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2020.3.23
EMIRAビジコン最優秀賞! ブルーカーボンで多角的に広げる「養殖藻場」ビジネスとは?
海藻に二酸化炭素を吸収させてウニまで育てるSDGsビジネスアイデア
2020年2月に開催した「EMIRAビジコン2020 エネルギー・インカレ」でEMIRA最優秀賞に輝いた「養殖藻場によるブルーカーボンの創造と活用」。二酸化炭素を吸収、固定するブルーカーボンをさまざまな方向に生かす提案をしてくれた琉球大学 工学部 電気電子工学科(現、工学科)の仲泊明徒(なかどまり・あきと)さんに、アイデアが生まれた背景や今後の展望などを詳しく聞いた。
>EMIRAビジコン2020 エネルギー・インカレについて詳しくはこちら
SDGsに貢献!ブルーカーボンの二酸化炭素吸収効果に着目
植物の「光合成」。光エネルギーを使って大気中から吸収した二酸化炭素と水を合成し、炭水化物を作るという、よく知られた言葉だ。
主に、この光合成で陸上の植物などに吸収・固定される炭素を「グリーンカーボン」と呼ぶ。一方、「ブルーカーボン」とは、海洋生物によって吸収・固定される炭素のことを指す。
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沿岸部の海藻は、二酸化炭素の吸収・固定において高いポテンシャルがあると期待されている
ブルーカーボンは、2009年になって初めてUNEP(国際連合環境計画)によって名付けられた名称だ。まだ広く浸透している言葉ではないものの、新しい二酸化炭素吸収の選択肢として期待されている。
同時に、沿岸湿地やマングローブ林といった「ブルーカーボン生態系」が開発などによって急速に失われている現状を懸念し、UNEPはその価値を訴えている。
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ブルーカーボン研究会の試算によると、日本沿岸域では2030年における「ブルーカーボン」の二酸化炭素吸収源としてのポテンシャルは204~910万t。都市緑地のポテンシャルと比べると1.6~7.3倍になる
沖縄で生まれ育ち、地元の琉球大学に通う仲泊明徒さんは、「私が生まれ育った沖縄は、海が身近です。なので、自然と海を活用する方向に向かったのかなと思います」と、発想の原点を語った。
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受賞の喜びを語る琉球大学 工学部4年の仲泊さん。落ち着いた話し方で、プレゼンでは短い時間に論点を無駄なく説明してくれた
今回、仲泊さんが考案し、「EMIRA最優秀賞」に選ばれた「養殖藻場によるブルーカーボンの創造と活用」は、この「ブルーカーボン」が軸になっている。アイデアの中心に据えられた舞台は「養殖藻場」だ。
大気中の二酸化炭素を吸収・固定できる海藻の養殖場を作り、二酸化炭素のクレジット化による「排出量取引」、海藻を飼料にした「ウニ養殖」、海藻そのものを原料にする「海洋バイオマス燃料製造」と「肥料製造」という4つの事業を展開する。
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養殖藻場によって吸収・固定される二酸化炭素と、育った海藻自体を最大限活用するアイデアだ
資料協力:琉球大学 仲泊明徒
1つ目の「クレジット化」とは、吸収・固定された二酸化炭素の量を権利化して、排出量を売買するということ。つまり、養殖藻場が吸収した二酸化炭素に価値を付けて、排出量の抑制をしなければならない企業などと取り引きしていく。
ただ、これだけでは利益を生み出すまでには至らないため、基盤となる海藻自体をさまざまな形に製品化して販売し、収益を生み出していこうという考えだ。
養殖藻場の候補地、養殖ウニのブランド展開、それに燃料化の工程で発生する熱エネルギーの利用法など、4つの事業を具体化するステップも考案。。
制度面や技術面など、自身の中で答えが見いだせなかった課題も見えたものの、これらを実現できれば、二酸化炭素の吸収・固定による環境保全にとどまらず、エネルギー問題や漁業環境の改善、さらには地域活性化や雇用創出にまでつながるとしている。
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仲泊さんのビジネスアイデアは、ブルーカーボンの活用だけにとどまらず、養殖した海藻をさらに有効活用して多角的な事業展開を狙う
資料協力:琉球大学 仲泊明徒
>二酸化炭素のクレジット化について詳しくはこちら
こういった多角的な事業展開の可能性をはじめ、募集テーマとなった「SDGs」(持続可能な開発目標)への親和性、環境面、経済面と幅広い効果が期待できること、そしてそれらを論理的にまとめた点が、審査員からの高評価に結びついた。
生まれ育った故郷の“海”から生まれたアイデア
まだ世間には広く知られているとはいえない「ブルーカーボン」をビジネスアイデアの軸として組み込むことができたのには、前述の通り仲泊さんの育った環境が関係している。
仲泊さんが生まれ育ったのは、沖縄・恩納村。長い海岸線を持つ村で、リゾート地としても知られる。
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恩納村の観光名所「万座毛」。このような美しい海岸線が続く村で、仲泊さんは育った
「それほど活発な子どもではなかったと思うのですが、友人たちとの付き合いで、海に入る機会は多かったですね」
身近にあった海から、ブルーカーボンをビジネスにつなげられると思った。それをどのように利用していくかと考えたとき、従来のカーボン・クレジットが適用できないかと思い至った。
「ブルーカーボンを検討するにあたって、初めにクレジット化の可否を考えました。調べると、神奈川県横浜市では既にブルーカーボンをクレジット化する仕組みが始まっていることが分かったので、実現できる可能性は高いと感じました」
ただ、クレジット化だけでは、収益化していくのは難しいと考えた仲泊さん。次に思い付いたのが、「ウニの養殖」だった。
「所属する研究室で昔、ウニを使って研究を行っていたことがあったそうで、教授に『ウニ』についてのニュースを教えていただくことがありました。そこから、養殖した海藻がウニの養殖にも利用できるんじゃないかと思ったんです」
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最終プレゼンテーションに参加した5チームの中で唯一の個人応募者。「このような賞をいただけるとは思っていませんでした」と仲泊さん
その先に熟慮したのが、SDGsにエネルギーの視点から挑戦する「SDGs×エネルギー」という今回の募集テーマだ。当時の仲泊さんにとって、SDGsは聞いたことがあるという程度の言葉だった。
「SDGsで設定された17の目標を考えると、養殖藻場とウニの養殖だけでは少し弱いと思いました」
そこで考えたのが、養殖した海藻からバイオマス燃料を生産して新しいエネルギーとして活用することや、乾燥・加工して海藻肥料として販売することだ。
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仲泊さんが自身のビジネスアイデアで貢献できるとしたSDGsの目標。各事業がリンクし合いながら、4つの目標に貢献できると訴えた
海藻を乾燥させる工程をバイオマス燃料と海藻肥料で共通させて効率化を図ることなども盛り込み、仲泊さんのビジネスアイデアは完成した。
「最初のうちは知らないことばかりでしたが、いろいろと自分なりに調べて、何とか完成させることができました」
「自分がどこまで行けるのか」に興味がある
今回、「養殖藻場によるブルーカーボンの創造と活用」というビジネスアイデアで見事「EMIRA最優秀賞」を勝ち取った仲泊さんだが、実は普段から「ブルーカーボン」を研究しているわけではない。
在籍している琉球大学 工学部 電気電子工学科(現、工学科)の千住研究室(千住智信教授)は、電力を安定供給するための電力システム工学や、直流から交流に電力を変換する技術といったパワーエレクトロニクスが主な研究テーマだ。仲泊さんも例外ではない。
「『電気』は目に見えないので、どういう仕組みで動いているのかが気になったんです。見えないからこそ知りたいなと」
仲泊さんの趣味だという音楽。エレキギターで音をひずませたとき、「何が起こっているんだろう」と思ったという。そういった疑問が、仲泊さんを研究の道に進ませた。
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仲泊さんのプレゼンテーション資料。ブルーカーボンをイメージした色遣いや「期待される効果」をSDGsのアイコンに合わせてデザインして見せる点など、読みやすい構成が光る
資料協力:琉球大学 仲泊明徒
そんな、どちらかといえば“研究者”としての気質が強い仲泊さんだが、最終審査のプレゼンテーションでは、審査員との質疑応答で、「テーマ設定が良い」「事業設計も非常に論理的」とプランナーとしての能力も高い評価を受けている。
それと同時に、「SDGsの『産業と技術革新の基盤をつくろう』という目標を結び付けると、もっと良かった」「解決すべき課題が多過ぎる。自分の力で解決できる問題と課題として残る部分を明確にしないと、例えば会社の中で提案するときには夢物語と言われてしまう」というビジネス化への課題も指摘された。
ただ、仲泊さんにとっては、これがほぼ初めてとなるビジネスアイデアの提案。全国から集まった学生たちや、審査員たちの前でビジネスアイデアを披露することは、刺激になったようだ。
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「養殖藻場を、実際にどこでやるかなど、まだまだ考えなければならないことがあることが分かり、いい経験になりました」
この春からは、琉球大学 大学院に進学する。将来については、「具体的な目標が現状あるわけではありません」としながらも、明言することも。
「自分がどこまで行けるか、ということには興味があります」
仲泊さんの将来は、ブルーカーボンビジネスか電力システム工学か、それとも全く別のテーマを見つけて研究を進めていくのか。若き研究者の前途には、限りない未来が広がっている。
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text:仁井慎治(エイトワークス) photo:野口岳彦
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