未来シティ予想図

SFが現実に!? 最先端技術×アート展覧会で体感する近未来ライフスタイル

森美術館で未来を考える『未来と芸術展』が開幕

あれよあれよという間に始まった令和の時代も間もなく2年目に突入。AI(人工知能)やバイオ技術などの発達によって、現代人の生活は“待ったなしのスピード”で未来へと突き進んでいる。衣食住、全てにおいて革新的な変化が起きようとしている中で、われわれはどう生きるのか──。六本木の森美術館で開催中の『未来と芸術展』には、新時代の行く末を示すヒントがたくさん詰まっている。

海に浮かぶ街も! 最先端の都市計画や都市像を紹介

「医学と芸術展」(2009─10年)や「宇宙と芸術展」(2016─17年)など、森美術館はこれまでも現代美術と歴史的・科学的資料を組み合わせたユニークなテーマ展を企画してきた。

今回は、その領域をさらに拡げた『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命──人は明日どう生きるのか』を開催中。現代美術のみならず、都市論や建築、バイオ技術から映画、漫画まで、異色の作品やプロジェクトを100点以上紹介している。

本展覧会の企画意図について、森美術館館長の南條史生氏に話を聞いた。

「このままAIやロボット技術が進化を続けると、私たち人間は労働から解放され、自由を謳歌(おうか)するバラ色の未来が待っているかもしれません。一方で、それらのテクノロジーが人間の脳を超える“シンギュラリティ(AIが発達し、人間の知性を超えることで人間の生活に大きな変化が起こるという概念)”に到達して、人間が支配される未来像を提示する言説も存在します。われわれは、どんな倫理観を持って最先端のテクノロジーと向き合うべきなのか? AIに限らず、その判断を誤ると、人間にとって非常に悲劇的な未来が待っているかもしれません。今回は、そんなことを考えるきっかけとなるような展覧会を企画しました」

2006年に森美術館館長に着任した南條史生氏。一つの主題を掘り下げた「医学と芸術展」や「宇宙と芸術展」をはじめ、都市や建築の新旧を展示する「メタボリズムの未来都市展」や「建築の日本展」など、独自の展覧会を開催してきた。2016年には日本のアートシーンの国際化に貢献したことが評価されてフランスの芸術文化勲章「オフィシエ」を受章。2019年12月末日をもって館長を退任することを発表した

会場は5つのセクションに分かれている。最初に待ち受けるセクション1「都市の新たな可能性」では最先端の都市計画をはじめ、アーティストや建築家が描くユニークな写真や映像、模型などを展示。

例えば、デンマークの設計事務所「ビャルケ・インゲルス・グループ」は、六角形のユニットをつなぎ合わせることで海上に浮かぶ街をデザイン。地球温暖化による海面上昇のリスクに対応するアイデアだ。

ブロック1つで最大300人の居住者を収容し、6つのブロックが集まって1つの街を構成。さらに6つの街がつながって六角形のユニットを形成し、最大1万人の住民を収容する都市住宅がかたち作られる

ビャルケ・インゲルス・グループ『オーシャニクス・シティ』2019年

他にも環境を汚染する排出物を出さないエコシティや、自然と融合した都市など、SF映画に出てきそうな都市が提示されている。これらの背景にあるのは、1960年前後に黒川紀章や菊竹清訓(きくたけ きよのり)といった日本の若手建築家が構想した“メタボリズム”という建築運動(理論)だという。

「メタボリズムは『新陳代謝』という意味で、生命が成長や変化を繰り返すように、建築や都市も有機的にデザインされて生き延びていく生命体のようなものであるという考え方です。植物のように増えたり減ったり、中空にそびえていたり、当時の彼らは世界に向けてセンセーショナルな都市像を投げかけていました。それが技術の発達によって、今では環境に負荷をかけずに、持続可能な、本当の意味でのメタボリズム都市が実現可能になってきているのです」

戦後、若き建築家によって描かれた未来都市は、もはや夢物語ではない。未来は、すでに現実として始まっているのだ。

技術革新で本当の「メタボリズム建築」が実現!?

このような現代の建築家による先進的な構想を支えているのが、建材やテクノロジーの進化だ。環境に優しい植物由来などの有機的な素材が開発されたり、3Dプリンターやドローン技術、ロボット工学を駆使した新しい工法が用いられたり、あらゆるイノベーションが起きている。

セクション2「ネオ・メタボリズム建築へ」では、そんな建築業界の最新の動向が紹介されている。特にシンボリックなのは、シンガポールの中心部に立つ『オアシア・ホテル・ダウンタウン』。“サステイナブル・デザイン”を掲げ、建物の内部と屋上に植生を施しているだけでなく、外壁にはつる状の植物をはわせている。植物の成長に伴ってどんどん姿が変わり、いずれは緑に覆われた高層建築が実現するという。

植物と建築の両方が楽しめる『オアシア・ホテル・ダウンタウン』

WOHA《オアシア・ホテル・ダウンタウン》2016年 撮影:Patrick Bingham-Hall

「建築の技法が進化したことによって、2000年代には不可能だと言われていた緑地の立体化が進んでいるのです。一方で、素材もどんどん変わってきています。例えば、今回は微細藻類のユーグレナを応用することで、エネルギーを使わずに温度をコントロールできるような外壁を作った作品も展示しています。キノコから作ったブロックなど、将来的に自然に戻る素材を開発しているデザイングループもいますよ」

3Dプリントで出力したブロックに微細藻類を埋め込んだ、サンゴの形をした彫刻。コンピューターによって最も効率よく光合成を行えるように、微細藻類を造形物内に埋め込むことで酸素が生成されている

エコ・ロジック・スタジオ《H.O.R.T.U.S.XL アスタキサンチン g》2019年 ©NAARO

ロボット工学とバイオ技術を使うことで、自然と共存できる新時代にふさわしい新しい『庭』を作ることができるようになるかもしれない。

また、「ネオ・メタボリズム建築へ」のセクションでは、ロボットによる橋の自動構築を目指すプロジェクトなども紹介されている。ロボットと協働することによって、人間だけでは作れないデザインの建築も実現可能になるのだ。

テクノロジーは衣食住に大きな影響を与える

技術の革新は、衣食住といったわれわれのライフスタイルにも確実に影響をもたらしている。

展覧会は、セクション3「ライフスタイルとデザインの革新」、セクション4「身体の拡張と倫理」、セクション5「変容する社会と人間」と続き、幅広いジャンルにおける最先端のテクノロジーやプロダクトに着目している。

人間の神経系や肺といった体内(インターナル:内部)からインスピレーションを得て作られたドレスのコレクション。制作には3Dデジタル環境が使われている

エイミー・カール 《インターナル・コレクション》2016-2017年

ゴッホが切り落とした左耳をその末えいから採取したDNAによって再現した作品

ディムート・シュトレーベ《シュガーベイブ》2014年-

出品作品の中には、すでに実現しているものもあれば、無謀に見えるようなものもある。凝り固まった脳をほぐしながら未来を想像する、思考実験の場を提供しているのだ。

「『アート&ライフ』をモットーに、生活の中にあらゆる場所でアートを楽しむことができる豊かな社会の実現」を目指し、森美術館はこうした独自の展覧会を定期的に開催している。

「大量生産で経済成長してきた日本が、大国に負けないためには新たな価値を“創造”していかなければなりません。そのためには、東京に世界中のクリエイティブな人が集まる状態を作るべきだと思っています。都市計画、テクノロジー系、それからアート系の人たちが一堂に会して一緒に議論するような場を作り、それを継続していければ、東京という街がクリエイティブな街に見えてくるのではないかと。今回の企画展も、そんな発想でスタートしています」

もはや美術館は所蔵品を所蔵・公開するだけの場所ではなくなっている。過去ではなく、未来を見据えるためのプラットホームとして進化してきているのだ。

「近年の美術館は教育の場であり、実験の場でもあり、コミュニティにいる人たちがクリエイティブになるための場を提供する役割もあると思っています。将来的には、ラボが常備されていて、クリエイターと一緒にものづくりもできる場所になっているかもしれません。美術品自体も、じっと鑑賞するものではなくて、体験するものに変わっていくかもしれません。まだまだ、美術館にやれることは多いと思っています」

最先端技術の先にある未来は決して明るいものとは限らない。

テクノロジーを生かすも殺すも人間次第だ。

技術と人間が共生する未来社会を形作っていく上で、あらためて人間のクリエイティブな思考が試されているのかもしれない。

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