1. TOP
  2. プロトタイプリポート
  3. 「EMIRAビジコン2023」最優秀賞決定! 学生160チームの頂点に輝いたのは?
エネルギーの革新者

「EMIRAビジコン2023」最優秀賞決定! 学生160チームの頂点に輝いたのは?

「カーボンニュートラル×エネルギー」をテーマにしたビジネスアイデアコンテストの最終審査が開催される

今年で4回目の開催となる、EMIRAと早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム(以下、PEP)が共同で開催する学生ビジネスアイデアコンテスト「EMIRAビジコン エネルギー・インカレ」。今回から文部科学省後援となった同コンテストの最終審査が2月18日に早稲田大学(東京都新宿区)で開催され、5チームによる最終プレゼンテーションが行われた。最も優れたアイデアに授与されるEMIRA最優秀賞に輝いたのは、どのアイデアか?

テーマは「カーボンニュートラル×エネルギー」

イノベーションを「エネルギー」という視点から読み解いて未来を考えるメディア「EMIRA」と、電力・エネルギー業界の人材育成を進める「PEP」がタッグを組んで開催する「EMIRAビジコン2023 エネルギー・インカレ」。その最終審査が2023年2月18日に東京都新宿区の早稲田大学 リサーチイノベーションセンターで行われた。

>第1回「SDGs×エネルギー」リポートはこちら
>第2回「食×エネルギー」リポートはこちら
>第3回「住まい方×エネルギー」リポートはこちら

3年ぶりのオフライン開催ということもあり、会場のボルテージが高まる

今回のテーマは、「カーボンニュートラル×エネルギー」。

この数年でカーボンニュートラルへ向かう動きが世界的に加速し、二酸化炭素(以下、CO2)排出量削減を誰もが私事(わたくしごと)として取り組まなければならない時代が到来したことを受けて設定された、「原点回帰」ともいえるテーマだ。

このストレートであるがゆえに難しいテーマに対し、全国の大学生・大学院生から集まったビジネスアイデアは160。

そこから厳正な審査が行われ、この日の最終審査に残ったのが以下の5チームだ。

———————————————–
【アイデア/チーム名】
1.飲食店向けコンポストサブスクシステム/アッド・コンポスト(早稲田大学・早稲田大学 大学院)
2.カーボンニュートラル達成に向けた取り組みの効率化を図るサービス「Choo2(チューズ)」/K小学校同窓会(一橋大学・早稲田大学)
3.アパレル業界の変革より、環境にやさしい世界を目指す/ECOCLO(大阪大学大学院)
4.太陽光発電で人を繋ぐサービス「あんやとSUN!(サン)」/チームES(金沢工業大学)
5.鉱泉を活用した海の環境と漁獲量向上事業/地球化学研究室(近畿大学)
———————————————–


まずは審査員を務めるEMIRAの亀谷潮太編集長が、「技術、制度、社会規範、そして産業創出の4つの要素。これらが全て達成されないと、カーボンニュートラルの状態はつくれません。これは思考を止めてはいけないということ。考えて、行動して、イノベーションを生み出す。これからそれを行うのが、ここにお集まりの皆さんです。今日は日頃の学問の成果を思う存分発揮していただければ」と開会のあいさつをした。

EMIRAの亀谷編集長

続いて、同じく審査員を務める東京電力ホールディングス株式会社 エリアエネルギーイノベーション事業室副室長の平山学氏、PEPプログラム プログラムコーディネータ―の林泰弘教授(早稲田大学 理工学術院 先進理工学部教授)と、特別審査員の国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) フェローの関根泰氏(早稲田大学 理工学術院 先進理工学部教授)、O ltd.CEOでMakaira Art&Design代表とザ・ソーシャルグッドアカデミア代表を兼任する大畑慎治氏が紹介され、学生たちによるプレゼンテーションがスタートした。

審査員を務める林教授(上)と平山氏(下)

特別審査員を務める関根氏(上)と大畑氏(下)

学生らしい体験から導き出したアイデアが次々に登場

トップバッターは、早稲田大学・早稲田大学 大学院の5名からなる「アッド・コンポスト」。チーム名にもなっている生ごみを分解して堆肥に変える「コンポスト」を利用した、「飲食店向けコンポストサブスクシステム」をベースにしたビジネスアイデアを披露した。

水分が多い「生ごみ」を焼却するのは、膨大なエネルギーが必要になる。飲食店でのアルバイト経験から、外食産業の「生ごみ」の処分を改善すればカーボンニュートラルの実現に近づくという着想を得てアイデアを構築。

この日はリーダーの早稲田大学 大学院の吉次なぎさん(左)と、早稲田大学の大村晃央さん(右)の2名で発表。大村さんの飲食店でのアルバイト経験がアイデアのきっかけとなった。机上に置かれているのは、開発するコンポストの模型

「イニシャルコストなしで小規模飲食店に自社開発のコンポストを導入してもらい、その一次発酵品は首都圏近郊の農家に有機肥料として安く提供する」と、ビジネスモデルを説明。独特だったのが、コンポストにデジタルサイネージを導入することで、見えないところではなく見えるところに設置してもらおうという点だ。

「コンポストの中身をかき混ぜる行動を、デジタルサイネージを使ってエンタメ化。通行人がハンドルを回すきっかけをつくれれば、飲食店の従業員の負担が減らせる」とし、さらに「デジタルサイネージは広告収入にもつながる」とも付け加えた。

最後に、「オシャレにさえできれば、CSR(企業が行う組織活動の社会的責任)の観点からもコンポストは見えるところに設置してもらえる。『クリーンを誇りに。もっとオシャレに。』が合言葉です」と締めくくった。

「アッド・コンポスト」のビジネスモデルの図解。小規模飲食店が密集し、近隣に農家も多いことから、東京での起業を想定している

2組目に登場したのは、「K小学校同窓会」の2名。発表したビジネスアイデア「Choo2」は、環境に対する意識が高い個人に向けて、CO2削減に寄与できるサービスなどの情報を提供するウェブサイトだ。

ただ情報を掲載するのではなく、「Choo2」を通してサービスを利用したり寄付を行ったりすれば、それによるCO2削減効果が表示される。さらには支払った金額に応じて得られるポイントでのキャッシュバックも受けられる内容になっている。

一橋大学の愛川優さん(左)と早稲田大学の寺崎琳さん(右)。2人は、小学校の同級生

CO2削減方法やそれにかかる費用、CO2削減量の目安などを選べば、ユーザーに適したサービスやプランの一覧が表示されるという仕様で、1カ月ごとに自分の目指すCO2削減量が達成できたかどうかの効果測定も行える。またキャッシュバックも、研究機関への寄付を選ぶ場合は自分の利益にするよりも倍額になるよう傾斜が付けられており、さらなる環境配慮行動を促進する仕組みになっている。

「やり方、効果、利益の『3つの分からない』を解決できます」などと結び、発表を終えた。

「Choo2」の利用手順。1カ月ごとの振り返りを導入することで、PDCAサイクルを生み出している

続いては「ECOCLO」による、サステナビリティに着目した洋服管理ビジネスのプレゼンテーション。大阪大学 大学院で学ぶ4名が考案した、洋服の購入、着回す、手放すという一連の流れの中で生まれる課題を解決するためのスマートフォンアプリのアイデアだ。

「カーボンニュートラルの2030年目標では、部門別の目標も定められていて、その中には『家庭』部門もある。企業だけではなく、一人一人が主体的に取り組んでいく必要がある」と、身近な洋服の課題に着目した理由を説明した。

この日は遠方かつ大学院での予定と重なってしまったため、リーダーを務める大阪大学 大学院の橘尭志さん1名でのプレゼンとなった

洋服業界において大量生産・消費・廃棄の流れが拡大していることや、CO2排出量年間約9万ktなど洋服から排出される環境負荷の総量を指摘。「洋服の衝動買い、しまっておく場所の不足、着回しのしにくさによる廃棄などの問題を解決すれば、無意識のうちにカーボンニュートラルの実現に貢献できる」として、アプリで洋服を管理することの効果を説いた。

「ECOCLO」が考え出したアプリは、購入した洋服をスマホのカメラで撮影してアプリ内のクローゼットに入れて管理すれば、自然と重複する洋服の購入を控えられるというもの。AIが他の洋服と合わせて着回しの提案をしてくれる上、既存のフリマアプリと連携することで洋服を廃棄せずに2次流通させることもできる。

「無意識の行動によって『環境問題の解決に貢献できていた』と知ることで、利用者の環境意識が強く芽生えていく」と、アイデアの狙いを語った。

スマホアプリの画面の一例。「既存の10ほどある洋服管理アプリを研究して、UI(ユーザーインターフェース)にもこだわりました」と、橘さん

4組目は、「チームES」。国内で住宅用太陽光発電に適したエリアは内陸部や南日本に多いのに対し、住宅用太陽光発電に投資したいと考える人は関東や関西、北海道に多いというミスマッチに着目したビジネスアイデア「太陽光発電で人を繋ぐサービス『あんやとSUN!』」を披露した。

「あんやとSUN!」は、太陽光パネルを設置してみたいが場所や天候が条件に合わない人と、場所や天候は良いが太陽光パネルの設置費用が出せない人をマッチングさせるアプリ。土地所有者が太陽光発電設備を設置できる土地をアプリに掲載し、それに対して投資家たちが好みの土地を探して資金提供を行う、という仕組みになっている。

土地所有者は太陽光発電設備の費用以外に土地使用料も収入になり、投資家は投資額に応じて売電収入を得られる。また「あんやとSUN!」の運営事業者も売電収入の一部を得ることで利益となり、それを太陽光発電設備の保険や維持に回していくというビジネスモデルだ。

「チームES」は、金沢工業大学の山下稜司さん(左)と江原直さん(右)の2人で構成。「あんやとSUN!」は、石川県金沢市の方言で「ありがとう」を意味する「あんやとさん」に由来

また、100円という少額から投資できるのも特徴で、「少額投資もでき、投資さえすればメンテナンスなどはアプリ側に任せておけるので投資家は自分では何もしなくて済む。このビジネスモデルなら、若い世代にも興味を持ってもらえる」と、強みを訴求した。

「チームES」が説明したビジネスモデルの図解。クラウドファンディングのような形で、広く資金を集め、集まったものから太陽光発電設備を設置していくことを想定している

そして最後に登場したのは、「地球化学研究室」。地元・大阪湾で捕れるイカナゴやイワシといった海産物の漁獲量が水温の上昇とともに減ってきていることを問題視し、その解決策を探る中で、大学での研究内容を生かした「鉱泉を活用した海の環境と漁獲量向上事業」を発案した。

大阪湾の水温上昇の理由はさまざま考えられるが、地球温暖化も一因ではないかとした上で、CO2を吸収する海中の藻類を増やせば水温上昇を抑えることができると論理を展開。さらに藻類は魚の餌にもなるため、同時に漁獲量も回復できると発想を広げ、このビジネスアイデアにたどり着いた。

「地球化学研究室」は、近畿大学の清水大河さん1名のみのチーム。大阪出身の清水さんは地元で捕れるイカナゴやイワシが大好物で、漁獲量減少の問題を解決したいという強い思いを抱く

藻類が光合成を行うには、鉄が不可欠。そのため海中に鉄を供給すれば藻類は増えることになるのだが、単純に鉄を海に散布するのではすぐに酸化鉄になってしまい、効果がなくなってしまう。そこで目を付けたのが、大阪湾に流れ込む川に湧く鉄イオンを含んだ鉱泉だった。

「近畿大学 地球化学研究室でしか作れない『抽出フルボ酸』という物質を鉱泉の湧出地点で加えれば、酸化しない特殊な鉄のまま海に流れ出ていく。この方法なら、継続的に鉄を海中に供給することができる」と、普段の研究内容と絡めて説明。

さらに、鉱泉は大阪だけではなく国内の至る所で湧いているため、この「抽出フルボ酸」を販売することで全国どこでも同じ手法が使えることにも言及。「各地の漁業組合と契約してこの仕組みを運営し、同時に『抽出フルボ酸鉄』の販売も行えば、マネタイズできる」と結論づけ、5チームによるプレゼンテーションが終了した。

清水さん自身の研究内容と、地元の漁獲量減少という問題意識を絡めて完成したビジネスモデル。フルボ酸鉄を海に流すことでの環境影響は、今後実証予定だという

全国160チームの頂点、EMIRA最優秀賞はどのチームの手に?

プレゼンテーション終了後、審査員と特別審査員の5名は別室で議論。その結果、ついにEMIRA最優秀賞が決定した。受賞したのは、「ECOCLO」だ。

EMIRA最優秀賞を受賞し、笑顔を見せる「ECOCLO」の橘さん(右)

「ECOCLO」の橘さんは「ビジネス化するには課題を検討する点も多いですが、今回磨いた新しい視点を生かしてイノベーションを起こしていけるように頑張っていきたい」と、喜びを表した。

ほかKADOKAWA賞には「K小学校同窓会」、TEPCO賞には「アッド・コンポスト」、優秀賞には「チームES」と「地球化学研究室」がそれぞれ選ばれた。

表彰式後、審査員を務めたPEP林教授が総評。「いずれも甲乙付けがたい優れたアイデアで刺激を受けましたし、楽しく審査できた」と、参加チームを称えた。

総評で「大切なのは、皆さんのような学生が、自分たちの未来を考えてコツコツ行動していくこと」と述べる林教授

最後に「若い方々には、カーボンニュートラルリーダーになってほしい。これを機に、学校に戻った後も『EMIRAビジコン良かったよ』と後輩にも伝えて、次の人も巻き込んでいき、大きな日本のうねりにしていってもらえれば」と次の世代に希望を寄せ、審査会を終えた。

「EMIRAビジコン2023」に参加した全ての学生が、今後も「カーボンニュートラル」に対して関心を持ち続け、いつか大きなムーブメントを起こしてくれることを期待したい。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. プロトタイプリポート
  3. 「EMIRAビジコン2023」最優秀賞決定! 学生160チームの頂点に輝いたのは?