仮面ライダーWを支える風都と風のエネルギー／風都探偵

仮面ライダーWが守る「風都」とは

マンガ『風都探偵』は、特撮ドラマ『仮面ライダーW』（2009～2010年）の続編だ。主人公は、私立探偵の左翔太郎とフィリップ。人間を超人化する「ガイアメモリ」を製造し、高値で売りつける秘密組織「ミュージアム」を2人が瓦解させるまでが『W』であり、その後も残ったガイアメモリによって起こる事件を解決していくのが本作である。

特筆すべきは、変身のシステムだ。翔太郎とフィリップは、なんと2人で1人の仮面ライダーWに変身する！

どちらか（たいていは翔太郎）が変身を決意して腰にベルトを巻くと、遠くにいるもう一人の腰にもベルトが現れ、それぞれがガイアメモリをセットすると、先にベルㇳを巻いた方がWに変身。つまり、一緒にいなくても変身できる！

面白いのは、後でベルトが巻かれた方は、意識が仮面ライダーWの体に飛ぶため、その場で気を失って倒れること。極めて危険だが、特に『風都探偵』では、2人のヒロインのどちらが「倒れるフィリップを受け止めるのがうまいか」が問題となるなど、ストーリーに深みを与えていた。

変身システムも気になるが、ここでは、舞台となる風の街「風都（ふうと）」のエネルギー問題を考えたい。

風都はいつも風が吹いていて、風力発電機がいくつも立っており、街じゅうの至る所で大小の風車が回っている。

ランドマークの風都タワーは電波塔でありながら、巨大な風車が回っていて、風力発電の機能も併せ持つ。まさに風の都というイメージだ。初期の仮面ライダーたちがベルトの風車に風を受けて変身していたのを懐かしく思い出す。

この光景を見て、筆者はふと思った。風都は、全ての電力を風力発電で賄っているのではないか。『W』でも『風都探偵』でも、そう言われているわけではない（と思う。共に全編は確認できていない）が、もしそうだとしたら、一体どれほどの風車が必要なのだろうか。

風都の暮らしに必要な電力

それはもちろん、街の規模にもよる。

風都は、電波塔があるほどだから決して小さな街ではないだろうが、『風都探偵』で翔太郎が「街の全ての路地を知っている」と言っていたから、それほど大きな街ではなさそうだ。ここでは、人口10万人と仮定しよう。その場合、どれほどの電力が必要なのか。

本題に入る前に「電力」と「電力量」の違いについておさらいしておこう。

電力とは、1秒間に発電・消費した電気エネルギーのこと。単位は［W］や［kW］。電力量とは、ある期間に発電・消費した電気エネルギーの総量のこと。単位は［kW時］。ランニングに例えれば、「電力は走る速度」「電力量は走った距離」ということになる。

ここで考えたいのは、電力の方。発電システムの能力を表すのはこちらだからだ。

資源エネルギー庁によれば、2020年度の全国の電力需要量は、8209億kW時。

2020年度には、うるう年（2020年）の2月が含まれないので、1年＝24×365＝8760時間。すると全国の消費電力は、平均で8209億［kW時］÷8760［時間］＝9371万［kW］だったことになる。

2020年の日本の人口は1億2622万7000人だったから、1人あたり0.7424kWだ。すると、風都の人口が10万人だった場合、必要な電力は7万4240kWになる。

これは中規模の水力発電所ぐらい。同じ電力を風力発電で供給するには、どれほどの風車が必要なのだろうか。

風都を支える風力発電機の数

風力発電機は、風の運動エネルギーを電気のエネルギーに変える装置で、次の3つの関係がある。

（1）風車を通過する風の断面積＝円周率×風車の半径²
（2）風車を1秒間に通過する風の質量＝風の断面積×風速×空気の密度
（3）風車を1秒間に通過する風のエネルギー＝1／2×風の質量×風速²

この3つをまとめるとこうなる。

風車を1秒間に通過する風のエネルギー＝1／2×円周率×空気の密度×半径²×風速³

つまり、風のエネルギーは、風車の半径の2乗に比例し、風速の3乗に比例することになる。半径が2倍、3倍、4倍なら、エネルギーは4倍、9倍、16倍で、風速が2倍、3倍、4倍なら、エネルギーは8倍、27倍、64倍！

風の強い場所に大きな風車を立てるのは、そのためだ。

ただし、風力発電機は、風のエネルギーの全てを電気に変えられるわけではない。もしそれが可能なら、プロペラの後方は全くの無風ということになるが、それはあり得ない。プロペラは、風が吹き抜けることで回るからだ。

風力発電の発電効率（風のエネルギーを電気に変えられる割合）は、理論上の最大値が59.3%。効率だけを追求すると、プロペラの損傷や騒音などの問題が発生し、摩擦などの損失もあるため、実際には30～40％になるという。

具体的に計算しよう。

気温20℃のとき、空気の密度は1.204kg／m³。風力発電機のプロペラは、標準的なもので直径74ｍ（半径37ｍ）。

問題は風速だ。風都はいつも風が吹いているが、風車がカラカラ回るぐらいの風で、それほどの強風ではない。ここでは、風速5ｍ／秒（小枝が絶えず動く）としよう。地上にこのような風が吹くとき、プロベラの高度では風速10ｍ／秒ぐらいの風が吹いている。

これらの数値を基に、発電効率を中間値の35％で計算すると、1本の風力発電機で発電できる電力はこうなる。

発電機1本の電力＝1／2×3.14×1.204［kg／m³］×37［m］2×10［m／秒］³×0.35
＝90万5700［W］
＝906［kW］

これで風都を支える7万4240kWを生み出すには、82本の風車が必要だ。

ちょっと多い気もするが、これは地上の風速が5ｍ／秒のとき。上空の風速が地上の2倍だとすれば、風速6ｍ／秒のとき、必要な風車は47本、風速7ｍ／秒なら30本、風速10ｍ／秒なら10本。恐るべし、「風速の3乗に比例する」の法則！

街じゅうで回っていた大小の風車も発電しているとすれば、もっと少なくて済むだろう。なんと、いつも風が吹いている風都なら、風力発電だけで十分に賄えるということだ。

仮面ライダーWが放つ光のエネルギー

せっかくの仮面ライダー作品なのに、ライダーのエネルギーに触れずに終わるのはもったいない。

『風都探偵』で、仮面ライダーWは驚異のエネルギーを発揮した。相手は猛烈な高熱を放ち、装甲も堅牢なリアクター・ドーパント。そのときWはヒートトリガー（右半身が熱に強いヒート、左半身が射撃に優れるトリガー）というフォームになっていた。

その銃に「エネルギーを収束する」ガジェットを装着し、ドーパントの体を狙って撃つと、その反動でWはアスファルトをズガガガガと削りながら後退したのである！

これはスゴイ。アスファルトの道路は、1cm²あたり30kgの荷重に耐えるように施工される。マンガの描写では、削られた厚さは3cmぐらい。幅はWのブーツの幅よりやや広い15cmほどだろう。

アスファルトが横向きにも1cm²あたり30kgに耐えられるとしたら、Wの足がアスファルトに与えた力は、片足で1.35ｔ、両足合わせて2.7ｔだ。逆に作用・反作用の法則で、Wは2.7ｔのブレーキ力を受けたことになる。後退した距離は1ｍほどだろうか。

2.7ｔものブレーキ力を受けながら止まるまでに1ｍも後退するとは大変なことだ。計算すると、体重95kg（公式発表）のヒートトリガーと、重量2kg（筆者の仮定）のトリガーマグナムが、撃った反動によって秒速23.4ｍ（時速84㎞）で後方にぶっ飛ばされたことになる！

これほどの反動を生む銃とは、どんな威力なのか。弾丸の重量がライフル弾の最大クラスと同じ32.4ｇとすれば、発射速度は秒速6万9950ｍ＝マッハ206！　あまりに強力な銃である。

弾丸のエネルギーは7930万Ｊ。TNT爆薬は1kgあたり400万Ｊのエネルギーを放つから、同爆薬20kg分。さすがのリアクター・ドーパントも、装甲の一部を破られて援軍を呼んだが、当然だろう。

そういえば、弾丸のエネルギーを「収束する」とはどういうことか。不思議に思って調べると、トリガーマグナムは、「光弾を放つ」という！　なんと、弾丸ではなく光弾!?　光を放ってその反動!?

感覚的にも分かるように、光を放つ反動はわずかなものだ。それでアスファルトが削れたなら、ものすごいエネルギーだったはずである。それを求める式は次の通り。

光弾のエネルギー＝射手の質量×速度×光速
＝97［kg］×23.4［ｍ／秒］×3億［ｍ／秒］
＝6809億Ｊ

爆薬にして170ｔ分の威力！　それで装甲が一部しか破られないって、どういうコト!?

平和利用を目指すなら、ぜひこれで発電するシステムを作ってほしい。1kW時＝360万Ｊなので、6809億Ｊ＝18万9100kW時。風都が必要とする7万4240kWを2時間33分にわたって供給できる。風の弱い日は発電用にバンバンぶっ放してもらいたい。

自然のエネルギーだけで平和に暮らせる街。人類の夢である。しかもその源流は、半世紀もさかのぼる、自然のエネルギーで変身するヒーローにあると筆者は見る。この着想と展開のリレーは、未来まで連綿とつながり、われわれに新たな、あるいは懐かしい夢を見せてくれるのだろう。人間の想像力は本当に素晴らしい！

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります