未来シティ予想図

餃子の街から交通未来都市へ!国内初の全線新設LRTによる宇都宮のまちづくりが本格始動

次世代型路面電車(LRT:Light Rail Transit)を軸に「ネットワーク型コンパクトシティ」を目指す

新しい乗り物には、人々をワクワクさせて、都市を活性化させるエネルギーがある──。栃木県宇都宮市が整備中の次世代型路面電車(以下、LRT)も、人口が大幅に減少する未来の救世主として期待されているプロジェクトだ。交通手段を増やすことで、どのようにまちづくりを目指すのか? 宇都宮市 総合政策部 政策審議室 計画行政グループの砂田篤史氏と間中美徳氏に話を聞いた。

国内初の全線新設! LRTで東西の交通が快適に

日本の総人口は、2008年の1億2808万人をピークに減少を続けている(厚生労働白書より)。北関東を代表する大都市である宇都宮市も例外ではない。

「現在、宇都宮市の人口は約52万人です。これまでは右肩上がりだったのですが、ちょうどことしを境目にして、今後は減少していくと推測されています。高齢化も進み、初めて人口が減少していく中で、都市を持続的に発展させるための政策が必要不可欠であると認識しています」

宇都宮市には周辺市町村と合併を繰り返してきた歴史があり、広範囲に市街地が広がっているのが特徴だ。人口が減っても郊外に住む市民に効率良く行政サービスを提供するためには、当然ながら誰もが快適に移動できるような交通網が必要である。

「宇都宮は、魚の骨で例えると背骨のように南北にJR(東北・山形・秋田新幹線、宇都宮・東北本線、日光線)と東武鉄道宇都宮線が通っています。しかし、東西方向に同じような背骨がないので、市民の移動はバスが担っている部分が多いのです。そのため市街から来たものも含めると駅西側の大通りは1日2000本以上もバスが通り、効率的とは言えない状態になっています。

また、東側も工業団地に向かうための通勤車両で毎朝のように道路渋滞が起こっている状況です。この東西の交通の弱さを改善させるために、LRTの計画が進められています」

宇都宮市 総合政策部 政策審議室 計画行政グループの砂田篤史係長(左)と間中美徳総括(右)

LRTとは、ライトレールトランジット(Light Rail Transit)の略で、路面電車などの高性能な軽鉄道を用いた交通システムのこと。新たに生まれた言葉ではなく、すでに国内でもJR富山港線(現・富山ライトレール「ポートラム」)や広島電鉄宮島線などの路線がLRTに転換された例がある。

しかし、宇都宮の場合はLRTの母体となる路線が存在していない。つまり、全線をイチから新設することになり、これは国内初のケースだという。

2022年春の開業(優先整備区間)を目指し、ことし6月より工事が本格的にスタートした。

LRTはJR宇都宮駅の東西に計約18km整備するのが計画の全体像。東側のJR宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地までの14.6kmを優先的に整備している。その後、JR宇都宮駅から東武宇都宮駅付近の中心市街地へと向かう西側区間(約3km)を延伸する計画だ

LRTを東西に走らせることで“背骨”を増やすだけでなく、その“小骨”としてバス路線を増やし、その隙間をデマンドタクシーなどの地域内交通で埋めていくのが宇都宮市の掲げる新たな交通網のビジョンだ。

地下鉄やモノレールという手段もある中で、宇都宮市にとってはLRTが最適な選択肢だったという。

「あらゆるツールを検討しましたが、宇都宮における人の移動に見合った輸送力、整備費用、既存のバスとの接続などを踏まえてLRTがベストだと判断しました。

宇都宮は車社会で、工業団地で働く3万人ほどの方々は通勤に自家用車を使う人が多いのです。その方々が電気で走るLRTに乗っていただければ、渋滞が改善できるだけでなくCO2の削減にもつながると考えています」

ことし7月に決定したLRTのデザイン。3両1編成で全長は約30m。定員は国内の低床式車両で最多となる160人。宇都宮の風土を象徴する“雷の稲光”をイメージせるカラーリングが特徴。車両設計・製造は、富山ライトレールやゆりかもめ、日暮里・舎人ライナーなどを手掛ける新潟トランシスが担当し、全ての扉にICカードリーダーを設置することで混雑時の乗降時間を短縮する

車両の内装デザインイメージ。外装にも用いられているシンボルカラーの黄色を部分的に配色する。また、宇都宮市の伝統工芸である宮染めを連想させるカーテンを設置する予定だ

単なる便利な交通手段ではなく、LRTは宇都宮が車社会から脱却してスマートシティへと変化するためのシンボルでもあるのだ。

「まだ検討段階ではありますが、LRTの乗り換え場所であるトランジットセンター自体の低炭素化についても検討しています。また、LRTを走らせるエネルギーは市内のごみ処理場で発電した電気や、一般住宅に設置された太陽光で発電した電気を買い取り、まかなうことも選択肢の一つ。環境問題も視野に入れながら、総合的に誰もが安心して暮らせる街を目指していきたいと考えています」

走行の電圧には、国内の路面電車で一般的な600Vではなく、750Vを採用。電気エネルギーの安定供給や変電所の設置を最小限に抑えることが可能になるとのことだ。

LRTのルートMAP

地域拠点を作って誰もが快適に暮らせる社会へ

そもそも宇都宮市が新たな交通網の形成に力を入れているのは、「ネットワーク型コンパクトシティ」という構想のまちづくりを進めていることが前提にある。

もともとのコンパクトシティとは、都市の中心地にあらゆる機能を集中させ、居住地域もコンパクトにまとめる行政効率の良いまちづくりのこと。地方再生のキーワードとして全国的に注目されている政策だが、住居が広範囲に存在する宇都宮市が実現させるためには工夫が必要だ。

「一極集中ではなく、14カ所の地域拠点を設けることが宇都宮市に合致したやり方だと考えています。地域の特性に合わせて、スーパーや銀行、郵便局、病院、高齢者福祉施設や保育施設といった都市機能を組み込むことで拠点性を高めていきます。同時に、住居や会社が移転しやすい補助金制度を設けるなど、点在する人を集めるための政策も始めています」

田園地帯や工業団地、観光地など、各拠点はそれぞれが全く違う顔を持っている。市民が目的に応じて容易に各拠点にアクセスできるためのツールとしても、LRTは必要不可欠なのだ。

「鉄道からLRTへ、LRTからバスへ、バスから地域内交通へ……と、各拠点を階層的に公共交通で結んでいきます。これまで公共交通が行き届かなかった地域にも、デマンド型や定時定路型のタクシーなどの配置を進めています。そのように各拠点のネットワーク性を高めることで、車の運転ができなくなっても誰もが安心して生活できる社会を目指しているのです」

宇都宮市が掲げるネットワーク型コンパクトシティのイメージ。14カ所の地域拠点と公共交通がバランス良くつながっている

トランジットセンター周辺には、駐車場や駐輪場、バス乗り場やタクシープールなどが整備される予定。ここに行けば、宇都宮全域を効率良く移動しながら生活できるということ

街の中心部から離れて暮らしていても、ショッピングモールに足を延ばしたり、映画を見たり、高度な医療が受けられる病院に通ったり……そういった行動が公共交通によって気軽に体験できる。

そんな町こそ、宇都宮市が目指すネットワーク型コンパクトシティの姿なのだ。

中心部にはハイグレードの機能を集約させる

LRTはわずか3年後の2022年に優先整備区間が開業予定だが、理想の形でネットワーク型コンパクトシティが完成するのはもう少し先の未来になりそうだ。

「市民の居住地移動を誘導していくためにはやはり時間がかかります。始めたばかりの補助金制度などの手応えを見ながら、じっくりと効果的な政策を探っていきたいですね。大切なのは、プランを示し続けること。強制ではありませんし、世代交代を繰り返しながら、100年先の未来を見据えてじっくりとまちづくりを進めていきたいと考えています」

宇都宮市は、ネットワーク型コンパクトシティ構想の軸として、LRT事業の他にもJR宇都宮駅東口地区では開発事業を計画している。

「JR宇都宮駅東口地区はネットワーク型コンパクトシティの中枢を担う都市拠点の核となる地区であり、最先端の医療施設などの高次な機能を集約する予定です。また、整備予定のコンベンション施設は、医療系の学会をはじめ多様な催事の開催を可能とするほか、国際会議などの誘致にも活用していきたいと考えています。

現状では、餃子店などにより暫定的に活用しており、閑散としている印象を受けるかもしれませんが、開発が進めば新たな宇都宮市の顔として風格のある空間に生まれ変わるのではないでしょうか」

宇都宮駅東口地区整備事業の整備イメージ。2000人収容の大ホールを備える公共のコンベンション施設をはじめ、147戸の分譲マンション、催事の主賓も泊まれるグレードの高いホテルなどを備える複合施設などを建設する予定

南北にのびるJR宇都宮駅をLRTが横断するルートは、検討の結果、10月下旬に駅の北側を通るルートに決定。高架橋を設けて、在来線(1階部分)と新幹線(3階部分)の間の2階部分を東西に横断することとなった。

宇都宮市の特産品である大谷石を活用した交流広場や水盤も設置。百日紅(さるすべり)などの植栽といった緑化も計画されている。2022年8月より供用開始予定

“餃子の街”というイメージが強いものの、宇都宮はプロバスケットボールリーグ・B.LEAGUE初代チャンピオン(2016-17シーズン)に輝いた「リンク栃木ブレックス」のホームタウンであり、近年盛り上がりを見せている3×3(スリー・バイ・スリー=3人制バスケットボール)やジャパンカップサイクルロードレースなどの世界的なスポーツイベントも開催されている。グレードの高いホテルが完成すれば観戦客が増えてスポーツの聖地として認識されていくかもしれない。

優先整備区間のJR宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地、そしてさらには延伸を検討・調査中の駅西側部分までLRTが全線開通すれば、宇都宮が餃子の名店や観光スポットへ繰り出す人々、鉄道ファンでにぎわうのは間違いない。

当然、理想と現実は異なり、まちづくりが計画通りに進まない可能性もある。とはいえ、何もしなければ人口は減り続ける一方だ。空き家が増え、学校は閉鎖して、商店が撤退して、行政サービスも行き届かなくなったり……悪循環を止めることができない。

ネットワーク型コンパクトシティの先駆者として挑戦することを選んだ宇都宮市の街づくりに今後も注目していきたい。

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