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建設の新たな選択肢として! 新進企業が見据える建設用3Dプリンターの未来

株式会社Polyuse(ポリウス)代表取締役・共同創業者 岩本卓也/大岡 航【後編】

建設現場、特に土木の領域において顕著な人材不足や工期詰まりの問題解決の切り札として普及が期待される、株式会社Polyuse(以下、ポリウス)が開発・提供する建設用3Dプリンティング技術。前編ではこの技術がどのように現場に貢献するかを見てきたが、後編では、建設分野へ3Dプリンターの活用をより根付かせるための施策、今後を見据えた同社の動きについて、前編に引き続き代表取締役・共同創業者の岩本卓也氏と大岡 航氏に聞いた。

ベンチャーならではのスピード感で市場の拡大を目指す

3Dプリンターのような新しい技術を取り入れることに対して、建設業界から不安の声が上がることはないのだろうか──。

改めて建設用3Dプリンターが現場でどのように受け止められているのかを確認しておきたい。

※【前編の記事】3Dプリンターが業界の課題を解消! 人とテクノロジーの共存を目指すベンチャー・Polyuseが建設現場の施工DXをけん引する

建設用3Dプリンターは、3次元図面データに基づき特殊モルタル材料を積層造形しコンクリート構造物を製造。型枠組み立てなどコンクリート構造物の製造での必須工程や管理を省き、材料の練り混ぜから造形までを自動化。省人化や工期短縮を実現する

「建設用3Dプリンターは、人材不足の建設業界において型枠職人をはじめ専門職の方々が不足している施工現場でも対応できる新工法として、技術が本当に求められる状況下でパフォーマンスを発揮できるよう活用していく。私たちはこうした考えに立ち、人とテクノロジーの共存を目指しています。そういった意味では建設会社の方々にはとても好意的に捉えていただけている実感があります」(岩本氏)

一方で、3Dプリンターがまだまだアーリーアダプター(新技術や新製品を早期導入する初期の顧客)にしかアプローチできていないと状況を冷静に分析している。

「最初に出会ったパートナー企業の方々が私たちの技術をポジティブに受け止め、そこから広がった方々へとつながっている段階で、建設業界でもコミュニケーションが取れているのは、情報の感度や技術への関心度が高い方々、業界の1~2割にも満たない数です。これからプロダクトを量産、事業をスケールさせていくと、さらに改善すべき重要な声が届く機会もいただけると考えています」(岩本氏)

「SNSで職人さんから『3Dプリンター、絶対に来ると思っています!』と温かい応援コメントをいただくこともあり、非常に励みになっています」(岩本氏)

そうした中、建設用3Dプリンターの普及へ大きな後押しとなったのが、国土交通省の各地方エリアや都道府県の公共土木インフラを管轄する地方整備局や事務所の存在だという。

「3Dプリンターのように新たな工法を導入するにしても、さまざまな事例を見ながら慎重に検討していく必要があるのは当然のことです。当初は国土交通省からも『実績をいくつか出してから』との声があったものの、大小さまざまな現場でスピード感を持って実績を出せたおかげで、今後の指針にもなっていく法整備も動き出しました」(大岡氏)

2022年9月、京都府の吉村建設工業株式会社と共に「国道24号河原町十条地区電線共同溝工事」を受注。現場での土木構造物の直接印刷は公共工事では国内初の事例となった

画像提供:株式会社Polyuse

「国道24号河原町十条地区電線共同溝工事」では、構造物を印刷しながら左官作業を実施(画像左)。表面を均(なら)し、仕上げを行い職人とテクノロジーを共存させつつ工程を一度に進めることで、さらなる効率化に成功した

画像提供:株式会社Polyuse

スタートアップならではのスピード感が大きな武器になった場面でもある。また、ポリウスが国産の建設用3Dプリンターのトップランナーとして認知されるきっかけにもなったはずだ。

よりハイレベルな施工を! 飛躍する建設用3Dプリンター

建設用3Dプリンターの普及に向けて、2023年度にはこれまでの施工実績数が100件を超え、公共事業での施工も増加し大きな飛躍になったという。

ポリウスが手掛けた建設用3Dプリンティング技術による施工を示したマップ(施工進行中も含む)。公共事業では、擁壁、護岸ブロック、消波ブロックなど防災能力の高い構造物の印刷でも各地で実績を積んでいる

資料提供:株式会社Polyuse

「これまでの公共工事では、集水桝や側溝など小型構造物の印刷が主でしたが、2022年度からは有筋構造物やより大型の構造物適用が増えてきました。また、初めて重要構造物※1の橋梁下部のフーチング基礎※2の一部分を3Dプリンターで作製し、国内初の重要構造物への3Dプリンター適用事例となりました。また一つ、建設用3Dプリンティング技術の可能性を引き上げていただいた実感があります」(大岡氏)

こうした難易度の高い構造物への採用が、ポリウスが目指す建設用3Dプリンティング技術の普及に向けて大きく歩みを進めることになった。

「国や都道府県発注の公共工事では、一般的に元請けとして施工する建設会社の方々が新技術適用に対して代表して各方面との協議を行います。その上で検討すべき項目や費用に関してどう取り扱うかの議論が出てきます。施工規模や内容にもよりますが、建設用3Dプリンターの工法により効果的な成果が見込める場合に別途費用等が必要費用として認められる事例も増えつつあり、今後事例が蓄積されることで公共工事での活用協議が加速するのではないかと考えています」(岩本氏)

さらに、建設用3Dプリンターの活用や普及にまつわる動きも活発化している。

「弊社は土木学会での建設用3Dプリンターにおいてのガイドライン策定に関わる二種委員会の立ち上げから携わっております。また、建築の領域でも構造や適用材料の面を中心に3Dプリンターをどのように安全に活用するか、法整備に向けた有識者会議が行われるなど、建設用3Dプリンターを実際に使って建築や構造物を造っていく世界が、産官学のあらゆる立場でも現実的な社会実装が近づいてきているという感覚があります」(岩本氏)

※1…高さ5m以上の鉄筋コンクリート擁壁/内空断面積25m2 以上の鉄筋コンクリートカルバート類/橋梁上・下部工/トンネル/高さ3m以上の堰(せき)・水門・樋門が該当
※2…基礎の底面が広い部材(フーチング)を設置した直接基礎。地盤の支持力を上げる効果を有する

建設用3Dプリンティング技術が切り開く未来

2023年は、ポリウスにとって建設用3Dプリンターの普及・定着に向けてアクセルを踏み込み、準備を着々と整える年になった。

それでは、ここから同社はどのようにかじを切っていくのだろうか。

「インフラの老朽化を背景に建設業界が深刻な従事者不足に陥る一方で、災害やインフラの老朽化を起因とした持続可能な経済が実質的に崩壊するリスクは、都市圏、地方を問わず全国的に高まってきます。こうした中で、私たちが積み上げてきた事例がもっと広がっていくと、全国で困っている建設関係者の皆さんと協働する道が見えてきます。そうしているうちに、また別の現場が同じような状況にと、次々と各施工現場に合わせた3Dプリンターによる最適化協議がより必要な構造物が現れるはずです」(大岡氏)

「今年1月に起きた能登半島地震には全国の人々が大きな不安や心配を抱いたかと思います。前線でご対応されている方々がご無事であることを願いつつ、今こそ弊社の技術をより有効的に活用できるか、より真剣に協議を進める状況でもあると思います」(大岡氏)

新たな課題としては、発注時点から建設用3Dプリンターの使用を選択してもらう「設計折り込み」への打ち手探しだという。

より広い範囲への普及を目指すには、国の3Dプリンターに対する理解を促進し、建設用3Dプリンターの使用を一般化する必要がある。

「現状、弊社としては『建設用3Dプリンターを技術導入してみたい』というご相談に対して単純に機械を提供するだけでなく、運用においての研修やサポート、システム全般の品質保証や管理を行っていますが、市場の細かいニーズに対応していくためにも人的・物理的リソースの確保が急務になっています。弊社のビジネスサイドと開発サイドがより密に連携し、それらを安定的に提供することこそが、3Dプリンターのマーケットを育てる最大の原動力につながるはずです」(大岡氏)

現場で着実に実績を積み上げつつ、建設用3Dプリンターの普及に尽力するポリウス。

未来の建設現場を、今よりももっと便利に、そして人と環境に優しいものにするために、新たな選択肢となるはずだ。

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