1. TOP
  2. 特集
  3. 2025年、住宅業界で起きること
  4. 2025年は“省エネ住宅元年”! 変わる住まいのスタンダード
特集
2025年、住宅業界で起きること

2025年は“省エネ住宅元年”! 変わる住まいのスタンダード

LIFULL HOME'S総研・中山登志朗氏に聞く住宅最新事情

2025年、日本の新築住宅は省エネ基準への適合が義務付けられることにより、そのスタンダードが大きく変わろうとしている。一方、全国で増え続けている空き家への対策もより本格的に取り組むことが求められている。まさに“住まいの大変革”を迎える今年、住宅業界で何が起こるのか。本特集第1回はLIFULL HOME'S総合研究所の副所長/チーフアナリスト・中山登志朗(としあき)氏にその詳細を解説してもらう。
(<C>メーン画像:紅球 / PIXTA<ピクスタ>)

建築物の省エネ基準、劇的な変化と義務化の背景

2025年4月1日、建築基準法・建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律(建築物省エネ法) 改正が施行、同日以降に建築確認が下りた全ての新築建築物に適用される。

今回の改正で最も大きな変化が「省エネ基準」への適合義務化だ。省エネ基準は、住宅やビルの省エネ性能を確保するため建築物省エネ法で定められた構造や設備に関する基準である。

そして、その「省エネ基準」は2022年に大きく引き上げられている。不動産市場の専門家であるLIFULL HOME’S総研の中山登志朗氏は省エネ基準について解説する。

「省エネ基準は、まず1980(昭和55)年に建築物の断熱性能を示す断熱等級が定められました。断熱等級は外壁、窓などを通して建築物の熱の損失を防ぎ『暖冷房に係る一次エネルギー消費量をどれだけ削減できるか?』で分類されます。その後、エネルギー消費を直接的に削減する指針として、2013年に冷暖房、換気、照明、給湯の一次エネルギー消費量の削減程度を分類する一次エネルギー消費量等級も定められ、これらの等級が高いほど住みやすく地球に優しい住宅となるわけです。

断熱等級は長い間、1999(平成11)年 に追加された等級4が最高等級でしたが、2022年4月に等級5、同年10月に等級6、7が追加されました。そして今年4月1日以降、全ての新築の建築物で等級4以上の適合が義務化されます。簡単に言えば、等級4が住宅の省エネ基準になるわけです」

住宅性能表示制度における省エネ性能に係る断熱等級、および一次エネルギー消費量等級

出典:国土交通省「住宅性能表示制度における省エネ性能に係る上位等級の創設」(2022年10月公布)

これまでの最高等級が最低等級になる。

この急変は、2050年のカーボンニュートラル実現への世界的な動きが後押しとなったことに起因する。

「ドイツや北欧諸国では省エネ基準の適合が義務であり、基準を満たさなかった場合の罰則規定もあります。一方、日本の省エネ基準は23年間ほとんど手つかずで、義務でもありませんでした。こうした世界視点での省エネ意識の遅れが、2050年カーボンニュートラル実現の国際公約化によって、このままでは達成困難との認識に変わり、急激な改正の動きにつながっています。今後2030年、2040年と見直しも実施されるため基準がさらに引き上げられる可能性もあります」

同じく今年4月1日には、東京都で新築住宅などへの太陽光パネルの設置義務化が始まる。

「東京都は、2030年までに都内の温室効果ガスを50%削減する『カーボンハーフ』の実現を目指し、都の環境確保条例を改正しました。この中で都内に年間で延床面積2万m2以上の住宅を供給するハウスメーカーなどの事業者を対象に、延床面積2,000m2未満の新築住宅の屋根に太陽光パネルの設置などを義務付ける条例が施行されました。

国、自治体による改正は数年前から発布され、各事業者も既に基本的には断熱等級4以上の住宅、建築物の供給を進め始めています。こうした変化が一気に進む意味で、2025年は日本の『省エネ住宅元年』と言っても過言ではないでしょう」

省エネ住宅の新築・購入を左右する“2030年の改正”

住宅の省エネ基準は5年後の2030年、さらなる改正が既定路線である。その背景にあるのはネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、いわゆる「ZEH(Net Zero Energy House)」の普及の促進だ。ZEHは省エネを実現し、その上で太陽光発電など自ら再生可能エネルギーを生み出し、一次エネルギーを極力賄うことを目指した住宅である。

「ZEH基準は断熱等級5以上、一次エネルギー消費量等級6以上で、一般的な省エネ住宅よりも高い基準で建てなければなりません。2030年には、このZEH基準が義務化されます。言わば、これからの5年間はZEH基準への移行期間とも捉えられます」

つまり、今年4月1日以降に省エネ基準ギリギリの等級で住まいを新築、または購入しても、わずか5年後には省エネ基準以下の住宅になる。住まう、暮らすという基本的な意味では問題はないが、中山氏は「住宅の資産性という意味では、売却する際に安価でしか売れなくなる可能性がある」と指摘する。

「これから住宅を建てる、または買う際は最低でもZEH基準を満たしておくべきでしょう。高い断熱性能によってエネルギー効率を高め、冬は朝ヒーターを30分ほどつけるだけで一日中暖かく、夏も冷房を30分ほどつけるだけで室温が上がらず快適に過ごせます。特に冬は窓やサッシが結露せず、カビやダニの発生を防ぎますからアレルギー体質の方の負荷を軽くできます。また、最近は急激な温度変化が体に悪影響を及ぼす『ヒートショック』を防ぐ観点でもZEHの注目は高まっています」

厚生労働省の統計によると2021年にヒートショックで入浴中に亡くなった方(「高齢者の浴槽内での不慮の溺死及び溺水の死亡者数」政府広報による)は4,750人。この人数は、同年の交通事故での死亡者2,150人のおよそ2倍にも上る。

「ZEHはこうしたリスクを軽減し、より健康的に過ごせるわけです。ただ住宅性能が高い分、機能面でのコストも膨らみます。ですが、住宅ローン減税において省エネ住宅よりも元本上限が高くなるメリットもあります」
※2025年までの措置(延長の可能性あり)

省エネ住宅やZEHの断熱性能を高める技術も日々進歩しており、中山氏は「住宅展示場へ足を運んでみると、自然と関心が高まります」と話す。

「特に戸建住宅の場合、ハウスメーカーのモデルハウスを訪れると必ずと言っていいほどサッシの断面(内部)をカットしたモデルなどが展示され、住宅性能の高さを視覚的に理解できるようになっています。戸建住宅は自身が亡くなった後も子どもや孫が暮らし続ける想定の長期スパンで購入を考える方が多い傾向にあります。これから20年、30年先まで安心して暮らせる住まいとして考えたなら、ZEHも決して高い買い物ではないと言えるでしょう」

「選択肢として、比較的安価に購入した中古住宅の窓を三重複層ガラスに改修するなどリノベーションで断熱性能を引き上げる方法もあります。新築にこだわる方も多いですが、大切なのは新築でも中古でも『いかに快適に住まうか』だと思います」(中山氏)

今後5年で倍増も? 空き家が増え続ける理由

2025年は、いわゆる団塊の世代が後期高齢者となることで高齢化社会がさらに加速。働き手不足による「2025年の崖」、介護人口の増加に伴う「2025年問題」など特定分野への影響が懸念されている。この超高齢化社会の到来が、全国の空き家を増加させるという。

「国の調査では全国の空き家は約900万戸と発表されています。2030年には2,000万戸になるという推計もあり、非常に大きな問題になる可能性があります」

総務省「令和5年住宅・土地統計調査」では、空き家は全国で約900万戸あり、総住宅数に占める割合(空き家率)は13.8%。この30年間で空き家数は約2倍に増加している

出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」

空き家は民法によって所有権が守られ、基本的には所有者以外が無断で解体、処分などを行うことができない。一方で所有者が特定できず放置され荒廃し、倒壊の恐れや周辺開発の妨げ、犯罪の温床となるケースも各地で起きている。

こうした社会問題を抑制するため、2024年4月から空き家の相続登記の義務化、同年7月から空き家の市場流通促進を目的に不動産業者の仲介手数料の上限引き上げなど、政府による空き家対策も進められている。

中山氏は、全国で空き家が増え続ける根本的な理由を「核家族化の増加」だと解説する。

「例えば、東京で働く地方に実家のある方が、両親が亡くなられても実家に戻るつもりがなく、家を相続せず放置されることがあります。こうして放置され続け倒壊などの危険が認められた家は、2015年に施行された『空き家対策特別措置法』(正式名称『空家等対策の推進に関する特別措置法』)に基づき『特定空き家』に認定されると通常より最大6倍の固定資産税が課せられるようになりました。そのため実家が特定空き家にならないよう最低限の維持・管理をする人もいますが、人が住んでない家がポツンと残り続ける状態は全く変わりません。ならば取り壊してさら地にすると、今度は親族間での相続において土地の評価額を最大8割下げる『小規模宅地等の特例』などが適用されなくなり、解体費用がかさむ上に相続税も上がってしまいます。相続する側にとって、空き家は『上物を残したまま見て見ぬふりをしたい』というのが、偽りなき本音でしょう。

ただ私個人としては、二束三文でも一刻も早く売却すべきだと考えています。最近は『家じまい』とも言われていますが、両親がご存命のうちに『亡くなられたときに家をどうするか』を取り決めておくこともますます必要になるでしょう。後々苦しむ前に、積極的な動きはどうしても必要になると思います」

親として子や孫が長く安心して暮らせる家を残す。

そして、子どもとして親と家をどのように受け継ぐかを考える──。

2025年は、2つの意味で住まいの在り方を考える大きな岐路を迎えている。

本特集第2回では、そうした住宅の未来を見据えた地方自治体の取り組みを取材する。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 特集
  3. 2025年、住宅業界で起きること
  4. 2025年は“省エネ住宅元年”! 変わる住まいのスタンダード