黒潮の大蛇行期

画像提供:海洋エネルギーポータルサイト

「海洋パワーの密度、つまり海流発電の際に利用できるエネルギーの大きさについて、黒潮の通常時と大蛇行時を比較した図を見比べてください。通常時は和歌山県の南方、潮岬沖に大きなエネルギーが存在しますが、大蛇行時には黒潮の流れが沖合に移るため、エネルギーが相当小さくなります。

将来的に巨額を投じて潮岬沖に海流発電装置を設置した場合、黒潮の大蛇行が数年間続けば大変な事態になることは容易に予測できるでしょう。このように黒潮は海流発電で利用できる極めて大きなポテンシャルを秘めていますが、一方で、大蛇行という大きなリスクも抱えているのです。

こうしたリスクを考慮すると、現在開発が進んでいる独立系統離島への電力供給というのは現実的な選択でしょう。2つの図を見比べても分かりますが、屋久島南方を流れる黒潮のエネルギーに大きな変化はありません。他の選択肢を挙げるなら、黒潮から分かれた対馬海流の流れをくむ津軽海峡もまた、大きなエネルギーを持っていてかつ、変動が小さい場所と言えるでしょう」

屋久島南方を流れる黒潮は、まさにNEDOとIHIが行った水中浮遊式海流発電システムの実証実験の舞台。そして津軽海峡は、青森県の世帯数の約2倍強にあたる137万世帯の電力を賄うことができる海洋発電が可能という試算もあり、現在、東京大学や弘前大学、青森県が産学協同で研究・開発を進めているスポットだ。海流エネルギーの客観的な数値を見ることにより、今後、海流発電がどのような形で開発されていくのかが予測できるのではないだろうか。

日本のもう一つの“海の恵み”

海流発電を行うには、大洋の西岸にあるという地理的条件が必要であるが、それだけでは十分ではなく、実用化には海流の大蛇行というリスクを考慮した上で、変動が少ない場所を選定しなければならないことは分かった。しかし、そのような場所はごく限られてくる。

「世界的に見れば、ハワイ沖に風車を設置して貿易風で発電するとか、インドネシアのような狭く浅い海を抱える群島国家では潮汐力で発電するとか、それぞれの地理的特性に応じた発電方法があります。

海洋を利用したさまざまな発電を、全て日本国内で実用化することはできません。しかし、これらの発電技術を研究・開発していき、ODA(政府開発援助)などを活用して海洋発電技術を海外に輸出していくことも、一つの方策ではないでしょうか。

そして個人的な見解としては、 養殖した海藻でのバイオマス発電にもチャレンジしてみる価値は十分にあると思います。日本の“海の恵み”は黒潮だけではないですからね」

現在運航中の大深度へ潜航できる有人潜水調査船は、世界に7隻。JAMSTECは6500mまで潜ることができる「しんかい6500」を有する。宮澤氏は「まだ深度6500mです。その先にはまだまだ未知なる世界が広がってるんです」と話す

宮澤氏が言葉にした「養殖した海藻でのバイオマス発電」については、日本を“産油国に変えるかもしれない”と、近年クローズアップされている分野。

従来の発電所を例にすれば、冷却水用の海水取水口に年間数百tもの海藻が流れ込み、廃棄物として処理されている。海藻からバイオエタノールを作り出す技術を使えば、この大量の「廃棄物」が「資源」に生まれ変わるかもしれないのだ。

海流だけでなく、そこで生息する生物までもがエネルギー源となる可能性を秘めた母なる海。無尽蔵の恩恵にあずかるために、それを取り出し、利用する技術開発が実用化に達する日が早く来ることに期待したい。

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