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2021.08.18
物流のドライバー不足解消を目指して! 国交省が取り組むモーダルシフトの意義と課題
脱炭素社会と人材不足を見据えた未来志向の流通
ことし6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」をベースに、物流改革を推し進める役割を担う国土交通省総合政策局物流政策課。中でも2019年に新設された物流効率化推進室では、運送事業主、荷主、そして国民全般へ向けて、まだまだ聞き慣れない「モーダルシフト」の周知と推進に取り組んでいる。今回は、同室の小倉佳彦室長にモーダルシフトの概要と意義、そしていかに推進されているのか現状を伺っていく。
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始まりは第2次オイルショック
貨物輸送の手段を自動車から環境負荷の少ない鉄道や船舶へ転換させる取り組み「モーダルシフト」──。
荷物を輸送する際、ある地点までトラックで輸送、途中で鉄道・船舶などへ荷物を移し、その後は再びトラックで納品先へ…というように、CO2排出を抑えつつ荷物を効率よく輸送する。
このフォーマット以外にも輸送事業者がそれぞれに工夫を凝らし、自動車による輸送を切り替える動きが加速している。
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モーダルシフトの概念図。企業が商品の生産~廃棄に至るまで環境負荷低減を社会的責任と位置付ける中、輸送(物流)面においてモーダルシフトや輸配送の共同化、輸送網の集約などの物流効率化は特に効果的な取り組みとして位置付けられる
国土交通省資料より
国土交通省総合政策局物流政策課の小倉佳彦室長は「モーダルシフトの発想自体は1980年代に生まれていたものです」と説明する。
「当時、日本は第2次オイルショックに見舞われ、石油の消費を減らすためトラックから他の輸送手段へ転換する発想が生まれたと認識しています。ただ、具体的な施策は21世紀に入ってから、地球温暖化がクローズアップされ、CO2排出削減など環境負荷低減をより強く意識し始めてから徐々に実施されるようになりました」
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「『総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)』では、機械化・デジタル化を通じて物流そのもののあり方を変革させる『物流DX(デジタルトランスフォーメーション)』も推進しています。関連の支援制度も設けており、物流事業者にモーダルシフトと共に、労働環境の底上げを実現してもらえたらと考えています」(小倉室長)
また近年は、企業にとって環境負荷低減のほか人材不足の解消にもつながることからモーダルシフトが加速し始めているという。
「物流業界では今、トラックドライバー不足が大きな問題となっています。2024年度から働き方改革関連法に基づく時間外労働規制により、トラックドライバーに年間960時間以上の時間外労働が生じた場合、罰則が適用されます。これは2016年頃に宅配業における労働過多が問題視されたことによる法整備に端を発し、そこへコロナ禍でネット取引による荷物量が増加したこともあり、運送業を中心に危機感を抱えているのが現状です」
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貨物輸送手段別における輸送量当たりのCO2排出量の比較。「営業用貨物車(事業者のトラック)に対し、排出原単位では船舶で約5分の1、鉄道で約13分の1と非常に少なく、一度に運べる量も増えることから効率化につながります」と小倉室長。なおトンキロとは、輸送した貨物の重量に貨物の輸送距離を乗じた数値。経済活動として貨物輸送をより適確に表わす
国土交通省資料より
トラックによる長距離輸送が過酷なことに加え、ドライバーの高齢化も進んでいる。
「トラックドライバーが働けなくなる=モノが運べなくなる時代がやって来てしまう前に、環境負荷と人手不足を解決する手段の一つがモーダルシフトなのです」と小倉室長は強調する。
サプライチェーン全体での流通効率化が急務
閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」では、5年間でモーダルシフトをいかに推進していくか、その目標値が設定されている。
「鉄道輸送を25億トンキロ、海運輸送を31億トンキロ、それぞれ輸送量の増加を目指します。貨物量全体の増加見込みを抜いた数値ですが、それでも輸送手段が変わることで環境負荷、人材不足の解消が見込まれます。この目標を企業に寄り添いながら効率良く推進させていくのが私たち物流効率化推進室のミッションです」
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総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)概要。コロナ禍の影響も鑑みつつ策定され、モーダルシフトの推進は「地球環境の持続可能性を確保するための物流ネットワークの構築」(図下段・左)における取り組みなどに位置付けられている
国土交通省資料より
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総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)より、モーダルシフトに関する指標(下段の左が現状値、右が目標値)が、輸送事業者の省エネ改善率と共に定められている
国土交通省資料より
この輸送効率について、一般的には見えづらい問題がある。
「営業用貨物車(トラック)は、1台の積載量に対し平均4割程度しか積むことができていないという現状です。これは往復共に荷物が運べるわけではないなどの理由が挙げられます。これを事業者同士の共同輸送やモーダルシフトで解消してもらい効率化を図りたいと考えています」
これらを物流事業者単独で推進することは困難であり、生産者、荷主企業も含め物流に携わる関係者、サプライチェーン全体で取り組めるよう、経済産業省、農林水産省とも連携し取りまとめている。
「本省では2011年度から『モーダルシフト等推進事業(補助事業)』を展開しています。本年度は約4300万円の予算が付けられましたが、予算額以上の公募があり、受付は6月に終了しています。私たちとしても予算額内でしか措置できず悔しいところではありますが、次年度にはより多くの事業者の応募に応えられるよう努めたいと考えています」
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「モーダルシフト等推進事業(補助事業)」の募集項目。物流総合効率化法の枠組みの下、モーダルシフト、幹線輸送の集約化などの総合効率化計画を策定するための経費、同計画に基づき実際に運⾏した初年度の経費の支援を行っている
国土交通省資料より
こうした物流総合効率化法に基づく支援措置の他、経済産業省と連携した「グリーン物流パートナーシップ会議」において、複数事業者間のパートナーシップにより、環境負荷低減などの持続可能な物流体系の構築を実現した優良事業者を表彰実施している。
「会議ではモーダルシフトの工夫がしっかりなされ、CO2排出量の削減などを実現した荷主企業主体の取り組みを経産省が、物流事業者主体の取り組みを国交省が表彰し、荷主企業と物流事業者の連携によるグリーン物流の普及拡大を推進しています。表彰は毎年年末に実施されますが、今年度はデジタル化を活用した取り組みなどを表彰できるよう、制度を拡充します」
日本の地形と流通は、モーダルシフト向き
この他、国土交通省では海事局がエコシップ・モーダルシフト事業実行委員会(事務局:日本長距離フェリー協会)と共に「海運モーダルシフト大賞」を選定。この賞では、陸上輸送から海上輸送へモーダルシフトを推進する事業者の、輸送形態や方法における革新的な工夫や取り組みを評価している。
「この表彰制度には、海上輸送へのモーダルシフトを、特に人手不足で悩まれる物流事業者に認識していただくという側面もあります。長距離輸送を担うドライバーがフェリーでしっかり休息を取っていただくなど、労働環境の改善にもっと役立ててもらえたらと考えています」
近年、フェリーやRORO船(貨物を積んだトラックや荷台ごと搭載・輸送する船舶)による輸送力の増強の動きがあり、輸送手段としてのポテンシャルが高いと言える。
「日本は北から南まで鉄道網が発達しており、古くから貨物輸送に活用されてきました。また、欧米諸国と比較すると四方を海に囲まれており、江戸時代には廻船が発達したように海上輸送の面でも非常に恵まれています。この特徴を改めてモーダルシフトに活用しない手はありません」
また日本では、首都圏などに向かって北は北海道・東北、西は九州から農産物や魚介類が集中して流通する傾向が顕著である。
「北海道⇒首都圏、九州⇒首都圏などの長距離輸送には、ぜひ鉄道や海運を利用してもらいたいと思います。かつてはトラックドライバーが長距離を運べば運ぶほど稼げた時代があったかもしれませんが、今はそうもいきません。今こそ長距離輸送手段を切り替えていかなければ、近い将来、ドライバー不足でモノが運べなくなり、私たちの食卓や家計にも影響を及ぼしかねないのです」
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「また例えば、みなさんが商品を注文された際、不在による再配送が起きないよう意識を高めていただくだけで、物流事業者の負担は軽減しますし、「将来モノが運べなくなる」というリスクが広く認識されればモーダルシフトの後押しにも十分なり得ます。一般消費者の認知を高めることはそういう意味でも大切だと考えます」(小倉室長)
今後も環境負荷低減はもちろん、人手不足解消の有効策としてモーダルシフトを物流事業者や荷主、そして一般消費者にも広く認知させていきたいと小倉室長は話す。
「行政としてはモーダルシフトを認知していたものの、言葉そのものがまだまだ一般に認知されていません。皆さんがネットやオンラインで購入された商品が、一体どのようなルールで、どのように運ばれているのか?ということを知っていただくだけで非常に意義があると考えています。私たちも、モーダルシフトの更なる推進のためにも努力していく所存です」
行政の推進で、より加速するモーダルシフト。
次の本特集2本目では、その移行手段の一つである鉄道側のモーダルシフトの取り組みについて、日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)に話を伺う。
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