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世界のエネルギー事情2026

2026年、化石燃料需要の動向から探る世界のエネルギー情勢

世界のエネルギー市場を分析するスペシャリストに聞く最新動向

アメリカにおける米・トランプ政権の復活、ロシア・ウクライナ紛争の長期化、中東情勢の不安定化など、地政学的リスクが高まる中、世界のエネルギーを取り巻く環境は大きく変化している。2026年の化石燃料の動向をどう読むべきか、世界のエネルギー市場を分析する株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーの共同代表・新村(にいむら)直弘氏に話を聞いた。
(<C>メーンおよびカルーセル画像:Alvaro Sevilla / PIXTA<ピクスタ>)

関税と紛争に揺れたエネルギー市場

2025年11月に開催された国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)では、国際研究チームがまとめた報告書「グローバル・カーボン・バジェット」(GCB)にて、化石燃料由来の二酸化炭素(以下、CO2)の世界排出量が、2025年に過去最高を更新する見通しだと発表された。

世界のCO2収支の概要。図中の値は人間の活動に起因するフラックス(流動)・蓄積量(単位:10億t/年<炭素換算>)を表し、GCB2025で推定された2015~2024年の間の平均値

出典:グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)

多くの国が2050年ネットゼロを目標に掲げている中、脱化石燃料のペースが鈍化している現状が浮き彫りとなった。

企業向け価格リスクコンサルを専業とするマーケット・リスク・アドバイザリーで、エネルギーや非鉄金属などの市場動向を分析する新村氏は、この結果について「当然の結果」と指摘する。

「中国が本格的な排出削減に踏み込んでいない以上、当然の結果と言えるでしょう。日欧が努力してCO2を削減しても、エネルギー消費量が突出して多い中国やアメリカが本気にならない限り、世界全体での削減には限界があります」

アメリカはトランプ政権が復活して以降、パリ協定の離脱など脱炭素や脱化石燃料に対して否定的な姿勢を鮮明にしている。特に化石燃料について「掘って、掘って、掘りまくれ」と呼びかけるトランプ大統領の発言が注目されがちだが、新村氏は「世界のエネルギー事情に大きな影響を与えたのはトランプ関税だ」と語る。

「トランプ関税はアメリカに製造業を回帰させることが目的でした。消費減速を懸念する輸出側企業は当初このコストを負担していましたが、価格転嫁は進み、関税分のコストのアメリカの輸入業者と消費者への転嫁は進みました。その結果、アメリカの経済活動は鈍化するとみられています。それも中国だけでなく、世界中に関税をかけたわけですから、世界的に輸出元企業の負担も増えることになります。これにより世界経済の減速懸念が高まり、原油需要が弱含んで価格の下落圧力となりました。一方、供給面ではロシアとウクライナの紛争の長期化に加え、イスラエルとイランの対立といった中東情勢の緊迫化などによる供給不安で価格を押し上げる局面もあり、需給バランスが不安定な一年(2025年)となりました」

欧州に目を向けると、ロシア産原油の輸入制限や脱炭素政策などの影響によりエネルギー価格が高騰し、生活コストの上昇を招いている。こうした状況を背景に、近年は「脱炭素疲れ」が各国で表面化しているという。

「経済活動を行うにはエネルギーが不可欠であり、現実的には化石燃料への依存を一気に断ち切ることはできません。そもそも、ネットゼロを実現するには、そこに至るまでに資源の生産、輸送、設置などさまざまな工程があります。これは、すなわち経済活動そのものです。途中までは上手く機能していましたが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻、それに対する脱ロシア産燃料を進めた結果、ヨーロッパはエネルギー価格が上昇し、景気悪化につながりました。

特にドイツはロシアからのガス調達比率が高く、原子力発電も停止したことからエネルギーの国民負担が拡大したことから、現実重視の政策調整が進んでいます。EUなどは持続可能な社会を目指して脱炭素への工程表を描いてきましたが、2025年はそのスケジュール自体が持続可能ではなかったと認識された一年だったと言えるでしょう。同時に中東情勢の緊迫化などを通じて、エネルギーの特定供給地域への依存のリスクが再認識された一年でもありました」

2026年、化石燃料需要の行方

国際エネルギー機関(IEA)は、化石燃料の需要は2030年をピークに減少に転じるとの報告書を公表している。一方で、AIの急速な進化に伴い、膨大な電力を消費するデータセンターの建設が世界各地で進み、エネルギー需要が急増するのではないかとの懸念が広がっている。この点について新村氏は次のように解説する。

「今後、世界の人口増加のペースは鈍化していくでしょうし、再生可能エネルギーや原子力発電も拡大していくと考えられます。そうした要因も踏まえれば、長期的には化石燃料の需要は減少していくと思います。

一方でAIについては、私はやや懐疑的です。AIはネット上の情報を学習することで進化してきたわけですが、高品質な学習データの枯渇が指摘される『2026年問題』や、著作権保護を巡る議論が活発化しています。加えて、データセンターの消費電力を抑制するための半導体チップの開発も進んでいくでしょう。AI分野では、こうした要因が進化スピードの律速条件になる可能性があると考えています」

新村氏はさらに、電気自動車(EV)を巡る動向にも同様の構図が見られると指摘する。

「EVも当初はリチウムやコバルトの需要急増が懸念されましたが、供給側の増産過多により、現在は供給過剰になっています。このように、直近数年の増加ペースをそのまま将来に当てはめて需要を予測するのは早計でしょう。また、私は以前からEV分野で特定の国に供給を依存することの危険性について訴えてきました。現在、世界的にバッテリー供給は中国への依存が高まっていますが、中国による対日レアアース規制などを見ても、特定の国への過度な依存は危険です」

「日本は石油、石炭の中東、オーストラリアへの依存が大きく、資源調達の分散化を踏み込んで議論する必要があるでしょう」(新村氏)

世界のエネルギーを巡る情勢では、2026年も初頭から不安定要素となり得るニュースが相次いだ。その一つがアメリカによるベネズエラへの軍事介入である。

「ベネズエラの原油生産量は日量85万バレル程度で、供給量だけで見れば世界市場への影響はあまりないでしょう。さらに、ベネズエラ産原油は重質で硫黄分が多く、採掘や輸送、精製にかかるコストが高いため、需要は決して高くありません。ただし、近年のアメリカの原油は軽質化しており、重質油を軽質油に分解するクラッキング工程を経て利用するケースもあるため、一定の需要はあります。

原油の調達については、注意すべき点が一つあります。それは、製油所は原油の品質に合わせて造られているということ。そのため異なる品質の原油を使用するとうまく処理できないだけでなく、設備を破損してしまう恐れもあるのです。このように原油が不足すればどこからでも調達すればよい、という単純な話にはならないのです」

ベネズエラの他、反政府デモが拡大するイランの情勢も見逃せない。

「イランはデモを契機に体制が崩れる可能性も否定できませんが、後継政府が安定する保証はありません。また、イランはホルムズ海峡の封鎖がしばしば取り沙汰されますが、その可能性は極めて低いと思います。封鎖すれば世界を敵に回し、失うものが多過ぎるからです。ただし、アメリカの軍事行動によって体制存続の危機に追い込まれた場合には、可能性がゼロとは言い切れません」

世界のエネルギーを巡る不安定要素

2026年の世界のエネルギーの動向を見通す上で、新村氏がまず挙げるのが、アメリカの中間選挙だ。

「需要面では、アメリカが11月の中間選挙を前に、どのような政策を打ち出してくるかに注目する必要があります。アメリカのエネルギー消費量は非常に大きく、景気動向が原油価格に与える影響も大きい。そのため、選挙を意識して大胆な景気刺激策が講じられれば、原油価格が上昇する可能性があります」

一方、化石燃料の供給面に目を向けると、OPEC(石油輸出国機構)プラスの動向からも目が離せない。

「OPECプラスでは、ロシアやイランの動きはもちろんですが、私が特に注目しているのはサウジアラビアとUAEの関係です。両国はこれまで、イランという共通の脅威を背景に協調関係を保ってきましたが、近年は地域の覇権を巡って対立の色を強めています。UAEは先端分野の成長を原動力に経済成長を遂げている一方、サウジアラビアは同分野での成果が限定的で、成長スピードに差が生じています。こうした状況から、サウジアラビアがUAEを強く意識するようになったと考えられます。実際、イエメン内戦では、サウジアラビアが暫定政権を支持したのに対し、UAEは南部の分離派を支援し、代理戦争の様相を呈しました。さらに昨年末には、サウジアラビアによるイエメン南部の港湾への空爆で、UAEから送られた物資が標的となり、両国の緊張関係は一段と高まりました。両国ともアメリカの重要な戦略パートナー国であるため滅多なことはないと思いますが、緊張状態は続いています」

第2次トランプ政権の2年目に当たる2026年は、11月3日に中間選挙が控えている。なお、2026年のOPECプラス産油国閣僚級会合は6月7日に開催される予定

(C)72westy / PIXTA(ピクスタ)

こうした国際情勢を踏まえ、日本はエネルギー安全保障にどのように向き合うべきなのか、新村氏は次のように語る。

「日本では将来の電力需要を見据え、その需要を満たすための供給態勢については議論が進んでいます。しかし、電力価格がどの水準であれば産業競争力を維持できるのかという点については、十分に議論されているとは言えません。国際的に競争力のある産業を維持するためには、現実的には化石燃料の活用が不可欠ですし、私は安全基準を満たした原子力発電も有効に活用すべきだと考えています」

ただし新村氏は、原子力発電を巡っては安全性の確保とは別に、見過ごされがちな課題があると警鐘を鳴らす。

「かつて大学には原子力工学科がありましたが、現在では学科として存続していません。原子力分野を志望する学生の減少も一因ですが、このままでは技術者・技術力不足が深刻化し、将来的に原子力発電所の保守・運用を海外に依存せざるを得なくなる恐れがあります。これは日本の安全保障上、極めて大きなリスクです。そのためにも、原子力分野における技術継承について、真剣な議論を行う必要があります」

少子高齢化が進む日本では、人手不足が社会全体の課題となっている。

エネルギー政策においても、新村氏が強調する「技術継承」は、持続可能な社会を支える重要なキーワードになりそうだ。

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