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“トマト尽くし”のテーマパークが農業の未来を切り開く!

株式会社ワンダーファーム 代表取締役 元木 寛

サッカーコート3.5面分もある広大なハウスでトマトの収穫体験ができて、隣接するビュッフェには数十種類のトマト料理がズラリ! 2016年5月のグランドオープン以来、福島県いわき市を代表する話題の施設として注目を集めている「ワンダーファーム」。トマト生産におけるトップランナーでありながら、人一倍の情熱で地域の農業活性化にも奔走する元木寛代表に話を伺った。

地域全体が潤ってこそ、農業を活性化できる!

JR常磐線四ツ倉駅から、車で約15分。

里山に隣接する「ワンダーファーム」は、トマト栽培用の最先端ハウスやトマトジュースを作る加工工場などを併設する、“トマト尽くし”のテーマパークだ。

敷地は約5ha。芝生の広場にはドッグランも備えている

施設のコンセプトは、「五感を耕す。食と農の体験ファーム」。代表を務める元木寛氏に、誕生の経緯を振り返ってもらった。

「農業には景観や自然を楽しませてくれる側面もあるので、私も一般の人に農業を体験してもらえるような場所をつくりたいと思っていたんです。一方で、昨今の農業における重要なキーワードになっている『六次化産業』(生産から加工、販売まで手掛ける)にも取り組めるような複合的な施設を目指しました」

もともとJR東日本の技術職だった元木さんは、2003年に義父のトマト農家を継ぐことになった

構想の実現に向けて動きだすきっかけとなったのは東日本大震災だ。以来、福島の農家は風評被害に悩まされることとなり、後継者不足に拍車がかかった。

「私たちも売り上げが1億円ほど落ちて、事業継続を断念しかけた時期もありました。震災被害の修理に巨額の資金を投じて、従業員の雇用を守り切るのが大変でしたね。実際に震災の影響で福島県内の農家は3割減ったとも言われており、危機的な状況を改善するためにもワンダーファームを設立したんです」

長年手付かずだった耕作放棄地に目を付けた元木さんは、自ら60人以上の関係者の元へ足を運んで同意を得たという。「自分だけの利益ではなく、地域の農家全員に利益の出るような仕組みを作りたい」という思いで、およそ1年をかけてようやく“場所”を手に入れることができた。

「農業活性化、農業を改善することが当社の根本にある理念です。ビュッフェ式レストランで使う野菜も、自社生産したものだけでなく、近隣農家からも積極的に仕入れています。地域全体が潤うことが大切だと思っています」

ビュッフェ式のレストラン「森のキッチン」

ビュッフェ形式で、毎日約30種の料理を用意している。料金は、ランチ大人1500円、子供(小学2~6年生)800円。ディナーは大人2300円、子供1100円

石窯で焼いたピザやトマトカレーが人気メニュー

直売所では、トマトジュースやジャム、ピューレなど、こだわりの加工品をラインアップ。

以前は福島県外の業者に生産を委託していたが、自分たちが納得できる商品を作るためにワンダーファームの敷地内に加工場を併設。昨年4月から、内製化に踏み切ったという。

採れたての野菜や加工品を販売する「森のマルシェ」

目玉商品は食塩不使用のトマトジュース。生食用のトマトを使い、素材本来の甘味と酸味や、濃厚ながらフレッシュな飲み口が特徴。ネットショップでも購入可能

トマトを使ったジュースやピューレなどの加工品は、敷地内の「森のあぐり工房」で生産している

若手の採用や子供の“農育”にも尽力!

肝心のトマト生産は、敷地面積2.5haのハウスで行われている。約4万本の苗木が整然と並ぶ景色は圧巻! さらに、普通のハウスとの最大の違いは、足元に土がないことだ。

「スリランカ産のヤシ殻に植えた苗木に、養分を含んだ溶液を与える『養液栽培』という方法を採用しています。オランダ発祥の技術に独自の改良を加えました。ハウス内の温度や湿度、日射量から二酸化炭素濃度まであらゆる環境の制御をコンピューターで一元管理しています。トマトの生育状態にベストな気温や養分量でコントロールするため、計画的に生産することが可能です」

2棟あるハウスでは、トマトの収穫体験ができる

フルーツトマトやミニトマトなど、11種類のトマトを栽培している

長台に、養分を供給する「スラブ」という箱が等間隔に並んでいる

年間日照時間が長く、一日の平均気温が高い温暖ないわき市はトマト栽培に適している。その土地を生かし、さらに高品質でおいしいトマトを効率良く育てるために最新の技術を導入しているのだ。

一方で、風のない環境でも自然に受粉が進むように、ハウス内には蜂の巣箱が点在している。人工授粉作業に必要な人件費の削減になるだけでなく、蜂を殺すほどの農薬は使えないためトマトの安全性も担保できる。

最先端の機器と、人間が長年培ってきた知恵も組み合わて栽培していることがこだわりだ。

マルハナバチ(ミツバチ科)が受粉を担うことで、季節を問わず一年を通して栽培することができる

「震災をきっかけに、栽培システムを見直したおかげで、トマトの栽培は順調です。生産力も上がり、味も良くなりました。季節ものの農産物と違って、トマトは年間を通して出荷できるのが強みで、収穫量は1日平均2トンです。現在は収穫の半分を市場に出荷しており、ことしから紀ノ国屋さんなど都内のスーパーでも扱われるようになりました」

トマトの流通が広がっているのは、トマト自体のおいしさはもちろん、安全性の高さが認知されてきたからだ。そもそも震災後のいわき市の空間線量は決して高くない。また、地場の土を使わない養液栽培なら消費者の不安はないように思える。

「福島県では、県のモニタリングとJAの検査を行っているので、農産物は二重に放射能検査を受けています。その検査に加えて、私たちは民間の検査も行っています。つまり三重もの検査を経て市場に出荷されるため、世界一安全が保証されていると思っています。バイヤーやスーパー経営者の反応はまちまちですが、今後も安全性をアピールしていきたいですね」

収穫したトマトは放射能検査を受けてから市場に出荷される

また、従業員に若手が多いこともワンダーファームの特徴だ。

「若い人が“農業関連の仕事がしたい”と思えるような環境を整えたいですし、弊社は若い人を積極的に採用するように心掛けています。弊社は週休2日制を取り入れており、一日の労働時間を定めています。いわき市は若者の流出が多いので、『農業は労働条件が悪い』という偏見を改善することで、次世代の若手をいわき市に定着させたいですね」

収穫されたトマトの出荷準備を行うスタッフは約30人ほど。全体では50人にものぼる

ワンダーファームの来場者は、オープンから1年で20万人。「食べて、見て、触れて」農業の魅力を感じてもらう狙いは、浸透しつつある。今後は里山にハイキングコースを造るなど、周辺の整備を続けるという。

「里山や周辺の森林整備が目的です。人の手を入れて環境を保全することも、農業の大きな使命だと思っています。この辺りではマツタケが採れますし、夏にはホタルを見ることもできるんです。豊かな自然に恵まれた場所なので、もっとたくさんの方に楽しんでいただきたいですね。ワンダーファームで農業に触れることで、子供たちに日本人が培ってきた知恵や精神論を伝えていきたいですね」

抗酸化作用が強いリコピンを豊富に含むトマトを誰よりも食べているからか、元木さんの表情は生き生きとしていた。その視線は、日本の農業の未来にも向けられている。

関連する「アグリパークいわき」の農場には、追尾型太陽光発電システムを75基(合計412.5kW)、固定型の太陽光発電システムを2480枚(合計558kW)を設置。下の空間では影の影響を受けにくいイチジクを栽培している

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