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空想未来研究所2.0

加速のエネルギーは2兆ジュール超え!? 脇役たちの霊術がすごい/BLEACH

『BLEACH』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「霊術」。この秋、最終章がついにアニメ化される大人気マンガ『BLEACH』(2001~2016年)。今回はメインキャラクターたちではなく、ストーリーを彩る脇役たちにフォーカスし、名シーンの数々をエネルギーの観点から考察してみました。

規格外の能力を操る脇役たちから目が離せない

『BLEACH』は、2001年から2016年まで続いたマンガだ。空座町(からくらちょう)、尸魂界(ソウル・ソサエティ)、虚圏(ウェコムンド)などを舞台に、死神、滅却師(クインシー)、破面(アランカル)、そして人間たちが、想像を絶する戦いを繰り広げた。

それだけに、多数の登場人物たちが、多彩な個性を発揮して、物語を豊かにしてくれた。

中でも筆者が猛烈に引かれるのが、夜一(よるいち)さんだ。

普段は黒猫の姿をしていて、「儂の授業はちと厳しいぞ」などと古風な話し方をするが、正体は小麦色の肌をした若い女性。姿が変わっても話し方は同じ! アニメでは、声は変わるけど。

尸魂界の四代貴族・四楓院家の22代目にして初の女性当主であり、かつて隠密機動総司令官および同第一分隊「刑軍」総括軍団長を務めていた。身のこなしが猛烈に速く、死神たちから「瞬神」と畏怖されている。

しかし、その「かつて」というのが100年以上前! あの若々しい外見で、実際はどんなに若くても100歳以上! 死神たちはみんな非常に長生きだが、特に夜一さんの外見と実年齢を考え合わせると、アタマがクラクラする。

今回は、夜一さんをはじめキャラの際立つ脇役たち3人に、エネルギーの観点から迫ってみよう。

100mを2秒台で走れる“瞬神”の実力

夜一さんの強さを際立たせたのは、砕蜂(ソイフォン)である。

この人も若い女性の姿で、現・隠密機動総司令官および「刑軍」総括軍団長。かつては夜一さんの部下で、彼女を神のように崇拝していた。アニメでは、砕蜂が「いつまでもお側でお守りします」と言うと、夜一さんも「ああ、約束じゃぞ」と言っていた。

ところが100年前、夜一さんは罪を犯して失踪。その職責を継いだ砕蜂は、職務上はもちろん、「自分は置いて行かれた」という感情からも、夜一さんの捕縛を誓ってきたのである。

夜一さんと相対し、砕蜂が抜刀すると、刑軍の刺客30名ほどが現れ、2人を囲む。砕蜂は言う。「刑軍軍団長の抜刀は即ち処刑演武の開始を表す。軍団長の名を捨てた貴様に…逃げ道はないぞ、夜一!」。

しかし直後、夜一さんは全員を倒す。マンガではたった1コマで! アニメではわずか8.8秒で! あんなにすごそうな雰囲気で出てきたのに! アニメの「8.8秒」で考えると、人数が30人なら、1秒で3.4人を倒したことに!

しかも、刺客たちは平均10mほどの間隔で立っていたから、夜一さんは少なくとも300m移動したはず。そのスピードは時速123km、100mのタイムは2秒93! さすが、瞬神!

一瞬で地面をえぐり取る夜一の戦闘術

だが、砕蜂も100年の間、技を磨き続けていた。

優位に立った砕蜂が「とどめだ」と宣言すると、その体が渦巻く霧に包まれる。砕蜂は言う、「これは白打(体術・素手での戦闘術)と鬼道を練り合わせた戦闘術でな。私が作り上げたものだ。(中略)まだ名前すらついておらぬ」。

それを「名ならある」と遮る夜一さん。その名も「瞬閧(しゅんこう)」。続けて、「軍団長の戦闘服は瞬閧を出すためにデザインされている」と告げる。つまり、夜一さんは100年前、既に同じ技を完成させていたのだ!

夜一さんの体から、白い稲妻のようなものが四方八方に放たれる、足元の地面が砕けて破片が上昇する。やがて、大爆発! 煙が晴れると、砕蜂と夜一さんが立っている場所を残して、地面が深々とえぐられていた……。

「白打と鬼道を練り合わせる」というのが、どういうことなのかは科学では分からないが、エネルギーは計算できる。アニメの画面から推測すると、えぐられた領域は左右6m、前後40m、深さ1.5mほど。ここから計算すると、破壊された岩石は970t=97万kgになる。

岩石1kgを砕くには100J(ジュール)のエネルギーが必要で、その分だけで9700万J。爆薬24kg分!

さらに、辺りには岩石の破片が一切見られないから、かなり遠くまで吹き飛ばされたとみられる。物体を飛ばすための最小のエネルギーは、次の式で求められる。

エネルギー[J]=1/2×質量[kg]×重力加速度[m/秒2]×距離[m]

重力加速度とは、重力の強さを表す数値で、地球の場合は9.8[m/秒2]。平均して100m飛んだと仮定すれば、エネルギーは最低でも1/2×97万×9.8×100=4億7530万J。爆薬120kg分であり、破壊に必要なエネルギーの5倍! 合計は5億7230万Jで、爆薬144kg分!

しかし、砕蜂も独自に同じ技を編み出したわけである。100年も修業すると、恐るべきことができるのだなあ。

一護もNASAも真っ青の打ち上げ花火

心に残る脇役の2人目は、志波空鶴(しば・くうかく)だ。20代後半ぐらいの女性の姿で、流魂街(るこんがい)で一番の花火師である。

ご存じない方のために、少し背景を説明しよう。

死者が送られる尸魂界は、中央に貴族や護廷十三隊の住む瀞霊廷(せいれいてい)があり、その周りに死者が最初に送られる流魂街がある。瀞霊廷は高い壁に囲まれ、東西南北の4つの門は、堅く守られている。

主人公・黒崎一護たちは、死刑が決定した朽木ルキアを救うために、夜一さんに案内されて瀞霊廷を目指すが、西の門からの潜入に失敗。隣の門までは歩いて10日もかかるので、夜一さんは旧知の空鶴を訪ね、花火で瀞霊廷の中に撃ち込んでもらうことにしたのである。

その発射シーンはド迫力だった。打ち上げ用の筒「花鶴大砲」は、近くに立っている空鶴(公式設定身長170cm)と比較すると、直径4m、高さ60m。一護たちはその基部に入り、霊力で自分たちを包む砲弾を作る。空鶴が文言を詠唱して台座に剣を突き刺し、炎の上がる左手を台座にブチ当てると、砲弾は発射された。

51秒後、最高点に達すると、いきなり水平に加速! 5分30秒後、瀞霊廷の直径の4割ほどを1.7秒で通過! そして瀞霊廷の上空を守る遮魂膜(しゃこんまく)を突破!

ナニモカモがスゴすぎる。51秒までは、真っすぐ真上に打ち上げる「鉛直投射」が行われたとみられるが、その場合、次の2つが明らかになる。

到達高度[m]=1/2×重力加速度[m/秒2]×時間[秒]2
発射速度[m/秒]=重力加速度[m/秒2]×時間[秒]

到達高度は1万2700m。現実世界の花火は、大型の3尺玉(直径91cm)でも上空600mで開くから、その20倍以上!

発射速度は、秒速500m=時速1800km=マッハ1.47! この速度になると、大砲の長さ60mというのも短すぎる。

車が急発進すると、体がシートに押しつけられる「慣性力」を受けるが、これは速度の2乗に比例し、加速距離に反比例する。60mの加速距離で秒速500mにまで加速されるとき、受ける慣性力は210G(重力の210倍)。人間は、10G以上の慣性力を受けると失神する。

打ち上げられたのは6人。井上織姫と茶渡泰虎(共に人間)は確実に失神するだろうが、一護(このときは死神)、石田雨竜(滅却師)、夜一さん(死神)、志波岩鷲(空鶴の弟)も大丈夫かなあ?

最高点で、いきなり水平に加速したのにもビックリで、空鶴のテクノロジーに驚嘆するばかりだが、さらに驚くべきは、瀞霊廷の直径の4割を1.7秒で通過したこと。

前述したように、瀞霊廷の4つの門の間は、歩いて10日もかかる距離がある。江戸時代以前、軍や旅人が1日に進める距離は10里(40km)とされていたから、瀞霊廷の外周はおそらく40km×10×4=1600km。円形なら直径は509kmで、東京~徳島間と同じ。デカイな、瀞霊廷!

その509kmの4割とは204kmで、これを1.7秒で通過する速度とは、時速43万km、マッハ352! 飛翔体の速度がマッハ142を超えると、どの方向に飛んでいても、地球どころか太陽の重力を振り切って宇宙のかなたにまで飛んでいく。空鶴の技術は、宇宙旅行をも可能に!

注目はもちろんエネルギーで、一護(公式設定体重61kg)、織姫(同45kg)、茶渡(同112kg)、雨竜(同55kg)、岩鷲(同106kg)、夜一さん(推定4kg)、合計383kgをマッハ352に加速するエネルギーは2兆7500億J、爆薬692t分。瞬閧の4800倍で、さすがの夜一さんも、空鶴の科学力にはビックリしたのではあるまいか。

実は最強!? チート級の能力を持つ「侘助」

『BLEACH』の脇役というと、忘れられないのは、吉良イヅルである。護廷十三隊三番隊の副隊長だが、物語を大きく動かすような活躍はしない。だが、その斬魄刀「侘助(わびすけ)」は驚異的だ。

十番隊副隊長の松本乱菊との戦いで、激しく刀を打ち合わせた吉良副隊長は、一呼吸置いてこう尋ねる。

「……今、何回受けました? 僕の剣」

気付くと乱菊の斬魄刀「灰猫」はズンと重くなっていた。吉良副隊長は言う。

「斬りつけたものの重さを倍にする。二度斬れば更に倍。三度斬ればそのまた倍」

なんと、原理は分からないが、これはスゴイ!

「あなたは今、7度侘助の斬撃を刀で受けた。刀(灰猫)の本来の重さが0.8kgとして、2の7乗倍すると102.4kg。抱えて走れる重さじゃあ無い」

2の7乗は128、0.8kgの128倍は確かに102.4kg。戦いながらそんな計算ができるとは、算数がよくできるヤツだ! 感心している場合ではない。こんな刀を戦いに使うと、一体どうなるのか。

もし「侘助」が乱菊の体をかすりでもしたら、彼女の体重は2倍になったはずである。乱菊の体重は57kg。かすっただけで114kg! もう一かすりで228kg! ケガはするし、どんどん太ってしまうし、乱菊姉さんは怒り狂うでしょうなあ。

そして、筆者は心配でたまらない。もし上段からの打ち込みをかわされて、「侘助」で地面をたたいてしまったらどうなるのか?

当然、地球の重さは2倍になるだろう。すると、重力の強さも2倍になる。これはもう、全世界が大騒ぎだ。

体重60kgの人は、120kgになってしまい、ガクリと膝をついて倒れ伏す。500gのペットボトルは急に1kgになるから、手に持っていた人は思わず落としてしまうだろう。強度の足りない建造物は倒壊し、木の枝はグーッとしなって桜も紅葉も散り果てる。海の水圧も2倍になって魚が圧死、鳥も飛行機も人工衛星も落ちてくる!

月は、どうなるのだろう? 計算すると……あっ、やっぱり落ちてくる! 3日と10時間後、マッハ46で地球に衝突! 地球は割れ砕け、破片はドロドロのマグマとなり、地球が誕生したばかりの頃と同じようにマグマオーシャンに覆われる。たぶん尸魂界も滅亡だあー。

これほど恐ろしい刀を、吉良副隊長のような人に持たせておいていいのだろうか。「ああ、今日も出番ねえな~」などと無聊(ぶりょう)をかこちつつ「侘助」で地面をコンコンたたいたら、それだけで地球46億年の歴史が終わってしまうのだが……。

現実の戦いは非情である。一発の砲弾は、放たれるや否や、誰が撃ったのか、何のために撃ったのか、意味も個性も失ってしまう。だから、人間が起こしたとは思えない被害を起こす。これに対して、空想の世界の戦いでは、全ての攻防に意味と個性がある。そこには救いと未来がある。だからわれわれは、さまざまな脇役が多彩な個性を見せてくれる作品を、応援したくなるのだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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