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人を吸い込む掃除機を作るなんて…ばいきんまんの天才的な発明品

『ばいきんまんの発明品』のエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「ばいきんまんの発明品」。日本が誇る人気アニメシリーズの一つ『それいけ!アンパンマン』(1988年~)の悪役・ばいきんまんが生み出してきた数々の発明品について、エネルギーの視点から考えてみました。

あのUFOを作るバイキンマンはただ者ではない

“ヒーローもの”には、悪役が欠かせない。そのキャラが立っているほど、物語は盛り上がる。中でも分かりやすいのは、この人だろう。

『それいけ!アンパンマン』のばいきんまん!

バイキンUFOでやって来て、子どもたちのお菓子を横取りするなど悪事を働き、「やめるんだ、ばいきんまん!」と制止するアンパンマンの顔を汚して一時は優位に立つが、新しい顔をもらって元気100倍になったアンパンマンにアンパンチを食らい、「バイバイキーン」と悲鳴を上げて空の彼方へ消えていく。

なんと、そのキャラと物語のパターンが、たった一文で説明できてしまう。こんな悪役、他にいるだろうか。

だが、ばいきんまんは、悪事に精を出すだけではない。公式サイト『それいけ!アンパンマン』の「なかまのしょうかい」で、こう紹介されている。

《アンパンマンを たおすために バイキンせいから やってきた。じぶんでは てんさいかがくしゃだと おもっているが、へんなものばかり つくってしまう。たべものが だいすきで、すぐに よこどりを しようとする。きれいな ものが だいきらい。》

なんと、自称とは言え、天才科学者なのだ。

公式サイトは「へんなものばかり つくってしまう」と否定的だが、とんでもない。例えば、おなじみバイキンUFOだ。

水平飛行や垂直離着力はもちろん、ホバリング(空中に停止)もできるし、ジグザグ飛行も宙返りも可能。これだけの動きをレバー1本で操作する!

しかも、音がほとんどしない。現実世界でホバリングできる乗り物といえば、ヘリコプターや垂直離着陸機。これらはモノスゴイ音がするから、恐るべき科学力である。

その上、下部からマジックハンドを出して、巨大なトンカチや虫捕り網などをブンブン振り回す。それ、小さなバイキンUFOのどこに入っていたの!? ひょっとして、質量保存の法則を超越しているのでは?

もはや断言していいだろう。ばいきんまんは天才だ!

今回は、ばいきんまんがいかに天才であるか、エネルギーの観点から考えてみよう。

ばいきんまんはエジソンより天才

ばいきんまんの科学力を検証するために、手元にある『それいけ!アンパンマン』のDVD3本、合計18話(※1回の放送を1話としてカウント)を鑑賞した。

これに登場した機器の中で、市販されていないもの、すなわち、ばいきんまんが発明したと思われるものは、次の通りだ。

①バイキンUFO
②ドキンちゃんUFO
③巨大な鉄のトンカチ
④巨大な木のトンカチ
⑤屋内の会話を盗聴する聴診器
⑥小型メカのカメラで捉えた映像を送受信する装置
⑦人々を吹き飛ばす扇風機
⑧人々を吸い寄せる掃除機
⑨自動的に伸びて人々を縛る縄
⑩小柄な人々を捕らえるシャボン玉発生装置
⑪捕獲網発射装置
⑫煙玉
⑬巨大なクラッカー(破裂音とともに紙テープを打ち出す)
⑭雲発生装置
⑮ロケットパンチ
⑯ハサミ式のマジックハンド
⑰化石の魔王を探す探知機
⑱放水機
⑲汚水発射装置
⑳飛び回って攻撃する風船
㉑大砲
㉒踏みつぶす巨大ロボット
㉓冷気を吐く巨大ロボット
㉔バイキンUFOが巨大ロボットに変形
㉕1人を3人に増やす3倍マシン

たった18話で25種類も!

『それいけ!アンパンマン』は、2020年には1500話を超えたというから、ひょっとしたら全部で1500÷18×25=2083種類ぐらいあるのかもしれない。あのエジソンでさえ、発明品は生涯で1300点といわれるから、その1.6倍! 恐るべき天才だ。

そして、ばいきんまんは、状況に応じてバイキンUFOからいろいろなものを取り出す。

いずれも巨大な卓球ラケット、バット、けん玉、テニスラケット、フライパン、お玉、長刀、虫捕り網。普通サイズの鳥籠、漁網、投げ縄、釣りざお、ワイパー、スピーカー、サーチライト、ハエたたき、吸盤の付いた弓矢、着火器、水の入ったタライ。

こんなにいろいろなものが必要に応じて出てくるということは、全て普段から持ち運んでいるのだろうか。バイキンUFOの格納庫は、どうなってるの!?

天才ばいきんまんの発明!ホバリングの驚異

数々の発明品の中で、まず驚くべきは、やはりバイキンUFOだろう。あの機体で、ホバリングできるのがすごい。

周囲のモロモロと比べると、ばいきんまんの身長は触角も入れて1m50cmほどと思われる。そのばいきんまんと比較すると、バイキンUFOは全高2m40cm、直径2m35cm。

この大きさなら、特別な軽量化をしていない限り、おそらく軽乗用車(600~900kg)よりは軽く、750ccの大型バイク(170~280kg)よりは重いと思われる。ここでは500kgと考えよう。

この機体を空中に浮かべておくには、何らかの方法で、重力に対抗する500kgの力を上向きに出さねばならない。ヘリコプターはローターを回す「揚力」で、垂直離着陸機は燃焼ガスを下向きに噴射する「反作用」で重力に対抗しているが、冒頭に書いたように、これらはモノスゴイ音がする。

気球や飛行船は空気の「浮力」で浮かんでいるが、これには大きな体積が必要だ。バイキンUFOのサイズで、音もなく浮かぶとしたら、「反重力」など、架空の原理を応用するしかないが……。

ところが、バイキンUFOは、壊れたり故障したりすると、煙をバスンバスン出しながら、よろけるように飛んでいく。どうやら、ガソリンなど石油系燃料で動くエンジンを積んでいるらしい。それで反重力!? やはり、ばいきんまんは天才だっ!

天才ばいきんまんの発明!トンカチの驚異

続いて驚くのは、バイキンUFOの機体の下からピンク色の手袋をはめたようなマジックハンドが出てきて、巨大なトンカチなどを振り回すこと。

バイキンUFOと比べると、トンカチは直径1m80cm、長さ2m13cm。内部まで詰まった鉄の塊なら、重さはなんと42.4t。新幹線(N700S系は1両平均44t)ぐらい!

これを支えて宙に浮いていられるとは、いよいよ恐るべきホバリング能力だ。ひょっとしたら、トンカチにもホバリング能力があるのかもしれない。

それでも問題がある。これほど重いものを動かすと、作用反作用の法則でバイキンUFOも動くはずなのだ。動く距離は重量に反比例する。

ここでは簡単に考えるために、マジックハンドの重量を無視しよう。トンカチの重さはバイキンUFOの85倍だから、バイキンUFOの方が85倍も大きく動くはず。

例えば、右に向かってトンカチを5m動かそうとすると、トンカチは右へ6cmしか動かず、バイキンUFOが左へ4m94cmも動いてしまう!

ところがアニメでは、バイキンUFOは微動だにしない。すると、実際には、バイキンUFOはトンカチの100倍ほど重い4000tぐらいあるの!?

そうでないとしたら、科学を超越した方法で、バイキンUFOを空中に固定しているとしか考えられない。それができるなら、ホバリングなどカンタンだろう。いよいよ、ばいきんまんは天才だっ!

仕事率に目を張るばいきんまんマジックハンド

しかも、トンカチの動くスピードが半端ではない。測定は難しいが、プロ野球選手のバットスイングぐらいの時速150kmは出ていそうだ。

42.4tの物体がこんなスピードでぶつかってきたら、一大事。そのエネルギーは、3680万J(ジュール)で、車重1tの乗用車が時速977kmで激突するのと同じ!

アンパンマンは、このトンカチで殴られて、顏がへこむだけで済んでいたが、どんだけ頑丈なアンパンなのか。これを振り回すマジックハンドも侮れない。「振り回す」という動作で、42.4tのトンカチを時速150kmに到達させるのだから。

このようなケースで注目すべきは「仕事率」だ。

【仕事率=エネルギー÷時間】

で定義され、単位は「W」(ワット)。工学では「出力」や「パワー」ともいう。

マジックハンドがトンカチを5m振り回す場合を考えよう。その半分の2.5m動かしたところで時速150kmに到達させるとしたら、その所要時間は0.12秒。するとマジックハンドの仕事率は…

【3680万[J]÷0.12[秒]=3億700万[W]=30万7000[kW]】

戦艦大和のエンジン(11万kW)の3倍近く、小型の水力発電所並み!

軽乗用車より小さな機体で、こんなパワーが出るとは、ばいきんまんは大天才だっ!

超天才の大悪事!村を凍らせるロボットの驚異

ばいきんまんは、いつもこまごまとした悪事を働くが、『カレーパンマンとひなた村』では、大きな被害を出した。

おいしい野菜の取れるひなた村に、口から冷気を吐く巨大ロボットに乗って現れ、ポカポカ日の当たっていた畑を凍りつかせてしまったのだ!

アンパンマンとカレーパンマンは、ダブルパンチでロボットを空の彼方まで殴り飛ばし、氷も解けて、ひなた村には平和が戻ったが、村の畑を凍りつかせるとは、どれほどのエネルギーが注ぎ込まれたのか。

畑は厚さ10cmほどの氷で覆い尽くされていた。村は山間にあり、それほど広くはなかったので、面積を1km2とすると、村を覆った氷は9万1700tだ。

おそらく、ばいきんまんは、空気中の水蒸気を冷やして、氷にしたものと思われる。その日の気温を25℃、湿度を50%とすると、9万1700tの水蒸気を含む空気は、79億7000万m3になる。もちろん、水蒸気だけをピンポイントで冷やすことはできないので、同時にこれだけの空気も冷やしたはずだ。

氷の温度を-10℃とすると、これには、空気から593兆Jの熱を奪う必要がある。所要時間を計ると1分50秒だったから、仕事率は54億kW。日本最大級の発電能力を持つ富津火力発電所(516万kW)の1040倍。こんな冷凍装置を作れるなんて、ばいきんまんは超天才だ!

吹くより吸う方がすごい!人を吸い込む掃除機の驚異

だが、これを上回るパワーを有する発明品がある。「人々を吸い寄せる掃除機」だ。

「えっ、村を凍結させる巨大ロボより、掃除機がパワフル?」と、意外に思われるかもしれないが、その理由は、「人々を吹き飛ばす扇風機」と比べると明らかになる。逆のことをやっているだけで、似たようなものというイメージだが、両者は全く違うのだ。

ティッシュを細かくちぎって机にばらまき、吹き飛ばしてみていただきたい。これは簡単にできる。では、同じ距離から吸い寄せることは?

実は、こちらは極めて難しい。気管に入るといけないので実践は思いとどまっていただきたいが、口をよほどティッシュに近づけても、口のすぐ前にある1枚を吸い込むのがやっとだ。

これは、「吹き飛ばす」が「風を起こし、風の力で動かす」であるのに対して、「吸い込む」は「口の前の気圧を下げ、周囲の空気を集める」だからだ。

口から吹き出す風は狙ったものに当てられるが、吸い込む口には周囲の空気が四方八方から集まって来るので、狙ったものだけを吸い寄せることはできない。掃除機がゴミを吸い込めるのは、ヘッドと床の間の狭い空間の空気を集めるからだ。

だが、ばいきんまんの掃除機は、遠く離れた人々をも平然と吸い込む。ある回では、10mほど離れたホラーマン(体が骨だけでできたキャラクター)が吸い込まれそうになっていた。

おそらく常軌を逸して大量の空気を吸い込んだため、ホラーマンのいる10m地点でも、空気が猛烈な速度で掃除機に向かって集まっていたのだろう。

台風のとき「風速40m/秒の風が吹くと、人が飛ばされる」と言われる。10m地点でこれと同じ速度で空気が集まっていたとすると、掃除機が吸い込んだ空気は毎秒5万m3。高校の体育館の標準規模のものが容積5600m3だから、その9杯分! それだけの空気を1秒で!

空気もこの体積になると、60tの重量になる。そして、掃除機の吸気口に近づと、空気が集まる速度は、距離の2乗に反比例して速くなる。

距離10m=風速40m/秒
距離5m=風速160m/秒
距離2.5m=風速640m/秒=マッハ1.88
距離1m=風速4000m/秒=マッハ11.7

吸気口が直径10cmだとすると、その直前では風速640万m/秒=マッハ1万8800!

毎秒60tもの空気をこんなスピードで吸い込む掃除機の仕事率は、1240兆kW。富津火力発電所の2億4000万倍。ばいきんまんは、超絶天才だあ!

お菓子を横取りしたり、花畑を荒らしたりしては、正義のヒーローに懲らしめられる悪役。だが、その小さな悪事の陰には、恐るべき科学力が隠されている。どれか一つでも、みんなのために役立てれば、どれほど感謝されるだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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