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インフラDX最新事情~鉄道・電力の現場で今、何が~

KDDIスマートドローンが進める! AIドローン活用によるインフラ保守革命

革新的なドローン投入が安全で効率的な保安管理を実現する

電力インフラの点検は、安全かつ効率的に行われることが求められるが、山間部等の僻地に存在する発電・送電設備については、冬季や災害発生時に現地へ点検に行くこと自体が難しく、作業員の安全リスクや時間的コストが課題とされている。こうした中、KDDIスマートドローン株式会社は最新のドローン技術と通信技術を用いて革新的なインフラDXを推進している。本特集第2週は、同社ソリューションビジネス推進1部 コアスタッフの中村祐樹氏に詳細を聞く。

点検・監視・災害対応へのドローン利活用

近年、台風や豪雨などの自然災害の激甚化を背景に、国内電力インフラの保安管理の重要性が高まっている。その一方、人口減少・少子高齢化の影響から保安管理人材の高齢化、作業人員数の減少などが喫緊の課題となっている。

中でも保安管理業務で大きな割合を占める巡視点検では、作業方法が30年以上、大きく変わっていないとされ、ICT技術が発達した昨今でも業務への活用が不十分とされている。

さらに、関連設備が山間部などのへき地や険しい環境にある水力発電は、通信インフラが未整備な場合も多い。これらの課題解決のアプローチとして、ICT技術を活用した保安管理業務のスマート化を積極的に導入する動きが高まっている。

2020年より、官民での水力発電設備における保安管理業務の包括的なビジョンが検討され、電力インフラ保安管理のスマート化は、この5年間で着実に進みつつある

出典:スマート保安官民協議会、電力安全部会 「電気保安分野アクションプランの概要」(経済産業省,2021年4月)

2022年設立のKDDIスマートドローンでは、こうした保守管理のスマート化を中心にドローン活用を推進。同社コアスタッフの中村氏はその背景を解説する。

「KDDIはドローン事業を2016年より開始し、2017年に国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からレベル4ドローン運航管理システムの受託開発事業を受託。2022年にドローン事業を分社化し、KDDIスマートドローンが設立、事業の意思決定を加速化させ、業務を本格化しました。2024年、KDDIを通じて米国のドローンメーカーSkydio社に出資し、同国製の高性能ドローン『Skydio X10)の利活用を国内展開しています」

中村氏はKDDIでグローバル事業へ約10年間、ならびに法人営業業務にも約10年間従事し、企業向けネットワークやセキュリティ、ソリューション提案・導入業務を担当。2022年にKDDIスマートドローンに出向し、主に電力業界・インフラ関連企業向けのドローンソリューション提案・推進業務を担当

KDDIスマートドローンでは、主に3つの事業領域でドローン活用による社会課題の解決に取り組んでいる。

「まず『点検』。インフラの老朽化が進む中、高所や危険な場所の点検をドローンで行い、作業員の安全確保と効率化を図っています。次に『監視』。電力プラントや工事現場など広大な施設のリアルタイムならびに遠隔監視をドローンと通信技術を組み合わせて実現しています。そして『災害対応』。2024年の能登半島地震や豪雨の際もドローンを活用し、危険な現場の状況をリアルタイムかつ遠隔で確認する支援を行いました。

さまざまな事業領域で、自治体や電力会社などさまざまなお客さまからお問い合わせをいただいています。実証実験の機会は多いものの、本格的な実装にはまだ課題があり、その橋渡しをしているところです」

中村氏はKDDIでは電力業界企業向けの営業チームリーダーを務めた時期があり、電力インフラ業界へのドローン活用は、官民でスマート保安管理の議論が高まり始めた2020年ごろから提案をし続け、現在では多くの電力会社と連携しドローンの導入による課題解決へ向けた多くの実証試験を通じて、ドローン導入が電力・インフラ業界が抱える多くの社会課題の解決につながる大きな可能性をもっていることを改めて感じていると話す。

「電力・インフラ業界では、電線や鉄塔、大規模設備等、人身災害の発生しやすい高所向けの巡視点検へのドローンの活用・導入が進んでいますが、昨今では水力発電所やダム設備の巡視点検、大規模災害時の迅速な状況確認など人が容易にアクセスできない場所にて通信やIoTと組み合わせた遠隔操作によるドローンの運用・活用提案に注力しています。例えばダムでは、現地で震度4以上の地震を計測した際、地震後の臨時点検として、地震発生後3時間以内に一次点検結果の国への報告が義務付けられていますが、多くのダムは山奥に位置し、現地確認へ向かう道も地震で崩れ、出向者が人身災害へ巻き込まれてしまうリスクがあります。

そうした中、東京電力リニューアブルパワー株式会社(以下、東京電力RP)から『ドローンをダムに常設、臨時点検を遠隔操作で実施し、現場へ出向しなくても遠隔地からリアルタイムで状況確認できる仕組みを構築したい』という要望をいただきました。同様のニーズは、他の電力会社も抱える問題ですが、ドローンの遠隔操作には現地に通信環境も必要なため、本検証では、KDDIがスペースX社と提携しているStarlinkを活用したLTE基地局サービスと自動充電ポート付きドローンを組み合わせた提案をさせていただき、この実証試験は新たな挑戦になりました」

ドローン×ドックで点検を大幅効率化

KDDIスマートドローンは、自動充電ポート付きドローンによる遠隔自動ダム点検を2024年11月、2025年 5月の2回、東京電力RPが運営する葛野川ダム(かずのがわダム/山梨県大月市)で、地震発生後を想定した臨時点検実証として行った。

「携帯電話のLTE基地局をStarlink衛星通信を活用して簡易に設置可能なサービス『au Starlink Station』を水力ダムでの通信環境としては国内で初めて構築。Skydio社の『Skydio Dock for X10』を使用し、遠隔でドローン操作が可能か、またau Starlink Stationを活用して更なる飛行距離の延伸が可能かを検証。au Starlink Stationは通常の基地局建設よりも安価なコストで提供でき、半径2km圏内のLTE通信を可能とし、ドローンの飛行距離延伸に寄与することが確認できました。

また、au Starlink Stationの提供によりドローンの遠隔運用以外にも、電波が全く届かなかったダム周辺の通信も可能になり、現場作業員との連絡手段の確保にも貢献することができました」

※:2025年11月まで「Satellite Mobile Link」と呼称。米国SpaceX社の衛星インターネット「Starlink」をau携帯電話網の基幹回線に利用。山間部やトンネル内、離島などでauの4G LTE通信エリアを迅速に構築するソリューション

実証では葛野川ダムの水門上に設置された「au Starlink Station」(旧Satellite Mobile Link)

画像提供:KDDIスマートドローン株式会社

今回の実証では、現地に自動充電ポート付きドローンを設置するとともに、ダム周辺をLTEエリア化し、ドローンが人に代わりダムにおける地震発生時の臨時点検を遠隔にてリアルタイムで確認できることを確認した。

加えて、自動充電ポート付きドローンの活用により作業員と同等の点検水準・品質を実現できることが確認できた。

「『SkydioX10』は、エッジAIを備えており“AIドローン”と呼ばれています。本機種は従来の約10倍のAI処理能力を有するとともに、機体上下に備えた障害物検知センサーで機体を球体状にカバーし、周辺の空間把握と自律的に障害物を回避する飛行能力が大幅に向上しています。また、高照度のライトの追加装着で暗所での近接撮影も可能となり、これまで安定飛行が難しかったトンネルや橋梁下等の非GPS環境での安全な飛行が実現可能となりました」

2025年、「SkydioX10」の自動充電および遠隔地からの飛行操作を可能にする「Skydio Dock for X10」の提供が開始され、有事では災害状況の一次確認や捜索活動等の迅速化に貢献、平時は定期的な設備点検・巡視や夜間警備が可能となった。

「ポートは、ドローンの自動充電、自動離発着を可能にする基地のような機器です。このポートをインターネット経由で遠隔操作し、あらかじめ設定した飛行ルートでドローンを飛行させ、カメラ映像を遠隔地にてリアルタイムで確認することが実現可能となります。本検証を通じて、人身災害リスクの低減が可能になるとともに、平時の湖岸巡視業務へも適用が可能だと確認できました」

葛野川ダムに設置された「Skydio Dock for X10」。ポート全体の重量は約100kgで「ポートは屋外に常設可能で寒暖差に耐え得るよう空調機能が搭載され-40℃~+60℃でも動作可能です。加えて、ドローン自体も-20℃~+45℃でも動作可能となっています」(中村氏)

画像提供:KDDIスマートドローン株式会社

地震後の危険なダム点検をAIドローンで自動化することにより、作業員の危険リスクを低減する

本格運用へ向けてクリアすべき課題

KDDIスマートドローンは今回、東京電力RPと連携して臨時点検検証を実施。東京電力RPをはじめとした電力会社の発電・変電設備や電線・鉄塔点検、インフラ企業の大型設備点検等向けに自動充電ポート付きドローンの更なる利用拡大や推進を目指す。その上で中村氏は「大きな課題が3つあります」と指摘する。

「一つ目は『セキュリティ』の問題です。電力会社やインフラ関連企業は国内の社会インフラを支える重要な設備を多数保有しています。一方で、ドローンメーカーが機体とともに提供するドローンの操作管理システムのあるサーバの多くはAWS(Amazon Web Services)などのパブリッククラウド上で動作するため、特にセキュリティを重視する電力業界やインフラ関連企業、官公庁関連で懸念されています。この課題の解決へ向けて、弊社でもオンプレミス環境(サーバやソフトを利用企業・団体の保有施設に設置・管理する形態)で運用可能となるようシステム開発を進めています。

2つ目は『法規制』です。ドローンの飛行性能向上に加えLTEを活用した飛行距離の延長が可能となる一方、飛行エリア・機体等まだ多くの法律面・規制面での制約があり、申請手続きも煩雑です。この課題は、今後の技術進歩と安全性の確保に伴い緩和されていくことを期待します。

3つ目は『コスト』の問題です。ポート自体は現時点ではまだまだ高額なため、災害対策など有事利用のみの用途だけでは導入へ向けたROI(Return On Investment/費用対効果)の説明が難しい会社が多いのが実状です。弊社としては平時の課題解決へのドローン利用も含めたフェーズフリーを前提とした導入のご提案をさせていただいており、今後ポート利用が増えることにより市場全体での販売価格の低減も考えられます」

同社が提案する“フェーズフリー”のイメージ。企業や自治体のほか、警察・消防でも平時・有事の活用を見据えた検討が進んでいる

資料提供:KDDIスマートドローン株式会社

こうした課題は残るものの、中村氏は「より厳しい環境での実証を進めたい」と前向きな展望を話す。

「ダムに限らず巡視点検にドローンを導入することで、今まで可視化できなかった場所や設備の映像データも多数収集される一方で、それら大量のデータを効率的・効果的に情報処理するAI技術の活用も重要となります。作業員が昇降して行う送電鉄塔の巡視点検をドローンに置き換える動きが電力会社や弊社の通信鉄塔でも進んでいますが、ドローンが撮影した膨大な画像データの分析にAIを活用したシステムを弊社で開発、提供しています。このシステムによりドローンが撮影した画像から鉄塔のボルトやナットの緩みや脱落、錆の状況を自動的に分析・報告する仕組みを利用開始した電力会社の事例もあり、手者でも検討・検証の波が広がっています。2026年度は電力インフラ設備点検へのAI活用が更に進んでいくものと想定しています」

人が困難だった環境での電力インフラの保安管理をドローンが担い、さらにAIとの組み合わせで人以上の精度でのメンテナンスを実現していく──。

日々エネルギーを享受する側も、過酷な環境で安全を守る側にも、こうしたインフラDXが、より高度な安心をもたらしてくる日が、一日でも早くやって来ることを期待したい。

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