1. TOP
  2. 特集
  3. 観光DXの新潮流
  4. 観光から地方創生へ! いま求められるDX戦略とは
特集
観光DXの新潮流

観光から地方創生へ! いま求められるDX戦略とは

“観光DX推進”検討会メンバー、平林知高氏に聞くDXに必要な条件

コロナ禍の需要減から立ち直りつつある観光産業は、人手不足、労働生産性の低さといった問題を抱えている。観光DXにはその効果的な解消が期待されるが、実際にはどのようなDX戦略が必要なのだろうか──。2022年、観光庁は「観光DX推進のあり方に関する検討会」を設置、観光業界が諸問題をどのようにDXで打開するべきかロードマップを提示している。そこで初回は、同検討会メンバーであるEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック・インパクト・パートナーの平林知高氏に、ロードマップを基に観光DXの現状や課題について伺った。

地域に求められるシームレスな情報発信

人口減少、少子高齢化による地方の衰退を解決する地方創生。

その実現の切り札の一つが観光産業である。観光業界は今、労働力不足、低水準の生産性などの問題から脱却し、稼ぐ力の強化が急務だといわれている。

こうした状況を受けて観光庁は2022年、観光DX推進のあり方に関する検討会を設置。2023年3月、同会は検討の最終取りまとめにおいて、観光DX推進による課題解決に向けたロードマップを定めた。

観光DX推進のあり方に関する検討会の最終取りまとめでは「旅行者の利便性向上・周遊促進」「観光産業の生産性向上」「観光地経営の高度化」「観光デジタル人材の育成・活用」の4つの柱ごとに課題とその解決の方向性を示している

資料提供:観光庁

デジタル技術を活用した地方創生を手掛け、同検討会のメンバーでもある平林氏は「観光DXの推進は、地域ぐるみの取り組みが重要」と指摘する。

「観光産業の活性化には、事業者を個別に支援しても地域に人が来ない限り効果は得られません。もちろん個別の事業者への支援も必要ですが、その前に地域に人が集うための施策が重要です。そのためには観光客が何を目的に、何人訪れ、どのような消費活動を行ったかなど観光地経営に必要なデータを可視化し、データからニーズを正確に捉え、適切な施策を考える必要があります。それこそが観光DXの本質です」

地域に観光客を呼び込むためには常に正確な情報を届け、なおかつ旅行者が手続きに煩わしさを感じない、利便性の高い観光地情報発信のシステムが求められる。しかし、現状は収集した情報がサイトによって異なっていたり、情報発信・予約・決済機能の提供をシームレスに行うサイトが少ないことが検討会でも議論されたという。

「サイトにより情報の鮮度が違い旅行者を混乱させるケースはよく見受けられます。例えば、ある店の営業時間がGoogleマップでは夜8時までと記載され、Instagramでは夜7時まで、食べログでは夜10時までなど、営業時間を変更した際の更新・反映漏れなどが理由で、観光客に届く情報がバラバラになる場合があります。また、観光客にとって情報サービスは情報入手から予約・決済までワンストップ化された方が便利です。しかし現状は交通、飲食、アクティビティ、宿泊などの予約・決済まで含めてワンストップで完結するサイトはほとんどありません。これらの機能を全てそろえ、さらにタイムリーなレコメンド機能まで備えられれば、非常に利便性が高まります。そういった地域サイトの構築に対する支援が必要です」

現在、宿泊施設の予約には「楽天トラベル」「じゃらん」に代表されるOTA(Online Travel Agent:店舗を持たずオンラインのみで営業する旅行代理店)を活用するケースが多い。しかしリピーターの場合、旅行者が宿泊施設へ直接予約するケースも出てくる。この場合、旅行者と宿泊施設双方共に手数料負担が軽減される可能性があり、ワンストップ化された地域サイトの構築は、両者に大きなメリットを生むといえる。

急がれる事業者のデータ連携と人材育成

ワンストップ化された地域サイトの担い手には、観光地域づくり法人(DMO:Destination Marketing/Management Organization)に期待が集まっている。

DMOは観光をマネジメントする機関でもあり、マネジメントには旅行者の属性、消費活動などの情報が必要だ。しかしデータは各事業者が個別に所有し、観光DXにはそのデータを収集・共有・連携することが必須となる。そしてここには乗り越えなければならない課題があるのだ。

「データベース化には、提供される情報の仕様統一が望ましいのですが、実際は各事業者でバラバラなため、非常に煩雑な処理作業が必要です。例えば、初歩的なことで言えば、日付情報の年月日の区分一つでも『2023年04月16日』『23/4/16』などバラバラで、これを、年=YYYY・月=MMなどと統一させなければなりません」

観光DX推進には情報収集だけでなく、その情報を事業者間で共有・連携し、地域ぐるみで観光客を呼び込む施策を考える必要がある。しかし、「各事業者が持つデジタルツールは独自に作成されたものが多く、互換性が低いのが実情です」と平林氏は話す。

「従業者の定義にも総務省と厚生労働省の統計では少し違いがあるため、事業者がいずれに基づき定義しているかで雇用情報の収集にもズレが生じるケースがあり、こうした点もデータベース化には大きな課題となります」(平林氏)

宿泊施設におけるデジタルツールは、主にPMS(Property Management System:ホテル管理システム)が使用されている。PMSは予約・客室・顧客・売り上げの各管理、データ分析など情報を一元管理できる。PMS導入の際はOTAとの連携を図るサイトコントローラーも併せて導入することで、ダブルブッキングや機会損失を軽減している。

検討会では、こうしたツール導入を支援し、宿泊施設の業務効率化を図る必要性が議論されたが、同時に汎用性・互換性の高いツールの活用により、事業者間の連携を進める必要性も話し合っている。

「日本では、各事業者が地域ごとのベンダーに相談・独自開発し、必要に応じてカスタマイズを重ねた結果、多種多彩なPMSが生まれた歴史的背景があります。そのためPMSは仕様がバラバラで統一が難しく、互換性もありません。観光DX推進には、データ仕様の統一化とAPI化に向けた体制構築が必要です」

データ収集・共有・連携に続く次の課題は、データに基づいた観光地経営の高度化だ。収集されたデータを見える化し、分析して施策を検討・実施しなければ観光DXは完結しない。

この観光地経営の高度化を担う人材不足も大きな課題になっている。

「高度な専門家を雇えずとも、データの数字が意味するものを読み取り、施策に必要なポイントを押さえられるデジタル人材は必要です。昨今は高等専門学校(高専)での5年間一貫教育で、デジタル技術をビジネスにどう生かすか実践的に学ぶ産学連携の取り組みなども各地で行われ、数字に強い人材が増えることが期待されます」

※…API(Application Programming Interface)はソフトウェアやプログラム、WEBサービス間をひもづけるインターフェース。APIを整え外部のソフトウェアやサービスでその機能を利用可能にすること

好循環を生む観光DXのエコシステム実現を目指して

観光庁では、観光DX推進のあり方に関する検討会と並行して、2022年度より観光DX推進モデルの実証事業を公募。採択された実証事業には、さまざまな課題解決のヒントになる事例も見られる。

「例えば、山形県天童市・米沢市・尾花沢市による『Yamagata Open Travel Consortium』では、複数の地域が連携しPMSの予約情報を基に相互送客を実施し、エリア全体の消費拡大に取り組んでいます。また、『福井県観光DX推進マーケティングデータコンソーシアム』では、人流、POS、アンケートなど多様なデータをオープンデータ化し、地域の商品造成や消費拡大を推し進めています。

このようにデータ(情報)を見える化・共有し、地域全体で観光DXに取り組む事例が全国で見られるようになってきています。さらに、海外でも豊富な事例が見られますので、今後はそういった参考事例から学び取っていくことが重要だと思います」

山形県天童市などの地域、福井県の実証事業は「令和5年度『事業者間・地域間におけるデータ連携等を通じた観光・地域経済活性化実証事業』」に選定(表は一部抜粋)。現在、観光DXに関する先進モデル創出のためのモデル実証事業が進行中だ

資料提供:観光庁

その上で平林氏は、今後の観光DX推進について、「2025年の大阪・関西万博のようなイベントを一過性のもので終わらせないことが重要だ」と指摘する。

「大きなイベントが開催された地域では、その状況を最大限に活用してほしいです。デジタル技術を活用してサービスの質を上げることや、イベントを盛り上げることはもちろんですが、そのサービスを提供することで得られたデータを収集し、効果を検証することが重要です。そうすれば、そのデータがレガシーとして残りますし、別のイベントにも生かせるでしょう」

観光DXで得られたデータは地方創生にも必須のもの。そのため、平林氏は「日本の観光DXのあるべき姿は観光産業の活性化だけではなく、地域内外の事業者を巻き込んで持続可能なまちづくりを実現するようなエコシステムを提供することにある」と語る。

「観光地のデータが可視化されれば、その地域のマーケットの規模が分かってきます。これは地域へビジネスで新規参入する事業者にとって重要なデータであり、参入方法や規模を決める判断材料になります。そして、このデータを生かした事業が成功すれば、その地域に流入する人も、消費も増えます。金融に関しても判断材料がそろっていればファイナンスしやすく、投資家も安心して投資できます。このようなエコシステムの実現こそ、真の観光DXと言えるのだと思います」

地域のマーケット拡大はモノを域外へ売るか、域外の来訪者の消費を促すかの2択しかない。

外にモノを売って納税が増え、地域が潤うシナリオもあり得るが、製造業などではなく自然環境やその土地のグルメが主なコンテンツという地方にとって、観光客が地域で直接消費活動を行い、地域が潤うシナリオこそが最適解といえるだろう。

その意味でも、平林氏が提唱する観光DXのあるべき姿は、人口減少進む日本にとって必要不可欠と言えるだろう。

本特集第2週では、観光DX戦略をリードする兵庫県・城崎(きのさき)温泉における取り組みをクローズアップする。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 特集
  3. 観光DXの新潮流
  4. 観光から地方創生へ! いま求められるDX戦略とは