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“洗剤レス”の次は“排水レス”のコインランドリー。水問題に取り組み続けるwash-plusの挑戦

株式会社wash-plus 代表取締役 高梨健太郎【後編】

洗剤を使わずに汚れを落とす、人にも地球にも優しいコインランドリーとして誕生した「wash+(ウォッシュプラス)」。独自のアルカリイオン電解水を用いた洗濯技術は、アトピーの他、化学物質過敏症のユーザーからも喜ばれており、節水や水質汚染対策にも貢献している。同社代表の高梨健太郎氏は、専用アプリを開発することでコインランドリーの利便性を高めることにも注力してきた。また、店内に設置できるろ過装置を開発して排水レスを実現することも目指している。業界の先駆者が巻き起こしてきた革命と“次の一手”に迫る。

アナログだったコインランドリーをIoT化

株式会社wash-plusは2013年、洗剤を使わずアルカリイオン電解水のみで汚れを落とすコインランドリー「wash+」1号店を千葉県浦安市にオープンした。

その後、店舗数が増えていくと、同社代表の高梨健太郎氏はサービス向上と洗濯乾燥機の多機能化のためにIoT化が不可欠であると考える。

「コインランドリーは自動販売機を置くような感覚で設置されて、24時間開いているところが多いのですが、実際の稼働率は全国平均で1割以下。とても低い利用率で推移していたので、明らかに改善の余地があります。時間帯によって利用料を変えることで状況を打開できるのではないかと思い付きました」

同社代表取締役の高梨氏

柔軟なサービスを実現するためには決済をデジタル化することが必要だと考え、スマートフォンの専用アプリを介することを決断。“洗剤レス”と同様にコインランドリー業界では前例のないプランだったが、「wash+」を立ち上げる際に洗濯乾燥機を共同開発した株式会社山本製作所の協力を得ることができた。

「アプリの開発を手掛けたことのない私が『作らせてくれ!』と言いに来たわけですから、先方は非常に戸惑ったと思います(笑)。でも、4時間かけて社長を説得して合意を得ることができて、2年に及ぶ共同開発を経て、2017年にクラウド型IoTコインランドリーシステムである『スマートランドリー』を発表しました。現時点で全国300店舗以上のコインランドリーに本システムが導入されていて、アプリのユーザーは30万人を超えました」

「スマートランドリー」を使うと、利用者はコース選択から決済まで全て自分のスマホで操作が可能になる。キャッシュレス決済に対応するため、店舗側は両替機が要らなくなり、釣り銭補充や売上金回収の負担が軽減する。

「コインランドリーの悩みの一つに、両替機盗難のターゲットにされやすいことがあります。当社もこれまで4回も被害に遭いましたが、キャッシュレス化を進めることで防犯にもつながります。また、アプリを介してお客さまが洗濯機の利用中にロックをかけられる機能を設けたことで、下着泥棒に狙われるリスクも減らすことができます。“洗剤レス”で洗い上げることだけではなく、お客さまの利便性を高めることで『どんな人でも安心して使えるコインランドリーを作りたい』という設立当初の目標に一段と近づけるのではないかと考えました」

スマートフォンアプリ「スマートランドリー」を使えば、ワンタッチで洗濯機のドアにロックをかけることができる。ガラス窓を半透明にして洗濯中の衣類を見えにくくするブラインド機能もある

画像提供:株式会社wash-plus

柔軟な料金システムで政府の節電要請にも対応

「スマートランドリー」を導入するメリットはコインランドリーのオーナー側にも多く、利用頻度によるステータス機能を導入することでリピーターを増やすことにもつながった。

「好評なのは、洗濯物を早く回収したお客さまにポイントが付与される機能です。洗濯が終わって3分以内に洗濯物を回収した人にはステータスをランクアップするポイントを2倍にしたところ、放置時間が飛躍的に圧縮されました。放置時間の問題が改善されると、お客さまの待ち時間を軽減することにもつながるため、『スマートランドリー』はお客さま・オーナー双方の時短・効率化をかなえます」

「wash+」のIoT化した洗濯乾燥機はタッチパネルディスプレーで操作する。ボタンがないこともあり、操作メニューや機能の追加修正の際には、機械本体を替えずにシステムを遠隔操作し、データのバージョンアップのみで作業が完了する

また、IoT化を進めることで、1円単位で値引きができるようになり、政府の節電要請にも柔軟に対応できるようになった。

「過去の売り上げや天候など、さまざまなデータを分析し料金を変動させる『ダイナミックプライシング』システムを導入しました。お客さまが多い時間は料金を高めに、少ない時間は低めにすることで、オーナー側は繁忙期と閑散期を平均化することができます。一方、お客さまはリアルタイムで料金をチェックしながら自分の意思でサービスを受けるタイミングを決めることができます。2022年の夏に政府から節電要請を受けた際には、電力があまり使われない夜間の料金を30%以上値引きしました。 結果的に約7%のお客さまが夜の洗濯にシフトしてくれ、使用人数も増えて増益につながりました。今後も政府の要請があるなら協力したいですし、ダイナミックプライシングをもっとたsくさんの方に使っていただき、ピークシフトを実施していきたいですね」

“洗剤レス”だからこそ“排水レス”も可能に

株式会社wash-plusは、東日本大震災の際に創業の地である千葉県浦安市が断水被害に遭ったことを機に事業を立ち上げて以来、水問題へのアプローチも積極的に行ってきた。2022年には、従来の“洗剤レス”に加えて、特殊装置で水をろ過・循環させる“排水レス”店舗の実証実験を開始。ろ過が難しい洗剤を使わないからこそ挑戦できるプロジェクトだ。

排水レス実証店舗の様子。すすぎで使われた水がパイプを通ってろ過され、洗浄を担うアルカリイオン電解水として再び使用される

画像提供:株式会社wash-plus

「東日本大震災のときに、浦安市で起きた液状化によって上下水道が約1カ月間使えなくなったことがあります。その経験が排水レスの取り組みを始めるきっっかけになりました。この仕組みが確立すれば、上下水道に依存した洗濯をしないことで1カ月程度は洗濯可能になるため、災害・断水時の地域サポートも可能です。また、水資源が乏しい地域・国への展開や、洗濯時に発生するマイクロプラスチックによる海洋汚染など、より広い視点での環境問題への貢献が図れると考えています。実験を進めて早急に精度を上げていきたいです」

「洗剤を使わないコインランドリー事業」を切り口とした水問題に関する取り組みが評価され、株式会社wash-plusは「第2回SDGsジャパンスカラシップ岩佐賞」環境の部を受賞

工業用イオン水メーカー、スマホアプリの開発会社、ろ過機器メーカーなど、同社は新しいプロジェクトを立ち上げるたびに異業種の企業と協業を行ってきた。

「現在は家庭用の洗剤レス・排水レス循環式洗濯機の開発にも着手しています。世界中にインパクトを与えられる可能性があると確信しています」

圧倒的な情熱と行動力でコインランドリー業界に革命を起こしてきた高梨氏。10年前の創業当初は“異端児”だったが、今やSDGsビジネスの“先駆者”として注目を集めている。今後の動向からも目が離せない存在だ。

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