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ドローン専用“空の地図”創りで世の中が変わる!

株式会社ゼンリン ドローン事業推進課 課長 田内 滋

宅配業者の深刻なドライバー不足や少子高齢化による過疎地域の買い物難民など、さまざまな社会問題に対しドローン(無人航空機)の活用が期待されている。その中で、安全な飛行に欠かせない“空の地図”に取り組むのは国内地図サービスのトップ企業、ゼンリン。最近は東京電力ホールディングス(以下、東京電力HD)と強力タッグを組んだ「ドローンハイウェイ構想」が注目を集めている。そこで共同プロジェクトの中心メンバーとして活躍する、ゼンリンの田内 滋氏に話を聞いた。

空に道ができる! 「ドローンハイウェイ構想」とは?

両社が業務提携を決めるきっかけとなったのが、IoTを活用した優秀なプロジェクトを選定・表彰する経済産業省主催の支援会議。ゼンリンが準グランプリに輝いたことで出会い、ぐっと距離が近づいた。
 
「アプローチは東京電力HDさんから。新しいビジネスとして魅力を感じ、お互いの強みを発揮できると直感的に思いました。送電鉄塔や電柱をはじめとしたインフラ設備のデータと、ゼンリンが開発進行中の空域情報を3次元化した地図を組み合わせることで、ドローンの安全飛行に必要な課題を解決できるはず。それが『ドローンハイウェイ構想』の始まりでした」

10名ほどの部下を率いる、ドローン事業推進課の田内 滋さん

ゼンリンが果たす役割は、ずばり空に「道」を創ること。すでに張り巡らされている送電線の上を“高速道路”に見立て、ドローンの飛行ルートを設置する発想は、プロジェクト名にも由来している。
 
「ドローンを飛ばすにあたって送電線から何メートル上の距離で、どの位置が適切なのか。またバッテリー問題で長時間飛行できない場合を想定し、鉄塔の付近に離着陸できる充電スポットのような“ドローンポート”を開発・設置してはどうか。さらに、目的地への最短誘導が可能なナビゲーションシステムを取り入れてはどうか、など『ドローンハイウェイ構想』実現へ向け、さまざまな角度から研究・開発、協議をしています」

送電線に沿って安全に飛行する、ドローンのイメージ図。東京電力HDの送電鉄塔は約5万基、送電線の長さは約1万5000kmにも及ぶ

バッテリー切れの課題を解決すべく、ドローンが離着陸できる充電スポット“ドローンポート”の設置も計画している

日本全国99.6%(伊豆・小笠原諸島の一部を除く)、実質ほぼ100%の地図を保有する、ゼンリンの地図データがあってこそ「ドローンハイウェイ構想」が実現するのだ。

オフィス内の書棚には、調査スタッフの英知が詰まった住宅地図が整然と収められている

最上の地図創りに、最高の調査スタッフあり

「ゼンリンは航空写真では決して収集できない、建物1軒ごとの階数、形状などの徹底した地図情報を把握しています。それは1日約1000人の調査スタッフが酷暑や極寒の日もひたすら歩き、調査用紙に手書きして、靴のかかとをすり減らしているからこそ。実際に行かなければ分からないので、行ってみたら急な坂道だったり、犬にほえられた経験があるスタッフも(笑)。たとえビルや道路が変わっていなくても定期的に足を運んで確認、そうした唯一無二の蓄積が地図の正確さにつながっています」

建物のフォルムや素材感、色合い、階数など、緻密に3次元化されたカーナビゲーション向けデータのサンプル画像

そんな苦労を積み重ねて完成させた、膨大な地図データを「ドローンハイウェイ構想」に最適な形でどのように提供しているのか。
 
「まずは、数字が羅列する3次元地図を機械に読み込ませるのですが、例えるなら送電線の上に浮かぶ空のトンネルの中に、X軸やY軸、Z軸などの座標軸がくまなく描かれているイメージ。その“トンネル”が専用ルートとなり、ドローンが目的地まで迷わずたどり着けるという設計です。国が定めた飛行制限エリアや高さは、仮想的にバリアを作って事前に予測・回避できるシステムを整えたいと思っています」

ゼンリン東京本社の受付ロビーのフロアには、同社の実際の緯度と経度が記されている

国は、2018年には離島・山間部での宅配ドローンの運用を目指しているが、「ドローンハイウェイ構想」の実現で、未来の社会はどのように変わっていくのだろう。
 
「誘導ナビゲーションのシステムがさらに進化すると思います。ふと空を見上げたら、あちこちでドローンが飛び交う風景が当たり前になるかもしれません。電柱が灯台のような道しるべとなって複雑な路地裏も分かりやすくなったり、ネットショッピングで超特急便を選択すると荷物がドローンで届いたり。まさに映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』さながらの世界が目の前に広がると想像したら、夢が膨らみますね」
 
地上だけでなく、空の地図への取り組みにますます力を入れているゼンリン。

「2020年の東京オリンピックに向けて、観光・インバウンドビジネスを強化していきます。増加傾向の訪日外国人へ向け、日・英・韓・中・タイ語の5言語に対応した全国地図API(Application Programming Interfaceの略)を駅や空港、ホテルなどに設置したデジタルサイネージ(電子看板)で提供。街やお店の観光情報、電車のルート案内や乗り換え情報をはじめとしたサービスは、案内業務に従事する方々にとても好評です」

地図創りが担う未来は、環境にも優しい

地図は、実はエネルギー分野にも貢献度が高い。

「エネルギーと直接関係なさそうに思えますが、例えばカーナビを利用することによって最短ルートで目的地へ行けるためCO2削減につながります。車の自動運転化が進むことも、またしかり。さらに太陽光発電を導入するときに、熱効率の良い場所をドローンで調査・発掘することもできるようになるのではないでしょうか。つまり通常だと100%の労力を必要とするところ、60%くらいで抑えられるわけです」
 
アメリカ映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が描く2015年は、SF要素が色濃く反映されていた。作品に登場した大型テレビやタブレット型コンピュータなどは現在普及しているが、“空飛ぶもの”は残念ながら実用化には至っていない。そう考えると、まさに映画のワンシーンのような景色を、先駆けて具現化してくれるのが「ドローンハイウェイ構想」ではないだろうか。

災害地域や救急医療の現場への緊急物資の送付や、子供を見守る警備システムなど幅広い応用力に期待する声も多数寄せられている。空の産業革命と呼ばれる一大プロジェクトが実を結ぶ日も近い。

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