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世界最大級の検査ラボ施設が本格稼働! アフターコロナの臨床検査に変革をもたらす「H.U. Bioness Complex」

H.U.グループホールディングス株式会社 執行役 兼 株式会社エスアールエル 代表取締役社長 松本 誠【前編】

健康状態を調べるために医療機関などで行われる臨床検査──。これらの検査を受託する株式会社エスアールエル(以下、SRL)などをグループ会社に擁するH.U.グループホールディングス株式会社。2022年に稼働を開始したH.U.グループの中核施設「H.U. Bioness Complex」は、医療や研究開発の領域から注目を集めている。最新の検査設備をはじめ臨床検査の在り方を塗り替えるような同施設の存在意義を、グループ執行役でありSRL代表取締役社長の松本 誠氏に聞いた。

3つの事業とR&D戦略で、人々の健康を支え続ける

H.U.グループホールディングスは富士レビオ株式会社(旧:富士臓器製薬株式会社)とSRLが2005年に経営統合、2020年に現在の社名となった。

グループ内には、受託臨床検査事業を行うSRL、臨床検査薬の開発・製造等を担う富士レビオ株式会社、大規模病院で使用した医療器具などの滅菌を行う日本ステリ株式会社などを擁する。ヘルスケアに関する事業を多面的にカバーし、社名の「H.U.(Healthcare for You)」の通り、人々の生活に寄り添ったヘルスケアの提供を目指している。

H.U.グループの事業展開イメージ。「検査・関連サービス事業」「臨床検査薬事業」「ヘルスケア関連サービス事業」の3事業と、それらに関わるR&D機能(Research and Development/自社事業の関連技術を開発、革新的なサービスを創出する機能)を擁する

資料提供:H.U.グループホールディングス株式会社

今回話を聞いた松本氏が代表を務めるSRLは、検査・関連サービス事業に属する「受託臨床検査」を行う企業で、1970年の創業から数えて五十余年の歴史を有する。

「健診機関や開業医、地域の基幹病院、大学病院といった全国の医療機関、研究施設から患者さんの血液や尿などの検体をお預かりし、治療の判断や疾患の特定に役立てていただくための検査を行っています」

SRLが受け入れている検査の数は、1日20万件以上。また、検査の受託金額では全国で23.4%(出典:矢野経済研究所「2023年版 臨床検査センター経営総監」)のシェアを占め、国内トップの数字を誇っている。中でも強みとなっているのが、技術力を生かした特殊検査だ。

「一般のクリニックや病院などには、検査のための設備がないことがほとんどです。こうしたところから検体をお預かりし、当社のラボで『特殊検査』を行います。例えば、がん検査や遺伝子検査などが該当します。これらの検査結果は投薬の効果を評価する指標になるなど、患者さんの治療方針を決める手掛かりになります」

「新型コロナウイルスの流行をきっかけに、医療従事者ではない一般の方々も抗原検査キットを使うようになり、検査が身近なものになりました。その結果、私たちと皆さんの接点も増えたのではないかと思います」(松本氏)

臨床検査といえば、医療機関などで採血を行う血液検査が思い浮かぶが、現在の検査は特定の疾患の発見だけでなく、治療方針の策定にも役立てられている。

あきる野から始まる、未来を創る“Bioness”

H.U.グループは2022年1月、東京都西部のあきる野市にてグループの新たな中核施設「H.U. Bioness Complex(通称Akiruno Cube)」の稼働をスタートさせた。それまで近接の八王子市にあった検査ラボの機能を移転、世界最大級の検査関連施設が誕生した背景について松本氏はこう語る。

「SRLは全国に約50カ所の検査ラボを保有していますが、その中核となるセントラルラボとしての機能を有した施設です。名称の“Bioness”は、命のデータの集積”Bio”と、業界“Business”にイノベーションを起こす創造力を組み合わせた造語で、ヘルスケアビジネスの未来を創る複合体“Complex”という意味を込めています。

前身施設は隣接する八王子市の検査ラボでしたが、近年の検査ニーズの急激な変化にも目を向けつつ、検査ラボだけでなくR&Dなどグループの機能を集約した最先端の施設を新たに建設しました」

「H.U. Bioness Complex」のコンセプト。「グループのさまざまな知見を持った人と人とがつながり、知識と技術を共有し、新たなヘルスケアビジネスが育まれる価値創造拠点を目指しています」(松本氏)

資料提供:H.U.グループホールディングス株式会社

検査ニーズの急激な変化の一つが、八王子市に検査ラボがあった時期に流行が始まった、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大である。

SRLと富士レビオなどが連携し、グループ一丸となっていち早く抗原定量検査試薬の開発に乗り出した。比較的時間を要するPCR検査だけでなく、空港検疫などでよりスピーディーな検査が求められていた中で抗原定量検査は非常に有用で、グループ傘下企業が高度に連携して大きなシナジーを生み出した事例となった。

「これまで臨床検査は、皆さんが受診される健康診断や、あるいは大学病院やナショナルセンター(NC/国立高度専門医療研究センター)などで行われる疾病の治療サポートのために用いられてきました。それが新型コロナウイルス感染症によってガラリと変化しました。ここから予防医療やヘルスケアに近い領域にも私たちの事業が参入できる機会が広がったと感じています」

自動化技術とAIを活用した「H.U. Bioness Complex」

広大な敷地には大きく分けて4つの棟がある。訪れる人を迎えるエントランスのある管理棟「S-Cube」をはじめ、カフェやダイニングを備えた厚生棟「W-Cube」、革新的な研究が行われるイノベーション拠点であるR&D棟「I-Cube」、そして1日数十万件の臨床検査を行うことができる検査ラボ棟「T-Cube」から構成される。

「H.U. Bioness Complex」全景。「T-Cube」(奥)、「I-Cube」(右)、「W-Cube」(中央左)などが回廊で接続。社員には、あきる野市の名を冠し「Akiruno Cube」の愛称で呼ばれる

画像提供:H.U.グループホールディングス株式会社

開放的で明るい空間が広がる「W-Cube」。繊細な作業と集中力を要する検査の合間、職員のウェルネスケアも大切にし、カフェ、ダイニングで心地よい時間を過ごすことができる

「H.U. Bioness Complexの検査施設で特徴的なのは、徹底した自動化です。T-Cube1階には、最新の検査機器を備えた全長120mほどの自動化ラインが設置されています。検体は、自動搬送モバイルロボット(AIV/Autonomous Intelligent Vehicle)で1~3階の検査エリアに運ばれます。ラインでは検査前処理を終えて流れてきた検体が、必要な検査を受けていきます」

「T-Cube」検査棟1階の様子。前身施設でのアナログなプロセスも、オートメーション化により大幅に省人化

屋外の検体輸送は無人搬送車(AGV/Automatic Guided Vehicle)が2台、検査棟と別棟間を往復。15台のAIVと連携し、各地から届く検体を休まず運送、円滑な検査を支えている

画像提供:H.U.グループホールディングス株式会社

H.U. Bioness Complexには高度な検査設備や機能、技術者も集まっているため、必然的に遺伝子検査や染色体検査といった特殊検査が多くなる。

「正確な検査のために必要なのは、より平準化された品質管理です。自動化することで人が操作するよりも安定した状態で検査を行えますし、ヒューマンエラーも減らせます。また、機材や試薬の補充もロボットが行うため、人の移動によるタイムロスを減らし、安定した品質で高速かつ大量に検査を行えるというわけです」

さらに、細菌検査や染色体検査といった“目“が必要な検査にもテクノロジーが導入されている。

「例えば、染色体を調べる場合、23対とX・Y染色体の全てを抽出して並べ替えます。これには熟練した技術が求められ、一人の検査技師が10年を要して習得するとも言われ、当然処理できる数にも限度がありました。この並べ替え作業をAIの画像解析技術で効率化した結果、処理できる数がかなり増えました。検査態勢を整えたことで、より高い信頼性と検査の所要時間短縮による効率化を両立して得られました」

人々の検査リテラシーの向上や、医療の現場でも臨床検査を用いるシーンが増えたことによってニーズの変化を感じているという松本氏。

後編ではH.U. Bioness Complexが稼働開始したことによって起きた社員の変化や事業におけるシナジー、さらに今後のヘルスケア市場においてH.U.グループが目指す価値提供について掘り下げていく。



<2024年3月21日(木)配信の【後編】に続く>
ヘルスケアビジネスの新たな価値、H.U.グループが見据える未来とは

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