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「下水」で冷暖房?その魔法の技術とは

エネルキーワード 第19回「下水熱エネルギー」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第19回は「下水熱エネルギー」。これまで捨てられていた下水の「熱」を新エネルギーとして活用する「下水熱エネルギー」。注目を集める新エネルギーのポテンシャルを探ってみました。

TOP写真:東京下水道エネルギー会社後楽事業所

出典:東京下水道エネルギー会社

下水道とは

「水道」は日々の暮らしになくてはならないものですが、「下水道」といってもピンときませんよね。でも水道料金のお知らせをよく見ると、「下水道」の料金も一緒に請求が来ていることが分かります(図1)。

(図1)水道使用量等のお知らせ(検針票)

出典:東京都水道局

その「下水道」は、都市の汚れた水を集め、浄化した後、自然に戻すというサイクルを見えないところで支え、私たちの暮らしと地球環境のために重要な役割を果たしています。しかし、それだけではありません。地下に張り巡らされたこの「下水道」に豊富な“未利用エネルギー”が眠っているということを皆さんはご存じでしょうか。

「下水熱」のポテンシャル

これまで、捨てられていた下水の「熱」を新エネルギーとして活用しようと注目されたのが「下水熱エネルギー」です。
 
国土交通省の発表によると、国内で未利用の下水熱エネルギーの量は7800 Gcal/h(ギガカロリー/毎時)と概算されています。なんと約1500万世帯の年間の冷暖房熱源に相当するというのですから驚きです(図2)。

(図2)下水熱のポテンシャルと利用の現状

出典:国土交通省「下水熱でスマートなエネルギー利用を」

さて、その下水熱エネルギーの仕組みの一部をご説明しましょう。下水は外気の影響を受けないため、冬は温かく夏は冷たいという特徴を持っています(図3)。

(図3)下水水温と気温の比較

出典:東京下水道エネルギー株式会社

これから冬になるので暖房を例に挙げます。冷たい外気から熱を取り出し、室内に送り込む仕組みにヒートポンプというものがあります。簡単にいうと、空気中から熱を集めて大きな熱エネルギーとして利用する技術のことです。
 
エアコンや冷蔵庫、最近ではエコキュートと呼ばれる給湯器などに利用されてます。この技術を使って熱エネルギーを取り出すのに、冷たい外気を使うより、温かい下水道を利用した方が、効率がいいのは当たり前ですよね(図4)。

(図4)下水熱利用方式と空気熱源方式の効率比較

出典:B-DASHプロジェクトガイドラインより 国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 下水道企画課

効率よく冷暖房設備や給湯設備を利用できる「省エネ」効果、また化石燃料の消費量が削減されることで「CO2削減」効果が期待できます。
 
その他にも、室外機から大気への熱放出が減るのでヒートアイランド現象の抑制につながりますし、下水熱利用で供給される処理水や冷温水を貯めておく蓄熱槽の水は災害時の消防用水や生活用水などに利用できるなどのメリットもあります。

この新たなエネルギー源ですが、かつては十分な流量がある下水道施設付近でしか利用できませんでした。しかし、より広域での下水熱利用促進に向けて、平成27年5月に下水道法が改正されたのです。
 
その結果、下水道運営者に下水管の使用を認めてもらうだけで、民間事業者が地下排水溝に熱交換器などを設置することが可能になり、下水熱利用の可能性が広がったのです。また、熱回収技術も進み、効率の良い採熱が可能になりました。

「下水熱」利用の具体例

では具体的に利用例を見てみましょう。まず、東京下水道エネルギー株式会社の後楽事業所です。東京都文京区の東京ドームに隣接するに延床面積24万2000㎥の建物に冷水や温水を供給しています(図5)。

(図5)後楽事業所供給地域

出典:東京下水道エネルギー株式会社

こちらでは未処理の下水を使っています。冷水を作るプロセスを図で見てみましょう(図6)。

(図6)後楽事業所システムフロー

出典:東京下水道エネルギー株式会社

まず

①ストレーナで下水のゴミを取り除き、
②熱交換器で、温度の高い「熱源水」を「下水」で温度を下げます。
③ヒートポンプで冷媒ガスを蒸発させ、冷水を製造します。
④蓄熱槽に夜間電力を使って冷水をため、昼間に冷水をビルなどに送ります。
 
こうしてみるとシンプルなシステムですよね。

温水を作るときはこの逆のプロセスです。その他、下水処理水や汚泥焼却炉の廃熱などを利用して冷温熱に変えている事業所もあります。

今後の課題

可能性の大きい下水熱ですが、全国レベルで見ると(図7)、活用例は20件程度と決して多くはありません(2017年3月末時点)。

(図7)下水熱利用例

出典:国土交通省

政府は下水熱利用の推進に向け、平成24年8 月24日に「下水熱利用推進協議会」を設置、平成25年度に 「下水熱等未利用熱ポテンシャルマップ策定事業」 を開始しました。各地方自治体に下水熱の賦存量や存在位置を提示する「ポテンシャルマップ」を策定しています。それらはまちづくりの構想段階から活用できる「広域ポテンシャルマップ」と事業化段階に活用できる「詳細ポテンシャルマップ」に大別されています。民間事業者による施設建設や設備改修の時期に合わせた下水熱利用が促進されることが期待できます。
 
また、平成27年度から「下水熱利用アドバイザー派遣等支援事業」というものも始まりました。下水熱利用事業の導入を検討している地方自治体に対し、アドバイザーを派遣し、下水熱利用の導入支援を行うものです。
 
採算性評価が困難で、導入に課題も多い下水熱エネルギーですが、私たちの生活と産業活動に伴う下水流がある限り、可能性は無限大です。「下水熱」を使わない手はありません。環境を守りながら私たちの暮らしを支えてくれるであろうこの未利用エネルギーの今後に大いに期待したいものです。

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