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血液検査・ゲノム解析などあらゆる臨床検査を請け負うH.U.グループが見つめるヘルスケアの未来

H.U.グループホールディングス株式会社 執行役 兼 株式会社エスアールエル 代表取締役社長 松本 誠【後編】

全国でもハイレベルな特殊検査技術と最新設備を擁する世界最大級の臨床検査ラボを持つ「H.U. Bioness Complex」。臨床検査とR&D機能(Research and Development/自社事業の関連技術を開発、革新的なサービスを創出する機能)との融合によって生み出される“Bioness”とは、ヘルスケアビジネスの新たな価値とはどのようなものなのか。前編に引き続き、H.U.グループホールディングス株式会社 執行役で株式会社エスアールエル(以下、SRL)代表取締役社長の松本 誠氏に聞いた。

回廊でつながった新施設が、人の心を軽やかにする

2022年に東京都あきる野市にオープンしたH.U.グループの中核施設「H.U. Bioness Complex」。

あきる野が建設地に選ばれたのは、前身施設の所在地・八王子市に隣接し職員の通勤や居住に配慮した他、松本氏は検体輸送における交通アクセス、BCP対策※1を挙げる。

「検査ラボでは検体がスムーズに届けられるかも重要です。あきる野市には全国各地と首都圏をつなぐ圏央道(首都圏中央連絡自動車道)のICがあり、全国から検体を都心の渋滞を回避して回収することが可能です。また、あきる野は地盤が強固で自然災害のリスクも少ない地域ですが、地震などが発生した際もスムーズに業務復旧し、検査が継続できる設備を備えています」

※1…Business Continuity Planの略。自然災害、事故・事件等発生時の速やかな事業復旧・存続計画

※【前編の記事】世界最大級の検査ラボ施設が本格稼働! アフターコロナの臨床検査に変革をもたらす「H.U. Bioness Complex」

施設内には大規模な非常用発電機(上画像・3,750kVA×2基)、検査ラボ棟受水槽(下画像・600t)などを設置。T-Cube、I-Cubeは巨大地震でインフラが切断された後も72時間稼働が可能だ

画像提供:H.U.グループホールディングス株式会社

検査における臭気・排気対策も徹底。微生物が飛散しやすい検査は高性能フィルタを設置した安全キャビネット内で実施、室内への飛散と大気への放出を防ぐ(左)。化学薬品など臭気・粉じんを伴う場合は化学物質を除去する排気洗浄装置を通して排気する

資料提供:H.U.グループホールディングス株式会社

最新のテクノロジーが取り入れられた「H.U. Bioness Complex」だが、環境面やデザイン面でも多くの関係者の目を引く工夫が取り入れられている。

「施設のデザインやコンセプトはH.U.グループホールディングスの竹内成和会長兼社長を主体に『つなぐ・みせる・はぐくむ』の全体コンセプトが反映されるよう工夫されています」(松本氏)

同施設の印象は、一般に「検査施設」と聞いて思い浮かぶような真っ白な箱ではない。それぞれの棟が回廊で緩やかに、かつ有機的につながり、建物の内外にも水や緑が配された空間が広がっている。

「前身の検査ラボでは5つの棟がそれぞれに独立していたため、人の動きは自然と制限されていました。『H.U. Bioness ComplexAkiruno Cube』は、人が流動的に動くよう設計されています。全ての建物が回廊でつながっていることで移動のハードルが下がり、社員間のコミュニケーションも活発化しました」

噴水やビオトープを配した中庭には医療や健康にまつわる植物が植えられ、四季折々の姿を見ることができる。天気のよい日には、外で食事を取る職員の姿も見られるようになった

画像提供:H.U.グループホールディングス株式会社

検査業務は顕微鏡をのぞき続けることも多い。集中力を要する作業は疲労にもつながりやすい。そうしたときに「ふと外の景色が見える」ことでリラックスでき、リフレッシュできる効果も狙いにあるという。

コロナ禍で見えてきたグループのシナジー効果

「H.U. Bioness Complex」稼働前に拡大が始まった新型コロナウイルス感染症。グループ会社である富士レビオ株式会社などとの連携により、同社から抗原定量検査試薬と抗原検査キットがいち早く上市されたことで、検査・開発、そして実装のサイクルをグループ内で回せるH.U.グループの強みを再確認したという松本氏。H.U. Bioness Complexができたことで、このグループ内連携によるシナジー創出がさらに加速することにも期待を寄せる。

「富士レビオやR&D組織との連携には確かな手応えを感じました。その延長線上で、国の機関であるAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)から、ゲノム解析事業の受託に成功しました。SRLとR&Dのチーム体制で解析のための仕組み作りを行うことで検査態勢を確立できました。グループとしての強みを一層感じられる出来事でもありましたね」

また、昨今の検査ニーズの変化によって、ヘルスケア領域で感じている新たな可能性についても松本氏は言及する。

「パンデミック以前は臨床検査の社会的な認知度が低かったと思います。それがコロナ禍を経て『PCR検査』という言葉が一般化したように、現在は生活者の皆さんの『検査』に関する知識や関心が向上しています。抗原検査キットにしても、一般の方が自分で検体を採取して検査をするというのは、以前では考えにくかったことです。検査の認知度が高まったことで、症状に応じた検査を皆さんが能動的に受けられる未来になるのではないかと思います」

人々が自分の検査データを保有できる可能性にも期待

医療機関や健診機関でプロフェッショナルが行ってきた検査を、一般の生活者が自分で行えるようになる。その先に、新たな未来の可能性を見たという。

「自分で検査ができるようになれば、その検査結果をもって医師の診断を仰ぐこともできるかもしれません。今は医療機関が保有している検査データも、患者さん本人が保有できるようになればより便利になるのではと考え、H.U.グループでもアプリケーションの開発に乗り出しています」

健康診断の結果を紙で受け取ったものの紛失してしまった、という人も少なくないだろう。また、セカンドオピニオンを受けたくても以前の医療機関で受けた検査内容や検査結果が手元になく、二度手間となった経験がある人もいるかもしれない。

「検査結果をアプリで見られるようになれば、医師は患者さんから提供される情報も参考にしながら治療の方針を立てられるなど、より多くの情報を基に治療へ臨めるようになります。また、昨今の健康診断の内容を見ていても、一般の方の『疾病リスク』への関心が高いと感じます。病気になる前に生活を改善したいという思いも高まっていますから、そこにわれわれの技術が介入できる余地は大いにあると感じています」

「検査技術と開発力、そしてそれらを社会実装する際に求められる厳密な品質管理。『H.U. Bioness Complex』はこれらを全て包含しており、今後もグループのミッションを実現すべく取り組んでいきます」(松本氏)

先端医療における検査技術は ますます高度化しているが、SRLはがん治療に欠かせないコンパニオン診断関連検査をはじめ、新たな診断方法の開発につながる全ゲノム解析やプロテオーム解析※2などのオミックス解析にも力を入れている。

また、富士レビオのグループ会社が、全自動化学発光酵素免疫測定システム「ルミパルス」専用のアルツハイマー病関連試薬を開発している。アルツハイマー病と他の神経変性疾患との識別や、アルツハイマー病への進行の予測に役立つことが期待されている。

※2…細胞内のタンパク質の構造や機能を網羅的に解析すること。ゲノム解析(遺伝子情報の解析)と併用することで高精度な研究結果を導くことができる解析方法で、製薬研究に活用されている

富士レビオの全自動化学発光酵素免疫測定システム「ルミパルス」

画像提供:H.U.グループホールディングス株式会社

診断や治療が困難とされてきた疾病に今も多くの研究者が向き合っている。

私たちの健康を脅かすさまざまな疾病の診断・治療につながる画期的な検査法開発のニュースがあきる野から届く日も遠くないかもしれない。

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