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自動運転レベル4解禁で訪れるニューワールド

改正道交法が物流のラストワンマイルを変える!楽天がロボット配送を手掛ける理由

人的課題解決のその先、物流システム全体に変革をもたらすチャレンジングな試み

今年4月に改正された道路交通法では自動運転レベル4による「特定自動運行」のほかに、「遠隔操作型小型車」についての規定も盛り込まれ話題となった。いわゆる自動配送ロボットのことだ。いち早く2019年より自動配送ロボットによる屋外での実証実験を行ってきた楽天グループ株式会社に、道交法改正のポイントや自動配送の利点、将来性について聞く。

自動配送ロボットは物流の救世主になり得るか

ECサイトを運営する楽天グループ株式会社が自動配送サービスを手掛ける理由は、言うまでもなく物流業界における労働力不足への対応だ。

「インターネット通販は年々成長を続け、今では広く社会に普及しました。しかし日本は今、人口減少社会です。配送の担い手不足となることはほぼ確定的であり、このままでは市場が頭打ちになってしまう可能性が否めません。そこでロボットという新しい担い手を供給することでデリバリーサービスの多様化を推進し、より便利な生活をお客さまに提供していきたいという思いこそ、当社がロボットデリバリー事業を展開している目的です」と楽天グループ株式会社 無人ソリューション事業部 無人配送事業課 シニアマネージャーの牛嶋裕之氏は言う。

以前は経済産業省に勤め、ロボットやドローンの産業振興に携わってきた経歴を持つ牛嶋氏。現在は楽天で無人配送事業課のシニアマネージャーを務める他、一般社団法人ロボットデリバリー協会の理事も兼任する

物流業界における課題としては人口減少による慢性的な労働力不足に加え、直近ではいわゆる2024年問題も控えている。今回の道交法改正も、そうした社会課題に対応する意味合いが大きい。楽天ではこうした課題解決の一助となるべく、ラストワンマイルの無人化に取り組んできた。目的はロボットが人に取って代わることではなく、より便利なデリバリーサービスを提供することだ。

「当社では2019年から屋外でのロボットデリバリーの実証実験を重ねてきましたが、法律上では今まで自動配送ロボットはあくまで例外的な存在でした。ロボットが公道を走行するということは想定されていなかったんですね。それが今回の道交法改正によって、『遠隔操作型小型車』という新たなカテゴリーが生まれました。自動車や歩行者と同じような交通参加者の一員にロボットが加えられたことは、物流システムの未来を考える上で大きな前進だと思います」

今回の道交法改正によるメリットを、牛嶋氏はそう考える。

改正された道交法では「遠隔操作型小型車」について、「人又は物の運送の用に供するための原動機を用いる小型の車であって遠隔操作により通行させることができるもの」「車体の大きさ及び構造が歩行者の通行を妨げるおそれのないもの」と定義された。

これはまさに自動配送ロボットなどを指している。

※働き方改革に伴う労働基準法改正により、2024年4月から物流・運送業界にも年間960時間の時間外労働時間上限制限が適用されること。トラック運転手などの労働力不足が予測されている

茨城県つくば市のロボットデリバリーでは、三菱電機株式会社が本サービス向けに調整した米国Cartken(カートケン)社製のロボット2種を運用。左の積載容量114Lのモデルではロッカー部分を楽天が自社開発した

牛嶋氏が語るように、楽天がロボットデリバリーを始めた2019年時点は私有地での実証実験にとどまっていた。その後、公道での実証実験を可能とする国土交通省の「自動配送ロボットの基準緩和認定制度」と警察庁の「自動配送ロボット実証実験手順」が公表されたが、その制度下においても自動配送ロボットを従来の道路運送車両法に当てはめて「原動機付き自転車」の一種とした上、それを自動運行するために基準緩和認定や道路使用許可を受けるといった運用がなされてきた。

あくまで実証実験を行うための特例措置であり、実施するには地方運輸局の認定や警察署の許可が必要だったのだ。それが今回の法改正で許可制から届出制へと変化。車体サイズは全長120cm以下、全幅70cm以下、全高120cm以下であること、最高時速は6kmまでというのは「電動車いす(シニアカー)」と同じで、非常停止装置を備えていることなどの細かな要件を満たせば、歩道、路側帯、道路の右側端のいずれも走行できる。

道交法改正から間もない現時点では、安全を確保するためロボットに人が随行する形で運用している。完全無人化が目下の目標だ

4年にわたる実証実験と期間限定サービスの展開でノウハウを蓄積

現在、楽天がつくば市で行っているロボットデリバリーは、駅周辺の飲食店や小売店から自宅近くまで、食料などの商品を届けるというもの。以前はスーパーで販売されている商品を届けるサービスも実施していた。

「配送時間を正確に予測できるロボットならではの利点を生かして15分刻みの配送日時指定ができるため、利用者からは『予定した時刻に到着して商品を受け取ることができた』『時間ピッタリで素晴らしい』といった声をいただいています。他には『飲料水や米など重い荷物を運んでくれるのがありがたい』などの意見も多いところです。中には、『アイスが冷え冷えのまま届いてうれしい!』といった声もありました。実はこのサービスを始めるにあたって専用の保冷ボックスを開発しており、常温品はもちろん冷蔵品も冷凍品もお届けできます」

現サービスでは、Cartken社製のロボットを採用しているが、その最大の理由は海外での実績が豊富であり、「夜間でも、雨の日でも配送できる」サービスを実現するためだったという。「ロボットなので夜間や雨の日は利用できない」という制限付きでは、日常的に利用するサービスとして定着しないだろうと考えたからだ。

いわゆるロボットベンチャーもこの業界に参入しているが、楽天が他社と異なるのはECサイトを自ら運営していることだろう。そのため、ロボットについては「サービスを実施するエリアの特性に合わせて、最適なものを選択する」という姿勢を一貫している。こだわっているのはむしろ、利用者が快適に、便利に使えるUI(ユーザーインターフェース/ユーザーとサービスをつなぐもので、操作する画面の他、パソコンのマウスやキーボード、タッチ画面なども含まれる)やUX(ユーザーエクスペリエンス/商品やサービスを通じてユーザーが得られる体験)の領域だ。

「どんなロボットが届けてくれるのかというのはユーザーにとってあまり関係なく、確実に届けてくれさえすれば問題ありません。お客さまとの接点となるのは注文時と受け取り時です。注文についてはお届け場所や時間指定などの入力作業がしやすい専用アプリを新たに開発しました。ロボットが今どこにいるのかも、アプリで簡単に把握できます。

受け取りは従来の人による配送と最もギャップを感じる部分でもあり、ここをどう使いやすくするかでユーザー体験が大きく変わってきます。そのため専用ロッカーを開発し、年配の方でも直感的に使えるタッチパネル方式の解錠方法を採用したり、音声ガイダンスを付けたりするなど工夫を凝らしています。細かいことですが、庫内にライトをつけて夜間でも荷物を取り出しやすくしたことも工夫の一つです」

ハードウエアの開発については「むしろ今回の道交法改正を契機に、新たなメーカーやスタートアップが参入することに期待している」と牛嶋氏は言う。楽天がこだわるのはあくまで注文から受け取りまで一貫したロボットデリバリーサービスの提供であり、一朝一夕にはノウハウを獲得できない領域だからこそ実証実験を長く続けてきたというわけだ。

楽天のイメージカラーであるクリムゾンレッドに彩られたロボット。コロナ禍においては、人と接触するリスクがないこともメリットとなった

注文時に届いた暗証番号を入力するとロッカーが解錠する仕組み。直感的に操作できるUIが目指された

省エネにも貢献! ロボット配送の未来像

前述したようにロボット配送の第一義は人的課題の解決だが、もう一つ“地球環境に優しい”というメリットも現代においては決して無視できない。

「自動配送ロボットは荷物を配送することに特化して作られていることが、エネルギー面での利点にもなっています。自動車の場合は荷物の他にドライバーも乗ります。またドライバーが安全かつ快適に運行するためには頑強な車体やエアコンなどの設備が必要となるため、どうしても重量が増してしまいます。その点、自動配送ロボットには物を運ぶために最低限の装備しか必要ありません。動力も電気のみなので、省エネにも貢献できると思います」

「離島や山間部など人による配送が難しい物流困難地域においては、ドローンと自動配送ロボットの連携も考えられるが、現時点では適材適所でそれぞれを活用していく方針」と語る

ロボットだけでなく、ドローンによる配送サービス実現にも早い段階から取り組み、離島や山間部などに荷物を届けてきた楽天。

「これからの社会は効率の良い自動運行トラックなどが長距離輸送を、ラストワンマイルをロボットが、というようにエネルギー効率を考慮しながら配送手段をフィールドごとに最適化していくことこそが物流システムの脱炭素化を推し進める上で重要な施策になる」と牛嶋氏は語る。

楽天は道交法改正を機に、これまでの実証実験で得た知見を基にしたロボット配送のベースモデルを構築し、サービス提供エリアの拡大やさらなる配送能力の向上を目指していくという。もちろん、楽天だけでなく多くの企業がこの業界へと参入してくるに違いない。

「ロボット配送が普及し、社会インフラと呼べる水準となった段階では、それを活用した全く新しいサービスが生み出される可能性があると思っています。インターネットが普及したことで、ECのようなサービスが生まれたのと同様の現象ですね。それがどのような内容になるのか。現時点では想像できないようなものになるのかもしれません」

人的課題の解決はもとより、物流システム全体に変革をもたらすかもしれないロボット配送。ECサイトで注文したら、当たり前のようにロボットが届けてくれる。そんな未来が訪れるのは恐らくそう遠くない。

自動運転は、技術に関して言えば、レベル4だけでなく、レベル5も既に実現可能なレベルにある。

社会インフラなどの周辺環境の整備や社会受容性といった問題をクリアできれば、ラストワンマイルの解決など未来の交通社会を大きく変える存在になるのは間違いない。

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