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空想未来研究所2.0

初代ライダーが闘うためには風速83m/sが必要

仮面ライダーが変身するために必要な風力を考察

空想世界をエネルギー文脈から分析する好評連載、第8回のテーマは「仮面ライダー1号の風力エネルギー」。ベルトの風車を回して変身するヒーローに必要な風力を考察する!

時代の先をいく超エコなヒーロー

1971年に始まった『仮面ライダー』は、エネルギーという観点からも、驚くべき先進性を持っていた。

仮面ライダーのベルトのバックルには風車が付いている。本郷猛はこれに風を受けて変身し、風のエネルギーで戦う。誰もが知る設定だが、風力発電の実用化が始まったのは、世界に目を広げても90年代なのだ。仮面ライダーが登場したのは、その20年も前!

テレビ放送と同時期に描かれた原作者・石ノ森章太郎(※ノは小さいノ)のマンガ版でも、仮面ライダーは自らこう名乗る。「ショッカーの野望を打ち砕き、人類の平和を守るため、大自然が遣わした正義の使者・仮面ライダー!」。大自然が生み出す風をエネルギーに変えて戦うことが強調されていた。

その先進性に敬意を表しつつ、今回は仮面ライダーの風力エネルギーについて考えてみよう。

風力発電で変身していた!?

仮面ライダーは、風のエネルギーを、変身と戦いの2つのフェーズで必要とする。

まず、番組中で繰り返し描かれた変身のシーン。本郷猛が、走行中のバイクのレバーを回すと、普通のバイクが、象牙色のカウルに覆われたサイクロンに変わる。同時に、本郷の腰にベルトが現れて風車が回り、仮面ライダーに変身!

ここでナレーション。「改造人間本郷猛はベルトの風車に風圧を受けると仮面ライダーに変身するのだ」。

仮面ライダーというと、どうしても「変身!」と唱えながらの変身ポーズを思い浮かべるが、それは第14話から登場した仮面ライダー2号(一文字隼人)に始まる歴史で、初期の1号は、風車に風を受けることのみによって変身していた。

風と変身の関係が鮮明に表れたのは、早くも第2話。マンションの高層階でショッカーと戦っていた本郷は、ベランダから飛び降りて落下の風圧で変身したのだ!そこまでしなければならないくらい、風が必要不可欠なヒーローだったのである。

そして第3話、本郷猛は立花藤兵衛の協力のもと、変身した姿の体力・能力を測定した。そのフィルムを見ながら本郷は言う。「風圧によってダイナモが回り、エネルギーが蓄積し、そのエネルギーが改造された筋肉に通じる」。

本郷の説明を、科学的に解釈すると、こうなる。

「ダイナモ」とは発電機のことだから、おそらく風力発電と同じように、風のエネルギーをまず電力に変換するのだろう。そして電力は、モーターなどの装置によって、力学的な「パワー(出力)」に変わる。つまり仮面ライダーは、風のエネルギーをダイナモで電力に変え、さらに改造された筋肉で、力学的なパワーに変えると考えられる。

残念!プロペラが小さ過ぎる

では、仮面ライダーは、風車に風を受けることによって、どれほどのパワーを手に入れられるのか。

風力発電で得られる電力は、「風車の半径の2乗」「風速の3乗」「空気の密度」の3項に比例する。

そして、仮面ライダーのベルトの風車に注目すると…、ぎょぎょっ。直径が10cmぐらいしかない!つまり半径は、たったの5cm!この小さな風車で得られるエネルギーとは、はたして…!?

たとえば、風速10m/sの風を受ける場合を考えよう。風速10m/sとは、気象庁が採用している「ビューフォート風力階級表」で「疾風」に分類される風速で、「葉のある灌木が揺れ始める」「水面に波頭が立つ」というかなり強い風だ。

発電では、発電機に注ぎ込まれたエネルギーの全てが、電力に変わるわけではない。風力発電の場合、その効率は最大で16/27=59.3%であることが、理論的に分かっている。ここでは、仮面ライダーを生み出したショッカーの科学力によって、その最大効率が実現されたと考えよう。

空気の密度は、気温によって決まる。気温20℃のとき、この風車で風速10m/sの風を受けた場合、仮面ライダーが得られる電力とは…、たったの2.8W!トイレの20Wの白熱電球さえ、つけられない!

この微弱な電力で戦うことなど、できるのだろうか?

仮面ライダーは身長180cm、体重70kg。2.8Wの電力を、改造された筋肉でパワーに変えたとしよう。モーターが電力を力学的なパワーに変える変換効率はきわめて高く、優れたものは90%を超える。だが、ショッカーの科学力で効率100%を実現できたとしても、しゃがんだ状態から立ち上がるまで3分40秒もかかってしまう!これはもう、変身しないで、本郷猛のまま戦った方がよっぽど強いと思う。

バイクに乗ってこそ仮面ライダー

だが、仮面ライダーがエネルギッシュな戦いを見せているのは、劇中の事実。これを科学的に説明できないものだろうか。

筆者が注目したいのは、本郷の説明にあった「蓄積」という言葉だ。現実世界の風力発電や太陽光発電も、作った電気を蓄積する電池の性能が上がることによって、実用化への道が開けた。

風も太陽の光も、強さが時々刻々と変わるので、作った電力をそのまま使うことはできない。電池に蓄積して、一定の強さで流すことによって、初めて有用になる。

ここから考えると、仮面ライダーも、風のエネルギーを作ったそばから使うのではなく、普段から風車に風を受けてエネルギーを蓄積し、戦いで一気に解放するのかもしれない。

仮面ライダーのジャンプ力は高度25mだという。8階建てのビルに跳び乗れるのだからモノスゴイが、これに必要なエネルギーを蓄積するためには、風速10m/sの風をどのくらい受ければいいのだろうか?

計算すると、1時間42分。そんなに長く吹きっさらしの中に立っていると、風邪をひくのでは!?

だが、忘れてはならない。仮面ライダーはその名の通り、バイクに乗るのだ。本郷猛のときも、もっぱらバイクで移動しており、山手線に乗る姿など見たこともない。

バイクに乗っているときに、ベルトの風車に風を受ける、と考えればどうなるだろう?

愛車サイクロンは、最高時速300km。これは秒速83mだから、本郷の風車も風速83m/sの風を受けることになる。この猛風を受けた場合、発生する電力は1620W。25mのジャンプに必要なエネルギーを蓄積するのに、たった10.6秒しかかからない!

バイクに1時間も乗っていれば、ライダージャンプが実に340回もできるということだ。おお、やっぱりすごいぞ、仮面ライダー!

あの小さな風車で風を受け、そのエネルギーで戦うヒーローが、バイクに乗っていることには、極めて重要な意味があったのだ。もし、そのマシンが車だったら、風を受けられず、大自然のエネルギーで戦うことはできなかっただろう。仮面ライダーは、ライダーであるからこそ強いのだ。

科学的にも納得できる仮面ライダーの風力エネルギー。こんなヒーローを40年以上も前に生み出していたのだから、人間の想像力は本当に素晴らしい!

※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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