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地球にも優しい「ピークシフト」とは?

エネルキーワード第9回「ピークシフト」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第9回は「ピークシフト」。電力需要の最も高まる夏を前に、貴重なエネルギーを無駄なく、効率良く使うためにできることの一つ、ピークシフトについて考えてみました。

電気はためておくことが難しいことは皆さんご存じですよね?蓄電池にためればいいじゃないか、と思う人もいるかもしれませんが、普段私たちの家庭で使っている電気を丸々ためようと思ったら、巨大な蓄電池が必要です。何より、そんな蓄電池の値段はとてつもなく高くなってしまいます。
 
電力会社は通常、最大需要を見込んで電気を作るわけです。夏場の午後とか、真冬の夜などはそれぞれ冷房、暖房のピークを迎え、電力消費はMAXになり、下手をしたら供給が追い付かなくなることもあり得ます。そのピークを他の時間にシフトして平準化することを「ピークシフト」といいます。
 
事業者向けには前からピークシフトを促すような料金体系を提供していた電力会社もありましたが、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故後の計画停電や2011年夏の強制的な節電命令や節電要請への批判を受け、夏のピーク時の電気が足りなくならないように2012年6月、東京電力が一般家庭向けにも「ピークシフトプラン」を提供し始めました。名前と内容は違えど、ほとんどの電力会社で、このークシフトプランを出していました。(※注1/以下すべて本文末に注釈)

ピークシフトの例

「ピークシフトプラン」がどのようなサービスか、具体的に見てみましょう。例えば夏の場合、一日の中で一番電気の消費が大きい午後1時から4時までの間を「ピークタイム」とし、それ以外の時間帯の電気料金を割安に設定するのです。「ピークタイム」の電気の使用を他の時間帯にシフトすることによって電気料金を抑えることができるわけです。例えば東京電力のピークシフトプランは以下の通りでした。(2016年3月31日をもって新規加入停止。現在契約中の場合は継続可能)(図1)電気の使用量が多い夏のピーク時間(午後1時~4時)の電気の使用を他の時間帯にシフトしてもらおう、という考えです。

(図1)ピークシフトプランの料金 ※東京電力の場合

出典:東京電力エナジーパートナー「ピークシフトプラン」

東京電力(当時/※注2)は、震災後の2012年から、ピークシフトプラン以外にもさまざまな料金プランを提供していましたが(※注3)、2016年3月をもって新規加入の受付を停止しました。東京電力管内に住んでいる筆者は、日中家が留守になりがちなので「半日お得プラン」に加入しています。それにより、電気を多く消費する洗濯乾燥機や食器洗い乾燥機などは夜回すようになりました。時間帯別料金体系が消費者の電気使用の行動パターンを変容させる効果があることが分かります。
 
もっとも「ピークシフトプラン」、どのような人におすすめか、というと、東京電力のウェブサイトには“契約が50A以上、1か月のご使用量が600kWh以上の家庭”となっていました。この条件に当てはまる家庭は全体の1割以下ですので、あまり普及したとは思えません。
 
その後、電力小売り自由化が2016年4月1日から始まることを受け、東京電力は持ち株会社制に移行し、料金プランも新しいものに移行しました。(※注4)「ピークシフトプラン」は「半日お得プラン」、「土日お得プラン」、「電化上手」、「おトクなナイト8・10」、「深夜電力」などとまとめて、オール電化家庭用の「スマートライフ」と、夜の時間帯(午前1時~6時)の電気料金が昼間より安くなる「夜トク」の2プランに引き継がれ、現在に至っています。複雑になっていた料金体系をシンプルにまとめた、ということでしょう。
 
他の電力会社でも電力小売り自由化のタイミングで、料金プランを改定しています。再生可能エネルギーの普及により、ピークとされていた時間帯の電力需給に変化も起き始めており、今後も料金体系は変化し続けるでしょう。また新電力の台頭、ガス小売り自由化などもあり、今後も消費者の選択肢は増え続けます。

産業界のピークシフト

さて、産業界ではどのような取り組みがなされているのでしょうか?産業界におけるピークシフトは、主に蓄熱や夜間電力使用型機器(エコキュートや蓄電システム)によって実現されています。
 
「蓄熱」とは、熱エネルギーを蓄え、必要なときに放熱するシステムで、冷房、冷蔵用などの「冷熱蓄熱」と、暖房や給湯用の「温熱蓄熱」があります。例えば、夜間にエアコンなどの熱源機を運転して空調に必要な冷温熱を作り、それを蓄熱槽にためておいて、昼間にその熱を取り出して空調に使う、といった具合です。(図2)夜間に熱を蓄えて、昼間に空調などに利用するため、昼間電力の削減が可能です。まさしくピークシフトですよね。そして高効率なヒートポンプ(※注5)と組み合わせることで省エネとCO2排出量削減が同時に達成できるわけです。

(図2)蓄熱による空調

出典:一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター HP

事業所の電力消費の半分は、空調に使われていますが、空調にヒートポンプ・蓄熱システムを採用すれば、昼間の最大電力を2割削減できる、との試算もあります。(図3)(昼間空調に必要な冷熱の半分を蓄熱で賄った場合)このように普段私たちが仕事をしているビルなどでもピークシフトは既にかなり進んでいます。
 
家庭、そして産業界で進む「ピークシフト」。資源のない国、日本にとってエネルギーを無駄なく、効率的に使うことは極めて重要です。地球全体の環境を考えたとき、これらの先進技術は、新興国はおろか、先進国においても今後ますます必要となるでしょう。

(図3)ピークシフトによる電力削減例(事務所)

(※注1)各電力会社のピークシフトプラン名称  •東京電力-ピークシフトプラン •関西電力-季時別電灯PS •北海道電力-ピーク抑制型時間帯別電灯(ドリーム8エコ) •東北電力-ピークシフト季節別時間帯別電灯 •中部電力-ピークシフト電灯 •中国電力-電灯ピークシフトプラン •四国電力-ピークシフト型時間帯別電灯 •九州電力-ピークシフト電灯 •沖縄電力-Eeらいふ

(※注2)2016年4月1日東京電力は、ホールディングカンパニー制に移行。持株会社「東京電力ホールディングス」、燃料・火力事業会社「東京電力フュエル&パワー」、一般送配電事業会社「東京電力パワーグリッド」、小売電気事業会社「東京電力エナジーパートナー」に分社化した。

(※注3)電力小売り自由化前の東京電力の料金プラン 従量電灯B・C、朝得プラン、夜得プラン、半日お得プラン、土日お得プラン、電化上手、おトクなナイト8・10、深夜電力、ピークシフトプラン、おまとめプラン、低圧電力、低圧蓄熱調整契約など。従量電灯B・C、低圧電力以外のプランは2016年3月31日以降新規加入は停止され、新料金プランに移行している。

(※注4)電力小売り自由化後の東京電力エネジーパートナー料金プラン(関東エリア) 従量電灯B・C、スタンダード、プレミアム、スマートライフ、夜トク、アクアエナジー100など。

(※注5)ヒートポンプ 少ない投入エネルギーで、空気中などから熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術のこと。エアコンや冷蔵庫、エコキュートなどに利用されている省エネ技術。

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