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“農業と観光”で街づくり! 山形・庄内から見据える地方都市の未来

ヤマガタデザイン・山中大介氏の地方都市活性化への飽くなき挑戦

山形県庄内地方を拠点に、地方都市の課題を希望に変える街づくり事業を行うヤマガタデザイン株式会社。2014年の創業以来、田園に囲まれた「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」をはじめ、有機農作物の生産・支援などさまざまな街づくり事業を手掛ける同社代表取締役CEO山中大介氏に、これまでの歩みと共に地方都市が抱える課題、庄内地方にもたらした変化、今後の展望を聞いた。

人口が減少する地方で経済を成長させるすべ

前職ではショッピングモール建設に携わっていた山中氏は、2014年、出身校・慶應義塾大学関連の知人の勧めから、庄内地方の鶴岡サイエンスパーク※1に入居するSpiber(スパイバー)株式会社※2に転職した。

「当時、Spiberはまだ研究開発のフェーズで少し時間に余裕があった中で、ふと地域の課題解決や街づくりのお手伝いをしようと思い立ち、パーク内の未着手エリアに目を付けてヤマガタデザインを立ち上げました」

“街づくりのお手伝い”という発想は、街に活気を呼び起こす不動産開発という前職からすれば、山中氏にとって自然な成り行きだった。とはいえ、庄内は出身地でもなく、縁があったわけでもなかったという。

「前職では出張でたくさんの地方を訪れました。その中でも庄内は空気が一段と澄んでいる。言葉にするのは難しいのですが、Iターン先として“ここだ!”と思ったことが、後々の起業の決め手になったのかもしれません」

実際、庄内地方は豊かな自然と城下町としての歴史文化など、ここだと感じられるに足る「全方位的に魅力度が相当高い場所」だと山中氏は話す。

※1…2001年、山形県と鶴岡市など14市町村、慶應義塾大学の連携で生まれた未来創造田園都市。大学、民間企業がバイオテクノロジーを研究し、多くのバイオベンチャー企業が誕生した
※2…慶應義塾大学出身の関山和秀氏が経営するバイオベンチャー。強度や伸縮性に優れたクモの糸を人工的に生成、その繊維が「THE NORTH FACE」のダウンパーカに採用・商品化された

「山形県は北陸~東北の日本海側で唯一内陸に県庁所在地がある県です。そのため庄内は城下町だった頃を思わせる歴史文化・建築が今も多く残り、海や山、平野などの自然も豊か。地域経済の中心地でこうした地方は、実はあまりないのではと思います」(山中氏)

画像提供:ヤマガタデザイン

そんな庄内地方が今、抱える社会課題と、日本という国が抱える課題は「基本的にはほぼ同じだと捉えています。それは人口減少と少子高齢化です」と山中氏は話す。

「人口増加を前提につくられた社会や地方自治の仕組みが衰退局面に陥り、機能しなくなっています。マクロ経済の観点で分かっていたことですが、地方に来てさらに実感しました。人の数が減っていく中で、地方はどう経済成長していくのか? 縮小していく未来におびえることなく、未来に希望が持てる環境をつくれるかどうかがテーマだと思い、課題解決への取り組みを考え始めました」

そのフックとなったのが、農業と観光を組み合わせる手法だ。

「地方でのビジネス展開で一番の勝ち筋は第一次産業と観光です。これを組み合わせた街づくりが地方経済の活性化の鍵となります。その文脈とは別に、例えば株式会社ジャパネットたかた(長崎県佐世保市)のような都市圏、または世界と競える地方発の企業が育つことも絶対必要です。地場産業があることも差別化の一つになりますし、何かに特化した独自性があればそれは伸ばすべきポイントだと思います」

こうした思いから、ヤマガタデザインは農業と観光を武器に庄内独自のビジネス展開を模索した。

“田んぼのホテル”から目指す地方発のビジネス

地方発の世界とつながるビジネスを目指すヤマガタデザインは、庄内平野に広がる水田風景を武器に“農業×観光”の独自ビジネスを創出した。それが、2018年に鶴岡サイエンスパークの一角に広がる水田地帯に開業した“田んぼの中のホテル”「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」(以下、スイデンテラス)だ。

木造2階建てホテルのイメージは「農家の家屋の延長線上のような建物です」と山中氏は話す。

「地元の方々は『サイエンスパークに建つホテルであれば、先進的な建物』と思われていたようです。ですが庄内平野はもともと田んぼしかないような場所。私は、その田んぼというロケーションを生かし、オリジナリティを発揮するのがいいと感じました。ホテルから見える田んぼの風景は本当に美しいのです。東北地方の日本海側で、いい意味で田舎で、平野が広く残った環境は実は奇跡的なことで“何もないことを生かしたい”と考えました」

スイデンテラスはレストランやライブラリーなど日常的に利用できる施設をはじめ、フィットネス、会議室も備え、宿泊者だけでなく地元企業や住民も利用できる

画像提供:ヤマガタデザイン

スイデンテラスの天然温泉からは、鳥海山をはじめとする山地に囲まれる美しい水田風景を望める。農的な資産がそのまま観光の魅力になる、ここでしか味わえない愉楽の時を過ごせる

画像提供:ヤマガタデザイン

敷地管理にトラクターが導入されている、実に田舎らしい雰囲気が漂う水田にたたずむホテル。「虫やカエルの建物内への侵入阻止に苦労します」と山中氏は笑う。

「当たり前ですが、田舎なので相当な数がいます(笑)。でも、カエルは他の虫を食べてくれるし、懸念していた(カエルの)鳴き声の大合唱も幸い客室までは聞こえないのでクレームもありません。聞こえたとしても“田舎らしさ”と捉えて受け入れてくださる方が訪れている気がします」

この“田舎らしさ”が、スイデンテラスの個性となって好評を博し、開業翌年の2019年には約5万人が宿泊した。「オーバーツーリズムになっている場所とは一線を画し、庄内というテーマありきの施設なこともあり、コロナ禍の影響もそれほどありませんでした」と言う。

こうした独自路線を進む上で、山中氏が特に大切にしたのは“共感”。「農業をエンターテインメント化するコンセプトへの共感を最も大事な軸に」と考えている。

「上位概念にこのコンセプトがあって、その下に例えば『インスタ映えする』『サウナが心地良い』『朝ご飯がおいしい』といった要素がぶら下がっている。そういった要素が、興味を持っていただき影響を及ぼすポイントだと感じています。国内外で高まる農村回帰、地方観光の在り方、その選択肢の一つとしてスイデンテラスが提供できていると考えています」

庄内産を海外へ! 有機農業で世界に羽ばたく

農業への強い興味・関心から、「前職時代に農家に弟子入りし、退職しかけたこともありました」と笑いながら話す山中氏は、スイデンテラス開業に先駆けてグループ会社のヤマガタデザインアグリ株式会社で有機野菜のハウス栽培を始め、ホテルで食材として提供している。

「有機農業は海外にも通用する企業に成長する上で、地方から世界へ打って出る大きなチャンスをもたらすファクター」と山中氏は力説する。

「日本の農業は、ポテンシャルは高い一方で海外から輸入した化学肥料などで農作物を育てているのが現状。ですが今、世界では国内の有機的な資源を循環させる有機資源循環農法(環境保全型農業)へのシフトが求められています。この流れを利用しない手はありません」

国内の有機資源を使い生産コストを抑え、CO2排出削減や脱炭素に注力することが農作物に大きな付加価値をもたらす。

だが、環境保全型農業を推進、輸出する動きはまだ始まったばかりだ。

「これまで海外への扉が閉ざされていたのは、有機JAS※3のような有機野菜を証明できる体制が整っていなかったからです。今こそ付加価値を付けたメイド・イン・ジャパンのブランドを元に、国内の未利用資源を使い農作物を育て、海外マーケットで売ることこそ農業が生き残るすべの一つだと考えています」

※3…農林水産省による有機食品の検査認証制度。規格に適合した生産が行われているかを第三者機関が検査、認証された事業者に“有機JASマーク”の使用が認められる

ヤマガタデザインアグリは鶴岡市において、ベビーリーフやミニトマトなどを51棟もの農業用ハウスで栽培。庄内で盛んな養豚で出たふんを有機資源として堆肥に用い、もみ殻を燃やしてハウスを温め、燃え殻を土壌改良に用いる取り組みなどを行っている

画像提供:ヤマガタデザイン

こうした考えからヤマガタデザインアグリは現在、“未来への種まき”として水田の自動抑草ロボットの開発と、有機米の生産支援・流通販売のサポートを全国展開している。

「有機米のマーケットを国内外へ拡充させ、農家の皆さんの所得向上に取り組み、全国の生産者さんと有機農業を軸に持続可能な社会の実現を目指しています」

ヤマガタデザインアグリは水田に浮かべる自動抑草ロボット「アイガモロボ」を開発。水稲の有機栽培で最も工数のかかる除草作業の省力化に取り組んでいる

画像提供:ヤマガタデザイン

有機農業を軸に、地方から世界へメイド・イン・ジャパンを流通させる。

今後10年、20年、30年先を見据えた庄内発の街づくり事業の可能性はさらに広がる。

「農業、観光の他にも、教育、人材などさまざまな分野の事業で地域課題の解決に取り組んできました。創業10周年を迎える2024年には、社名を『株式会社SHONAI』へ変更し、庄内で生まれたビジネスモデルを通じて、全国の地方都市の課題を希望に変えるアクションを起こしたいと考えています」

困難を恐れず、前例なき挑戦も「やった者勝ち精神で向き合った」という山中氏。

次の10年は“庄内”の名を背負い、世界と渡り合う街づくりへ突き進んでいく。

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