特集
ビッグデータ・オブ・サッカー

GK川島選手は世界25位!? サッカーの守備力を数値化する最新研究

野球と比べて選手の能力が数値化されていないサッカー。その問題点を探る

5月31日、来るワールドカップに向けてサッカー日本代表選手が発表された。そのラインアップを見て、「選手の高齢化」を指摘する声も少なくなかった。それは、個々の能力や秘めたエネルギーが分かりやすいデータとして“見える化”できておらず、選手の実力を平等に評価できる指標が無いからかもしれない。そんなサッカーの“曖昧さ”に対して、能力の数値化を目指す筑波大学体育系特任助教の平嶋裕輔氏に、その研究の可能性を聞いた。

試合データからは高く評価できたハリル・サッカー

2018 FIFAワールドカップ・ロシア大会(以下、ロシア大会)を直前に控え、日本代表「西野ジャパン」の行く末を不安視する声が絶えない。サッカーファンの間では、予選段階から何かと“物言い”がつく日本代表の戦いぶりだったものの、4月に起きた“ハリル解任劇”が奇しくも不安を最高潮にまで引き上げたと言えるだろう。

大会本番わずか2カ月前という時期に、日本サッカー協会の田嶋幸三会長は、ロシア大会予選突破を担ったバヒド・ハリルホジッチ監督を更迭。田嶋会長は、「選手とのコミュニケーション不全」「ワールドカップで1%でも勝つ確率を上げるため」などを更迭理由に挙げた。しかし、それらの理由はとても曖昧模糊(もこ)としたものであり、ファンらが客観的に納得できるものでは決してなかった。

実際、インターネット上では、「得点率、失点率とも歴代監督の中で最も数字が良い」という、ハリルホジッチ前監督時代の試合データが拡散。そして5月30日に行われた西野ジャパンの初戦・ガーナ戦は、ほとんど良いところのない惨敗で終わる。「1%でも勝つ確率を上げる」とした会長の言葉は、今のところ説得力のない状態だ。

日本代表を取り巻いた「曖昧」かつ「不明瞭」なチーム運営の話題が世間をにぎわす中、その曖昧さをクリアにしようとする動きがある。サッカーという競技を膨大なデータから「定量化」しようというもので、筑波大学体育系・平嶋裕輔特任助教らが開発を進める、「ゴールキーパー評価指標」もその一つだ。

サッカーの曖昧さを解決する能力の定量化

平嶋氏はもともと、学生時代はゴールキーパー(以下、GK)としてサッカー部に所属。卒業後は大学や海外U-14代表、J2チーム・カマタマーレ讃岐などでGK専門コーチとして従事してきた経歴を持つ。現場の悩みをよく知る研究者である。

「客観的なデータを有効に活用して、戦術や戦略に役立てていく。その方法論や手法を確立するのが僕の研究目標です。関係者の尽力もあり、サッカーというスポーツはさまざまなデータが取れるような環境が整い始めています。しかしながら、その全てをうまく使い切れていないというのが、現場にいたころに発見した課題でした。

例えば、『どれくらい走ったか』『どのくらいのスピードか』など、選手個人のフィジカルデータはかなり活用され始めています。しかし、その他にもあるさまざまなデータは、そこから一歩先の戦術・戦略には、まだまだ有効に使われていません。私としては、データから客観的にゲーム分析ができる方法を確立したいと考えています。言い換えれば、サッカーの戦術や戦略を『数値化』する試みです。

ちなみに、研究のインスピレーションを得たのは、米映画『マネーボール』(※貧乏球団を強豪チームに育てた実在のゼネラルマネージャーの活躍を描いた映画)。題材は野球でしたが、データに基づく客観的な戦略・戦術の指標確立は、サッカーの発展にも有効だと思ったんです」

長年GKコーチを務め、数々の現場を見てきた平嶋氏。監督に「この選手を使ってほしい」と説得するためにも、数値化の必要性を感じてきた

「ビッグデータ・オブ・サッカー」を戦術・戦略に生かす方法論は、日本同様、海外でもまだそれほど確立されていないというのが平嶋氏の印象だそうだ。例えば「パス成功率」という指標にしても、パスを出した際の“環境は”考慮されておらず、全てが一緒くたにされているという。パスを出す状況(前線なのかDFラインなのかなど)を難易度別(敵が迫っているのか、フリーなのかなど)に細分化してこそ、選手の能力を理想的に「定量化」できる。しかし、まだまだこの手の研究は進んでない。

というのも、そもそもサッカーは他のスポーツに比べて発生するシチュエーションが「豊富」かつ「複雑」、「流動性が高い」という特徴がある。目まぐるしく状況が変わり、しかもプレーがあまり途切れない。つまり、多方向に延びるエネルギーを、データで収集したとしても、組み合わせなければならないパターンが膨大で、なかなかデータを利活用するという地点まで至っていないのだという。

「現在、日本ではデータスタジアム社がJリーグのデータを公式に取得しているので、(プレーに関するさまざまな)データ自体はものすごく集まっています。しかし、活用方法が明確ではありません。私の友人にもJリーグチーム関係者がいますが、彼らもデータを買ったとしてどう活用してよいものか悩んでいますね。トレーニングに組み込もうと思っても解析する手段や物差しがない。データが宙に浮いてしまっているんです」

そこで平嶋氏ら研究チームは、まずGKのシュートストップ能力を客観的に評価する「指標=物差し」を作ろうと考えた。

「私がそのポジション出身で興味があったという背景もありますが、GKは試合中の動きが比較的固定されています。しかも、GKが失点さえしなければ試合に負けることはありません。そこで、取っ掛かりとして一番良いのではないかと思い、着手しました」

シュート、パス、選手の動きなどJリーグの試合中のあらゆるデータが集められているが、その大半を活用できていないのが現状

“Soccer Ball Trapped in Goal” by Steven Depolo is licensed under CC BY 2.0

平嶋氏らは、GKのシュートストップ率を評価するために、「シュートされる場所」「DFがいるかどうか」「シュートコース」「シュートスピード」などさまざまな要因を組み合わせる「シュートストップ失敗確率予測回帰式」という数式を使い、「Stop Rate」という従来の「セーブ率」とは異なる指標を開発した。

従来の評価指標では、簡単なシュートを止めても、難しいシュートを止めても、「1本止めた」という同じ評価となっていた。つまり、シュートストップの難易度が織り込まれていなかったのだ。一方、平嶋氏らが開発した数式で評価すると、「失敗確率〇%のシュートを止めた」というように、シュートストップの「難易度」に応じた評価が可能となる。

失点数が同じだったとしても、「そもそも止めることができないレベルのシュートなのか」「選手のミスなのか」など、監督やコーチ、スカウトだけではなく、選手自身やサポーターが判断する際に客観的な指標になるというわけだ。

「Stop Rate」と「セーブ率」の考え方の違いと、シュートストップ失敗確率予測回帰式

資料協力:平嶋裕輔

シュートストップ率は低かった川島選手

平嶋氏ら研究チームは、その新しい指標を用いて2014年のワールドカップ・ブラジル大会を解析した結果を公開している。対象となったのは、同大会全64試合、被枠内シュート587本、2試合以上出場した世界のGK32名だ。平嶋氏は言う。

「セーブ率とStop Rateには強い相関関係がありますが、2つの指標で順位が一致した選手は32名中4人でした。例えば、両方の指標共に最も優れていたのは、コスタリカのケイロル・ナバス選手。シュート率から見ると世界トップレベルのGKが7.46失点すると予測されるようなシュートを、約4分の1の2失点に抑えています。客観的に、ナバス選手は非常に優れたシュートストップ能力を持ったGKと評価できるでしょう。ただ、彼の下、2位以下は指標によって順位がかなり変動したんです」

悲しいことだが、今大会も日本代表の正GKを務めることが濃厚な川島永嗣選手の前大会のセーブ率、Stop Rateはそれぞれ、27位、25位といずれも下位にランクインしていた。

ブラジル大会のGK32名を解析した結果。「Rank by Save percentage」がセーブ率、「Rank by Stop rate」がStop Rateの各ランキング

資料協力:平嶋裕輔

「もちろん、私たちが作った指標もまだまだ完璧ではありません。しかもGKには、キャプテンシーやメンバーを安心、鼓舞させる力など、データとしては集めきれないさまざまな能力が必要とされます。ただ私個人としては、今後もサッカーを数値化する研究を着実に続け、いつかゲーム『ウイニングイレブン』のように、選手の能力を一目で判断できるような指標を生み出したいと考えています」

現代のスポーツシーンでは、データおよびそれらを解析・利活用する手法はなくてはならないものになりつつある。日本でも、陸上やバドミントンなどデータを駆使することに注力し始めた競技では、着実に成果が出始めているという話もある。これらは選手が秘めたエネルギーをデータ分析によって最大化できているからこその結果だろう。今後、日本サッカーも同じように前進することはできるのだろうか。最後に、平嶋氏にサッカーファンの雑談程度に、一連のハリル解任騒動について話を聞いてみた。

「正直、データを使ってサッカーを数値化したいと考えている私の立場からすると、ハリルジャパンが、ワールドカップでどう戦うか見てみたかったです(笑)。いずれにせよ、今後は人工知能などが採用されて、サッカーに関する議論がより科学的かつ客観的にできるようになるはず。すでに、そういう動きは少しずつ始まっています」

一部では客観的なデータは優秀とされ、片や試合内容などではあまり高く評価されなかったハリルのサッカー。膨大なデータを解析したとき、本当の正解が見えてくるのかもしれないが、残念ながら、今回は世界最高峰の舞台での“答え合わせ”は叶わなかった。

数年後、日本のサッカーファンは、選手の能力やチームの強さといったエネルギーが数値化されたデータを持って観戦を楽しめるようになるのだろうか。それは、「感動」や「興奮」といったエンターテインメント的側面と相反するものではなく、よりサッカーを高次元に導いてくれるものであってほしい。関連研究の未来がどうなるか。とても楽しみだ。

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