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2024.7.10
体重26tの相手をマッハ46.6のパンチで撃破!? 主人公・デンジの脅威の肉体/チェンソーマン
『チェンソーマン』で描かれたエネルギーについて考えてみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『チェンソーマン』。作者・藤本タツキが描く、チェンソーの悪魔を身に宿した主人公・デンジの不思議な力をエネルギーの観点から考察しました。
チェンソーマン誕生の切ない理由
『チェンソーマン』は、インパクト絶大なマンガだ。
主人公のデンジが、胸のスターターロープを引くと、額からチェンソーが突き出し、左右の腕にもチェンソーが出現して、見るからにデンジャラスなチェンソーマンに変身。その姿で、悪魔や魔人(悪魔が人の死体を乗っ取った存在)をバンバン切り刻んでいく!
デンジがこんな姿になったのには、切ない理由があった。
デンジが幼い頃、デンジの父親は多額の借金を残して自ら命を絶った。その日のうちから取り立てを迫られたデンジは、「チェンソーの悪魔」と出会う。子犬のような姿で、顔からチェンソーが突き出ていて、尻尾がスターターロープになったその悪魔は、傷ついていた。「悪魔は血を飲めば傷が治る」と聞いていたデンジは、腕を噛ませて血を与え、「お前を助けてやるから…俺を助けろ」と契約を結ぶ。こうしてデンジは、悪魔や魔人を倒して報酬を得るデビルハンターとなった。悪魔に「ポチタ」という名前も付けた。
しかし、働けど働けど、極貧の日々。「トマトの悪魔」を倒したときなど、40万円もの報酬があったのに、借金、利子、仲介手数料を引かれ、水道代と他への借金を払うと1800円しか残らない。こんな暮らしを続けながら、デンジは「食パンにジャムを塗って食べる」など、ポチタに「普通の生活を送る夢」を語り、ポチタはうれしそうに聞いていた。
ところが、2人は「ゾンビの悪魔」に殺され、ゴミ箱に捨てられる! ポチタは滴り落ちてきたデンジの血を飲んで復活し、デンジに「悪魔の契約」を提案する。それは「ポチタはデンジの心臓になる。デンジはポチタに夢を見せる」というもので、これによってデンジは「チェンソーの悪魔」チェンソーマンとしてよみがえったのだ!
直後、公安のデビルハンター・マキマに拾われる。朝食を食べさせてくれるなど、初めて人並み扱いをしてくれた彼女に心引かれ、デンジは公安のデビルハンターとして働き始める。このマキマが不思議な魅力のある女性で、デンジは普通の生活を送れるようになったことを喜びつつ、「マキマさんの胸を揉みたい」「キスしたい」「デートしたい」などをモチベーションに、命がけの日々を送る。「そんなコトのために命を張るの!?」と思ってしまうが、それこそが、かつてポチタに語り続けた夢なのだ。
こうして始まった物語のキーワードは「血」である。前述のように、悪魔は血を飲めば傷が治るし、公安でデンジとバディを組むパワーも、自分の血を武器として操る「血の魔人」。デンジも、血で体が再生するし、血が足りないとチェンソーが出ない。明言はされていないが、血をエネルギー源にして戦うのでは……と思われる描写もある。デンジの体は一体どうなっているのか、エネルギーの視点から考えてみよう。
血液でチェンソーは作れるか?
チェンソーマンとなったデンジの姿は、まことに異様だ。額から突き出したチェンソーの長さは50cmくらいだろうか。両手のチェンソーは、前腕(肘から先)に埋め込まれ、その先端は手のひらの先を越えて、全長75cmほどもある。スターターロープを引くと、この3枚のチェンソーが、皮膚を突き破って体内から出てくるのである!
これは、デンジにとっても大変なことらしく、マキマの前で初めてチェンソーマンになったとき、デンジは「チェンソーで自分の体も切れちゃって… 血ィ出すぎて貧血なるみたいっす」と言っていた。また、デンジとパワーの教育係の岸辺は、「お前達も 筋肉と骨の仕組みは 俺達と同じだ」と説明していた。筋肉と骨の仕組みが人間と同じなのに、体からチェンソーが出てきたら、当然そうなるだろう。
注目したいのは、「ヒルの悪魔」と戦ったシーン。出血し過ぎたデンジの額からはごく短いチェンソーしか出なかった。とすると、デンジのチェンソーは、血液に含まれる鉄分から作られるということ?
チェンソーは「チェーンソー」とも書かれるが、ここでは作品に合わせて、商品名以外は「チェンソー」と表記したい。「ガイドバー」という鉄板に沿って刃の付いたチェーンを回して木材を切断する機械で、ガソリンエンジン式のものと、電動式がある。前者の方が大きく、出力も大きい。ガソリンエンジン式の「HAIGE(ハイガー)チェーンソー20インチ(50cm)」という機種のスペックは「全長88cm、ガイドバー長50cm、乾燥重量6.4kg、出力2.2kW」。これを基に考えよう。
デンジのチェンソーは、エンジンらしきものは見られず、ガイドバーとチェーンだけで構成されている。前掲のチェンソーのガイドバーおよびチェーンの重量は、購入して分解してみなければ分からないので、他の部分とのボリューム感の比較から、1kgと仮定しよう。すると、デンジの頭部のチェンソーも1kg、重量が長さに比例するなら、両手のチェンソーは1.5kgずつ、合わせて4kgということになる。これだけの鉄が、人間の血液にあるのだろうか?
厚生労働省の『e-ヘルスネット』には、こうある。「(鉄は)成人の体内に約3g~5g存在します。そのうち70%は赤血球のヘモグロビンや筋肉中のミオグロビンに存在します」。ヘモグロビンは血中で酸素を運び、ミオグロビンは筋肉中で酸素を蓄えるタンパク質。どちらも鉄が酸素と結び付くことで、それぞれの役割を果たしている。70%のうち、ヘモグロビンとミオグロビンにどれだけ配分されるかは厚生労働省も明らかにしていないが、どんな配分比であっても、全然足りません!
しかし、ヒルの悪魔との戦いで見られたように、体からチェンソーを出すのに血液が必要なのは事実。チェンソーの材料となる鉄は、悪魔の不思議な力で供給されるが、そのシステムが起動するには、自分の血が必要ということなのか……。
血液でチェンソーは回せるか?
では、エネルギーの点はどうだろう。
チェンソーを回すのに必要な出力が、ガイドバーの流さに比例するとしたら、50cmの頭部のチェンソーを回すには2.2kW、75cmの手のチェンソーを回すには3.3kWずつが必要になる。合わせて8.8kWの出力を、血液から供給することは可能なのか?
血液に含まれる物質の中で、エネルギー源となり得るのは、「血糖」「血清タンパク質」「血中脂質」。1Lの血液には、それぞれ1.2g、43.5g、3.4gが含まれる(いずれも正常値の中間)。エネルギーに換算すると209.4kcalになる。
人体には体重の13分の1の血液が含まれる。デンジの体重を65kgとすると、血液は5kgだ。血液の密度は水にほぼ等しいので、体積は5L。すると、全身の血液に含まれるエネルギーは209.4[kcal/L]×5[L]=1047[kcal]になる。これで、合計出力8.8kWのチェンソーをどのくらい回せるのか。
出力とは1秒当たりに発揮するエネルギーのことで、1秒で1Jを発揮すれば1W。また、1kcal=4184Jなので、1047kcal=438万J。すると、稼働時間は438万[J]÷8800[W]=498[秒]。なんと、8分18秒も回せる!
もちろん、低血糖症、低タンパク症、低脂質症が心配だし、そのエネルギーをどうやってチェンソーの回転に変えるかという問題はある、しかし、エネルギーの点に注目すれば、なんとかなりそうということだ。
回復力がすご過ぎる
デンジは、ケガからの回復も早い。「ヒルの悪魔」との戦いでは、右腕を切断されたが、入院して輸血を受けると、目覚めたときにはくっついていた。「刀の悪魔」との戦いに至っては、胴体を真っ二つにされてもよみがえった!
胴体真っ二つ事件が起きたのは、昼食にラーメンを食べた直後だったが、翌朝7時のニュースが流れているときには完全に復活して、リンゴを食べながらマンガを読んでいた。
人間は大きなケガをすると、全治に半年もかかることがある。だが、デンジは胴体真っ二つという普通は死ぬような状態から、長くても18時間ほどで復活したことになる。半年は182.5日=4380時間だから、240倍の回復力である。
われわれも軽いケガなら、1日で治ることもある。デンジが同じケガをしたら、0.1時間=6分で治る可能性も!
だが、デンジの回復力は、実際にはもっとすごかった可能性もある。
それは「永遠の悪魔」との戦い。この悪魔は、頭も腕も何十もあるようなモノスゴイ姿をしていたが、デンジは腕を食いちぎられたりしながら、当たるを幸いチェンソーで切り刻み、何時間も戦い続けた。その中で、デンジはこう言っている。「テメエが俺に切られて血ィ流して! 俺がテメエの血ィ飲んで回復…!」「永久機関が完成しちまったなアア~!!」。血さえあれば、全治半年ほどのケガが、3秒ぐらいで治るってコト!? だとしたら、回復のスピードは人間の526万倍!
肉体も強い!
デンジの強さはチェンソーだけではない。身体能力そのものが途轍もないのだ。
「コウモリの悪魔」は、身長10mはあろうかという巨体だった。身長180cmの人間なら体重150kgはありそうな体格で、すると体重は26tとなる。これが乗用車を投げつけてくると、デンジは両手で受け止めた! コウモリの悪魔も「体にそぐわぬその怪力」と驚いていた。
このときデンジが出した力は、次の式で求められる。
力[kg重]=車の運動エネルギー[J]÷受け止める動作で手を手前に引いた距離[m]÷重力加速度[m/秒²]
車の運動エネルギー[J]=1/2×車の質量[kg]×車が飛んできた速度[m/秒]²
重力加速度とは重力の強さを表す数値で、地球の場合は9.8[m/秒²]である。マンガなので、車が飛んできた速度は計れないが、秒速10m=時速36kmぐらいの感じである。すると、車重が1t=1000㎏のとき、車の運動エネルギーは、1/2×1000×10²=5万J。これを受け止める動作で、手を50cm=0.5m引いたとすると、出した力は5万÷0.5÷9.8=1万204kg=10.2tである。アフリカゾウ(7.5t)を軽々と持ち上げられる!
だが、もっとスゴイのがあった。その直前、この巨大な悪魔にしがみついて空中で戦っていたが、デンジがチェンソーで翼を切り落としたため、両者はビルの屋上を突き破り、最上階の部屋に落下。ここからデンジは、「テメん腹ぁ裂いて! 胸揉むんだ!」と叫びつつパンチをたたき込み、ビルの壁をぶち破って、道路に落としたのである!
悪魔は地面に対して30度の角度で落下した。その最上階というのが5階(地上15m)だとしたら、悪魔はビルの壁を突き破ってなお、時速107kmの速度を持っていたことになる。壁の厚さが30cm、突き抜けた穴の直径が5mだったとすると、ぶつかった速度は時速143km!
体重26tの巨体をこんな速度で飛ばすとは、恐るべきことだ。その体重はデンジ(推定65kg)の400倍であり、もし突っ立ったままパンチを放っていたら、運動量(質量×速度)保存の法則によって、デンジは悪魔が飛んだ速度の400倍の時速5万7000kmで、自分が後方にぶっ飛んでいた。そうならなかったということは、デンジは時速5万7000km=マッハ46.6で突進しながら殴ったに違いない!
これに必要なエネルギーは82億7000万J=195万kcal。これも血液から供給されたとしたら、消費した血液は9320L。家庭用の浴槽(200L)で47杯分。さ、さすがに無理か……。
体からチェンソーが出てくるというだけで、驚くべき発想である。その邪悪とも言える姿で戦う青年の胸には、他人から見れば小さな夢があった。不遇な日々を送ってきたゆえに、リスクに見合わない夢が。だが、それに共感できるからこそ、読者は拍手を送るのだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります
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イラスト:花小金井正幸
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