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2023.08.07
デジタルアーカイブで1000年後も生き続ける! 変化するNFTアートの価値
世界唯一の“NFT美術館”館長に聞く、NFTアートビジネスのこれから
NFTはブロックチェーン技術によって記録の偽装や改ざんを防ぐことができる性質から、これまでコピーが容易だったデジタルアートに「これがオリジナル品である」と保証する手段にもなり得る。そのため何十億円という高額で取引されたNFTアートが投資の対象としても注目を集めた。そうしたNFTアートを取り巻く現在と今後を、世界唯一とされるNFTアートを展示する美術館「NFT鳴門美術館」(徳島県)の山口大世館長に伺った。
(メイン画像:NFT鳴門美術館)
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NFTアートはなぜ高額になったのか
NFT鳴門美術館は、既存の美術館をリニューアルする形で2021年、徳島県鳴門市にオープンした。
同館を運営する山口大世氏は「オープンした2021年8月頃が、NFTアートが一番盛り上がっていたと思います。でも、それはバブル期のような盛り上がりで、現在は落ち着いています」と振り返る。
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「NFT鳴門美術館の前身の『鳴門ガレの森美術館』は、赤字運営が続き、所有している鳴門市も頭を悩ませている状況でした」(山口氏)
NFTアート自体は、2017年にサリアムブロックチェーン上で誕生した「CryptoKitties」というゲームに端を発するが、近年のように価値を見いだされたり、価格が高騰したりといった現象に至ったのは「コロナ禍によるところが大きい」と山口氏は分析する。
「これまでは外に出掛けて、最新のガジェットや高価なブランド品をステータスとしてアピールすることができました。ところがコロナ禍で自宅にこもる日々においては、せっかく最新のモノや高いモノを所有しても、それを見せるチャンスがありません。そこで目を向けられたのが、自宅で購入できてネット上でも保有をアピールできるNFTアートでした。そこから火がつき、NFTアートのマーケットは盛り上がりました」
著名人が高額なNFTアートを購入し、小さなデジタルアートに何百万円もの価値が付くなど、高額な取引のニュースを目にした人も多いだろう。「その価値は何十倍、何万倍にもなる」と感じて、株式投資のようにNFTアートを手にする人も多かったという。
一方で、短期的な投資対象としてのNFTは飽和状態にあるとも言える。新たな購入希望者が増えない限り、その価値は上がらない。
「投資目的で保有していた人も『もうからないのでは…』と感じ始め、NFTアートバブルは終焉を迎えました。もちろんこのバブルが無意味なものだったとは思いません。高額なNFTアートを保有しているというステータスは残りますし、その人の経済力を示す指標にもなりますから、そういった人をターゲティングした顧客コミュニケーションに生かす手段もあります」
代替できない性質を、所蔵品の正確な記録・保管に生かす
山口氏は金融系企業での勤務や自身での起業も経験し、現在、美術館の運営を担っている。そこには美術館という「箱」の価値を生かし、さらに現存する美術品の保全につなげる目的もある。
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NFT鳴門美術館の外観。アートの管理や認定を行う上で、美術館という存在は非常に社会的な信頼が高く、「NFTアートを扱う上でも現実の美術館を開くことは大きな意味があります」と山口氏
画像提供:NFT鳴門美術館
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NFT鳴門美術館の館内。映画『竜とそばかすの姫』の仮想世界内に登場した衣装をリアルに再現したものと、そのデジタルデータ(NFT)に関する展示、AIによる自動制作アート作品を40台のモニターで展示するなど、ユニークな展示方法が特徴だ
画像提供:NFT鳴門美術館
「NFTには記録の正確性を保証する仕組みがあります。いつ、誰が記録したのかがしっかりと残る。これは美術館や博物館のデジタルアーカイブを作る面で非常に役に立つんです」
デジタルアーカイブとは、美術館や博物館、図書館に所蔵されている文書や資料をデジタル化し、データベース化して保存したもの。現物がなくても世界中から参照できるのがそのメリットだが、山口氏によれば「それらがどのような状況で保存されたものなのかを正確に残しておくことが重要」だという。
「例えば、人類の歴史も古代から記録し続けられていますが、“それが誰によって残されたものなのか?”など、本当に真実かを知るすべが私たちにはありません。そうした記録の正確性を保証できる可能性がNFTにはありますし、これを活用すれば、より真実性の高い歴史を残せるはずです」
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NFT鳴門美術館では、NFT化されたリアルアートの現物を金庫などで厳重に保管する役割も担っている
画像提供:NFT鳴門美術館
現存している美術品は劣化し、破損してしまう可能性もある。これらをNFTとひも付けて記録しておけば、もしも現物が消滅してしまっても「存在した」という確かな事実は残すことができる。もっと言えば、より詳細な記録を残しておいて、それらのデータを復元することも可能かもしれない。
さらに、NFT化したそれらは“メタバース”などを活用すれば、全世界への展示も可能になるだろう。
「美術館は入場料やショップの売り上げからしか収益を得られないため、赤字経営のところがとても多いのが現状です。でも、もしも全世界からアクセスできたら、収益を上げられるかもしれません。その形を模索する場として、NFT鳴門美術館をオープンしました。このモデルが成功すれば、他の美術館でも実践できるかもしれませんよね」
このほか、NFT鳴門美術館では「パーソナルヒストリーストレージ」という概念の具現化に注力。山口氏は「『自分史』をNFT化して、家族や後世に残すサービスです。誰もが自身の人生について深く考えるきっかけを提供できたら」とも話す。
美術館や博物館には人類史の軌跡となる貴重なアートや資料を保管し、次の世代や100年後、1000年後へとつないでいく責任もある。
NFT鳴門美術館は、いずれ失われてしまうかもしれないモノを、NFTを活用し残そうとする実践の場としての機能も果たしているのだ。
希少性だけでない、NFTアートの“真の価値”
NFTアートの価値は今後どのように変化していくのだろうか──。
バブルが落ち着いた今、山口氏が目を向けるのは「長期的な価値」だ。
「これまでは高額なアートの取引が注目され、短期的な投資の対象として見られてきましたが、こうした目的でNFTを手にした人たちの関心は既に薄れつつあります。今後は、“所有する”という行為に価値を感じる人がこの領域に参入し、残っていくでしょう」
例えば、NFTを海外コレクターにPRしたりSNSのプロフィールのアイコンにして保有をアピールすることもできるし、メタバース内で自分の保有するNFTを展示することもできる。それは自宅にある自慢のコレクションを世界に向けて発信できる環境とも言える。現実に存在するアートと同じようにNFTアートを保有し、メタバースに飾る…。そんな世界が実現するかもしれない。
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NFT鳴門美術館は、国内の自動車メーカー、トミーカイラのスポーツカー「Tommykaira ZZ II」の3DモデリングデータをNFT化し販売。206台のみ生産された希少な車の記録を残すとともに、データ購入者にはメタバース内での再現・保有・販売権が付与される
資料提供:NFT鳴門美術館
「NFTアートも既存のアートもおそらく考え方は同じで、どこに価値を感じるかというと作者の思想や理念、オリジナリティーだと思います。そこに共感し、感性を揺さぶられるからこそ『欲しい』と感じるし、アート自体の値段ではなく、自分がそれを保有していることに価値を感じる。クリエーターにとっても、自分の感性をアピールし、世界に売り込むための場所として、NFTアートの世界はとても可能性のあるものだと思います」
一方で、美術館がNFTアートを扱う上ではやはり「記録という重要な役割を忘れたくない」というのも山口氏の思いだ。
「人類史にとって、美術館や博物館、図書館などで保管されているものはとても貴重なもの。だからこそしっかりとデジタル化し、美術館など信用できる団体が発行・保有するNFTとして信頼性や価値を担保し、保全していかなければなりません。今後もNFTを扱う美術館として、さまざまな形を探りながら成功事例を作っていきたいと考えています」
また、山口氏は「記録を残す考え方においては、美術館などに限らず企業の事業承継につながる」とも考える。
「担い手が不足する職人の世界や、後継者のいない中小企業など、優れた技術やプロダクトを持ちながら廃業を選ばざるを得ない状況において、組織の歴史や保有する技術、製品を記録しておくことには価値があります。もしかすると、その企業や商品を愛するファンの手によってDAO(分散型自律組織)として復活し、残っていく可能性もあるでしょう。希少な技術や製品の損失を防ぐ一つの手段として、NFTの活用を考えることもできます」
NFTは話題性のある高額アートなどが関心を集めがちだったが、その本質は「Non Fungible(代替不可能)」である点だ。
その価値は単なる希少性だけでなく、真に公正な記録を残し続けることでもある。
美術館という場所からNFTアートを眺めたことで、その一翼を担うNFTの価値が垣間見えた。
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