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未来シティ予想図

ナノテクノロジー×都市建設が紡ぎだした空中未来都市という物語

大林組による空中都市建設構想『FUWWAT2050』

都市の建築とナノテクノロジー。対極的なスケールを感じる両者を結び付けると、どんな未来シティが生み出されるのだろうか? 2012年に『宇宙エレベーター建設構想』を発表して世間の話題を集めた大林組が、その知見を生かして提案した空中都市建設構想『FUWWAT(ふわっと)2050』について、同社テクノ事業創成本部PPP事業部 葛西秀樹部長と、素材開発を担う同社技術本部技術研究所技術ソリューション部 渕田安浩課長に聞いた。

ナノテクノロジーで1000mの超々高層ビルという構想はあえなく却下となり…

大林組に葛西部長を訪ねるのはこれが2度目となる。

前回は、2020年の東京開催が決定した夏季五輪を受けて2015年に提案された「スマート・ウォーター・シティ東京」を取り上げたが、今回の空中都市構想『FUWWAT2050』はそのさらに2年前、2013年に発表された構想だ。

ナノとは10億分の1のこと。肉眼で見える限界が0.1~0.5mm程度だ。光学式の顕微鏡で見える限界がやっと1000nm(ナノメートル)で、これは細菌などのサイズに相当する。建設とはむしろ、対極のスケール感と感じられるが…。

「発表は2013年ですが、検討を始めたのは2012年の宇宙エレベーター建設構想の発表直後からでした。ちょうど『ナノマシン』というナノサイズのロボットが出始めた時期です。われわれは宇宙エレベーター建設構想を検討する際にカーボンナノチューブという材料の研究に取り組んでいたのですが、さらにナノマシンまで追求すれば、いろいろ新しい建物ができるのではないか、と」(葛西さん)

「世の中に、血管に通せるサイズのスマート・ピル(20~100nm)といった医療用途は出てきていましたが、まだ建築物へのナノマシンの活用という発想はなかった時期ですね」(渕田さん)

空中都市構想『FUWWAT2050』は、広報誌『季刊大林』54号の企画として発表された。葛西秀樹さん(左)は構想の全体をまとめ、渕田安浩さん(右)はナノテクノロジーによる材料の可能性に取り組んだ

まず、材料をナノマテリアルに置き換えるだけでも、重量をおよそ10分の1にまで軽くすることが可能になるという。単純計算では、現在実現している100m級の超高層ビルを造るのと同じ感覚で、1000mもの超々高層ビルが造れてしまうことになる。

しかも、そこに高性能のナノマシンを導入すれば、材料自らが組み付けられる番地などの情報を発信できるため、建設もかなり自動化することができるようになる。

1000mもの超々高層ビルをオートメーションで建てる、これだけでも十分未来的な提案だと思われるが、これを上回るアイデアが求められたという。

「このレベルではつまらん、と(笑)。飲料業界で、ビンからペットボトルに変わったように、建物も今までの発想とは全然違うようなものができるはずだという厳しい意見が出ました」(葛西さん)

その結果、導き出された姿が空に浮かぶ空中都市建設構想『FUWWAT2050』だった。

ナノテクノロジーを活用した空中都市建設構想『FUWWAT2050』の完成予想イメージ図。2050年の完成想定で2013年に発表された

震災や地球温暖化対策も念頭に沿岸部への建設を提案

ナノテクノロジーで、建物はいったいどこまで軽くできるのか? もしくは、軽くするにはどういった形が最適なのか。葛西さん、渕田さんのチームは検討を進める。

やがてナノマテリアルで“空気膜”を造り、東京ドームのように内側から圧力をかければ、空中に吊り下げられる建物ができるのではないかという着想を得る。

「検討を始めたのは、東日本大震災から1年という時期でもありましたので、災害対策も踏まえたかった。また、地球温暖化対策の中で海水面が1mくらい上がる、つまり100年単位では世界的に海岸線が内陸へ下がってくることが分かっていました。そこで、この空中都市を沿岸部に建設するというプランがまとまったんです」(葛西さん)

立地は海面が上昇した後の沿岸部。もともとそこに暮らしていた人々に、場所を変えずに代替の住居やコミュニティーを提供できる空中都市。

コミュニティーを重視すると、高層建築よりも横に長い構造の方がいい。一方で、防災面では高い方がいい。

『FUWWAT2050』は、上から見たら船のようなシルエットをした建物が3棟、それぞれ3本の柱から伸びるワイヤーで空中に吊られる設計となった。

「建物は業務・商業施設棟、病院・公共サービス施設棟、住宅棟からなり、人口はそれぞれ2800人、2000人、1700人ぐらいの小さな街として機能できる規模で提案しています。街は海に出っ張る形で、地上30mに設置するものとしました。仮に東日本大震災レベルの津波が押し寄せたとしても建物には届かず、また3本の柱は津波の力を受け流すことができます」(葛西さん)

地上30mに吊られる3棟の空気膜で街を構成する。日本では東京、大阪をはじめ多くの都市が沿岸部にあり、人口の2割が標高5m以下の地域で暮らしているため、沿岸部で安全に暮らせる街の在り方は長期的に重要なテーマだ

2016年のノーベル化学賞受賞で耳目を集めたナノマシンを建築に応用

具体的な構造を見てみよう。

まず外装材は、植物由来のセルロースナノファイバーによる空気膜となる。その空気膜をカーボンナノチューブをハニカム(六角形)に組んだフレームが囲んでいる。

この膜構造を3本の柱(支持マスト)から伸びたワイヤーで吊る。このワイヤーもカーボンナノチューブによるものだ。

超軽量・高強度のナノマテリアルだからこそ実現可能なプランであり、従来の建築物とはドラスティックに異なる構造となる。

「セルロースナノファイバーは光を透過する透明なフィルム素材ですが、これを空気膜としてさらにカーボンナノチューブのフレームで囲うことで構造体とすることができました」(渕田さん)

「建物の総重量は3480tです。これを吊るカーボンナノチューブワイヤーは、直径30mmくらい。吊り橋などのワイヤーは直径数mにもなり目立ちますが、直径30mmならほとんど空と同化して見えないだろうと思います」(葛西さん)

外装となる空気膜の心材であるセルロースナノファイバーは、木片や稲わら、海藻などからも採取、製造できるとあって、サステナブルな資源として注目を集めている。鋼鉄の5分の1の重量で鋼鉄の5倍の強度、また熱膨張もガラスの50分の1ながら透明性が高い

空気膜の内部は3フロア構成になっているが、その部材にもハニカムに編んだアラミド繊維を何層か組み合わせた、ナノマテリアルによる非常に軽量な床材(スラブ)を採用する。

こうして空に浮かんでいるかのような空中都市が実現されるというコンセプトだ。

さらに、空気膜も複数の層からなっているが、内側の壁面となる部分にはナノマシンが表面にコーティングされる。

「ナノマシンは、その研究者(仏・英・蘭の大学教授3氏)が2016年にノーベル化学賞を受賞したことで注目されました。ですので、『FUWWAT2050』の発表時点では、将来的に実現可能であろうという予想に基づくコンセプト提案でした。建物の中はスマホの画面のようにツルッとしたものになって、壁自体が照明にもなればモニターにも、通信機器にもなります。例えば、室温や照度など、一人一人の好みに合わせて室内環境が自動的に変化するということも可能になります」(葛西さん)

外装の空気膜は外側から順に低汚染コーティング層、量子ドット太陽電池層(後述)、セルロースナノファイバー層、ナノエア断熱層、耐火発泡塗装層と多層構造になっており、一番内側にはナノマシンがコーティングされる。このナノマシンにより、さまざまな室内環境のコントロールが実現する

あえて過酷な環境を想定することで、これまでにない可能性を引き出す!

では、このナノテクノロジーによる空中都市を、いったいどうやって造るのか。その建設にも、従来にない斬新な施工方法が立案された。

まず、外装の空気膜は、建設現場ではなく工場の3Dレーザープリンターによって造ることを想定する。

一方、建設現場では空気膜を吊り下げるため支持マストが建てられており、工場で出来上がった空気膜は現場まで、なんとヘリウムガスを充填して飛行船で空中搬送するという。そして現場でワイヤーに取り付けた後、中の設備などの仕上げ工事を行い完成させる。

「海上は建設作業を進めるのが非常に難しいところです。足場が建てられませんし、生態系など環境も守らなければならない。あえてそういう難しいところでの施工方法を検討することが、他の可能性を引き出すことになるだろうと考えていました」(葛西さん)

「この空中都市という構造は配管をつなげませんので、外からインフラを持ってくるのもなかなか難しい構造です。そんな閉鎖空間とすることで、水処理、空調の処理、エネルギーなどが自給自足で完結することも目指した提案となりました」(渕田さん)

空気膜にコーティングされる太陽光発電も、ナノテクノロジーを活用した「量子ドット太陽電池」を想定。従来型のシリコン太陽電池のエネルギー変換効率が上限約30%とされるのに対し、量子ドット太陽電池は変換効率が80%以上になることを前提に、エネルギーはすべて自給自足が可能と想定している。

こういったナノテクノロジーを実際の建設に活用するには、まだまだブレークスルーとなる材料や技術の開発が待たれる。

しかし、構想が人々の共有できる物語として提示されることで、時にそれは現実のものとなっていく。昨年末、「STARSプロジェクト」によって宇宙エレベーターの研究機材が国際宇宙ステーションへと打ち上げされたように。

『FUWWAT2050』の発表から4年。いま葛西さんのチームの元へは、「この物語の続きが見たい」という声が届き始めている。

構造体にヘリウムガスを充填することで、簡単に飛行船で運べることもポイント。施工の簡略化はもちろんのこと、沿岸部以外でも、必要とするところへどこへでも搬送することができる

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