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新たな気候テックは丸の内から生まれる!三菱地所がつくった「0 Club」とは

気候変動対策を目的としたイノベーション拠点「0 Club」が秘めるポテンシャル

2024年10月1日、東京・丸の内エリアに気候テックのスタートアップ領域における国内初のイノベーション拠点「0 Club(ゼロクラブ)」が開業した。0 Clubでは、気候変動対策に関わる全ての人と先端技術や研究成果の人的・技術的交流を通じて、カーボンニュートラル実現に貢献する気候テック領域のエコシステム形成の貢献を目指す。特集第3回は、この画期的な拠点の概要・展望を、運営者である三菱地所株式会社イノベーション施設運営部の曽我真吾氏に聞いた。

丸の内に拠点を開業した理由

カーボンニュートラルを世界的に実現する上で、地球温暖化、気候変動から生じるさまざまな問題解決には、気候テックの浸透、そしてスタートアップの活性化が必須と言える。このことは本特集第1・2回を通して問題視、そして期待されていることは明白である。

しかし日本の気候テック領域は、世界規模で見るとあまりに未成熟だ。

三菱地所株式会社でスタートアップ向けのサービスオフィスの開発・運営を通じ、イノベーション創出の支援を担う曽我氏は、こう解説する。

「近年、気候テックを含む世界をリードするクリーンテック企業100選が発表されています。その2024年版では北米・欧州が93社を占め、中国を除くアジア・太平洋エリアは5社と出遅れ感が否めません。しかも、その5社に日本企業は含まれていません。

また投資額でも北米・欧州でおおよそ600億ドル(日本円にして約9兆3,000億円、11月27日現在、1ドル151円で計算)を調達し、中国も2社で225億ドルと健闘しています。ですが、アジア・太平洋エリアは5社で68億ドルにとどまっています。世界では既に多額の投資が行われている中、日本でこのまま気候テックの成長が見込めないということは考えられませんし、今スタートアップが芽生えなければ日本はこの領域での成長のチャンスを失ってしまうでしょう」

2023年の気候テックスタートアップと投資の状況。北米・欧州の勢いに対し、日本はスタートアップ企業そのものが選出されていない

資料提供:三菱地所/出典:2023年版気候テックの現状 気候テック投資の世界的な減少を反転させるには(PwC Japan)/2024 Global Cleantech 100(Cleantech Group)

こうした状況を(本特集第1回に登場した)東京大学FoundXディレクターの馬田隆明氏の発信を通じて知った曽我氏は、気候変動に関わる全てのプレーヤーと先端技術や研究成果を集積し、分野や企業の枠を超えたシナジーを生み出す拠点の創出を社内で訴え、2024年10月1日に「0 Club」開業にこぎ着けた。

「0 Club」は、大企業の拠点が集う東京・丸の内エリアに開設された。この場所を選んだ背景を曽我氏はこう話す。

「気候テックのスタートアップは、CO2などの温室効果ガスを削減する技術、気温上昇を緩和する技術、あるいは気候変動に適応するための技術の提供のいずれかが、取り組むべき領域だと考えられます。ですが、優れた技術で問題を解決するにも、カーボンニュートラル実現に最も大事なのは、今、温室効果ガスを多く排出している企業がそれをどれだけ減らせるかだとも考えられます。

だとすると、日本の場合、重工業をはじめとする伝統的な産業を担ってきた大企業が、今どれだけ温室効果ガスの排出を減らせるかが非常に重要だと考えたとき、丸の内・大手町エリアは大企業が集積しているわけです。その方々と、優れた技術を持ったスタートアップや研究者の方々が一堂に会する場所として丸の内ほどに適した地域はないかなと。気候テックを日本で盛り上げる上で、『0 Club』を最適な立地につくることができたと確信しています」

「『0 Club』でのイノベーションエコシステム構築の取り組みを通じて、50社超のスタートアップおよび脱炭素化に取り組む大企業の集積と、大学などアカデミアとの連携ルートの構築を目指します」(曽我氏)

オフィスに来る意味を感じられるスペース

「0 Club」は丸の内エリアの新大手町ビル3階をリノベーションして開業した。ラウンジの窓には、山手線や東北・山形・秋田・上越・北陸新幹線が行き交う光景が眼前に広がる。

「0 Club」利用者の共有ラウンジスペース全景

画像提供:三菱地所

ラウンジを中心に40室340席の個別スペースが放射状に配置され、利用者同士の自然なコミュニケーションを促す工夫がなされている

画像提供:三菱地所

「新大手町ビルは1958(昭和33)年竣工の歴史あるビルです。この既存のスペースを有効活用する形でビルの価値、街の価値向上に貢献できるのでは?という観点で、『我慢をしないサステナビリティ』『できるだけ作らないで作る』というキーワードの下で着工しました」

日本人の感覚として、サステナビリティという取り組みには「何か制約や我慢を強いられる共通感覚があると感じています」と曽我氏は話す。

そういったネガティブな感覚を「私たちが解釈し直すことで想像もできない新しいものを生み出せるのでは」と捉えたという。以前に入居していた事業者の退去後の原状回復も最低限にとどめ、ビル自体の内装を生かし、「作らないで作る」にこだわって設計された。こうした着想と実行力は、ある意味でスタートアップにも求められ、その拠点にふさわしい発想と言えるだろう。

ラウンジスペースの共有テーブルは、支柱にパイプ材などを用いハンドメードで制作。また、床面は衣類などの繊維をアップサイクルした素材を使用

共有ラウンジスペースは、イベントスペース、コワーキングスペースを兼ねた空間で最大90名規模のセミナー、イベントも開催可能だ。このラウンジから放射状に個室スペースを配置し、人と人が有機的につながるように設計されたことを強調する。

「人と人が物理的にすれ違う量を最大化する。そのためにラウンジを中央に配し、個室エリアの中にも会議室や仮眠スペース、畳敷きの小上がりなど用途の異なる共用部分を設けました。そうしてエリアからエリアへの移動をポジティブに行っていただける施設計画になっています」

また、曽我氏は「オフィスに来る意味を感じられる場所にしたかった」とも話す。

「コロナ禍を経てリモートで働く、オフィス以外で働くことが当たり前になっている一方、チームビルディング、ガバナンスなどの観点からオフィスに出てくることを強く望む経営者も多いと思います。『0 Club』には有機的な共有・個別スペースをはじめ食事も提供可能なカフェもあって懇親会なども気軽に開けますし、『リモートで完結できる』と考えている方々にとって自宅と同様、静かに時間を気にせず仕事に集中できるスペースもあって、その上で『楽しいからおいでよ』と家ではできないことをアピールできる環境でもあると思います」

個別エリアには共用の仮眠スペースも用意され、カフェスペースと合わせて飲食・休憩を含めて、自分のペースで仕事できる環境が整っている

リスキリング、ネットワーク支援も絡めて目指す交流拠点の実現

「0 Club」では、スタートアップ拠点としてサービスオフィスとしての機能にとどまらず、さまざまな機関・企業との積極的な連携も進行中だ。

「例えば、馬田さんをはじめとした東京大学の協力で2025年5月以降をめどに気候テック領域における社会人向けのリスキリング講座を開講する予定です。丸の内エリアに勤務をされている若手サラリーマンを主な対象に、この領域へ興味関心を持たれる方を増やしたいという目的があります。その中から志ある、かつ能力の高い気候テック領域のプレーヤーが生まれるかもしれません」

また、世界中の大学などの研究者間ネットワークの活用を推進する株式会社アークレブ(東京都港区)とも連携。企業と研究者を結びつけるプラットフォームでマッチングを支援し、新規事業創出に関する専門的アドバイスの提供、適切な研究者の紹介を行う。

「研究者の中には、自身の研究に打ち込める環境を得ながらも、その研究成果をいかにして社会課題の解決に生かすか?という企業との接点を求められている方々もいます。この取り組みの肝は、アカデミアと産業の距離をもっと近づけたいという思いです」

オフィス、教育、ネットワークといったスタートアップに欠かせない要素が全て整った「0 Club」。

曽我氏は、この拠点における究極的な目標として「『0 Club』から、世界に通用する新しい気候テック事業、スタートアップ企業が生まれること。カーボンニュートラルの実現」を掲げている。

世界に通用する気候テック分野を含むクリーンテック分野のスタートアップ100選、その日本発の企業として、「0 Club」から、最初の1がカウントされる日はそう遠くない。

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