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2025.08.27
災害拠点でエネルギーを自給自足! 千葉県いすみ市が地域マイクログリッドを構築
いすみ市が関電工と共に進める、地域で備えるエネルギーレジリエンスとは
2019(令和元)年の大型台風上陸により大規模な被害に見舞われ、長期間の停電を余儀なくされた千葉県いすみ市。防災・減災の備えを地域ぐるみで行うことの重要性を実感した同市は、2023年3月、同市大原地区に「いすみ市地域マイクログリッド」を敷設した。災害による停電時、周辺施設に非常用電力を供給し、災害復旧からの支えとなるシステムの特徴について、いすみ市役所危機管理課消防安全班の吉清丈司(きちせい じょうじ)課長補佐、株式会社 関電工グリーンイノベーション本部 新規事業チームリーダーの宮本裕介氏に話を聞いた。

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台風被害を教訓に、前例なきインフラ強化を目指す
2019年9月9日、関東地方に観測史上最強クラスの勢力の台風15号(令和元年房総半島台風)が千葉県千葉市付近に上陸、甚大な被害をもたらした。県内では記録的な暴風により、倒木や飛散物による配電設備の故障などが起き、約64万1000戸の大規模な停電※が発生した。
中でも房総半島、太平洋沿岸のいすみ市では「復旧まで1週間以上要した地域もありました」と、吉清氏は当時を振り返る。
※「千葉県災害復旧・復興に関する指針 令和4年3月改訂」より
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台風15号(令和元年房総半島台風)経路図(日時、中心気圧<hPa>)速報解析
出典:千葉県「令和元年房総半島台風等への対応に関する検証報告書」
「当時、いすみ市は停電軒数が多く、暑い日が続く中、市民の皆さんに復旧までご苦労をかけてしまいました。暮らしにも、産業にも大きな爪痕を残し、激甚災害として認定される被害を受け、2021年5月に、大規模自然災害が発生しても致命的な被害を負わない強さと、迅速な復旧・復興が可能なしなやかさを併せ持つ『強靭(きょうじん)ないすみ市』を目指す『いすみ市国土強靭化地域計画』を策定しました」(吉清氏)
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「台風の襲来は、稲の収穫後で米の収穫は影響を受けませんでした。ですが水産加工業者の方々は冷蔵庫、冷凍庫が使えなくなり、地域の産業の収益にも影響が及びました」(吉清氏)
この計画に基づき構築が議論されたのが「地域マイクログリッド」だった。関電工で事業開発を担い、地域マイクログリッドのプロジェクト責任者である宮本氏は次のように説明する。
「自治体や事業者に自然災害への備えがBCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)として求められるようになり、私たちが提案できる新しいサービスとして検討したのが地域マイクログリッドです。非常時に対象エリアを電力会社の送配電ネットワークから解列(切り離し)し、エリア内に設置された分散型電源を活用し、電力の自給自足を行う新しいエネルギー供給システムです。
いすみ市で開かれた有識者委員会などを通じてさまざまな提案、議論を重ねさせていただき、『地域マイクログリッドが(いすみ市と)相性よく導入でき、インフラ強化に結び付くのではないか』という結論に至りました」(宮本氏)
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2021年7月、関電工といすみ市、東京電力パワーグリッド株式会社木更津支社の3者は「いすみ市地域マイクログリッド基本協定」を締結。左から野本健司関電工専務執行役員、田母神 博文関電工常務執行役員千葉支店長、太田 洋いすみ市長、四元善治東京電力PG木更津支社長(当時)
画像提供:株式会社 関電工
こうして、いすみ市と関電工、さらに東京電力パワーグリッドは新しい国づくりのインフラ事業、その先進事例をつくることを目指し「いすみ市地域マイクログリッド構想」プロジェクトが本格的に動きだした。
より柔軟な電力供給が可能、マイクログリッドの革新性
いすみ市に導入された地域マイクログリッドは、太陽光発電と蓄電池に加え、LPガス発電機から構成された分散型電源システムだ。
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「いすみ市地域マイクログリッド」は、いすみ市庁舎、大原中学校を取り囲む27カ所へ、非常時に太陽光発電、蓄電池、LPガス発電を用い電力を供給する
資料提供:株式会社 関電工
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LPガス発電機
画像提供:株式会社 関電工
「災害拠点のいすみ市庁舎、指定避難所の大原中学校が近く、関電工さんも事前調査で『地形的にもシステムが整備しやすい』とのことで、地域住民の皆さんにもご理解をいただき、この地域をマイクログリッド化することになりました」(吉清氏)
いすみ市地域マイクログリッドはいくつかの革新的な技術が用いられている。その一つが「配電線を非常時に活用できる点」(宮本氏)だという。
「いすみ市庁舎、大原中学校に備えられた太陽光発電などの電源は停電時には施設の外に送電することはできませんでした。停電が発生した際は送配電線に何らかの異常があり、そこに送電することは公衆災害や復旧作業員の安全の観点から禁止されていたためです」(宮本氏)
ところが、2018年に北海道胆振(いぶり)東部が最大震度7の地震に見舞われ、北海道全域に及ぶブラックアウト(大手電力会社の管轄地域の全てで停電が起こる現象)が日本で初めて発生。社会的に災害時の電力利用について見直す機運を生んだ。
「昨今は、太陽光発電の導入が増えてきました。災害時に配電線が健全であれば、地域の施設の電源が周囲の電力を少しでも補完し、全体復旧までの支えになるのではないか。地域マイクログリッドはこうした着想から始まりました」(宮本氏)
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いすみ市地域マイクログリッドにおける、災害時電力供給の流れ。大規模災害などで長時間の停電が発生した際、東京電力パワーグリッドの送配電ネットワークから解列され、太陽光発電と蓄電池、LPガス発電機が稼働し、周辺電力を補完する
資料提供:株式会社 関電工
大規模停電時にも発動(ブラックスタート)し、配電線と連携し地域へ電力を供給する。
容易なように聞こえるが、まず法令の部分が定まっていなかった。
「これまで、停電時に太陽光や蓄電池で電力を配電線に逆潮流してはならなかったルールとは真逆の動きであり、法令でもきちんと定まっていませんでした。現在は完全ではないものの、ある程度制度化されています」(宮本氏)
マイクログリッドが地域づくり、課題解決に寄与する
2023年に完成した「いすみ市地域マイクログリッド」は、2025年8月現在、台風など自然災害での電力供給は行われていないが、いすみ市庁舎、大原中学校の平時の電力として供給されている。
「いすみ市庁舎の1階玄関にモニターが設置されていて、地域マイクログリッドの発電量が表示されます。訪れる市民の皆さんがモニターの前で足を止められたときなど、市職員が説明させてもらっています。
また、一昨年、昨年と大原中学校で避難訓練を実施する際、生徒向けのマイクログリッド説明会を行いました。中学校にもモニターが設置されていることもあり、生徒の皆さんは非常に興味を持って関電工さんの説明を聞いている印象でした。そういう意味で地域のエネルギー教育にも役立てられています。台風から約6年たちますが、市民の防災リテラシーは肌感覚で高くなっていると思います」(吉清氏)
説明会に登壇した宮本氏も「私どもの取り組みに大変興味を持っていただいた印象があります」と話す。地域マイクログリッドが防災・減災をはじめ、教育やカーボンニュートラルなど地域の課題解決にも貢献し、まちづくりの一助となっていることを実感しながらも、「これで終わりにしてはならない」と宮本氏は話す。
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関電工による地域マイクログリッドと地域の結び付きのイメージ。地域マイクログリッドが万能ではないにしても課題解決の推進力になり得ると考え、今後も普及に貢献していく
資料提供:株式会社 関電工
「いすみ市が地域マイクログリッドの導入1例目ですが、ここから2例目以降の普及がなかなか進まないという現実問題もあります。BCPにおける重要性を伝えてきていますが、非常時の設備故に大がかりな導入にはコスト面の負担が大きくのしかかります。そこを何とか突破していかなければと思います。そのためには地域の課題をうまく吸収するスキームを作り上げていくのが重要だと考えています」(宮本氏)
これからの防災レジリエンスは、地域課題の解決、そしてまちづくりと共に進化していく──。
本特集第2週は、そんなまちづくりの視点も踏まえエネルギーを供給する側の防災レジリエンスについて深掘りしていく。

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