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空想未来研究所2.0

マッハ1万5500でバッタが宇宙から飛来! 令和最初の仮面ライダーを支えるエネルギー

『仮面ライダーゼロワン』の変身にかかるエネルギーを考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「通信衛星」。2019年9月に放送が開始された『仮面ライダーゼロワン』では、「ゼア」という通信衛星が変身や戦闘のカギになっている。平和のために戦う“令和最初の仮面ライダー”を支えるエネルギーについて考えてみました。

令和最初の仮面ライダー、ゼロワンの新しさ

今や「AI」という言葉を聞かない日はない。“artificial intelligence”の略で、日本語では「人工知能」。

電気炊飯器からコミュニケーションロボットまで、部屋をぐるりと見回すと、必ずAIを搭載した機器が目に入る。その能力はディープ・ラーニング(経験によって自らの推論アルゴリズムを修正する)によって飛躍的に跳ね上がり、自動翻訳、機械設計、惑星発見などでは既に実用化され、極めて近い将来には、自動運転、CTやMRIの画像からのがん発見、新薬開発での活躍も期待されている。

仮面ライダーシリーズ最新の『仮面ライダーゼロワン』(2019年9月~)では、このAIが物語の柱になっている。さすが平成ライダーシリーズ第21作……いや、“令和”ライダーシリーズ第1作だ。

背景は、人型人工知能搭載ロボ「ヒューマギア」が社会に浸透した時代。社長秘書、警備員、保育士、理容師、美容師、寿司職人、バスガイド、マンガ家のアシスタント、そしてお笑い芸人に至るまでヒューマギアだ。

そんな世界に暗躍するサイバーテロリスト組織「滅亡迅雷.net」は、ヒューマギアをハッキングして「マギア」に変え、人間を襲わせる。それまで人間のためにかいがいしく働いていたヒューマギアがいきなり襲ってくるのだから、衝撃は大きい。もしやこんな近未来も……と思わせるリアリティーがある。

ところが、こんな世界において、いろいろなものがカッ飛んでいる!

まずビックリしたのが、主人公の飛電或人(ひでん・あると)。第1話時点では、お笑い芸人! ライダー史上屈指の意表を突く職業だ。

しかし実は、或人はヒューマギアの大メーカー「飛電インテリジェンス」の創業者・飛電是之助(これのすけ)の孫で、祖父が亡くなったため、その遺言によって社長に就任する。そして社長の専権業務として、是之助が残した飛電ゼロワンドライバーとプログライズキーで仮面ライダーゼロワンに変身し、戦う。社長がライダーに変身するのも、モーレツに新しい!

さらに驚くのは、変身の方法だ。

或人がアイテムをセットして「変身!」と唱えると、飛電インテリジェンスが所有する「通信衛星ゼア」が、或人に向かってレーザーを発射。体長3mはあろうかという巨大なバッタが降りてきて、空中で5つの装甲に分離して体に装着される。

つまり、変身のための装甲が、宇宙から送られてくるのだ。ライダー史上類例のない大掛かりな変身である。さらには、バイクも通信衛星ゼアから送られてくる。この変身とバイク調達には、一体どれほどのエネルギーが必要なのだろうか。

バッタ大暴れ!変身のためのエネルギーと破壊力

「通信衛星ゼア」から或人に向かって発射されるレーザー。これがおそらくは誘導路となって、巨大バッタは降りてきている。地上にズシーン!と降り立つと、あっちへピョンピョン、こっちへピョンピョン、アスファルトを蹴り砕きながら跳ね回る!

ひとしきり暴れると気が済んだのか、装甲になって体に装着。こうして、ゼロワンの基本形態となる姿・ライジングホッパーが登場するのだ。

このライジングホッパーは、他のプログライズキーを飛電ゼロワンドライバーにセットすると、さまざまな形態にもなれる。もちろん、そのたびに通信衛星ゼアからいろいろな動物型マシンが送られてくる。

バイティングシャークになるときは、巨大なサメが空から落ちてきて、川やプールをバシャバシャと跳ね回る。その水深は、明らかに自分の体より浅いのに!

フライングファルコンへの変身では、巨大なハヤブサが羽毛をまき散らしつつ飛来! フレイミングタイガーでは燃え盛るトラが降臨! ライダー史上、最も騒がしい変身である。

中でも問題なのは、やはり最初のバッタだ。アスファルトをぶっ壊して回るのだから。

初登場シーンでは、或人を中心に半径10mぐらいを破壊していた。調べると、アスファルトの補修費用は、安い業者でも1m2当たり5000円。これに被害面積314m2を掛けると、出ました157万円! 変身するだけでこんなに費用のかかるライダーは前代未聞!

そもそも、このバッタを通信衛星から送るために必要なエネルギーとはいかほどか。通信衛星ゼアは、いつも日本上空にいるから、静止衛星と思われる。この場合、最も小さなエネルギーで地上に到達させる方法は、次のようになる。

静止衛星は、地上3万5800kmを秒速3.1kmで回っている。これによって、24時間で地球を1周するので、地上からは宇宙の一点に静止しているように見える。

ここで、バッタを後方に秒速3.1kmで射出すれば、バッタは地球に対して静止して、地球の重力に引かれて落下することになる。或人は体重70kgくらいの青年で、ライジングホッパーの体重は87kg。ここから、ゼロワンの装甲になるバッタの重量を17kgとすれば、これを秒速3.1kmで打ち出すためのエネルギーは、8030万J(ジュール)。液体燃料に換算したら6.0kgだ。

だが、通信衛星ゼアが消費するエネルギーが、これにとどまるとは思えない。バッタは瞬時に飛来するからだ。

上記の方法だと、地上に達するまで4時間7分かかるが、画面で計ると、所要時間はわずかに6.78秒。この短時間で3万5800kmを走破する速度とは、秒速5280km、マッハ1万5500。必要なエネルギーは237兆J。液体燃料にして1万7600t。HⅡ-Bロケット(194.4t。液体燃料のみ)の91機分!

平和のために本社ビルも壊す社長ライダー!

バイクの調達は、さらに大変だ。初登場は第2話で、次のように描かれた。

飛電インテリジェンスの本社ビルで、マギアが暴れる。或人はライジングホッパーに変身するのだが、このときバッタは、吹き抜けになった1階まで、ビルの天井をブチ破って飛来!!!

なぜこうなる!?

筆者の推測を述べると、おそらく通信衛星ゼアは、飛電ゼロワンドライバーから放たれる電波などをもとに、或人のいる場所をピンポイントで割り出し、そこに向かって誘導レーザーを放つのだろう。純真なバッタは、それに従って一直線……ということかなあ。

しかし、被害は大きい。飛電インテリジェンス本社は、50階建てぐらいの高層ビルだから、吹き抜けの天井からビル屋上までにある40階ぐらいの床や天井を次々に突き破ってきたハズ!

それも当然で、237兆Jとは、そのエネルギーを持った物体が地表に激突すれば、直径120mのクレーターを発生させるほどのエネルギーなのだ。

やがて戦いの場は、地下駐車場に移る。マギアが止めてあったバイクで逃げると、飛電インテリジェンス社長秘書でヒューマギアのイズが、ライズフォン(スマホのような機器)でバイクを手配できると言う。

ゼロワンがライズフォンのアプリを押すと、「バイクアプリを起動しました」という音声が出て、通信衛星ゼアから巨大なライズフォンが発射される。地上で「頭上に注意してください」という音声が響いたかと思うと、巨大ライズフォンが天井を突き破って落ちてきた! 飛電インテリジェンス本社ビル、1回の戦いで、2度目の受難!

それでも床には衝突せず、空中に浮かんでいる。ゼロワンがバイクのアプリを押すとバイクに変形し、ゼロワンはそれに乗ってマギアを追う……のはよいのだが、飛電インテリジェンスも、本社ビルの補修に相当な費用がかかっただろう。

ゼロワンを支える通信衛星ゼアの発電能力

このバイク調達に必要なエネルギーは、どれほどか。

ゼロワンのバイクは、ライズホッパーという名前で、乾燥重量148.6kg。バッタの推定重量の9倍に迫る。しかも、通信衛星ゼアから地下駐車場まで、さらに短い4.50秒で到着していた。

ゼアから射出された速度はマッハ2万3800と見られ、エネルギーは4700兆J。これは液体燃料35万t分……というより、わが国最強の富津火力発電所が最大出力516万kW=51億6000万Wで稼働しても、4700兆[J]÷51億6000万[W]=91万[秒]=10日と13時間かかる!

これほどのエネルギーを通信衛星ゼアが供給しているのだから、驚異だ。

通信衛星ゼアは車輪のような円形のモジュールの背後から、2つの長方形のモジュールが鈍角の「V」の字のように突き出している。

発射された巨大ライズフォンと比較して画面で測ると、円形部の直径は40m。長方形部の幅は15m、円形部から突き出した長さは36m。通信衛星というより、宇宙ステーションのサイズだ。

この大きな衛星の表面が、全て太陽光発電パネルで覆われていたと考えよう。現実世界で2025年に目指されている発電効率40%が達成されていたとすれば、1m2当たり544Wの発電が可能になる。前述のサイズなら、太陽に真正面を向けていたとき、受光面積は1960 m2

ここから計算すると、通信衛星ゼアの発電能力は1065kW。これで4700兆Jを生み出すには140年かかる! つまり通信衛星ゼアは、ひとたび巨大ライズフォンを発射したら、次に発射できるのは、140年後。或人のヒマゴのヒマゴぐらいは受け取れるかなあ……。

もちろん、或人は毎週のようにライズホッパーを受け取り、人間とヒューマギアを守っている。太陽光発電をはるかに超えるエネルギー供給システムを搭載しているのだろう。さすが、飛電インテリジェンスが運用する通信衛星である。

第1作の『仮面ライダー』が始まったのは1971年。宇宙との関連は、第68話で死神博士の正体・イカデビルが、隕石を操って野原を火事にするぐらいだった。それから48年がたち、令和最初の『仮面ライダーゼロワン』は、通信衛星から装甲やバイクを取り寄せる。人々の夢が科学を発展させ、それによって生まれた新しい現実が、人々に新たな夢を見せる。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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