空想未来研究所2.0

地上最強のパンチは2950万kW! 強さを数値化したら誰が一番強いのか?

刃牙(バキ)シリーズの強さについて考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「強さ」。“地上最強の生物”として世界をじゅうりんするあの男にフォーカスし、エネルギーの観点から見たら本当は誰が最強生物なのかを考えてみました。

体一つで頂点へ!誰もが憧れる地上最強

男たちが、さまざまな情念で激しく戦う。そんなマンガは、いつの時代にも必ずあり、多くの読者を熱狂させてきた。

『夕やけ番長』(1967~71年)、『男一匹ガキ大将』(1968~73)、『ドーベルマン刑事』(1975~79)、『リングにかけろ』(1977~81)、『男大空』(1980~82)、『北斗の拳』(1983~88)、『魁!!男塾』(1985~91)、『クローズ』(1990~98)、『デュラララ!!』(小説2004~14)……と、数え上げればきりがない。

登場するのは、宇宙人でもロボットでもなく、間違いなく人間。超能力や魔法や忍術など特殊な設定があるわけでもなく、基本的に使うのはおのれの肉体や通常の武器のみ。

なのに、そこで行われていることは、とても人間の所業とは思えない。人間を殴って何mも飛ばし、壁にぶつけてクレーターを発生させる!

そういうマンガなどを読むと、筆者は胸が熱くなるとともに、考えずにはいられなくなる。彼らの体から、いったいどれほどのエネルギーが発揮されているんだ!?

その系譜を引く現在のマンガといえば、『刃牙』シリーズ(1991年~)だろう。

「地上最強の生物」と呼ばれる範馬勇次郎をとその息子・範馬刃牙を中心に、さまざまな格闘技の達人や脱獄囚、約2億年の眠りから目覚めた古代人らと激烈な戦いを繰り広げる物語。全ての男たちを突き動かす衝動は、ただ一つ。

「誰が一番強いのか?」

科学の世界には、それをうかがい知ることができるかもしれない物理量がある。その基準とは、「1秒当たりに発揮されたエネルギー」、すなわち「仕事率」である。今回はこの仕事率に注目し、男たちの強さに迫ってみよう。

勇次郎、刃牙……その強さは仕事率で測れる!

仕事率とは耳慣れない言葉だが、実は日常生活でもよく使われている。車やバイクの出力、電化製品の消費電力、発電所の発電能力、これらはみな仕事率のことだ。だから、単位は「W」や「kW」で、ときに「馬力」(1馬力=735.5W)も使われる。

前述のように、仕事率=「1秒当たりに発揮・生産・消費されるエネルギー」だから、エネルギーが同じでも、短時間に発揮されるほど仕事率の数値は大きくなる。

移動の「距離、速さ、時間」の関係に似ていて、「距離=速さ×時間」であるように、「エネルギー=仕事率×時間」の関係がある。端的に言えば「エネルギーの瞬発力」が仕事率。一瞬で勝負の決まる格闘者たちの強さを比較するのに、これ以上の基準はないだろう。

一般人が運動するときの仕事率は、長距離走など長く続けられる運動で0.4kW、短距離走など十数秒続けられる運動で2.2kW、垂直跳びやバーベル挙げなど一瞬の運動では4.4kWといわれる。もちろん、これは目安とされる値で、体格や運動能力によって変わってくる。

では、『刃牙』の強者たちの仕事率はどれほどか。まず、物語世界の中心に君臨する範馬勇次郎の仕事率を明らかにしよう。

勇次郎の仕事率は発電所を凌駕するッッッ

勇次郎は、時速20kmで水が流れるプールで、バタフライをやっていた。これは、流れる水の中を時速20kmで泳いでいたということで。泳ぐスピードとしては驚異的。そして、100m換算のタイムは18秒! 一方、100mバタフライの世界記録は、「水の怪物」といわれるマイケル・フェルプスが樹立した49秒82だ。

そう、勇次郎はオリンピックに出場すれば、楽々と金メダルが取れる! だが「強いこと」以外に興味を示さないのが『刃牙』ワールドの男たちなのだ。

水泳で発揮する仕事率は、速度の3乗に比例する。勇次郎はフェルプスの2.77倍も速いから、仕事率は21.2倍。フェルプスが3kWを発揮しているとすれば、63.6kWである。

またある日、勇次郎は個人で結んでいる友好条約の更新のために、米大統領の元を訪れる。すると大統領は石炭を示してこんなことを言った。

炭素に10万気圧の圧力を加えるとダイヤモンドに変化するが、実際に見なければ納得できるものではない。

つまり、その石炭をダイヤモンドに変えてみせろというのだ。勇次郎は、その場でははぐらかしたが、後日再会したときに石炭の粉を握りつぶし、キラキラ光るダイヤモンドの結晶を作って見せた!

勇次郎の手の大きさで10万気圧を生み出すには3000tの握力が必要で、0.1秒で指を1cm握り込んだとすると、仕事率は1500kW! 自衛隊の10式戦車(883kW)を軽々と上回る!

さらに勇次郎は、香港の白林寺での戦いで、コンクリートの床にパンチをぶち込み、直径10m、深さ1mのクレーターを作った。詳細は省くが、これに必要な仕事率はなんと2950万kW。日本最大級の富津火力発電所(最大出力516万kW)の5.7倍!

刃牙は父を乗り越えられるか

これを上回る強者など、作品世界に存在するのだろうか。シリーズの中から「これは!」と思うシーンについて計算してみた。

主人公である刃牙は、高校の体力テストで懸垂をやらされる。体を思いきり引き上げると、上昇する勢いで、鉄棒を固定していた4本のボルトを破断したうえに、刃牙の体は地上5mほどまで跳び上がった!

刃牙はこのとき、身長167cm、体重71kg。体を引き上げた高さが60cm、ボルトの直径が1cmだったとすると、この懸垂の仕事率は45.9kW。

こんなにスゴイことをしても45.9kWに留まるのは、「kW」というのが、いかに大きな単位かということだ。それでも、父の時速20kmバタフライの63.6kWには届かない。

シリーズ屈指の人気を誇る日本一の喧嘩師・花山薫は、中華料理店に行くと、不良たちがビールやコーラのビンを手刀で切って悦に入っていた。薫は無言でビンの首を拾い上げ、元のビンと割れ目を合わせ、両手でグッと握り締める。すると元通りにつながった上に、長さが縮んでいた! 

ビールの中ビン(長さ25.7cm)を基に、マンガの絵で測ると、1.4cmも縮んでいた。ガラスは強い力をかければ縮み、猛烈な力なら割れたところがつながることもあり得る。

ビンのガラスの厚さが5mmとして計算すると、これを1.4cmも縮めるための力は562t。発揮した仕事率は138kW。時速20kmバタフライは超えたが、ダイヤモンド合成の1500kWには及ばない。

約2億年の眠りから目覚めた古代の巨漢戦士・ピクルは、トラックにはねられる。全くダメージはなく、起き上がってトラックに突進し、激突。トラックは乗用車が時速60kmで衝突したのと同じぐらいではないか、と思われるほど大破した。

体重130kgのピクルは、時速166kmでぶつかったと見られる。トラックまで10mほど助走していたことから、仕事率は321kW。驚異的だが、ダイヤモンド合成の壁はまだまだ高い。

中国武術界の最高峰に立つ烈海王(れつかいおう)は、水面を走って、川を渡った! しかも自ら倒した脱獄囚を背負って! 直前、烈はこんなことを独白する。

距離10m、歩数にして700~800踏み、15mまでなら問題ない。

実際に、これは科学的に不可能なことではない。水を蹴ればその反作用で、体は持ち上がるからだ。ただし、途轍もないペースが要求される。

烈は身長176cm、体重106kg。脱獄囚は見たところ90kg。烈の靴のサイズを27cmとすると、底の面積は224cm2。烈は足を85cmぐらい上げている。水に踏み込む深さは1cmほどか。この条件で合計196kgを支えるには、1秒間に水を69回蹴らねばならない! 発揮した仕事率は5830kW。おお、ついにダイヤモンド合成の壁を超えた!

地上最強の生物は、はるかな高みで笑う

再び登場、花山薫。体重169kgのこの男は、ある脱獄囚を殴って、高さ4mほどあろうかという街灯の電球にぶつけ、感電させた。

脱獄囚も体重120kgぐらいはある巨漢で、これに必要な仕事率は2万4500kW。わ~、ついに「万」が出た。小さめの水力発電所ぐらいの仕事率だ。

刃牙にも再び登場してもらおう。ジャンプして勇次郎を両足で蹴ると、後方のコンクリート壁を破り、トイレの壁を次々に6枚も破って、最後の壁にドォンとぶつかって、ようやく止まった!

この場面で、驚くべきことは2つ。

最初に破ったコンクリートの壁が30cmほどもの厚さがあることと、水平に飛んだ勇次郎が蹴られた瞬間と同じ高さで最後の壁にぶつかったことだ!

それでも、高さが全く落ちないことはないので、10cm落下したとしよう。すると、勇次郎が飛んだ速度は、厚さ30cmの壁を破ってもなお、時速176km。破る前は時速259km! 体重120kgの父親をこんなスピードで蹴っ飛ばす刃牙の仕事率は143万kW! 中規模の火力発電所ぐらいだ。

最後は、空手道神心会の若き総帥・愚地克巳(おろちかつみ)である。パンチの衝撃波で道場の窓ガラスを全て割るのだ! 彼の体重は116kg。窓までの距離を最大10mとすると、パンチの速度はマッハ1.65、仕事率は17万2000kWになる。

そして、ピクルとの試合では、衝撃波は闘技場の観客全員の耳をキンッと打った。観客までの最大距離を100mとすると、スピードはマッハ4.24、仕事率は290万kW!

さらに魂を込めたパンチは、衝撃波でピクルを10mほどぶっ飛ばした! スピードはマッハ6.11、仕事率は865万kW!

届かない。どうしても範馬勇次郎の2950万kWに届かないッッッ。

ここまでの全てをランキングでまとめると、次のようになる。

常人にはとてもまねのできないことでも、下位にランキングされてしまう世界。

その異空間の中で発電所を上回るパワーを振るい、揺るぎなく君臨する絶対強者。しかし彼らの行為は、単に荒唐無稽とは映らず、有無を言わさぬ説得力をもって迫ってくる。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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