2018.5.11
変わる中国のエネルギー戦略と日本
エネルキーワード 第31回「世界のエネルギー情勢」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第31回は「世界のエネルギー情勢」。世界から動向を静観されているあの国のエネルギー事情が、どのように変化しているのか。そして、それが日本の社会や経済に与える影響を考えてみましょう。
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TOP写真:中国ゴルムド市の太陽光発電
世界のエネルギー情勢の変化
近年のエネルギーを取り巻く国際状況を見てみると、先進国の再エネ推進、新興国のエネルギー需要の拡大、アメリカのシェール革命など、国際的なエネルギー情勢は刻々と変化しています。
ところで皆さん、世界で一番エネルギーを使っている国はどこだと思いますか?以下の図を見てください。そう、ご想像通り、お隣の中国なんです。
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世界の人口とエネルギー供給量。国内生産+輸入-輸出-国際船舶燃料消費-在庫純増=一次エネルギー総供給(Total Primary Energy Supply;TPES)
中国のエネルギー消費は、2010年からアメリカを抜いて世界最大になっており、2015年度の時点でのエネルギー消費は世界の22%をも占めています。発電電力量の推移を見ると、中国の伸び率がいかにすごいか、一目瞭然ですね。
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主要国の発電電力量の推移(伸び率)
中国のエネルギー構成
各国のエネルギー構成を見てみると、中国では全体の約62%は石炭による火力発電で賄われています。また、アジアで中国に次いで2位のエネルギー消費国のインドでも石炭がエネルギー構成比の57%を占めています。
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主要国の一次エネルギー構成
今後も急速なエネルギー需要の拡大が見込まれる中、懸念されるのは火力発電による環境への影響です。石炭はCO2排出量が多いだけではなく、SOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)など、大気汚染物質を排出します。世界のCO2排出量は、約40年前と比べると2倍以上に増えており、これは中国やインドなど、アジア地域におけるエネルギー需要の拡大が原因だと考えられます。
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世界のCO2排出量の推移
中国 再エネ拡大への動き
中国では経済の急速な発展に伴い、電力需要が著しいスピードで増加すると共に火力発電所の建設が進みました。それにより深刻な大気汚染、健康被害にさらされてきました。そうした中、今、世界から注目されているのが、中国の再生可能エネルギー政策に向けた動きです。
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中国の湖南省にある火力発電所(2017年2月)
中国の国家エネルギー局(NEA)では、「第13次5カ年再生可能エネルギー発展計画」で将来にわたり石炭火力発電所の増加を抑制していく方針を掲げました。下のグラフを見て分かるように、2013年をピークに石炭消費量は年々減少しています。IEA(国際エネルギー機関)によると、2040年までに中国の石炭消費量は約15%減少すると予測されています。
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中国の石炭消費・生産量の推移(2000~15年)
出典:独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(2016)「中国における脱石炭の動きと石炭需給及び石炭輸出入動向調査」,p9
IEAの報告 によると、2016年に世界の太陽光発電の設備容量は 50%増加して74GW(ギガワット)を超え、中国はこのおよそ半分を占めています。特に太陽光発電の年間導入容量は他のどの化石燃料発電よりも増え、初めて石炭火力発電の成長を上回りました。インドについても、再生可能エネルギーの伸びは EUを上回ったと報告されています。今日、中国は世界の太陽光発電需要の半分を占め、中国は世界の年間太陽光セル製造能力の約 60%を占めています。つまり、中国は太陽光発電の世界の需要、供給、価格の決定権を握っているといっても過言ではないのです。
中国の原子力発電
一方、中国はCO2を出さないエネルギーとして、原子力発電所の建設を推進しています。2017年2月時点で、運転中の原子力発電所は37基3,454.3万kW、建設中は 20基2,295.5万kWです(参考:一般社団法人 日本原子力産業協会)。
そして、2013年1月、国家エネルギー局の「第12次5カ年(2011~2015年)エネルギー発展計画」では、「原子力発電所は2020年で運転中5,800万kW、建設中3,000万kW以上」との目標が示されており、そこに向かって建設が進んでいます。2020年時点の中国の原子力発電所は、運転中・建設中あわせて約90基、総発電量の4%に上るとの見方もあり、間違いなく中国はアジアにおける原子力発電の大国になろうとしています。
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中国の原子力発電所所在地
日本の取るべき戦略
エネルギー政策は国家の安全保障に関わる最重要政策です。隣国中国のエネルギー政策は、日本に大きな影響を及ぼすでしょう。日本から導入した技術をベースに、高効率石炭火力発電分野の自国技術化に成功した中国は、今後、第三国にその技術を輸出すると思われます。つまり、中国企業は日本の重電企業の強力なライバルになるということです。
また中国は、「一帯一路」戦略(中国が目指す経済・外交圏構想)の一環として原子力発電を戦略輸出製品であることを明確にしています。こうした中、日本の重電企業は、中国企業との協業や、売り込み先国の囲い込み戦略などの必要性に迫られるでしょう。
この話はまた今度にしますが、要は国家のエネルギー戦略、産業戦略は自国だけでなく、他の国の動向によって大きく左右されるのが現実だ、ということなのです。
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