
2026.9.16
深海に沈む大量のプラスチック。JAMSTECが明らかにする海洋汚染の実態
国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)物質地球科学研究部門 主任研究員 中嶋亮太【前編】
プラスチックごみによる海洋汚染が深刻度を増している。大量のごみが漂着する海岸や、海に浮かぶごみへの絡まりや誤食による海洋生物の死亡。さらにプラスチックに含まれる有害化学物質の食物連鎖を通じた生物濃縮など、海洋プラスチック問題は多方向からの問題をはらんでいる。海洋プラスチックがもたらすさまざまな環境へのリスクとその現状について、国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)で深海の生態系やプラスチック汚染について調査・研究している中嶋亮太主任研究員に話を聞いた。
この記事のポイント
- プラスチックは分解されにくく、海洋全体に蓄積している
- 海洋生物や生態系への影響が深刻
- 海に流出させないための対策が最も重要
サンゴがプラスチックを食べる!?
私たちの生活と切っても切れないプラスチックだが、自然界での分解は極めて遅く、環境中にごみとして排出されるとどんどん蓄積していく。土に埋めても分解されない。太陽の光にさらされると劣化して細かくなり、大量のマイクロプラスチックが発生する。
中嶋氏は幼少時から水生生物に親しみ、サンゴをはじめとする海洋生態系の研究や深海の環境汚染について調査してきた。
「小学生のころに近所の人から水槽などを譲り受け、タナゴなどを飼い始めました。やがて熱帯魚にも興味がわき、自宅には水槽がどんどん増えて…。家に帰れば、クラスで話題のテレビ番組も観ずに水槽ばかり眺めていました(笑)。中学生になると大学の教授へ個人的にコンタクトを取り、海洋環境に関する研究を志すようになりました」

-
有人潜水調査船「しんかい6500」で調査に向かう中嶋氏
画像提供:中嶋亮太 撮影:N.Isobe
大学に進んでからはダイビングも始めた。サンゴ礁の研究で博士号も取得した。そうした調査・研究の日々で気に掛かったのが、海に漂うプラスチックごみだった。
「サンゴ礁の研究でいろんな海に潜りましたが、2010年ごろに東南アジアの海を訪れたときに『やけにごみが多いな』と気が付きました。 しばらくして、5mm以下のプラスチック、いわゆるマイクロプラスチックの存在が広く知られるようになり『サンゴがマイクロプラスチックを食べている』という衝撃的な論文も読みました」
プラスチックを摂取することで本来とるべき栄養が摂取できず、サンゴの健康に影響を及ぼすという。サンゴ礁は非常に豊かな生物のすみかとなっており、こうした生き物の生命も脅かされる結果を招く。さらに大気中の二酸化炭素(CO2)の増加は海の酸性化を招き、サンゴの骨格を脆くするため、サンゴ礁生態系の劣化を加速させる。これをきっかけに、中嶋氏は海洋プラスチックへの対策を急ぐ必要に気が付いたという。
海全体に広がる海洋プラスチック
サンゴ礁の研究に取り組んできた中嶋氏は、現在、外洋や深海をフィールドとした研究を行っている。
「きっかけは、JAMSTECで深海の生態系について研究するポストドクター(博士研究員)の募集があったことです。浅くて明るく暖かいサンゴ礁の研究ばかりしていましたが、深くて暗く冷たい深海の生態系にも関心がありました。深海は浅い海に比べて未解明の部分がまだまだ多く、サンゴ礁の研究で培ったノウハウを生かして深海生態系の保全研究に携わるようになりました」

-
自然分解されず増え続ける海洋プラスチック
画像提供:国立研究開発法人 海洋研究開発機構
深海の生物多様性や保全に関する研究などを進めてきた中嶋氏だが、現在、彼が全力で取り組んでいるのが深海における海洋プラスチック汚染の調査だ。
「日本周辺の海は特にプラスチック汚染が進んでいる海域です。東南アジア諸国や大陸から出たごみが海流に乗って日本近海へ流れ込むからです。日本近海の海表面に浮かぶマイクロプラスチックの数は世界平均の約30倍と言われます。これまでに黒潮直下の海底や日本海、さまざまな海溝など、プラスチックの蓄積が予測される海域で調査を進めてきました。ごみを大量に運んでくる黒潮の直下海底で見つかるマイクロプラスチックの数は世界トップクラスに高く、日本近海はプラスチック汚染の将来を予測する上で最適な環境というわけです」
海洋プラスチックが増え続ける現状
海に漂流しているプラスチックの採取や分析、深海生物の体に蓄積している化学物質の調査を通して、海洋プラスチックを起因としたさまざまな問題が見えてきている。

-
深海を調査する「しんかい6500」
画像提供:国立研究開発法人 海洋研究開発機構
「海面からの水深1万メートル付近までのさまざま水深帯で調査されたマイクロプラスチックの分布を調べましたが、どの水深にもまんべんなく浮遊している状態です。生物の排せつ物や死骸といった自然の有機物は『マリンスノー』となって海底へと沈み、深海生物の栄養源となっていますが、ここにマイクロプラスチックが混じってしまうとサンゴと同様栄養不足に陥り、生物の命を脅かすことになります」
海岸に打ち上がった、または海面を漂っているプラスチックは太陽光の紫外線や熱によって劣化し、バラバラのマイクロプラスチックとなる。一方、深海では光が届かないため、ほとんど劣化しない。中嶋氏は深海の調査の際に、1973(昭和48)年に製造されたパウチ食品のパッケージフィルムを採取したこともあるという。
「2050年には、海洋プラスチックがその重量で世界中の海の魚の重量と比較できるほどに多くなるという予測もでました。海洋生物の体内にももちろんプラスチックが蓄積しますし、やがて私たちもそれを目の当たりにすることになり、私たちの食卓にも影響が出るかもしれません」
環境中で自然へと返る生分解性プラスチックも注目を浴びているが、これらの分解には適切な温度や分解を行う特定の微生物といった条件が必要だ。
「海洋は陸上と環境が違うので、生分解性プラスチックでも分解できないものが多い。流出してしまったら最後、というのが今の現実です。海でも分解する素材はありますが、全てをその素材に代替するのはコスト面からも現実的ではありません」
既に流出してしまったプラスチックを回収するのは難しい。
私たちにできることは、これから排出するごみをできるだけ海へ出さないこと、それでも防ぎきれないものを代替素材へと切り替えることだという。
JAMSTECはこうした具体的なアクションを提言するための研究開発を行っている。
後編では、中嶋氏らが開発したマイクロプラスチックの分析装置と、プラスチックごみをめぐるこれからの世界の動きについて聞く。
<2026年9月17日(木)配信の【後編】に続く>
中嶋氏が開発に携わった分析装置の機能とその効果に迫る

-
この記事が気に入ったら
いいね!しよう -
Twitterでフォローしよう
Follow @emira_edit
text:藤堂真衣 edit:大場 徹(サンクレイオ翼)













