空想未来研究所2.0

勇者のパーティー、最強は誰? ダイ、ポップ、マァムの必殺技のエネルギー

『ダイの大冒険』のエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「必殺技」。この秋、再アニメ化やゲーム化で話題となっている『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』(マンガ1989~1996年)の主人公・ダイのパーティーがさく裂させる必殺技を科学的に見たら誰が一番すごいのか。アバンストラッシュX、閃華裂光拳、メドローアのエネルギーについて考えてみました。

勇者パーティーが使う技のエネルギー

主人公が「何か」になろうとして、一直線に突き進む。そんなマンガは、人の心を熱くする。それは、誰しも子どもの頃、「何か」になりたいと思っていたからだろうか。

『ダイの大冒険』は、まさにそんなマンガだった。1991年に放送されたアニメも大人気を博したが、驚いたのは今年10月からリメーク版が放送されていること。29年を経て復活! なんという生命力だろう。

その主人公・ダイがなりたかったのは「勇者」だった。そのために、アバン先生の厳しい修行に耐え、魔法使いポップ、僧侶マァムらと仲間になり、ただ勝つだけではなく、正しく勝つことを目指す。その純粋な意志が、物語を思わぬ方向に展開させた。

物語の開始から十数年前、人々を苦しめた魔王ハドラーを勇者たちが打ち倒した。ところが大魔王バーンの手によってハドラーは魔軍司令としてよみがえる。不死騎団、氷炎魔団、妖魔士団、百獣魔団、魔影軍団、超竜軍団を率い、狙うは地上世界の消滅!

ところが戦いの中で、ダイの生きざまに心打たれる敵が続出。百獣魔団長クロコダインが、不死騎団長ヒュンケルが、超竜軍団長バランが、次々に仲間になっていくのである!

それでも、大魔王バーンの強さは超越的で、ダイたちは何度も絶望の淵に立たされる。だが、決して諦めない。なぜか? 自分は勇者だから!

このようにココロもカラダも熱くなるマンガだから、読み始めたら止まらない。次々に飛び交うオドロキの技!

その多くは魔法や呪文から生まれるのだが、ここはあえて、ダイとその仲間たちの技に、エネルギーの視点から迫ってみよう。迫れるかなあ?

果てしなく遠い勇者への道

勇者への道がいかに険しいか。それは、ダイがアバン先生から受け継いだ「アバンストラッシュ」に表れている。

修行の初日、アバン先生は、高さ4.2m、横幅3m、推定重量64tの大岩を軽々と運んできて、こともなげに言う。「これ剣で割ってください」。渡された剣は一撃で折れ、ダイは自分のナイフで挑む。そして、その日のうちに真っ二つに割った。これぞアバン流刀殺法・大地斬!

おお、これは、科学でイケる! と喜んだのもつかの間、残念ながら正確な値は出せない。

岩を「砕く」には1kg当たり100Jのエネルギーが必要と言われるが、「真っ二つに割るためのエネルギー」を求める公式や目安は存在しないのだ。

それでも雄々しく前に進むために、「真っ二つに割るためのエネルギーは砕くエネルギーの半分」という作業仮説を立てると、砕くためのエネルギーは640万J、割るためのエネルギーは320万J。ナイフの重さを300gとすると、振った速度は時速1万6600km、マッハ13.6! これができれば十分じゃん!

という気もするが、勇者への道はそんな甘いものではない。3日目、アバン先生は巨大な竜に変身して、ダイに炎を噴きかけてくる。これを防ぐには、水や炎のように形のないものを斬るアバン流刀殺法・海波斬(かいはざん)しかない。ダイはその存在を知るだけだったが、やってみたら、炎が真っ二つに切れた!

アバン先生は、大地斬は「力の技」、海波斬は「スピードの技」と言っていたから、海波斬の速度はマッハ13.6を超えるのだろう。仮にマッハ20だとすると、先端角5.7度のクサビ形をした衝撃波が発生する。それは炎をも両断できるだろう。おお、これも科学で何とかなった!

だが、ここで魔軍司令ハドラーが出現し、アバン先生は倒されてしまう。怒りに燃えたダイの額に「竜の紋章」が浮かび上がる!

大地斬、海波斬をマスターしたダイは、アバンストラッシュ! それは右手で逆手に持った剣を左上に振り上げる技。ハドラーは両腕を切断されて去って行った。

ところが、戦いの旅に出たダイは、当時はまだ敵だったヒュンケルにこう指摘される。

「お前のはとんだまがい物だ!」

真のアバンストラッシュを放つには、悪のエネルギーを正義のエネルギーで断つ空裂斬をマスターしなければならないという。悪や正義となると科学は完全にお手上げ! それにしても、勇者への道はなんと遠いことか……。

アバンストラッシュ完成の先に道があった!

アバンストラッシュが未完成なまま、ダイは氷炎魔団長フレイザードと対峙する。その戦いの中で、ダイは空裂斬に目覚め、完成したアバンストラッシュでフレイザードを倒した。やったな、ダイ!

だが、道はこれで終わりではなかった。

仲間となったノヴァが、アバン先生が残した書物の中に、重大な記述を見つける。アバンストラッシュには2つのタイプがあったのだ。剣にためた闘気を飛ばして離れた敵を斬るA(アロー)タイプと、全闘気ごと体当たりして斬りつけるB(ブレイク)タイプが。文字の読めないダイは、これを意識せずに使っていた。

だが、おかげでダイは、新しい技を着想する。左上に剣を振ってAタイプを放ち、それが敵に到達すると同時にBタイプで右上から斬りつける。これにより相手は「X」字型に斬撃を受ける。故に名づけてアバンスラッシュX(クロス)! これでダイは超魔生物化して強化されたハドラーを倒した。

そのすさまじさは、ノヴァを相手に試し斬りしたシーンに表れている。直径50cmはあろうかという大木が、森の奥まで何本も切り倒されている。目測で40本ほど。実験から計算すると、これに必要なエネルギーは1億2500万J。大地斬の39倍である!

このとき使った剣は、「伝説の名工」と呼ばれる魔族のロン・ベルクが、伝説の金属・オリハルコンから打ち上げた「ダイの剣」。通常の剣より重いと言われていたので、日本刀の2倍の2kgだったとすると、ダイが振った速度は時速2万8400km=マッハ23.2である!

マンガの描写から、アバンストラッシュXを完成させたのは、大地斬を放ってから数カ月後。この短期間で、7倍近い(300g→2kg)剣を、1.7倍(マッハ13.6→マッハ23.2)も速く振れるようになったダイ。キミこそ、勇者だ! 科学も絶好調!

回復呪文で攻撃するマァムのすごさ

僧侶マァムが会得した技も恐るべきものだった。

マァムはアバン先生から、弾丸の代わりに魔法を打ち出す「魔弾銃(まだんガン)」を受け継いでいたが、激闘の中で壊れてしまう。そこでマァムは自ら強くなるべくブロキーナ老師のもとで武神流拳法を修行する。そこで会得したのが閃華裂光拳(せんかれっこうけん)だ。

老師は説明する。「水をやりすぎると草木も枯れるように、過度の回復系魔法力は生体組織を破壊してしまう。古(いにしえ)の人々はそうした強力すぎる回復呪文を『マホイミ』と呼んで恐れた(要約)」と。

ブロキーナ老師は、武神流拳法のインパクトの瞬間に爆発的な威力を生み出してマホイミと同じ効果を得る極意を編み出したという。それが閃華裂光拳!

なんと科学的なのか。人間が傷を受けると、次のようなシステムが発動する。

①血液が凝固して傷口をふさぐ。
②白血球が侵入した細菌や、死んだ細胞を食べる。
③肉芽と呼ばれる組織が応急的に傷口を覆う。
④本来の皮膚に覆われ、肉芽は消失する。

これによって、皮膚の傷なら1週間から10日で完治する。これらの生理作用には酸素や栄養分が必要だから、回復呪文を使うと、おそらく呼吸も心拍も速くなるだろう。それを過度に行うのは、確かに危険である。

閃華裂光拳は、それを逆用して相手を攻撃しようというのだ。マァムは脂汗を流して「恐ろしい技だわ!」と言っていたが、科学で考えると、その恐ろしさがまざまざと伝わってくる。

例えば、閃華裂光拳が、本来なら回復に1週間かかる傷を治すような作用をするとしよう。1週間=7×24×60×60=60万4800秒だから、老師の言う「インパクトの瞬間」が0.1秒なら、回復のスピードは604万8000倍!

心臓は1つで全身に血液を送っているから、傷口の血流だけを多くしたりはできない。すると呼吸も心拍も604万8000倍。確実に死ぬって!

この驚異の現象を起こすのに必要なエネルギーを、科学で考えてみよう。

人間は、全く動かなくても「基礎代謝量(生命を維持するために1日に必要なエネルギー)」を消費する。本来なら治癒に7日かかる傷を治すには、7日分の酸素と栄養分が必要だろうから、エネルギーも基礎代謝量の7日分が必要であろう。基礎代謝量は、次の式で求められる。

【 基礎代謝量[kcal/日]=基礎代謝基準値[kcal/kg/日]×体重[kg] 】

マァムは、閃華裂光拳で身長6m、体重5tはあろうかという敵・ザムザを倒した。ザムザの基礎代謝基準値が18~29歳の男性と同じなら24.0[kcal/kg/日]。これに体重5000[kg]と7日をかけると、84万kcal。

ダイとの比較のために[J]に直すなら、35億J。われらの勇者(1億2500万J)を28倍も上回った~!

高温と低温をスパークさせて消滅させるメドローア

魔法使いポップが体得したのは「メドローア」である。左手に火炎(メラ)系、右手に氷(ヒャド)系の呪文を発動させ、弓を引くような体勢を取ると、手から光が放たれ、あらゆる物質が消滅する!

伝授した大魔導士マトリフは、その原理をこう説明していた。「プラス方向に魔法力を上げると、物質の構成分子の運動が高まり、火炎系呪文になる。逆にマイナス方向に下げたものが物質の運動を鈍らせる氷系呪文だ。このプラスとマイナスの魔法力をスパークさせたエネルギーこそが、すべての物質を消滅させる最強の力なんだ」。

おお。まさに科学と魔法がスパークしている!

分子の運動が激しくなれば温度が上がり、運動が穏やかになれば温度が下がる。これは科学でも同じだが、科学では温度の高いものと低いものが合体すると、両者の間の温度になる。しかし、魔法力の場合は、プラスとマイナスが出合うと、スパークして全ての物質を消滅させる最強の力になるという!

これはもう、原理の解明は諦めて、メドローアが起こした現象だけを考えよう。ポップが敵に向かってメドローアを放つと、山が「U」の字にえぐられた。おそらく、そこにあった岩石が消滅したのだろう。

完全に目測になってしまうが、消滅した岩石は3万4000tほどと見られる。これに科学で迫るなら、「現実世界で同じ現象を起こすには、どれほどのエネルギーが必要か」を考えることになるだろう。エネルギーを与えて山の一部を瞬時に消滅させるとしたら、蒸発させる以外にない!

岩石の主成分の一つである二酸化ケイ素は、1650℃で溶け、2230℃で沸騰する。この物質1kgを20℃の状態から2230℃に加熱した上に、全て蒸発させるためのエネルギーは、ごく大ざっぱに計算して560kcal。3万4000tで190億kcal。

ダイとの比較のために[J]に直せば80兆J。われら勇者の64万倍!

科学で魔法に迫る。無謀で無意味な試みのようにも見えるが、そこで起きる現象が現実を超えていればいるほど、人は「どうなっているの?」「どうすれば可能なの?」と思わずにいられない。それこそが科学の始まりだ。

魔法は科学を誘惑し、科学の手が届きそうになると、巨大な翼を羽ばたいてさらなる高みに舞い上がる。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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