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今始まる、海洋発電時代

海藻をエネルギーに変換する水産バイオマス実現への道のり

“廃棄物”となる海藻をエネルギーに変える方法

特集第1回、第2回では、枯渇しないエネルギー源として海流を取り上げてきたが、他にも日本の“海の恵み”は存在する。それが「海藻」だ。第3回では、海藻を資源としたバイオマス燃料製造を研究する広島大学大学院先端物質科学研究科の中島田 豊教授に海洋資源エネルギーの今を聞いた。

コンブから電気を生む方法

「日本の干潟の中にいる微生物群を用いれば、高効率でコンブをメタンに変換できます。天然ガスであるメタンはそのまま発電に利用できるため、経済性をクリアできれば再生可能資源としてエネルギー生産に利用することができます」

“コンブから発電”とは想像に難しいが、海藻に含まれるアルギン酸や寒天などの糖類を、微生物の力で天然ガスの主成分であるメタンに変換させるという研究が進められている。

これらの技術開発を行っている広島大学大学院の中島田 豊教授は、国土の10倍以上の領海および排他的経済水域を持つ日本にとって、海洋資源は大いに魅力的であると話す。

海洋微生物発酵制御を基盤とした大型藻類の完全資源化基盤技術の開発研究で、代表者を務める広島大学大学院の中島田 豊教授

バイオマスエネルギーが注目され始めたのは、1980年代のこと。サトウキビやトウモロコシといった農作物(第一世代)が、バイオマスエタノールの原材料として利用されたことは、記憶に新しい。

しかし農作物は、食料との競合が課題となる。そこで次に注目されたのが、間伐材や稲わら(第二世代)だ。これらは食料とは競合しないが、前処理が非常に困難という欠点があった。

「木の幹は、高分子化合物であるリグニンとセルロースが固く結合することで、非常に固い繊維を形成しています。微生物は固い物を食べて分解するのが苦手ですから、バイオマスエタノールを精製するために前処理として原材料を柔らかくしなければなりません。これにはコストがかかります。

一方、水産バイオマス(第三世代)は、原材料が海藻です。食料との競合も農産物に比べれば少なく、もともとが柔らかいので前処理の手間も省けます。日本は国土こそ狭いですが、排他的経済水域と領海を合わせた広さは世界6位です。広い海を利用しない手はないでしょう」

日本は海藻を食料や肥料として利用してきた文化があるため、栽培研究も盛んであり、応用する場もある。当然、海は世界中に広がっている。日本だけでなく世界各国に展開できる可能性が高いのも海藻を用いた水産バイオマスのメリットだ。

「研究過程で、海洋藻類は3%程度の高濃度塩分を含んでいるため、陸上微生物群で分解するには効率が悪いことが分かりました。しかし、有明海など干潟の泥内に生息する微生物群であれば、海水程度の塩分があっても海藻を分解してメタンを生成できることを発見したんです。

採れたてのコンブ100kg(水分含量90%)からのメタン生産量は2.1立法メートル程度と試算しています。海の物(海藻)を、海の生物(海洋微生物)で処理するという考えは、意外と盲点だったんですよ」

水産バイオマスの中でも、特に海洋生物を利用した「海藻バイオマス」の主原料はコンブ。褐藻(かっそう)類や紅藻(こうそう)類であれば種類を問わないため、ヒジキやホンダワラも利用可能だ。これらの海藻を粉砕して、コントロールした微生物で満たした水槽に入れると、海藻が分解・発酵され、最終的にメタンを発生させる。

分解させるためには、「加水分解/酸生成菌群」「水素生成有機酸酸化細菌群」「メタン生成菌群」という3種類の微生物群が必要になる。この3種類の微生物群をコントロールする技術が、最も重要なポイントなのだという。

微生物群(左)、乾燥したマコンブ(中)、粉砕前のマコンブ(右)が入ったボトル。日本は南北に長い領海を有しているため、北海道や東北地方では褐藻類が、西日本では紅藻類や緑藻類が栽培しやすい

廃棄海藻の活用でコスト削減

水産バイオマス最大の課題は、属性の違いはあるものの第二世代にあった壁と同じくコストだ。石油や石炭、天然ガスと異なり、バイオマスから大量のエネルギーを生産するにはある程度の設備が必要となる。効率よくエネルギーを生産できたとしても、既存の化石燃料の価格には及ばないという。

「実は、石油や石炭の生産コストはそう高くはないんですよ。一度掘り当てれば、あとは湧き出るものを使えばいい。精製にもそこまでコストがかからないため、枯渇するまで使用できると考えれば、初期投資分もすぐに回収できます。

しかし、水産バイオマスの場合、原材料を栽培し、回収し、エネルギーを抽出し、そして抽出したエネルギーを精製する必要があります。海藻を活用する場合、栽培費用はもちろんのこと、微生物が分解しやすいように粉砕する装置、メタンガスに分解させるための装置、さらには分解したメタンガスを保管する設備が必要となるため、やはり石油や石炭に比べると高くついてしまうというのが現状です。ガソリンなら1リットル当たり120円で販売しても黒字になりますが、褐藻類メタンガスだけ作っても赤字になってしまうんです」

そこで、現時点で現実的なのは、火力発電所の“補助燃料”としての活用だと中島田教授は話す。火力発電所では、冷却用水の海水取水口に流れ込む大型藻類を廃棄物として処理している。この廃棄される大型藻類からメタンを精製できれば、生産とコストカットが両立できるのだという。

同時にコスト面の問題をクリアするために検討されているのが、高付加価値物質の併産だ。藻類特有の糖質である「マンニトール」や「アルギン酸」は、油糧微生物であるラビリンチュラの株で発酵させると、「EPA(エイコサペンタエン酸)」や「DHA(ドコサヘキサエン酸)」、「アスタキサンチン」や「スクアレン」といった健康市場へ展開できる物質を回収・精製することができる。

「高付加価値物質を高く販売し、エネルギー生産分の赤字を補えば、経済的課題はクリアできます。原料となる海藻1kgを100円で購入し、原料の半分でアスタキサンチンを生産して、残りをメタンガスにする方法で併産すれば、採算が取れる試算です。高付加価値物質とエネルギー生産の2本立てに加え、国の補助が受けられれば、経済収支をプラスにすることが可能でしょう」

海藻糖質を利用して、微生物の一種であるAurantiochytrium(オーランチオキトリウム)属による高付加価値油脂生産が可能となった

資料提供:広島大学 中島田 豊教授

国の制度の転換によって太陽光発電が普及したように、水産バイオマス燃料においても支援や補助金があれば、実用化に向けた動きも盛んになるのではと中島田教授は話す。

「水産バイオマスの実用化のコスト問題は、世界的にも課題となっています。オランダやスウェーデンでも、褐藻類からアルギン酸を抽出した残渣(ざんさ)でメタンを生産する研究が進められていますが、やはり経済的な課題によって実用化に至っていません。アメリカではベンチャー企業も立ち上がりましたが、採算が取れずやめてしまっている。民間企業は収益が上がらなければ形にしませんから、国が後押ししてくれることを期待しています」

海藻エネルギーを基盤にした地域社会

そして、同研究が広がる方向の一つとして期待されるのが、離島での活用だ。メタンを生産可能なエネルギーキャリアとして保持した地域社会が創成できると中島田教授は続ける。

「日本国内には多くの離島がありますが、離島の周辺は当然、海です。海で海藻類を栽培し、栽培した海藻でメタンと高付加価値物質を精製する。高付加価値物質は特産品として売り出すことができるし、メタンはガスタンクに保存して燃料ガスや発電に利用できます。さらには、育成する藻場を魚介類の“揺り籠”にして水産業と組み合わせれば、生産コストの低減も図ることができるかもしれません」

教授が思い描くのは、中規模の島しょ地域をモデルにした、海藻エネルギー社会だ。

海洋微生物発酵制御を基盤とした大型藻類の完全基盤技術の開発

資料提供:広島大学 中島田 豊教授

浜辺に打ち上げられている海藻が、家に明かりをともす。そのような時代が来るにはまだまだ時間がかかるだろうが、四方を海に囲まれる日本にとって、水産バイオマスは産業構造すらも変えてしまう可能性を秘めている。実用化に向けた研究が進むことを期待したい。

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