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死んだ神経まで生き返る!? 歯と全身の相関性が持つ再生医療への可能性

歯を健康に保つことであらゆる病気にかかりにくくなる

本特集のテーマである「人体に備わる健康維持のための仕組み」というと、まず「自然治癒力」という言葉が浮かぶ人も少なくないだろう。2018年末、まさにそのキーワードで話題になったのが、歯科医師・小峰一雄氏の著書『自然治癒力が上がる食事』(ユサブル社刊)。「歯の健康維持と食事の見直し」が多くの病気を防ぐというが、その根拠は何か。さらに今、先端医療の現場でも注目されているという歯に秘められた機能。その可能性について、小峰氏に話を聞いた。

歯は削っても抜いてもいけない!

老若男女、誰しもが悩む健康問題の一つに「虫歯」がある。予防する衛生用品や補助食品は数あれど、現実問題、「虫歯になったことがない」という人は少数派ではないだろうか。いざ虫歯になってしまえば、歯を削ったり、神経を抜いたりと、痛々しい治療の日々……。病院に通うのがついおっくうになり、病状が悪化してしまったという人も少なくないはずだ。

そんな虫歯治療の常識を覆す治療法を実践しているのが、歯科医師・小峰一雄氏だ。虫歯になった箇所を削らず、ドッグベスト療法という薬品治療と、糖質制限など食生活の指導により、人間が本来持つ治癒力で自然に治すことを重視しているという。そして、虫歯の真の問題は、歯だけではなく、肉体や臓器、つまり全身の健康状態に直結しているということなのだ。

「歯を治療する過程、また海外の研究結果を調査した中で、『削る行為』が体全体や臓器を傷めているという相関性に気付くことになりました。実際、米国やドイツでは歯と臓器の相関性の研究がかなり進んでいるのですが、日本ではまだ、ほとんど問題視されていません。そのため、『虫歯は削ったり抜いたりするもの』という先入観や治療法が根強く残っているのです。歯、ひいては体や臓器全体の健康を守るためには人体に備わる治癒力を高める必要があり、その重要な要素として食事に着目したのです」

小峰氏によれば、例えば、下あごの犬歯や小臼歯(しょうきゅうし)を抜髄(神経を抜く)か抜歯した人は、生殖器の病気を患うことが多いという。データ上、その確率はなんと、およそ90%。特に小臼歯は矯正のために抜歯することが多い歯であり、矯正経験のある女性患者の多くに、子宮筋腫、生理痛、卵巣腫瘍、子宮がんなどが見られるケースがあるそうだ。

また、上あごの前歯は腎臓と関わりが深いというデータがあり、抜髄・抜歯した人には急性腎炎など腎臓疾患が多い傾向があるのだという。

歯と臓器の相関性を表した図。小臼歯は上下顎にある4番と5番だ

参照:小峰一雄『自然治癒力が上がる食事』(ユサブル社刊.2018年.)65pより引用

「痛くなったら抜くのが当たり前とされている『親知らず』は、全ての臓器に関係しているというデータもあります。そのため、治療には厳重な注意が必要だと私は考えています。まだ確固としたデータはないのですが、リウマチ患者も歯の健康に問題がある可能性があります。実は、多くの歯科医師が歯の治療をした結果、患者のリウマチ症状が改善したという経験をしています。それら、歯と健康の関連性は今後、どんどん解き明かされていくはずで、虫歯の治療法も体全体への影響を考慮して見直されていくべきだというのが私の立場です」

歯を削り、抜くことは臓器に悪影響を与える。一方で、虫歯は食事や生活習慣などを通じて自己治癒力を高めることで自然に治る。虫歯が自然に治るのであれば、臓器を傷めずとも済む。問題は、そのための自己治癒力の高め方なのだ。

そのため、小峰氏は細胞レベルで人体を活性化=健康にしていく方法について研究・実践しているのだが、「医食同源」という言葉もあるように、普段の食事の質や量が非常に大事になってくるという。

歯を治すことが全身を健康に保つ

歯と臓器の相関関係に気付いた小峰氏は、「そもそも、歯や臓器を含む人間の身体は、電気エネルギーをうまく発生・循環させることで健康な活動を維持しているという見方ができる」と続ける。

「人間の細胞の一つ一つは、ミネラルや、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどをバランスよく移動させることで電気エネルギーを生み、それらが身体全体の活動や健康を維持しています。これを『膜電位』というのですが、これらイオンの量のバランスが崩れてしまうと、栄養が細胞の外に流れ出てうまく機能しなくなる。そのため、私の治療法のアプローチは、そうした細胞一つ一つの栄養バランスを整えて歯を治そうというものなんです。結果、歯だけでなく、体全体の健康にも好影響をもたらすものだと考えています」

人体の“発電所”とも言える、膜電位の仕組み。ナトリウムイオンとカリウムイオンは、その量の多さよりも各イオン同士の量の比率が大事だという

参照:源気商会HPより引用

口から摂取される食物によって、細胞内のミネラルやイオンの量は大きく変化してくると小峰氏は指摘する。例えば、塩分からナトリウムを多く摂取し過ぎると細胞がうまく機能しなくなる。一方、そうして過剰摂取となったナトリウムを調整するのがカリウムだ。カリウムは不足しがちだが、野菜や果物で補うことができる。小峰氏は患者の食事の診断を行いながら、歯や体全体の細胞を活性化させる方向で治療を行う。言い換えれば、細胞のエネルギー伝導率をいかに高めるかが、治療の焦点なのだ。

「虫歯に限らず、人間が持つ自己治癒力で病状を治すというアプローチは、さまざまな現場の医師によって実践され始めています。中には、食事療法を通じてがんを効果的に治すという実績を積み上げている医師もいるのです。

そもそも、既に社会的に確立されていると考えられている医療のカタチが全て正しいと信じてしまうのは、必ずしも正解ではなく、とてもリスクが高いこと。

細胞レベルの研究や、人間の体の部位同士のつながり、また食事との関係性など新しい医療的成果は、最先端医療の現場で確かなデータと共に日々発見され続けています。私は歯科医師ではありますが、それら事例も積極的に検証・導入することで、人の健康全体を守っていきたいと考えています」

歯の幹細胞が日本の医療を変える?

この“新しい医療的成果”について、歯科業界では今、歯が持つあるシステムの発見に注目が集まっている。

「全身にくまなく血液が循環して栄養を運ぶように、歯の中の隅々までミネラルなどの栄養や免疫物質を行き渡らせる液体があります。まだ一般にはあまり認知されていませんが、『DFT(Dentinal Fluid Transport;象牙質内の体液移送システム)』と呼ばれていて、これによって虫歯や歯の黄ばみも防ぐことができているのです。一方で、このDFTは糖分やストレス、運動・ビタミン不足、薬の過剰摂取などをきっかけに逆流してしまうことがあり、歯を内側から虫歯にさせてしまう原因にもなっています」

小峰氏によれば、歯の中にはDFTのための毛細血管のような管が通っているという。その総延長は、下の前歯1本だけで実に4.8km! 奥歯のような大きな歯になればその倍以上にもなるそう

実は今、DFTや歯の神経の最外層にある象牙芽細胞(ぞうげがさいぼう)には、体全体の広範な治療に用いることができる幹細胞(自己複製とさまざまな細胞に分化する能力を持つ特殊な細胞)を効率良く生成する機能も認められてきているという。これまで幹細胞は脂肪細胞などから抽出することが多かったが、「歯の細胞から抽出する方が簡単で、効率が良い」ため、再生医療に携わる医療関係者も、その役割に着目し始めているそうだ。

「日本では、虫歯がひどくなると神経を抜いてしまうことがありますが、その神経や細胞には患者自身を他の病気から救うための大きな可能性が秘められていることが、最新の研究成果として徐々に分かってきています。私が虫歯を削ったり、神経を抜いたりしない治療法を研究・実践する理由は、それら新しい医療との掛け合わせによって、人々の健康を守るより良い方法が生まれると信じて疑わないからです」

虫歯の問題は多くの人にとって共通の悩みだ。ただ小峰氏の話を聞く限り、虫歯をきっかけに自分の食生活などを見直し適切な治療を行えば、全身、また将来の病気の治療に対しても大いに役立つという希望がわいてくる。

さらに現在、歯科医師の研究の現場では、機能が弱まっている歯の神経の再生、また「歯そのものの再生」についても、その可能性が見えてきているという。

「既に取り除いてしまった神経を再生できる日もそう遠くはないでしょうし、再生医療で言えば、病気によって切断を余儀なくされてしまった体の一部を、歯から抽出した幹細胞を活用して再生させることも可能になるかもしれません。歯が、日本の医療を大きく変えるはずです」

「人生100年時代」という標語が世間に広まり、健康問題や社会福祉が注目される中、日々目にする人体のパーツを意識することでさらに健康が保たれるとなれば、大事にしない手はない。まずはあらためてきょうの歯磨きから見直してみよう。

特集第2回は、「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンの分泌システムが人体を、そして人間の心をどのように支えているのかに迫る。

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