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2025.05.01
生成AIの普及で急増! 変化する世界のエネルギー事情
東京電力パワーグリッド 小林直樹氏に聞く日本と世界の対応策
2022年11月のChatGPTリリース以来、生成AIはあらゆる産業で普及しサーバーやネットワーク機器を設置するデータセンターが急増。それに伴う電力消費の爆発的増加が世界的に懸念されている。本特集第2回は、生成AI利用による電力需要過多の国内外の最新事情を、東京電力パワーグリッド株式会社技術統括室次世代ネットワークイノベーション推進担当の小林直樹氏に、同社の対策などと併せて話を聞いた。

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減少傾向から急増! 電力需要予測が急変
「データは 21世紀の石油」と例えられることがある。
高度な情報社会において、その基盤となるデータ拠点の設置・拡充は、国家が世界と渡り合う意味で金融・物流拠点と同等に重要な競争力となる。そして、さまざまな機密情報、個人情報の適切な管理は、経済安全保障の観点でも重要であり、国内でのデータセンター設置・拡充が不可欠である。
こうした背景と昨今の生成AIの急速な普及が結び付き、データセンターの需要増大に対する対策は世界的に大きな課題となっている。
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アジア太平洋最大のデータセンター立地国は中国。日本への国際的なデータ流通拠点としての期待も高まっている
データセンターの急増は、同時にそのエリアの電力=エネルギー消費も爆発的な増加となる。
東京電力パワーグリッド(以下:東京電力PG)の小林直樹氏は「この予兆は2018年ごろから見られた」と話す。
「当初は既存設備の拡充で対応していましたが、それでは追い付かなくなり2019年に275kVの超高圧変電所の建設に着手しました。大規模電力供給プロジェクトを立ち上げ、今後も増強する予定です。昨今、安定した地盤の好立地からデータセンターの設置が相次ぐ千葉県印西市を皮切りに、東京都、神奈川県でもお申し込みが活発になり変電所増強工事計画の増加が続き、2022年には電力需要増大の危機意識レベルも一層高まりました」
さかのぼること2016年4月、一般家庭を含む国内電気の小売りが全面自由化された。そして、電力広域的運営推進機関が国内の電力需給状況を監視、電力の安定供給を推進している。
小林氏は、同機関の需給予測にも「大きな変化があった」と話す。
「同機関は一般送配電事業者10社のデータを総計し、10年先までの電力需給を予測しています。2023年時点では、日本の人口減少に伴い電力需要も減少すると予測していたのですが、2024年の発表ではデータセンターや半導体工場の新増設を踏まえて増加に転じ、地域によっては驚くほどの増大を予測しています」
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「当社エリアの電力需要は2024年で約5,700万kWでしたが、2032年ごろまでのデータセンターのお申し込みは現時点で累計約950万kW(容量仮確保)を受付しております。原子力発電所1基の発電量が約100万kWですので、いかに高い数字かが分かります」(小林氏)
課題はデータセンターの分散化と電力供給システムの再整備
生成AIの多くは大規模かつ高速で学習を行う。近年は主に画像処理に利用されていた演算装置「GPU(Graphics Processing Unit)」が、その処理に活用されている。しかし、GPUによる高度かつ大規模な処理は大量の電力消費を伴い、装置を冷却するための電力も必要だ。
「GPUの消費電力は(従来用いられた)CPUの比ではなく、GPUサーバーを集約するデータセンターは規模が大型化してきており、その容量は50万~100万kWに達します 。たとえば50万kWであれば、一般家庭40~50万軒分の消費電力に相当します」
また、大規模データセンターの一定地域への集約は、地域の電力不足が懸念されるため、データセンターの分散が好ましいとされる。しかし、現在データセンターは首都圏に集中している状況だ。
理由の一つはインターネット相互接続点「IX(Internet Exchange)」の設置場所にある。
「インターネット事業者の拠点やデータセンターの多くは、IXがある大手町(東京都千代田区)から半径50km圏内に集中しています。国内では大阪にもIXが設けられていますが、2局だけでは地震など自然災害リスクへの不安が残り、昨今はIX分散化の議論が活発になっています」
さらに、IX分散によるデータセンターと電力消費の分散化推進の切り札として注目されるのが「海底ケーブルの活用」だという。
「日本では、沖縄を除く一般送配電事業者9社が各エリア間を連系線(送電線)で結び、互いの需要に合わせた電力供給を調整しています。ですが現在、大容量の電力の送受信に対して連系線は脆弱(ぜいじゃく)なため、電力供給システムの再整備が課題として浮上。電力系統整備には長期間、大規模投資を要するため、こうした負担を緩和する観点からも、データセンターの分散化を進めることが重要です。分散化実現のためには光ファイバーの束で高速かつ大容量の送受信を可能にする海底ケーブルの整備計画が重要であり、日本政府でも検討がなされています」
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政府は東京圏に集中するデータセンターの分散立地、日本を周回する海底ケーブルの構築などのための国際海底ケーブルの多ルート化を推進。民間事業者のデジタルインフラ整備を支援している
世界で加速するエネルギー消費効率化の動き
生成AIの利用増によるエネルギーの逼迫(ひっぱく)は、日本にとどまらず海外でも同様に課題視されている。
「例えば、アイルランドやシンガポールはこれまで国策として海外のデータセンター事業者を誘致していました。ですが膨大な消費電力がネックとなり、新規プロジェクトは難しい状態になっています 」
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IEA(国際エネルギー機関)は2024年1月、世界のデータセンター、 AI などの電力需要は 2022年の460TWhから2026年ベースケースで800TWhまで増加する見通しを発表している
生成AIによる電力需要の増大が世界規模で懸念材料となる中、データセンターの電力需要を再生可能エネルギー(以下、再エネ)で賄う動きも活発化。アイルランドにデータセンターを設置しているAmazon、Google、Microsoftは、データセンターの再エネ専用送電線建設を同政府に働きかけていることが報じられている。
「例えばGoogleは、2029年までに大手サプライヤーに100%再エネ使用を求めるプログラムを発表し、自社のデータセンターをさまざまなエネルギー関連企業と連携させています。最近では、温暖化ガスを排出しない電源確保を目的に、次世代原子力発電である小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)の開発を手掛ける米国の新興企業カイロス・パワーと電力購買契約を結び話題になりました。またMicrosoftは昨年9月、スリーマイル島原子力発電所で2019年まで稼働していた1号機の再稼働により、今後20年間にわたり電力供給を受けると発表しています」
日本でも電力需要過多の解消策が進行中
世界でAI稼働のエネルギーを確保する動きが活発化する中、日本では、東京電力PGが「MESH(Machine-Learning Energy System Holistic)構想」を提唱している。電力網とデジタルインフラを組み合わせ、文字通りメッシュ状、面的に拡張させる構想だ。
「日本が技術的にも経済的にも成長する上で、生成AIの活用は必要不可欠です。データセンターも増加すると想定されております。同時に電源としての再エネの重要度も高まりますが、再エネは安定供給が難しく需要と供給が一致し難い課題を抱えています。
ですが、仮に東京圏の電力需要が急増した際、東京圏のデータセンターの計算処理負荷を大容量高速通信でつながる北海道のデータセンターにシフトし、道内の風力発電の余剰電力を消費するオペレーションが可能であれば、電力会社エリア間の脆弱(ぜいじゃく)な連系線(送電線)の増強工事に大規模なコストをかけずとも、 日本全体で電力需給のバランスが取れます。生成AIの学習は再エネのポテンシャルの高い地域で行い、推論は東京圏で行うなど、エネルギー消費エリアのシフトが可能になるわけです。
また、太陽光発電の出力に応じ昼夜間でデータセンターのワークロードをシフトするなど、時間をずらすことも効果的です。MESH構想はこのような電力需給の最適化を可能にする複合インフラを構築するための提案になります」
他にも、生成AIによる電力需要過多を見越した対応はさまざまな業界で練られている。通信事業者は供給源から利用機器間の送電を完全に光ファイバーで完結させる「オール光ネットワーク」技術の開発を進めている。実現すれば更なる高速通信と大幅な低消費電力化が期待される。
「世界では、GoogleやAmazon(およびAmazon Web Services)がGPUに代わる生成AIに特化したチップ開発に着手し、GPU世界シェア1位のNVIDIAもGPUの省エネ化に取り組んでいます。他にも、サーバー冷却技術も電力消費の激しい空冷式からサーバーラック内に専用ポンプを設置し、冷却液を循環させる水冷式が台頭しつつあり、世界各国でエネルギー消費を抑える技術開発競争も進んでいます」
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需要と供給を一致させ電力利用の効率化を図る取り組みとして、国内ではデータセンターなど高圧・特別高圧の需要者向けに、電力の供給余力地域を示した「ウェルカムゾーン」を公開する動きがある
生成AIによる世界的な電力需要過多の解消へ、今後もさまざまな方策が取られるだろう。
そして、2025年は、電力需要過多へのソリューションが本格化する一年になりそうだ。
本特集第3回は、そうしたエネルギー活用のソリューションが集結・公開される場としても注目が高まる「EXPO 2025 大阪・関西万博」に焦点を当てて、世界のエネルギー事情を考える。

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